軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:195 ナサエル副局長と暴黒モグラ

パトリックは、任務に出かける前にリカルドと会いに行った。

「リカルド、近接戦闘を訓練したことがあるきゃ?」

「近接戦闘……殴り合いということ?」

「ロッドで殴り合うような戦いだがね」

兄のアントニオと一緒に【倍速思考】を使って訓練したことがある、と答えた。

「【倍速思考】? 変なことをしとるんだなあ」

「それがどうしたの?」

「今度、ミュンダ領へ暴黒モグラを倒しに行くんだが、リーダーがナサエル副局長なんだがね」

リカルドが苦笑した。

「それは御愁傷様」

「笑いごとではないがや。あの人は山賊ウルフぐらいなら、魔術は使うなと命じる人だがね」

「山賊ウルフぐらいなら、魔成ロッドに魔力を流し込んで叩き込めば、衝撃波で仕留められるんじゃないか」

「そう言えば、ファビウス領で妖樹エルビルを狩りに行った時に、そんなことをしとったがね」

リカルドが魔術士に成り立ての頃、触媒を使うのをケチって鬼面ネズミや頭突きウサギなどの雑魚を倒すのに、魔成ロッドから発する衝撃波を使っていた。

「あれは、鬼面ネズミ程度に触媒を使いたくなかったからです」

「でも、山賊ウルフだと仕留められないんじゃ……」

リカルドなら仕留められそうな気がして、パトリックは言い淀んだ。

「魔彩功銃を使えばいいじゃないか」

「まあね。けど、魔獣と魔術士が入り乱れて戦うような状況だと、魔彩功銃は使い難いんだがね」

「魔術士の戦い方じゃないな。ナサエル副局長のやり方に注文を付けた方がいい」

「部下の意見を聞くような人じゃないがね」

「ふーん、それでよく副局長になれましたね」

「上級魔術も使えるし、魔術士としても優秀なんだがね。でも、【筋肉増強】の魔術で、ほとんどの魔獣を倒してしまうんだけどな」

ナサエル副局長への印象が少し変わってきた。脳筋だと思っていたが、実際は違ったようだ。【命】と【火】の魔術が得意なのだという。

「そうだ。デスオプロッドを使ったら、どうです?」

「デスオプロッドか、あれは貴族たちに人気があるそうじゃないきゃ」

「そうだけど、魔術に使う魔成ロッドとしては、エルビルロッドより性能が落ちるから」

今はあまり使わなくなって、収納碧晶の中に入れっぱなしになっているロッドだった。苦労して作ったからには役に立てたいのだが、魔彩功銃の方が使いやすかった。

パトリックはデスオプロッドを借りることにした。

リカルドと別れたパトリックは、ナサエル副局長たちと一緒にミュンダ領へ向かう。魔術士協会の馬車に揺られながら、同僚たちの様子を見た。

ナサエル副局長が集めたメンバーなので、若く体力がありそうな魔術士ばかりだ。しかも全員が先輩魔術士である。

その中に自分も含まれるのだと思うと、どうなんだろうと考えた。これでもリカルドに魔術を教わり、魔術士としての技量はトップクラスだと思っている。

「パトリック、私の指揮下に入るのは、初めてだったな」

「そうです。よろしくお願いします」

訛りに気をつけながら返答をした。

「よしよし、特別に愛用のロッドを見せてやろう」

何も言わないのに、副局長がロッドの自慢を始めた。そのロッドは妖樹エルビルの枝から製作したものらしい。

普通は握りやすいように周りを削ってちょうど良い太さにするのだが、副局長のロッドは普通の二倍ほど太かった。

長さも五割増しで、先端部分に何かのシミがある。たぶん魔獣の体液で出来たシミなのだろう。ただ魔力コーティングの仕上がりは、パトリックが持つロッドの方が上だった。

それは浮き出ている雪華紋の大きさと複雑さを見れば分かる。

「頑丈そうなロッドですがね」

副局長は嬉しそうにロッドを撫でた。

「そうだろう。こいつで何匹の魔獣を仕留めたことか。結構重いのだぞ」

副局長が持ってみるか、とパトリックにロッドを渡す。受け取ったパトリックは、思った以上に重いと感じた。

「よくこんなに重いものを振り回せますね」

