軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:196 パトリックの帰還

パトリックも暴黒モグラの巣穴に視線を向けた。

足下の地面から何かの振動が伝わってきた。全員がロッドを握り締め構える。

「注意しろ。出てくるぞ!」

先輩魔術士が叫ぶ。

巣穴の奥の方にいたらしい暴黒モグラが続々と地上に姿を現した。

「おいおい、五匹は多すぎるがね」

「心配無用。我々が一人一匹を倒せば、問題ない」

頼もしいことを言った先輩魔術士たちは、触媒を取り出した。先ほどナサエル副局長が特攻したので使われなかった触媒である。

パトリックは【真雷渦鋼弾】の触媒を取り出した。先輩魔術士の一人が指示を出して、どの暴黒モグラに誰が上級魔術を放つか決めた。パトリックの相手は一番右端の巨大モグラだ。

先輩たちは【火焔剛槍】や【岩槍散弾】を攻撃魔術に選んだようだ。パトリックは【岩槍散弾】で大丈夫だろうかと危惧した。

相手は巨大モグラである。地系統の魔術に耐性を持っているかもしれない。

魔成ロッドに魔力を流し込んだパトリックは、触媒を撒いて魔力を属性励起する。

銀色に輝く大粒の鋼が空中に現れ、それが激しい渦を巻く。高速で回転を始めた鋼の粒は互いが擦れ合う金属音を響かせる。鋼の渦がバチッと音を発し火花を飛び散らせた瞬間に姿が消え、暴黒モグラへ向かって飛翔する。

暴黒モグラに命中した瞬間、大量の電気が魔獣の身体に流れ込み筋肉や神経を焼く。動けなくなった巨大モグラに渦巻く鋼鉄の粒が襲いかかり、その肉体を切り刻んだ。

上級魔術の一撃で、暴黒モグラの息の根が止まった。

他の暴黒モグラを見ると、【火焔剛槍】の魔術を受けた魔獣は死に【岩槍散弾】を受けた魔獣は大ダメージを受けながらも生きていた。

生き残った巨大モグラは二匹。先輩魔術士たちは上級魔術を使ったことで、ほとんどの魔力を消耗したらしい。青い顔をして肩で息をしている。パトリックも【真雷渦鋼弾】を習った当時は、同じようなものだった。

