軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:220 ゼアク村の魔獣退治

リカルドたちはゼアク村へ到着した。村長の家に行き三眼熊を退治に来たことを伝える。五十代と見える村長はペコペコと頭を下げながら感謝した。

「ありがとうございます。村の者が外に出れずに困っておったのです」

村人が三人ほど三眼熊に殺されて、三眼熊の存在に気づき魔術士協会に助けを求めたらしい。

リカルドたちが来るまでは、村の中でじっとしていたようだ。

「三眼熊の目撃数なのですが、四匹というのは変わりませんか?」

魔獣の数を確認すると、村長が頷いた。

「ええ、同時に四匹いるのを見た者がおります。少なくとも四匹は確実です」

「分かりました。少し休んでから、村の周りを一周してみます」

「お願いします」

ポンツィオが口を挟んだ。

「ちょっと待ってくれ。俺たちが泊まる部屋はあるのか?」

「はい、粗末な部屋ですが、儂の家で泊まってもらうつもりです」

村長の家は頑丈そうな造りだったが、かなり古い家で隙間風が吹き込んできそうな建物だ。シドニーは建物の様子を見て口を開いた。

「リカルドさん、コンテナハウスは持ってきていないんですか?」

「コンテナハウスを出すか。村長さんに迷惑をかけるのも心苦しいからな」

リカルドは使っていない平らな土地はないかと尋ねた。

「空き地なら、たくさんあります。どこでも好きなところを使ってください」

三人は適当に選んで、村長の家に近い空き地に決めた。

「ここにテントでも張って、泊まられるのなら、儂の家の方が……」

村長の言葉を押し留め、リカルドは収納碧晶からコンテナハウスを出した。

「うわっ」

ポンツィオが驚きの声を上げる。村長も驚いているようだ。

「これは?」

「コンテナハウスという野営用の設備です。小さな家みたいなものです」

「ほう、魔術士協会の方は、凄いものを持っておられるのですな」

シドニーが手を振って否定した。

「違う違う、魔術士協会じゃなくて、このリカルドさんがお金持ちなだけですよ」

リカルドはコンテナハウスに村長を招いた。ポンツィオも中に入りキョロキョロしている。

「ほほう、トイレとシャワーがあるのですか。素晴らしいものですね」

村長が感心していた。ポンツィオはベッドに座って手触りを試している。

シドニーが魔術道具を使って、お湯を沸かし紅茶を淹れる。全員分の紅茶を用意すると配った。

「砂糖は、自分の好みで入れてください」

リカルドが砂糖壺からスプーン一杯を紅茶に入れると、それを真似て村長とポンツィオも一杯入れる。シドニーは二杯入れた。

ポンツィオが遠慮しろよという目で、シドニーを見る。

「甘党なんです」

「ところで、三眼熊以外の魔獣はどうですか?」

「頭突きウサギや血煙鳥が多いようです。ですが、それくらいなら、ここの住民で退治できますから」

三眼熊以外の魔獣の数も増えているようだ。

リカルドたちは、村の周囲の様子を村長から聞いてから、村の周りを歩き始めた。

「昔、リカルドさんが住んでいた村も、こんな感じだったんですか?」

シドニーが尋ねた。

「ユニウス村のこと? ここより貧しかったよ」

ファビウス領の小さな村のことは、あまり記憶にない。だが、小鬼族に襲われている村に行った時のことは、はっきりと覚えている。

あの時に見た村は、悲しいほど小さく貧しい村だった。ポンツィオが興味を示した。

「ユニウス村というのが、リカルドの出身地なの?」

「そうだ。もう存在しない村だ」

「えっ、どうして?」

「小鬼族に襲われて、村人が半分死んだ。村は廃村になったらしい」

ポンツィオが真剣な顔になっている。何か考えさせられるものがあったのだろう。

リカルドたちが村を半周したところで、三眼熊の痕跡を見つけた。若木に爪痕が残っていたのだ。