「鍛えているんだ」

上腕二頭筋に力を入れて、パトリックに披露する。魔術士が筋肉鍛えてどうするんだ、と思いながら若干引き気味になった。

パトリックはロッドを返し、暴黒モグラの相手をしたことがあるかどうか尋ねた。

「いや、初めてだ」

不安になった。暴黒モグラはロッドで殴った程度ではダメージを与えられない魔獣である。いつもの通りに突撃したら、返り討ちに遭いかねないのだが、大丈夫なんだろうかと。

他のメンバーを見ると、副局長と親しいようだ。何度も一緒に任務についたことがあるのだろう。同僚の魔成ロッドを見ると、普通のものより太いように見える。

「こいつらも副局長と同じじゃないだろうな。それだと非常に不安だがね」

パトリックは呟き、溜息を吐いた。

馬車は四日目の昼にミュンダ領の領都に到着した。

「私は、領主のミュンダ子爵に会ってくる。お前たちは宿で休んでいろ」

副局長が去った後、宿で休憩する。暴黒モグラが巣食っているのは、領都の北にある穀倉地帯であるらしい。広々とした耕作地の一角を危険な魔獣が占拠したために、農作業ができないという。

大勢の農民たちが怯えているらしい。当然だろう。普通の農民が暴黒モグラと遭遇したら、確実に殺されるのだから。

副局長が戻ってきた。子爵は暴黒モグラが巣食っている場所を知っている案内人を、明日寄越すと言っていたそうだ。

宿代は領主持ちだというので、たらふく夕食を食べて寝た。

翌朝、戦いの準備をしたパトリックたちは、案内人を連れて出発した。

領都の北門を抜けて、穀倉地帯へと向かう。ミュンダ領の穀倉地帯は、塀に囲まれた広大な耕作地である。だが、その塀は暴黒モグラに対しては役に立たなかったようだ。

地中を掘って、穀倉地帯へ侵入したからだ。

「あそこに、暴黒モグラがいます」

案内人が指差した先に、丘のようなものが畑の中に見えた。丘ではなく暴黒モグラが巣穴を作った後に掘り出した土を積み上げたものらしい。

「危険だから、戻るがいい」

副局長が案内人を領都に戻した。

「戦闘準備だ。巣穴から暴黒モグラを叩き出すぞ」

普通のモグラなら、攻撃されれば逃げるのだが、魔獣は攻撃されれば反撃する。その習性を利用して、地上に暴黒モグラを誘き出す作戦だった。

「巣穴に向かって、【爆炎弾】を叩き込め」

パトリックは【爆炎弾】を前方に放った。その攻撃は地面に開いた大きな穴に吸い込まれる。次の瞬間、地面が爆発した。

暴黒モグラが出てくるか、と思い身構える。しかし、出てきたのは十数匹のネズミモグラだった。

羊ほどの大きさがあるモグラである。顔がネズミに似ているので、そんな名前で呼ばれているのだ。

「ネズミモグラか。魔術は使うな。こんな奴は殴り殺せ」

パトリックは厄介なことになった、と舌打ちした。そして、魔彩功銃を取り出す。

「うおおおーーっ!」

ナサエル副局長が雄叫びを上げて突撃していった。

「副局長に続け!」

残りのメンバーも突撃する。

「おいおい、お前ら魔術士じゃないんきゃ」

パトリックは副局長と一緒になって雄叫びを上げている先輩魔術士たちを見てめまいを覚えた。

ネズミモグラと入り乱れて戦い始めた魔術士たちにより、魔彩功銃を使うことが難しくなった。

副局長があのロッドを振り回している。ロッドで殴られたネズミモグラが、『ピギッ』という鳴き声を上げて地面を転がる。

「うわっ、痛そうだがね」

「パトリック、お前も戦え!」

副局長の怒鳴り声が聞こえた。

あの真ん中に【滅裂雨】を叩き込んだら、ネズミモグラは壊滅するがね。そうしたらスッキリするだろうな。でも、副局長と先輩たちも壊滅だがね。

パトリックは誘惑に駆られたが、肩を竦めデスオプロッドを取り出した。

「こんな戦い方をするなんて、副局長のアホが……」

「アホだと言った奴は、誰だー!」

副局長は耳が良かったようだ。

パトリックにもネズミモグラが襲いかかった。土を掘るために長く伸びた爪で、足を削り取ろうとする。魔力をデスオプロッドに流し込んだパトリックは、ネズミモグラの頭にロッドを叩き込んだ。

