軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:165 派兵決定

自宅の部屋でタミエルの枝を取り出したリカルドは、ベルナルドと約束した三級魔成ロッドを作った。但し少し手を抜いてユナボルタにはしない。三級以上のユナボルタを作れるのは、師匠であるマトウだけだとなっていたからだ。

「こんなものかな」

出来上がった魔成ロッドを収納碧晶に仕舞って、リカルドはベルナルドの店に向かった。

ベルナルドに八本の魔成ロッドを売って、学院に足を向けた。高等魔術教育学舎に到着したリカルドは、魔砲杖を研究している学生たちの研究室に向かう。

「魔成ロッドが手に入りましたよ」

学生たちに魔成ロッドを渡した。その魔成ロッドの費用は学院の費用としてきっちり請求するつもりだ。

「ありがとうございます」

学生たちと魔術回路について検討しているうちに、リカルドの脳裏にアイデアが閃いた。学生たちが研究しているものとは全く異なる魔術である。

調査するために魔術士協会へ戻ることにした。図書館に行くとグレタが調べ物をしている。この春、グレタは魔術士認定試験に合格し正式な魔術士となっていた。

「リカルド様、どうしてここへ?」

「ちょっと調べたいことができたんです」

「お手伝いします」

グレタは一人前の魔術士となってからは、イサルコから課題を与えられ調査研究をして論文を書くということを行っていた。高等魔術教育学舎の入学試験で論文があるからだ。

彼女は魔術士となってから、少し変化した。少女から大人の女性に変わり始めたようで、落ち着いた感じがする。リカルドは優しい目でグレタを見た。

「それで、何を調べるのです?」

「【火】の魔術で、炎の色についての記述を探してください」

「色ですか? 炎の色は赤じゃないのですか?」

「炎には様々な色があるんです」

リカルドたちが調査を始めて一時間が経った頃。

図書館の入り口が騒がしくなった。リカルドがそちらに目を向ける。王家の武官らしい人物が司書と話をしていた。

その武官がリカルドを見つけ近付いてくる。

「リカルド殿、サムエレ将軍が話があるので夕方に自宅まで来て欲しいそうです」

「承知したと将軍に伝えてください」

リカルドの答えを聞き、武官は図書館を去った。

夕方、リカルドは将軍の屋敷へと向かった。顔見知りの執事が将軍の部屋まで案内する。中には将軍とガイウス王太子の姿があった。

「待っていたぞ」

リカルドは慌てて挨拶をした。

「挨拶などいい。そこに座れ」

王太子は目の前にあるソファーを指さした。リカルドはソファーに座り、王太子が用件を切り出すのを待った。

「リカルド、トリドール共和国とミシュラ大公国のことは聞いたか?」

「戦争になりそうだと聞いております」

王太子が渋い顔で頷いた。

「共和国は、ミシュラ大公国を侵略するつもりだ。それは許せん」

王太子の話によると、トリドール共和国の議会はミシュラ大公国の港町リゼルトを共和国に返還するように通告したらしい。

「どういう意味でしょう? リゼルトは共和国の領土だったのですか?」

「五〇年前の戦争で、共和国が一年ほど占領していた時期があった。どうやら、そのことを根拠にリゼルトは共和国の領土だと言い張っているようだ」

共和国がリゼルトを支配下に置いていたのは一年だけで、その後の戦いでミシュラ大公国に奪い返されている。

「トリドール共和国の議員たちは、頭がおかしいのですか?」

リカルドは思わず言ってしまった。王太子がニヤリと笑う。

「余もそう思った。だが、これは戦争を仕掛けるための口実にしかすぎん。奴らはどうしても戦争を起こしたいらしい」

リカルドは共和国の理不尽さに怒りを覚えた。どんな理由かは分からないが、無理やり戦争を起こそうとしていることに嫌悪したのだ。

「王太子殿下は、どうされるおつもりですか?」

