軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:202 モルドス神国の懲罰

モルドス神国の枢機卿と別れたサムエレ将軍は、難しい顔をして大きく息を吐きだした。

「あいつが言っていた懲罰とは何だ? モルドス神国の監視体制を強化するように、王太子殿下に進言しなければ」

フェムレス城へ戻った将軍は、枢機卿と話をしたことをメルビス公爵に伝えた。懲罰などという物騒なことを言っていたので、警備を強化するように警告するためだ。

「ふむ、ペルティアス枢機卿が懲罰という言葉を使ったのですか。気になりますね」

公爵は真剣な顔で考え始めた。

「私は王都に戻って、王太子殿下に報告します。公爵様はイシス砦の守備兵を増やされた方がいいでしょう」

「助言に従いましょう」

絵師を残して、将軍は一度王都へ戻ることにした。護衛として連れてきた兵士三人を絵師と一緒に残す。ケイトラでの移動なので護衛は少なくてもいいと判断したのだ。

将軍がハンドルを握りフェムレス城を出発した。メルビス公爵領を出て、ロマナス平原小領群に入った。ここは多くの子爵たちの領地が集まっている場所で、治安が良いとは言えない。

二つ目の子爵領を抜け、カヴァニス子爵の領地に入った時、馬車の渋滞に巻き込まれた。

「何事だ?」

将軍はケイトラを降り、渋滞の先頭に向かって移動した。馬車の持ち主らしい商人たちが話をしていた。

「教えてくれ。これは何事なのだ?」

商人は将軍の 身形(みなり) を見て貴族だと分かったらしい。丁寧な言葉で答え始めた。

「この先の道で土砂崩れが起きたのでございます」

「いつ頃の話だ?」

「昨日の夜だと聞いております」

「この時間になっても、土砂が片付かないということは、土砂崩れの規模が大きいのか」

「あっ、いえ、規模はさほど大きくありません。ただ大きな岩が道の真ん中に落ちてきたらしくて、それを片付けるのに時間がかかっているようです」

事情が分かり、将軍は土砂崩れが起きた場所へ進んだ。

その現場では、貴族らしい男が人足を指揮して、土砂の排除作業をしていた。土砂のほとんどは片付け済みで、人の背丈の二倍ほどもある大岩が、道の真ん中に鎮座していた。

「こいつは厄介だな。時間がかかりそうだ」

将軍は貴族らしい男に近付いた。

「子爵殿、この大岩をどけるのに、どれほどの時間がかかりそうですか?」

「……サムエレ将軍。王家の御用ですか?」

「そうだ」

「申し訳ありません。後一日はかかりそうです」

「……」

その道は左側が池で、右側が崖になっている場所だった。大岩を取り除かなければ、馬車は通れないだろう。

「貴領の魔術士の中に、この岩を何とかできる者はいないのですか?」

「はあ、これだけの大岩だと、魔術では難しいと言っていました」

リカルドが一緒にいれば、何とかしてくれそうなのだが、彼はいない。将軍は溜息を吐いた。その拍子に王太子から預かった黒震魔砲杖のことを思い出す。

「あれなら何とかできそうだな」

将軍は呟き、黒震魔砲杖を取り出した。

「この岩は、私が破壊する。馬車を少し離れさせてくれ」

「本当ですか。それはありがたい」

カヴァニス子爵は、指示通りに馬車を後ろに下げさせた。

サムエレ将軍は、大岩から少し離れた位置で黒震魔砲杖を構えた。狙いを大岩に定め、引き金を引いた。

強力な力を漲らせた黒い空震槍が生まれ、大岩を目掛けて飛翔する。空震槍は岩に大穴を開け、残った部分も空間の歪みに巻き込まれて砕けた。

大穴を貫いた空震槍は、池に飛び込み盛大な飛沫を上げて消える。

遠くから見ていたカヴァニス子爵や商人たちは、その威力に言葉を失った。魔砲杖で模倣できる魔術は、中級魔術が限界だと言われている。

だが、将軍が放った魔砲杖らしい武器の一撃は、上級魔術に匹敵するものだった。こんなものが量産されるようになれば、世界が変わると感じたのだ。

そして、これを創り出した王太子に逆らってはいけないと感じた。

残った大岩の欠片が片付けられ、渋滞が解消した。将軍はケイトラに戻って進み始めた。

「本当に、この黒震魔砲杖が百丁もあれば、世界を変えられるのだが」

王都に戻ったサムエレ将軍は王太子の執務室へ行き、枢機卿の言葉を伝えた。

「懲罰だと……枢機卿とやらは、自分を何様だと思っておるのだ」

王太子がかなり怒っているのを感じて、サムエレ将軍は背筋に冷たいものが走った。

「モルドス神国は、どんな手を打つと思う?」

「軍事的な行動は、控えるでしょう。巨蟻ムロフカが、かなりの魔術士や兵士を殺したはずですから、戦力が落ちているに違いありません」

「となると、暗殺か」

「その可能性が高いと思われます。御用心してください」

「暗殺として狙われるのは、余と公爵、それに将軍か」

「もしかすると、リカルド殿も狙われる恐れがあります」

王太子が拳を強く握り、目尻が吊り上がった。

「また、リカルドに迷惑がかかるかもしれんのか。余の力の無さが悔しいぞ」

王太子はリカルドの自宅と魔術士協会に警備兵を派遣するように命じた。

また、メルビス公爵の下へ砲杖兵部隊を送るように命じる。その日から、将軍は自宅に帰らず城で寝起きするようになった。

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

モルドス神国との国境線を密かに超えた三人が、ロマナス王国の王都へ向かっていた。

