軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:219 ジョコンドの処分

小僕たちを大雪対策シェルターに泊めたリカルドは、収納碧晶から人数分の毛布を出して配った。その時、一人の小僕のお腹が鳴った。

「何だ、腹が空いたのか。何が食べたい?」

「ユニウス料理館の肉まんがたべたいです」

リカルドは笑って頷いた。

「いいだろう。今から買いに行こう。二人ほど付いて来て」

リカルドは小僕を二人連れてユニウス料理館へ向かった。店で肉まんを買って小僕の二人に持たせて戻すと、リカルドは自宅に戻った。

ソファに座ったリカルドが、寛いで訓練場のことを思い出す。

「今日は危なかったな」

「何が危なかったの?」

セルジュが尋ねた。

「魔術士協会で『魔獣召喚』をしたら、地獄イタチが出てきたんだよ」

「へえ、地獄イタチは怖い魔獣なの?」

セルジュは地獄イタチを知らないようだ。リカルドが説明すると、クスクスと笑う。

「笑い事じゃないんだぞ」

「でも、オナラなんだよね」

「ただのオナラじゃないんだ。嗅いだら気絶するほど強烈なものなんだよ」

翌朝、リカルドが小僕たちと一緒に魔術士協会へ行くと、大騒ぎとなっていた。夜中に目を覚ました犠牲者たちが、地面を這って訓練場から脱出してきたらしい。

訓練場を見張っていた魔術士の何人かは助けに近付いたのだが、途中で気分が悪くなって引き返した。脱出してきた者たちの身体や服に臭いが染み付いており、それを吸い込んだのだ。

代表理事のジェズアルドは、訓練場の近くにテントを張るように命じた。脱出してきた者に、【水】の魔術である【消火水弾】を浴びせて臭いを洗い流し、テントで着替えてから休むように指示を出したのだ。

犠牲者の半数ほどが臭いが消える一日を待たずに休むことができた。だが、まだ半数が残っている。

リカルドはパトリックを見つけて声をかけた。

「昨夜は手伝ったのか?」

眠そうな顔をしているパトリックに尋ねた。

「そうなんや。這い出してきた者に【消火水弾】を浴びせまくっとったがね」

「大変だったな。それでどうするんだ?」

「それが問題なんだがね。地獄イタチがまだいると思うきゃ?」

「いるんじゃないか。訓練場から逃げ出す姿は見ていないんだろ」

召喚した魔獣は、術者が戻すか殺すしかない。術者はまだ訓練場なので地獄イタチを殺すことになるだろう。その方法だが、当然魔術を使うことになる。

「代表理事は、討伐局のアロルドに頼んだがね」

アロルドは討伐局でも指折りの王権派の魔術士だ。確か【地】の魔術を得意としていたはずだ。

「そう言えば、ジャンピエロ局長はどうなった?」

「助け出して、医務室で寝てるがね」

「それは良かった」

「良くないがね。苦労して助け出したのに、文句ばかり言われたがや」

パトリックの話では、助け出されたジャンピエロ局長が、救出が遅すぎると助け出した者たちに散々文句を言ったそうだ。

「そうだ。リカルドは防毒マスクを作ったことがあったがね。それは使えんのきゃ?」

「どうだろう? 使えるかどうかは試してみないと分からないな。問題はどうやって試すかだ。実験台になりたいという者がいるだろうか?」

「ワイは絶対に嫌だがね」

「同じだ。そんな危険な実験には参加したくない」

「おとなしく臭いが消えるのを待つしかないがね」

リカルドとパトリックは、そう思っていた。だが、ジェズアルドは別の意見だったようだ。地獄イタチだけでも先に片付けておきたいと考えたのだ。

アロルドを筆頭とする決死隊が組織され、まず地獄イタチの存在を確かめるために訓練場に近付いた。その時は、だいぶ臭いが薄くなっていたので訓練場を囲んでいる塀までは無事に辿り着いた。

