軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:166 大公国支援部隊

ガイウス王太子は二つの派遣部隊を編成した。一つはミシュラ大公国へ援軍として派遣する大公国支援部隊である。この支援部隊は、魔砲杖を装備した二千の砲杖兵士と二千の弓兵、三千の槍兵で編成されていた。

もう一つの派遣部隊である首都急襲部隊は、竜樹馬に乗る竜騎兵一〇〇と二千の砲杖兵士、それに三千の槍兵で編成されていた。

最初に派遣されたのは、大公国支援部隊である。国内に残っていた二隻の交易船で五〇〇名ずつと補給物資が移送された。まずは砲杖兵士が優先的に移送されることになる。

この砲杖兵士たちは、魔力制御ができるように訓練した者たちだった。魔砲杖を放つには必要なものが二つある。触媒カートリッジと魔砲杖の魔力バッテリーに蓄えられた魔力だ。

その魔力を自分たちで充填できるように訓練されたのが、王家が誇る砲杖兵士なのだ。元は市井の魔術士に充填を頼んでいたのだが、戦場に一般人である魔術士を連れて行くわけにはいかないので、砲杖兵士用に『魔力制御訓練法』という冊子を作り訓練させた。

この『魔力制御訓練法』という冊子は、絵師とリカルドが協力して作ったものである。内容は魔力制御訓練法を活字ではなく漫画で描いたものだ。

兵士の中には文字が読めない者が多く、こういう絵というか漫画にしないと理解できなかったのだ。

「トリドール共和国の軍は、どんな軍なんだ?」

一人の砲杖兵士が同僚に尋ねた。

「聞いた話じゃ、怖いもの知らずの勇猛果敢な連中らしい」

「ふーん、それじゃあミシュラ大公国の軍は?」

その同僚も首を傾げた。ミシュラ大公国の軍に関しては、あまり情報がなかったからだ。

「さあな。普通の軍なんじゃないか」

ミシュラ大公国の軍は、水軍が有名である。だが、今回の敵は陸から押し寄せるので、ミシュラ大公国は困っていた。

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

ミシュラ大公国の首都クラベスの中央、クラベス城の三階にある部屋でリリアナ王女がトリドール共和国がある方角を見ながら、不安そうな表情を浮かべていた。

そこに侍女長のフェリシアが、知らせを運んできた。

「リリアナ殿下、ロマナス王国から援軍が到着したそうでございます」

「どれほどの兵を?」

「兵数は七千ほどだと聞いております」

リリアナ王女が眉をひそめた。少ないと思ったのだ。国境線に押し寄せる共和国軍は、兵数五万と聞いている。それに対して、大公国軍は三万の兵を国境線に集め、防備を固めているようだ。