ポンツィオが足跡や爪痕を調べて、何頭の三眼熊か確認した。

「ここを通った三眼熊は、五頭だな」

「一頭増えたか。魔獣を倒すのは簡単だけど、それを探すまでが大変だ」

その場所から少し歩いたところで、シドニーが頭突きウサギを発見。収納紫晶から取り出した魔彩功銃で、ウサギの頭を撃ち仕留めた。

「こいつは、今夜の夕食にしましょう」

「少し痩せてるけど、大きいな」

その日は三眼熊を発見できずに終わった。コンテナハウスに戻ったリカルドたちは食事の用意を始めた。頭突きウサギを解体して、骨は出汁を取るために使う。

「ポンツィオ、野菜を切ってくれ」

「えっ、俺が?」

シドニーが焚き火の準備をしながら声を上げる。

「料理したことがないのか。でも、野菜を切るくらいなら、できるだろう」

ポンツィオが危ない手付きで野菜を切り始めた。その日のメニューは、ウサギ肉と野菜のスープ、それに棒焼きパンである。棒焼きパンというのは、小麦粉・塩・バター・重曹を水で練ったものを細い木の枝に巻きつけて焼いたものだ。これは討伐局の定番らしい。

リカルドたちがパンを焼きながら話を始めた。

「三眼熊が五頭も一緒にいるのは、おかしくないですか?」

「熊は群れを作らないのが普通だからな。一緒にいなきゃならない理由があるんだろうか」

北の方角に大きな山が連なっているのが見える。

「焼けたみたいだ。食べようぜ」

ポンツィオが棒焼きパンにかぶりついた。

シドニーが鍋から皿にスープを移して配る。リカルドはスープを一口飲んで頷いた。

「旨い。こういう食事も偶にはいいな」

三人で夕食を食べながら話し、夜半になった。

「さて、そろそろ寝るか。但し、交代で見張り番をするぞ」

最初はリカルドが見張り番になり、静かな夜を過ごした。そして、シドニーを起こして寝た。

次の日、リカルドが起きると霜が降りていた。

「寒いな。霜が降りるなんて早すぎないか?」

シドニーが目を擦りながら頷いた。

朝から村の周りを一周することにした。村から一歩出た時、北の方角から熊の咆哮が聞こえてきた。

「行くぞ!」

リカルドが指示を出し駆け出す。シドニーとポンツィオが付いて来る。魔獣たちが争うような気配が伝わってきた。リカルドはスピードを落とし、慎重に進み始めた。

気配で感じていた通り、五頭の三眼熊が二羽の熊喰い鷲と戦っている。リカルドたちは木の陰から、その戦いを見ていた。

ポンツィオの顔が強張っている。三眼熊でさえ強敵なのに、熊喰い鷲なんて冗談じゃないという顔をしている。

「これって、チャンスじゃないか?」

リカルドが笑顔で声を上げる。

ポンツィオが青い顔でリカルドを睨む。そして、小声で言う。

「何を言っているんだ。全然チャンスなんかじゃない」

「ポンツィオは見ていろ。シドニー、やるぞ」

「はい」

二人は魔術の準備を始める。

二人は【九爪竜撃】の触媒を取り出し、シドニーは魔成ロッド、リカルドはトゥイストホーンを構え魔力を放出する。ポンツィオはリカルドの姿に惹き込まれた。

その身体から膨大な魔力を放出していたからだ。シドニーが放出する魔力は多いと感じるが常識の範囲である。しかし、リカルドが放出する魔力は人間の 範疇(はんちゅう) を超えていた。

「そんな……あれは人間なのか?」

そんな呟きを無視して魔力を放出したリカルドは、触媒を振り撒いた後に木の陰から前に進み出た。それはシドニーも同じだ。

「「 シェナ(風よ) ・ ヴェゼラシル(大気を固め) ・ オボス(九本の) キュセ(竜爪となり) ・ ジュセム(合図を待ち) ロベス(切り裂け) 」」

リカルドとシドニーの呪文を唱える声が重なる。【九爪竜撃】が起動しシドニーとリカルドの周りに、九本の竜爪が生まれた。リカルドの周りにある九本の竜爪だけが少し紫を帯びた金色に輝いていた。