だが、リカルドに鍛えられて倍ほどに魔力量は増えている。もう一発なら【真雷渦鋼弾】を放てるが、敵は二匹。

「どうする」

パトリックは迷いながらも、魔成ロッドを仕舞い魔彩功銃と黒魔術盾を取り出した。

ダメージを負った二匹の黒暴黒モグラの中で、一匹は首に傷を負っている。その首の傷を目掛けて、魔彩功銃の引き金を引いた。魔獣が苦痛の悲鳴を上げ地面を転げ回る。

パトリックは執拗に首の傷を狙って魔彩功銃を撃ち続けた。四発目の衝撃波が打ち込まれた時、暴黒モグラが立ち上がってよろめきながらパトリックに襲いかかった。

黒魔術盾を掲げたパトリックは、魔力障壁を発動した。魔力障壁が暴黒モグラとぶつかり首を捻じ曲げる。首から血が吹き出した。

すかさず五発目の衝撃波を撃ち込む。それがトドメとなった。

もう一匹の暴黒モグラは、先輩魔術士たちを追い回していた。魔術士たちは必死で逃げている。反撃する余裕もないようだ。

パトリックは魔成ロッドと触媒を取り出し、【真雷渦鋼弾】を発動した。その一撃で暴黒モグラが挽き肉となった。やっと任務が完了した。パトリックは地面に座り込んだ。

身体が 怠(だる) い、魔力が不足しているのだ。こんな時は、無限に魔力が湧き出るリカルドが羨ましかった。

最後の暴黒モグラが死んだのを見て、先輩たちも座り込んだ。

静かな耕作地の中で、耳障りな音が聞こえた。その方向を見ると、ナサエル副局長の横たわっている姿が目に入る。音は副局長のイビキだった。

ちょっとムカッとする。畑の土を掴み、副局長の顔を目掛けて投げた。空中で土の塊が解け、中から小石が姿を現した。その小石が副局長の頬に減り込む。

「へげっ」

副局長のイビキが止まり、変な声が漏れた。ヤバイ、と思ったパトリックだったが、

「……ぐっががが……」

またイビキが聞こえ始めた。

「ふん、よほどダメージが大きかったようだがね」

パトリックは起き上がって、倒れている暴黒モグラの死骸を確かめた。暴黒モグラの爪は【地】の触媒になり、毛皮は高値で売れると聞いている。

「肉は食えると聞いているけど、旨いのか知らんがね」

背後から声が聞こえた。

「暴黒モグラの肉は、味はそこそこだが、滋養強壮になると珍重されておる。それを知っている者は少ないがな」

いつの間にか起きたナサエル副局長が立っていた。パトリックは驚いてビクッと反応する。

「では、爪と皮を剥ぎ取って、美味しい部分の肉を回収しましょう」

パトリックは副局長の顔に視線を向けた。頬に青アザが出来ている。

今回の任務にパトリックが参加していなければ、青アザどころの話ではなかっただろう。副局長は強い幸運の持ち主なのかもしれない。

副局長には、そういう幸運があるから部下が付いてくるのだろう。だが、パトリックとしては一回だけで十分だと思った。

「副局長、【治癒】の魔術を使いましょうか?」

「おお、頼む」

パトリックは触媒を取り出し、副局長に【治癒】の魔術をかけた。頬の青アザが薄くなったのを確かめ、ホッとした。

先輩魔術士の中にも怪我をした者がいたので、【治癒】の魔術を使う。

一緒に剥ぎ取りを始めた。爪と毛皮を副局長の収納碧晶に仕舞い、肉はパトリックが持つ冷蔵収納碧晶に仕舞った。

「冷蔵収納碧晶なんて、貴重なのものをどうやって手に入れたのだ?」

「これは友人のリカルドに頼んで手に入れたものですがね」

「あのぽやぽや……いや革新派なのか。リカルドという魔術士は、凄い金持ちなんだろ」

「ええ、街を造ってしまうほどの金持ちだがや」

「そこまでの金持ちだと、想像もつかんな。でも、なぜ魔術士協会にいるんだ。働く必要はないだろ?」

「魔術の研究が好きなんだがね。魔術士協会なら、膨大な研究資料があり、大勢の魔術士がいますから」

パトリックは、他の魔術士なんか必要ないだろ、と訊いたことがある。リカルドは他の魔術士から刺激を受けることがあるので、大勢の研究仲間は必要だと言っていた。

ネズミモグラに関しては、触媒になる部分だけを回収した。残った死骸は子爵に頼んで片付けてもらうしかないだろう。

領都に戻って、子爵に暴黒モグラの討伐が完了したことを報告した。毛皮を見せて、それが嘘でないことを証明すると、依頼料を払ってくれた。

任務を終えて王都に戻ったパトリックは、リカルドに会いに行った。リカルドの研究室では、タニアとリカルドが触媒について討論していた。

「おやっ、帰ってきたのか。ご苦労さん。任務はどうだった?」

「暴黒モグラの討伐任務は、大変だったがね。もう少しで返り討ちに遭いそうになったがや」

パトリックは詳しく説明した。

「はあっ、デスオプロッドの衝撃波で暴黒モグラを倒しただって……」

さすがのリカルドも驚いた。自分でもできるかもしれないが、やろうとは思わない。

「魔術士が魔術を使わないで、どうするの。私には理解不能よ」

タニアはナサエル副局長のやり方に批判的だ。

ナサエル副局長のやり方は、女性にとって受け入れられない部分があるようだ。

「しかし、一匹倒しただけで気を失ったというのは、リーダー失格だな」

タニアとパトリックも頷いた。