「戦争をやめるように、という書簡を使者に持たせて送った。だが、国を一つに纏められない王家の言うことなど聞けないそうだ」

王太子が送った使者は、侮辱されて戻ってきたらしい。リカルドにも王太子の怒りが分かった。

「ミシュラ大公国は撃退できるでしょうか?」

「単独では無理だろう。そこで我が国から精鋭七千をミシュラ大公国の首都に送る」

「それではロマナス王国とトリドール共和国との間で戦争になります」

「ミシュラ大公国を見捨てることはできん。共和国が彼の地を占領すれば、調子に乗って我が国にも兵を進めるだろう」

王太子が共和国の議会を調べさせたところ、議員たちは覇権主義に陥っているそうだ。経済が衰退する気配に気づいた議員が、国内ではなく外国に目を向けたのだという。

「共和国の議員たちは、ミシュラ大公国を手に入れれば強国としての共和国が復活すると考えているようだ。しかし、一時的には経済の活気を取り戻しても、議員たちの意識が変わらねば、また衰退するに違いない」

「そうなると、次はロマナス王国を狙うと?」

「そうだ。困ったことにロマナス王国は一枚岩ではない。ミシュラ大公国を手に入れたトリドール共和国は、我が国も手に入れようと考えるだろう」

リカルドにも納得できる推測だった。

サムエレ将軍が口を挟んだ。

「我が軍は、トリドール共和国を徹底的に叩くつもりでいる。なぜだか分かるか?」

「……セラート予言が関係しているのですか?」

「そうだ。予言通りのことが起これば、我が国は弱体化する。そこにトリドール共和国が攻めてきたら危険だ」

王太子が共和国の首都ギセルまで攻め込むつもりだと聞いて、少し無謀ではないかとリカルドは思った。その 懸念(けねん) を王太子に伝えると、作戦があるという。

作戦の中身までは教えてくれなかった。

「話は変わるのだが、リカルドの兄マッテオのことなのだが……」

リカルドはマッテオの名前が出て、ドキリとした。トリドール共和国へ行ってしまったので、心配していたのだ。

「マッテオ兄さんが、どうかしたのですか?」

「彼は、グラウルという商人と一緒に行動している。現在、ミシュラ大公国にいるようだ」

なぜ、それを将軍が知っているのか、疑問に思ったが、兄弟の行方を知らせてくれたので感謝した。

王太子はリカルドに鋭い視線を向けた。

「マッテオの行方を知っていることに、疑問を持ったのではないか?」

「ご慧眼には恐れ入ります」

「グラウルは監視していたのだ」

「なぜでございますか? 彼は一介の商人です」

「そうではない。彼はトリドール共和国に滅ぼされたバスタール王国の貴族だった。しかも、バスタール王家の末裔を妻にしている」

滅んだ国の貴族であったとしても現在は関係ないのでは、とリカルドは思った。だが、共和国がバスタール王家に関係する者を狩り出し殺していると聞き、まずいことになったと感じた。

「マッテオ兄さんが巻き込まれるかもしれないと、王太子殿下は考えておられるのですね?」

「そうだ。現在、ミシュラ大公国には共和国の工作員が大量に入り込んでいる。グラウルの身元が分かれば、マッテオも無事ではいられない恐れがある」

「自分に何かできることはありますか?」

「あるぞ。黒震魔砲杖を貸してくれ」

「えっ! ……承知しました」

リカルドは収納碧晶から黒震魔砲杖と【空】の触媒を取り出して渡した。

「国境線の砦を突破するために、必要なのだ」

「どこから侵攻するのですか?」

王太子が一瞬ためらってから教えた。

「クス領の国境だ。あそこはモンジョ砦があるので、突破は困難だと共和国は考えているはずだ。その砦を黒震魔砲杖で突き破り、侵攻する」

王太子は信頼の証として、軍事機密を教えてくれた。

ミレージュ山脈の間を抜け、首都ギセルへ向かう道は整備されておらず、大軍が通れるような道ではなかった。それを承知で選んだのなら、王太子と将軍には考えがあるのだろう。