その塀をよじ登ったアロルドたちは中を確かめた。訓練場の中央に地獄イタチが寝そべっている。その周りには魔術士たちが倒れている姿がある。

これだけ長時間気を失ったままだということは、地獄イタチの噴出物の中には催眠ガスのような働きをする成分も含まれているらしい。

地獄イタチの存在を確認したアロルドたちは、奇襲をかけることにした。臭いが残っている間は、地獄イタチも油断しているだろうと予想したのだ。

臭いが消えたとしても、訓練場にいる地獄イタチがもう一度放ったらお終いだ。安心して救出作業をするためにも、地獄イタチを仕留めたいというのが、理事たちの意見らしい。

地獄イタチの居場所を確認したアロルドたちは、入り口から突入し地獄イタチに向けて魔術を放った。気づいた地獄イタチが避けようとする。だが、二発の魔術を受けてしまった。

魔術士たちが選んだのは、威力はそこそこだがスピードのある攻撃魔術だった。地獄イタチは後ろの右足と背中に傷を負った。それは致命傷となる傷だ。

よろよろとしながらも地獄イタチがアロルドたちへ近付いていく。

「まずいぞ。早くトドメを刺すんだ」

アロルドの叫びで、魔術士たちは再度魔術を放とうとした。近付いた地獄イタチは、血を流しながら迫りふらりとよろけてから倒れ、最後の力を振り絞り『イタチの最後っ屁』を少しだけ放った。

微量なものだったので、それほど広がらない。それでもアロルドたちが立っている位置まで広がり、彼らは鼻を押さえて逃げ出した。

リカルドはアロルドたちが訓練場から走り出てきたのを見て、何があったのか不安になった。

「あっ、倒れた。苦しんでいるぞ」

「【消火水弾】だ」

リカルドは地面に倒れて苦しんでいるアロルドたちに向けて【消火水弾】を放った。大量の水が苦しんでいる魔術士に命中して臭いを洗い流す。

リカルドとパトリックはアロルドたちに近付いた。大量の水で洗い流したが、どうやら服に臭いが染み付いている。

「ちょっと臭いがね。服は着替えた方がいい」

「おい、地獄イタチは倒したのか?」

アロルドが薄目を開けて小さな声で答える。

「あ、あいつは……倒した。だが、最後にしっぱ……」

最後まで言い終えずに、アロルドが気を失った。やはり、催眠ガスの成分が含まれているのではないかとリカルドも思う。

臭いが消えて倒れている魔術士の救出が行われた。最後の最後にジョコンドの救出が行われる。ジョコンドを担架に乗せて運んでいると、途中で目を覚ました。そして、悲鳴のような叫び声を上げる。

「うわああああーーーーっ!」

「ジョコンド副局長、どうしたんですか?」

担架を運んでいた魔術士が尋ねた。

ジョコンドが担架から飛び降りると、声をかけた魔術士の首を締め上げた。

「な、何をす……ぐっ……」

パトリックが駆け寄って、ジョコンドを殴った。ジョコンドは締めていた手を離して倒れる。

「ジョコンド副局長は、何でこんなことを?」

その魔術士は締められた首を擦っている。

「たぶん、幻覚でも見たんだと思うがね」

「地獄イタチの攻撃で、頭までいかれたのか?」

「元々いかれているがね。こんな奴を究錬局の副局長にしたのが、間違いなんだがや」

「そうだな」

この事件でジョコンド副局長の評価は、徹底的に下がった。さすがにジェズアルドも責任を取らせないわけにもいかず、ジョコンドを副局長から討伐局の魔術士へと降格した。

ジョコンドの処分が決まった後、リカルドは小僕たちの宿舎を見に行った。さすがに老朽化して、今年の冬は耐えられそうにない。

一緒に見に来たシドニーが、溜息を吐いた。

「どうみても、限界ですね」

「そうだな。建て替えるしかないな」

「でも、理事たちが承知するかな。予算の確保も大変だと思うけど」

リカルドはシドニーが小僕だった頃に一緒に生活したことを思い出した。あれは王都での初めての生活だった。懐かしく思えて、リカルドは小僕たちに援助しようという気になる。