「パトリックがいなかったら、犠牲者が出ていたかもしれない」

「討伐局も人選で間違っている気がする。暴黒モグラに【地】の魔術が得意な者を派遣するなんて」

「上級魔術なら、倒せると思ったようだがね」

「ナサエル副局長と仲がいい連中を集めただけのような気がするな」

「パトリックだけは例外だったみたいだけど」

彼自身もなぜ自分が選ばれたのか分からなかった。

「ところで、今回の任務で暴黒モグラ級の魔獣を倒せる武器か、纏めて倒せる魔術が必要だと思ったんやけど、そんなものを開発できると思うきゃ?」

リカルドは渋い顔になり、

「そうだな……武器なら黒震魔砲杖と黒震槍、魔術なら……」

一撃で倒せる魔術はいくつかあるが、複数の暴黒モグラを一撃でとなると思いつかなかった。

「【九天裂風】があるじゃない」

タニアが言った。リカルドも【九天裂風】は知っている。だが、この上級魔術は分厚く巨大な風の刃が九つ形成され、それらが敵に向かって飛翔する。

但し、この九つの風刃は一つの敵に向かって飛ぶ、複数のそれぞれの目標に向かって飛ぶわけではないのだ。その点をリカルドが指摘する。

「そうだけど……リカルドなら改良できるんじゃないの」

「なんや、改良することが前提きゃ」

「当たり前よ」

何が当たり前なのか、リカルドには理解できなかった。ただ【九天裂風】を改良するというアイデアは面白いと思った。

リカルドは魔境に棲息していると言われている天黒狼と風魔鳥を倒す魔術を探していた。動きが素早いという伝説が残っている魔獣なので、特級魔術【白星焔弾】では命中できないのではないか、という不安があったからだ。

「面白い、研究してみよう」

それから三人で研究を始めた。

「改めて研究してみると、この魔術……失敗作じゃないか」

「どういうこと?」

最後の呪文が『キュロエス』となっており、これは『竜となり貫け』という意味である。

「竜とは、大気を固めた刃であると言われている。だが、なぜ貫けなんです?」

「そう言えばそうね」

タニアが首を傾げた。

「でも、『魔術大系』には、そう書いてあるがね」

「もしかすると、間違っているんじゃないか」

「賢者マヌエルが書いたものだがや」

「賢者でも間違えることはあるさ」

リカルドは、魔境で発見した円柱に書かれていた魔術言語オプトル文字の記録を取り出した。『魔術大系』の元になったと思われている資料である。

『キュロエス』という魔術単語を探し、それらしいものを発見した。だが、それは少し違っており『キュミロス』だったのだ。

「違う違う。きっと他に『キュロエス』という魔術単語があるんだがや」

パトリックは懸命に探したが、結局似たようなものしか発見できなかった。その似たようなものというのが、『キュセロベス』だった。

「『キュミロス』と『キュセロベス』ね。ちょっと調べてみましょう」

タニアが眉間にシワを寄せながら言った。

調査した結果、『キュセロベス』は『竜爪となり切り裂け』という意味だと分かった。

「どうやら、『キュロエス』ではなく『キュセロべス』だった可能性が高いな」

リカルドの言葉にタニアが頷き、パトリックも渋々認めた。

「確かめてみよう」

リカルドたちは訓練場に向かった。上級魔術を練習する区画へ行き、【九天裂風】の準備をする。

「誰が試す?」

「魔力量を心配する必要がないリカルドが、いいがね」

「そうね。リカルド、頼むわ」

「いいけど」

リカルドは触媒を取り出し、エルビルロッドに魔力を流し込む。触媒を撒いた後、変更した呪文を唱える。

「 シェナ(風よ) ・ ヴェゼラシル(大気を固め) ・ オボ(九本の) ・ キュセ(竜爪となり) ロベス(切り裂け) 」

空中に淡い紫に輝く九本の巨大な爪が現れた。リカルドのロッドが指し示す土嚢の山に向かって飛翔を開始。ドンドンドンと巨大な竜爪が土嚢を切り裂く。

凄まじい土煙が舞い上がり、轟音が響き渡る。何事かと訓練場にいた魔術士たちが集まってきた。その中にナサエル副局長がいた。

「パトリック、何をしておるのだ?」

「友人たちと一緒に、【九天裂風】の改良を行っていたところですがね」

土煙が消えた後、土嚢の山が消滅していた。それに加え、地面に大きな爪痕が残っている。その爪痕が深い。元の【九天裂風】なら、これほど深い爪痕は残らなかったはずだ。

「【九天裂風】だと……」

副局長が地面に刻まれた竜爪の痕を見て、考え込んでいる。

「どんな改良をしているんだ。かなり威力が上がったようだな」

「ちょっとした改良なんですけど」

「おっ、そうだ。リカルドに話があったのだ」

「何でしょう」

「パトリックが持っていたデスオプロッドだ。私も欲しいのだが、何とかならんか?」

「素材がないので、妖樹デスオプの枝を持ってきてもらえれば、安い費用で製作しますよ」

最近では、魔成ロッドの製作においてもリカルドの名声が上がっていた。さすが名匠マトウの直弟子だという声だ。リカルド自身が有名になったため、今さらマトウの名前を出す必要がなくなったのである。

「本当だな。必ず持ってくるから頼むぞ」

副局長が笑いながら訓練場を出ていった。