兵力差は二万、援軍が七千では足りない。そうリリアナ王女は考えたのである。そんな様子を見たフェリシアが尋ねた。

「援軍が少ないと思われるのですか?」

「ロマナス王国には、感謝しているのです。ですが、共和国軍の兵力は五万。不安で仕方がないのです」

リリアナ王女が不安になるのは、根拠があった。大公国軍の歩兵は弱いという評判があるのだ。

フェリシアは包み込むように王女の手を取った。

「大丈夫です。王太子殿下を信じましょう」

「ええ、分かったわ」

ドアがノックされる音が響いた。

「誰です?」

「私です」

リリアナ王女の弟であり、大公国の後継者であるミケリノ王子の声だった。ミケリノ王子の正式な呼称は、ミケリノ大公世子であるが、一般的には王子と呼ばれている。

「姉上、大公陛下がお呼びです」

「分かりました。一緒に行きましょう」

王女はミケリノ王子と一緒にエスカランテ大公の執務室に向かった。フェリシアも紅茶を淹れるために、一緒に行く。

ミシュラ大公国のエスカランテ大公は、少し老けたように見える。四〇代なのだが、白髪が増え顔に深いシワが刻まれている。

「陛下、姉上を呼んで参りました」

「ご苦労であった。こちらに来い」

大公は執務室の前にあるテーブルセットを指さした。

二人が椅子に座ると、支配者としての力ある声で話し始めた。

「二人とも、よく聞きなさい。首都クラベスが戦場になる可能性が出てきた。そこで二人をロマナス王国へ避難させようと思う」

「そんな、私もここで戦います!」

ミケリノ王子が叫ぶように言った。

大公が静かに首を振った。

「ダメだ。ミシュラ大公家の血を絶やしてはならぬのだ。分かってくれ」

諭(さと) されたミケリノ王子が下を向いた。

「私は逃げたくはありません」

「逃げたと思うな。ロマナス王国では新たな技術が生まれ発展している。それを学んで来い」

ミケリノ王子は渋々という感じで頷いた。

「リリアナは、ガイウス王太子殿と手紙のやり取りをしているそうだが、婚姻の話を進めて良いのだな?」

王女は少し頬を染めながら頷き返事をした。

「はい、王太子殿下は凄く素敵な方なのです。顔も 凛々(りり) しくて……」

後ろで紅茶の用意をしていたフェリシアは、その言葉を聞いて目を丸くした。

(あの王太子殿下の凶悪な顔を凛々しいと思われるなんて……恋は盲目というのは本当のようね)

などと、フェリシアがとても失礼なことを考えていた。

リリアナ王女は不安になっていたことを大公に確かめることにした。

「陛下、ロマナス王国からの援軍が七千と聞きました。我が国は大丈夫なのでしょうか?」

エスカランテ大公はニコッと笑った。

「心配は無用だ。ロマナス王国は最新鋭の武器である魔砲杖を装備した砲杖兵士二千を含む支援部隊を送ってくれた。その兵力は通常歩兵の一〇倍に匹敵すると言われておるのだ」

「一〇倍ですか、それは凄いです。私も魔砲杖を見たいです」

ミケリノ王子が一〇歳の子供らしい声を上げた。

「そうか。午後から魔砲杖の試射を見学することになっておる。一緒に学ぶがいい」

「はい」

午後になり、城の練兵場に大勢の人々が集まった。ほとんどは大公国軍の関係者で、中にリリアナ王女たちもいた。ミケリノ王子はワクワクしているようだ。

支援部隊の指揮官であるアレヴィ少将は、五人の砲杖兵士を選んで連れてきていた。少将は大公の前に出ると、敬礼した。

「本日は、砲杖兵士の技量を見てもらう機会をいただき、ありがとうございます」

「少将、今日は砲杖兵士とはどういう兵士なのか見せてもらうよ」

そう大公に言われた少将は、砲杖兵士たちに準備するように命じた。

「まずは、【爆炎弾】の魔術を組み込んだ爆炎魔砲杖を見てもらいます」

砲杖兵士三人が魔砲杖に触媒カートリッジを装填し、練兵場の奥に作られた弓用の的を狙う。

ミケリノ王子が目をキラキラさせて見ていた。

「放て!」

少将の号令で魔砲杖の引き金が引かれる。

魔砲杖の先に火の玉が生まれ、それが的に向かって弾かれたように飛翔。距離はショートボウの有効射程ほどだろう。

的に命中した火の玉は爆散して的を粉々にする。

「おおっ!」「凄い!」

大公国軍の関係者が驚きの声を上げた。大公は難しい顔をしている。大公国でも魔砲杖の研究をしていた。初級上位の魔術である【炎翔弾】を組み込んだ魔砲杖を完成させ大公に献上されたこともある。

但し、それは命中率が低く、実戦では使えないと大公が判断した。それに比べロマナス王国が装備する魔砲杖は、中級下位の魔術を組み込んだことで威力があるうえに命中率も高そうである。

この一発が敵陣に命中すれば、敵数人に重傷を負わせることができるだろう。大公自身が『砲杖兵士の兵力は通常歩兵の一〇倍に匹敵する』と言ったが、本気で信じていたわけではない。

子供たちを安心させるために言っただけだったのだが、真実だったと分かった。

「次は【雷渦鋼弾】の魔術を組み込んだ魔砲杖の威力を見てもらいます」

少将の合図で二人の砲杖兵士が魔砲杖を構えた。ズタズタになって燃えている的に狙いを付け引き金を引く。その瞬間、バチバチと電気を帯びた鋼鉄片の渦が的に向かって飛んだ。