リカルドにとって新宿舎を建てるくらいの資金は、どうとでもなる金額なのでためらわずに理事たちに提案した。資金を出すのなら、構わないという話なので建設の手配をする。

春に建設が始まった新宿舎は、その年の秋に完成した。

「やっと完成しましたね」

シドニーがリカルドに言った。リカルドは頷き新宿舎を見上げる。

新宿舎は三角屋根の細長い二階建ての建物だ。はっきり言って、小僕たちにはもったいないような建物になった。

「ああ、小僕たちは無茶苦茶喜んでいたね。あれだけ喜ばれると資金を出した者として、嬉しいよ」

「冬の前に完成したのが嬉しかったんですよ。そうでないと、大変なことになりそうでしたから」

ちなみに古い宿舎は、そのままにしてある。どのくらいの雪で潰れるか実験してみようと考えたのだ。

秋になってしばらくした頃、魔獣の様子がおかしくなった。普通山に棲んでいる魔獣が人里に下りてきて騒ぎを起こし始めたのだ。

村や町では危険を感じて騒ぎになり、魔術士協会に依頼が持ち込まれることも多くなる。討伐局だけでは捌ききれなくなった魔術士協会は、実力がある者なら究錬局の者にも手伝わせることに決めた。

もちろん、リカルドのところへも依頼が来た。討伐局のシスモンド局長に呼び出されたリカルドへの依頼は、王都の東にある小麦の町ルリセスから北へ二時間ほど歩いた場所にあるゼアクという村に、出没するようになった三眼熊の集団を退治してくれというものだった。

「三眼熊か。何匹ほど目撃されたのですか?」

リカルドが尋ねた。

シスモンド局長がチラリと依頼書を見てから、

「四匹ほどが目撃されている。最低でも四匹だと言うことだ」

その言葉を聞いたシドニーが頷いた。シドニーも一緒に手伝うことになったのだ。そして、仲間はもう一人いた。討伐局に配属されたばかりの新人ポンツィオである。

ポンツィオは生意気な小僧という感じの魔術士で、歳は十四歳くらいだろう。優秀な魔術士のようだが、経験不足だというのは見て分かった。

リカルドたちは準備をしてから、翌日の朝に王都を出発した。

「リカルドさん、今回はミニバンを使わないんですか?」

シドニーはリカルドが自動車を使うと思っていたようだ。

「ミニバンは、整備中なんだ。今回は馬車でルリセスまで行って、そこから歩きになる」

その時、ポンツィオの声がした。

「早く馬車に乗れよ。置いていくぞ」

乗合馬車に乗ったポンツィオが急かす。どうせ乗合馬車なので、時間になるか満員にならないと出発しないのに。

王都を出発した乗合馬車は、昼を少しすぎた頃にルリセスへ到着した。昔はもっと時間がかかったのだが、王太子が道路の整備をしたおかげで、馬車も速度を出せるようになった。

「ここからは歩きだ。行こうぜ」

ポンツィオが張り切っている。

「待てよ。その前に食事をしよう」

シドニーが昼飯を食べようと提案する。リカルドも賛成して、ちゃんとした料理屋に入って食事した。

ポンツィオは出された料理をかき込むようにして食べ、少しでも早く出発したいらしい。リカルドはゆっくりと食べながら、ポンツィオにこれまでの討伐経験を尋ねた。

ポンツィオは不機嫌そうな顔をして、ホーン狼と妖樹ダミルを狩ったことがあると答える。

「そうか、三眼熊と戦った経験がないのなら、今回は自分がリーダーを務めよう」

リカルドが宣言すると、ポンツィオが不満そうな顔をする。討伐局の人間はポンツィオだけなのでリーダー役は自分だと思っていたらしい。

シドニーが苦笑してから尋ねた。

「もしかして、リカルドさんのことを知らないのか?」

「何か聞いたような名前だけど、俺とあまり変わらない歳じゃないか」

魔術士の間では、リカルドの名前は知られている。だけど、本人を見たことがない者も多く、そういう者はリカルドのことを三十くらいの厳しい顔をした男性だと思っているようだ。

リカルドは面白そうなので、シドニーに喋るなと合図した。

ゼアク村へ向かう途中、牙猪と遭遇した。良い機会なので、ポンツィオの実力を見るために戦ってもらうことにした。

結果から言うと、ポンツィオは何とか牙猪を倒せた。だが、ギリギリだったらしく青い顔で倒した牙猪を見ている。三眼熊は牙猪よりずっと手強いのだが大丈夫だろうか?