通常は薄い紫色であるはずの竜爪が膨大な魔力を込めたせいで金色に輝いているのだ。

二人の合図で竜爪が次々に飛翔を始めた。シドニーの竜爪が三眼熊に撃ち込まれ、その強靭な体を切り刻む。一方、リカルドの竜爪は熊喰い鷲に向かって飛翔する。

その飛翔速度も尋常なものではなかった。リカルドの確固たるイメージと膨大な魔力が相乗効果をあげたのだ。金色に輝く竜爪は、熊喰い鷲を切り裂いた。

二種類の竜爪が次々に魔獣たちに襲いかかり切り刻み、生きている魔獣はいなくなった。

ポンツィオは呆然として、二人の魔術士を見ていた。

「これこそ、俺が目指した魔術士じゃないか」

シドニーが振り返ってポンツィオの顔を見てニコリと笑った。

リカルドは熊喰い鷲が倒れている傍まで行き、倒れている魔獣を見下ろした。

「こんな魔獣が、魔境から出てきたのか。王太子殿下に報告しなければならないな」

「二人とも凄いじゃないですか」

ポンツィオが二人を褒め称えようとすると、リカルドが止めた。

「そんなことより、二人とも手伝ってくれ」

リカルドは二人に手伝わせて魔獣の死体から血抜きをする作業を始めた。血抜きが終わると冷蔵収納碧晶に仕舞う。

ポンツィオが怪訝な顔をして尋ねた。

「その魔獣を食べるのか?」

「熊喰い鷲の肉は、燻製にすると旨いんだぞ」

以前に鷲肉ジャーキーを作った時、すぐに完売したことをリカルドは思い出した。今度は自分の分と王太子の分を確保しておかなければと思った。

リカルドたちは村に戻った。

「あっ、魔術士の方々、獣の吠える声が聞こえましたが、何かあったんですか?」

村長がリカルドたちの姿を見ると質問した。

「三眼熊を退治した」

それを聞いた村長が笑顔になった。

「本当でございますか?」

「ああ、三眼熊を見せるから、ちょっと手伝ってくれ」

そう言ったリカルドが、冷蔵収納碧晶から三眼熊を取り出した。

「おおっ、五頭もいたのですか」

リカルドは頷き、三眼熊の死体を指差す。

「こいつらの皮を剥ぐのを手伝って欲しいんだ」

村人に手伝ってもらい、三眼熊の皮を剥ぐ。手伝った村人と村長には、熊肉を分配した。

毛皮と肉をまた冷蔵収納碧晶に仕舞ったリカルドは、これからどうするか考えた。中途半端な時間なので、村にもう一泊してから王都へ帰ると決める。

その翌朝、リカルドたちは村人たちに感謝され見送られて村を出た。

「リカルド様、俺を革新派に入れてください」

シドニーはポンツィオが、リカルドに『様』を付けたので、ニヤッとする。

「今頃、リカルドさんの凄さが分かったのか」

「リカルド様、噂になっている王太子殿下の御友人だという魔術士だったのですね」

「まあ、そうだけど。噂というのが気になるな」

ポンツィオによると王太子殿下の御友人であるリカルドは、三十歳前後で威厳のある人物らしい。シドニーは首を傾げた。

「何で、そんな噂が広まったんでしょう?」

「見当もつかない」

リカルドは苦笑いして答えた。

王都に戻ったリカルドたちは、討伐局のシスモンド局長に報告した。

「なに! 熊喰い鷲に遭遇し倒したというのか。はあっ、この依頼をリカルドに頼んで良かった。他の者だともう一度、熊喰い鷲を退治する者を派遣せねばならぬところだ」

シスモンド局長によると、こういうことが多くなっているらしい。

おかげで討伐局は大忙しで、手が足りないという。