その翌日、ガイウス王太子と護衛がヨグル領に向かった。目的地は竜樹馬の飼育場である。五ヘクタールほどだった飼育場は五倍に拡張されている。

しかも大きく育った竜樹馬が、一〇〇頭ほどに増えている。調教が始まっており、その背に乗った兵士たちが、広い飼育場を駆け回っていた。

「一〇〇頭か。もう半年時間があれば、三倍に増やせたのに」

王太子が残念そうに言う。

「乗られますか?」

調教師が王太子に尋ねた。王太子が頷き 一際(ひときわ) 大きな竜樹馬に近寄った。

その竜樹馬には鞍が付けられていた。王太子は竜樹馬に乗り飼育場を駆け回る。乗り心地はさほど良いとは思えないが、走りに安定感があった。

「これなら戦場を駆け回っても安心だ」

竜樹馬には耳がないので、大きな音に驚くということはない。だが、魔力には敏感で魔砲杖や魔功銃を馬上で使うとビクッと反応する。こういう点は、調教が必要なのだ。

「調教は順調なようだな?」

竜樹馬に乗って戻ってきた王太子が調教師に確認した。

「はい。ただ秘密裏に竜樹馬を育てることが難しくなっております」

近隣に住む人々が何の施設だろうと、兵士や調教師に尋ねるらしい。まだ密偵のような者に探りを入れられたことはないが、ここで竜樹馬が育てられていることが知られるのは時間の問題だ。

王太子は飼育場を見回し、飼育場の責任者であるオズヴァルド少将を呼んだ。少将のような高位の武官が責任者となっているのは、王太子が竜樹馬の重要性を信じているからである。

「ここの飼育場を旧アプラ領、現在はキエザ領のムナロン峡谷に移そうかと考えている」

「ムナロン峡谷でございますか? ……確かに人目には触れ難い場所でございますが、出入りすることが難しいのでは?」

「分かっている。だが、他に候補がないのだ」

「ミル領のガブス渓谷はどうでしょう?」

「あそこはリカルドに褒美として譲渡した」

オズヴァルド少将は考え、一つのアイデアを出した。

「ならば、ミル領のオスティ高原はどうでしょう?」

オスティ高原は南・西・北の三方を崖に囲まれ、東側からしか行けない地形となっている。その東側に防壁を設け出入りを管理すれば、竜樹馬の飼育場になる、と少将は提案したのだ。

「ふむ、面白い。この件は少将に任せよう」

王太子と少将は、竜樹馬に乗る竜騎兵に関して検討した。その一つが竜騎兵の武装をどうするかである。但し、基本の武装が魔砲杖であることは決まっていた。

移動しながら魔砲杖の一斉射撃で敵に打撃を与えるというのが、竜騎兵の戦術である。当然、敵は弓矢で対抗すると考えられるので、防御をどうするかというのが問題になる。

革鎧では矢を防ぎきれないので、革の内側に金属片を貼り付けたブリガンダインという鎧を装備することになった。頭の防具は側面だけを金属片で補強した標準的な兜である。

王太子が少将に接近戦になった時に使う武器をどうするか尋ねた。

「ロングソードか、魔功銃ということになります」

「魔砲杖とロングソードを同時に持つのか。……無理がある」

「ならば、魔功銃ということになります」

魔功銃はまだまだ数の少ない武器だった。王太子は渋々頷き、魔功銃を揃えることを約束した。

いくつかの懸案事項を話し合い、最後に王太子が一〇〇頭の竜樹馬をいつでも出せるように準備するように、オズヴァルド少将へ命じた。

この後、王都に戻った王太子は、トリドール共和国とオクタビアス領の国境線が封鎖されたという知らせをサムエレ将軍から聞かされた。

「ミシュラ大公国から、救援の要請が来ています」

「時間がないようだ。七千の精鋭を送る手配は終わったのか?」

「いつでも送れます」

「ならば、今すぐ送れ」

サムエレ将軍がためらいながら確認した。

「陛下に許可は取らなくともよろしいのですか?」

「すでに許可を頂いている」

こうして、トリドール共和国とミシュラ大公国・ロマナス王国の戦いが始まった。