デスオプロッドの威力は凄絶だった。一撃で頭蓋骨を粉砕し息の根を止めたのだ。パトリックは流れるような動作で、ネズミモグラの間を移動し致命打を与え続けた。

最後の一匹が仕留められた時、最も多くのネズミモグラを倒したのはパトリックだという結果になっていた。副局長でさえ、一撃でネズミモグラを仕留めることは稀であり、数回の攻撃を必要としていたからだ。

「パトリック、どうなっているんだ。その凄まじい威力のロッドは何だ?」

「これは友人から借りたデスオプロッドです」

「な、なるほど。道理で凄まじい威力のはずだ」

先輩魔術士の一人が口を尖らせ、

「ふん、活躍できたのは武器の性能のせいか」

負け惜しみである。後輩のパトリックが自分より活躍したので、悔しかったのだろう。

「油断するな。我々はまだ本命を倒しておらんのだぞ」

副局長が指揮官らしい言葉を発した。

「もう一発、【爆炎弾】を叩き込みますか?」

先輩の一人が提案した。だが、その必要はなかったようだ。

巣穴から巨大な何かが這い出してくる気配を感じたのである。

「暴黒モグラか。それぞれの最高の魔術を用意しろ」

パトリックは最高の魔術と命じられて、反射的に【真雷渦鋼弾】の触媒を取り出した。ロッドも二級のエルビルロッドに変える。

リカルドが作るエルビルロッドには、一級と二級が存在する。一級のエルビルロッドは国宝級の存在になるので、パトリックが使える魔術を考えると二級エルビルロッドで十分なのだ。

最初に副局長が【筋肉増強】の魔術を自分にかけた。次の瞬間、副局長の身体が倍に膨れ上がったように見えた。全身の筋肉がパンプアップしたのである。

「うおおおーーっ!」

もう一度突撃する副局長。相手は暴黒モグラなのだぞ。無理に決まってるがや。パトリックはそう思い、副局長の行動に驚いた。

飛ぶように駆けた副局長が、体長三メートルの巨大モグラに向かって跳躍する。振り上げたロッドが、暴黒モグラの頭に振り下ろされる。

暴黒モグラの爪が薙ぎ払われた。副局長の一撃と巨大モグラの一撃が同時に決まる。結果、副局長の身体が宙を舞う。

「副局長ぉー!」

先輩魔術士の一人が叫んだ。

「うちの副局長は何を考えとるんきゃ?」

副局長を助けようと思う前に、脳裏に疑問が浮かぶパトリックだった。

しかし、副局長の放った一撃も凄い威力だったようだ。巨大モグラがふらふらしている。

「嘘だろ。ロッドで殴っただけなのに」

先輩魔術士の一人が副局長を抱えて戻ってきた。驚いたことに副局長は死んではいない。

口から血を流している副局長が立ち上がった。よく生きていたものだ。【筋肉増強】の魔術は防御力も向上させるのかもしれない。

「もう一歩であった。そうだ、デスオプロッドを貸せ」

副局長はロッドを失っているようだ。どこかに弾き飛ばされたのだろう。

「怪我は大丈夫なのですきゃ?」

「ふん、これくらいは何でもない」

パトリックがデスオプロッドを渡すと、また【筋肉増強】の魔術をかけて突撃する。もはや呆れるしかなかった。

ナサエル副局長が、デスオプロッドの力を借りて巨大モグラの頭を粉砕。その後、満足した副局長は気を失ってしまった。その顔は満足そうだ。

「ふうっ、任務完了か」

先輩魔術士の一人が言った。

パトリックは首を傾げた。

「子爵の話では、暴黒モグラの群れだったはずだぎゃ?」

先輩魔術士たちの目が一斉に巣穴の方へ向けられた。