「毒使い、今回の仕事をなぜ請け負った。割の良い仕事だとは思えんのだが」

投剣士と呼ばれる暗殺者が、仲間の毒使いに尋ねた。

「引き受けねば、我ら一族を滅ぼすと、教皇王陛下が言われたのだ。仕方あるまい」

投剣士が不機嫌そうに顔をしかめた。

「対象は、ガイウス王太子とサムエレ将軍、それにリカルドとかいう魔術士だったな。王太子と将軍は理解できるが、なぜ魔術士を暗殺する必要がある?」

「巨蟻ムロフカを倒した魔術士だそうだ。王太子や将軍より難しいかもしれん」

「ほう、あの化け物を倒した魔術士か。かなりの腕利きということだな」

仲間の呪殺士が感心したように言った。呪殺士と呼ばれているが、特殊な魔術を使う魔術士である。

「ふん、ロマナス王国の最大戦力を消したいということだな」

投剣士の言葉を聞いて、呪殺士が考えるような顔をする。

「しかし、その魔術士を殺すのは惜しいな」

呪殺士の言葉に毒使いが首を傾げた。

「どういう意味だ?」

「巨蟻ムロフカを倒した魔術が、途絶えるかもしれないんだぞ。勿体ないではないか」

毒使いが鼻で笑った。

「ふん、馬鹿か。教皇王陛下は途絶えて欲しいんだ」

呪殺士が肩をすくめた。

「ところで、誰が誰を殺すんだ?」

「俺が王太子を殺す。残りはお前たちで殺せ」

毒使いが言った。呪殺士が不安そうな顔をする。

「あんただけで、王太子を殺せるのか?」

「王太子に近付き直接殺すことは難しい。王太子が飲み食いするものに毒を入れるしかないだろう」

呪殺士と投剣士は、どちらが誰をやるか話し合った。

「俺に魔術士を殺らせてくれ」

「魔術士同士で戦わせてくれというのか。やめとけ、そういう考えは失敗の元だ」

「ふん、投げナイフが武器のお前が、魔術士を仕留められるのか?」

「舐めるな、魔術士など簡単だ」

「相手を舐めるな。将軍と魔術士は二人で協力して殺れ」

毒使いが叱責した。

王都に到着した暗殺者たちは、毒使いが王都に宿泊して城に入る手段を探し、残りの二人は副都街でリカルドを狙うことにした。

「毒使いは、城に入る方法を見つけられるかな?」

「見つけるさ。奴は同じような仕事を何度もやり遂げている」

「問題は、我らか。魔術士をどこで狙う?」

「魔術士協会と屋敷との行き帰りを狙うしかないだろう」

「だが、奴は奇妙な乗り物で移動する。まずは、あれを止めねばならん」

「そこは、魔術士であるお前の仕事だ」

呪殺士が肩をすくめた。

「そういう派手な魔術は、得意ではないんだが」

「破壊しろと言っているわけではない。止めればいいんだ」

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

リカルドは魔術士協会と自宅を往復する規則正しい生活を送っていた。自宅の窓から外を眺めると、大公園に警備している兵士の姿があった。

「本当に暗殺など仕掛けてくるのか? 王太子殿下の取り越し苦労のような気がするが」

モンタがリカルドの身体を駆け上った。

「リカ、何か心配?」

リカルドの微妙な表情を読み取ったモンタが、心配しているらしい。

「命を狙われているらしいんだ。それで王太子殿下が護衛の兵士を送ってくださった」

モンタが窓から大公園にいる兵士を見た。

「モンタもリカを守る。メルにも頼んでくる」

そう言うとモンタが部屋を出ていった。

翌日、魔術士協会でグレタと一緒に研究をしてから、副都街で食事をすることになった。ルシープの助手席にグレタを乗せて副都街へ向かう。

「グレタ、もうちょっと下」

モンタがグレタに抱かれて、背中を掻いてもらっている。

「ここ?」

「ふみゅ、気持ちいい」

気持ちよさそうに腕の中でぐったりしているモンタの姿を見て、グレタが笑った。

「グレタ、モンタを甘やかさないでくれ」

「でも、モンタちゃんは可愛いんですもの」

モンタがリカルドの方へ目を向けた。

「リカ、妬いてる」

「違う。誰がそんな言葉を教えたんだ?」

「パメラだよ」

「えっ、パメラ……」

「女の子は、そういうことに関して成長が早いんです。女の子同士の会話を聞けば、リカルドもびっくりしますよ」

「そんなものか」

リカルドは車で副都街に入る門を通り抜けようとしていた。

その時、前方に光が見えた。魔術だ……そう直感したリカルドはハンドルを大きく切る。後輪が流れ、その車体後部に魔術が命中した。

ドンという衝撃で身体がはね飛びそうになる。シートベルトがあって助かった。グレタも衝撃を受けたが、怪我はないようだ。

モンタもグレタに抱かれていて無事だ。

「外に出るんだ」

この車は急速に燃え上がるような燃料を使っていないので、爆発の心配はない。リカルドは収納紫晶から黒魔術盾を取り出して、グレタと一緒に車の外へ出た。

外へ出た途端、次の攻撃がリカルドたちを襲った。空中できらめいたナイフが、自分に向かって飛んでくるのに気づいた瞬間、リカルドは黒魔術盾の魔力障壁を展開する。

その障壁にナイフが弾かれて地面に落ちる。攻撃はそれだけではなく、目に見えない魔術攻撃が襲った。その攻撃も魔力障壁で弾かれた。

攻撃魔術を弾いた感触を感じたリカルドは、驚いた。

「何だ、【風】の魔術か? 何も見えなかったぞ」

グレタが魔成ロッドを出して、構えた。モンタも車の屋根に乗って魔成ロッドを出す。

「私も戦います」

「モンタも戦う」