命中した鋼鉄の渦は、土台の盛り土ごと吹き飛ばした。

見学していた全員が押し黙ってしまう。圧倒的な威力に恐怖を覚えたようだ。

「クッ、こんな兵器に狙われる敵にはなりたくないものだ」

大公の低い声が漏れた。

「いかがだったでしょうか?」

アレヴィ少将が近付いて尋ねた。

「ああ、素晴らしい。しかし、ロマナス王国はこれほど強力な兵器を開発して、何と戦おうとしているのかね?」

「魔境の魔獣です。魔境には雷鋼魔砲杖の攻撃を撥ね返すほど強力な魔獣も存在するのです」

大公がゴクリと 唾(つば) を飲み込んだ。

「そんな魔獣と遭遇したら、どうするのだね?」

「その時は、魔術士たちの出番です。我らは魔術士の盾となります」

大公は様々な産物を与えてくれる魔境を持つロマナス王国を 羨(うらや) ましく思っていた。だが、それは考え違いだったようだ。魔境は産物の生産地というだけでなく災いの発生地でもあるらしい。

「今回は、その魔術士が支援部隊の中にいないようだが」

「いえ、負傷者の手当を専門に行う衛生兵の中に、魔術士がおります。ただ……」

ガイウス王太子は、医療知識を持つ医療魔術兵を育てていた。いくつかの遠征で、リカルドを含む魔術士が負傷兵士の治療に有効だったという報告を受けた王太子が養成を始めた兵種である。

少将は少しためらった後、先ほど途中でやめた言葉を続けた。

「今回の遠征は、相手が魔獣ではなく人間ですので、戦闘専門の魔術士は従軍しておりません」

大公は納得して頷いた。

「なるほど、人間相手に戦闘専門の魔術士を出す必要はないということだな」

「実戦に使える魔術士は貴重な存在ですので、専用の護衛を付けなければなりません。それも考慮すると、戦場に魔術士を呼ぶ利点は少ないのでございます。それに大公国にも魔術士はおりますでしょう」

確かにミシュラ大公国にも魔術士は存在する。だが、数は少なく質も良くない。但し海戦で使う【爆炎弾】や【火焔剛槍】を使える魔術士は数が多い。

この二つの魔術が使えると、交易船の護衛として高額で雇ってもらえるからだ。

その翌日、アレヴィ少将が率いる大公国支援部隊は、国境線に向かって出陣した。首都クラベスから国境線まで徒歩で七日。支援部隊が到着した頃には、大公国軍と共和国軍との間で、戦いが始まっていた。

共和国軍五万は、大公国側の砦であるスカッビア砦に取り付き激しい矢の雨を降らせていた。この攻撃は四日ほど続いているようだ。

大公国軍の兵士は、疲弊しながらも反撃していた。必死に矢を射返している。

「なんとか持ち堪えているようだ」

アレヴィ少将は戦況を確認して呟いた。

だが、このままでは負ける。そう判断した少将は、砲杖兵士に戦闘準備をさせた。

防壁の内側に造られた弓兵用の足場に上り、魔砲杖に触媒カートリッジを装填する。

「狙え、放て!」

少将の号令で、一斉射撃が始まる。勝ち戦に興奮していた共和国軍は、魔砲杖から放たれた魔術により 蹂躙(じゅうりん) された。

【爆炎弾】の爆発で敵兵が吹き飛び、【雷渦鋼弾】の魔術で切り刻まれる。戦場は阿鼻叫喚の地獄となった。それでも少将は容赦しない。

「カートリッジの交換を急げ!」

砲杖兵士が手慣れた様子で触媒カートリッジを交換する。そして、敵兵に魔砲杖を向ける。

「放て!」

また共和国軍の兵士の血が空中に舞い上がる。少将は魔砲杖の一斉射撃を七度繰り返した。

敵の死傷者は数千人の数になったはずだ。そこに砦から打って出た大公国軍が、敵を蹴散らし遺体の山を造り上げた。

共和国軍は戦いが始まって初めて敗走した。後方にあるセルヴァ砦にまで逃げ帰り、総大将であるヤロスラフ将軍に報告する。

「何ということだ。我が軍が撃退されただと……」

ヤロスラフ将軍はどういう風に撃退されたのかを聞いて、ロマナス王国の援軍が来たのだと知った。