軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:127 王都の軍事機密

リカルドは五つの魔術盾を完成させると、サムエレ将軍に届けた。

その後、リカルドとタニアは魔術盾の研究を続けた。

「【火】の属性色に励起させた魔力で障壁を発生させるのね」

タニアが確認した。

「そのために、魔砲杖で使う触媒カートリッジを使います」

魔力バッテリーに蓄えられた魔力を触媒カートリッジを通して放出することで属性励起させる。

今回は【火】の触媒を使ったので【火】の魔力障壁が発生した。この障壁は【火】の魔術に対する防御力が高いようだ。しかも物理攻撃に対する防御力も追加されていた。

但し、物理防御力はオマケ程度だ。小石程度なら撥ね返せるが、弓矢だと貫通する。

「他の系統の魔術に対する防御力は、普通の魔術盾より劣るのね……使えない」

タニアが肩を落として呟いた。

「他の属性についても、そうだとは限りませんよ。確かめてみよう」

リカルドが励まして、【水】【風】【地】についても試してみた。結果は同じだった。同じ系統の魔術に対する防御力が高まり、オマケ程度の物理防御力が追加されたのだ。

最後に【空】の触媒カートリッジを使って試してみた。

【空】の魔術は威力が尋常ではないので、訓練場では防御力を確かめられない。なので、物理防御力を確かめてみる。

【空】の魔力障壁に弓矢を射てみた。その結果にタニアが驚きの声を上げる。

「信じられない」

他の属性の時は矢が障壁を貫通したのだが、今回は撥ね返されたのだ。

しかも他の系統魔術に対しても高い防御力を発揮した。どうやら【空】の魔力障壁は、空間自体を遮蔽し物理的にも魔術的にも強力な防護壁となるようだ。

リカルドは【空】の魔力障壁を実験した時、盾から放射される魔力の流れに乱れがあるのに気付いた。

「何故だ?」

そのことをタニアに相談すると、ヒントをくれた。

「魔力伝導金属に問題があるのかも」

魔力伝導金属は銀と青い煌竜石の粉末を使った合金である。煌竜石の粉末は基本的にどの属性のものでも構わないらしい。青い煌竜石を使っているのは、他の煌竜石に比べれば産出量が多く一番安いからである。

リカルド達は黒い煌竜石で魔力伝導金属を作り、それを使って魔術盾を製作すれば、と考え試してみた。

試しに作ってみた黒魔術盾から発生する魔力障壁は、さらに強固なものとなった。これなら上級魔術にも耐えられるかもしれない。とは言え、上級魔術の威力も様々で、黒魔術盾で防げるのは最低クラスのものだけだろう。

「私も一つ欲しいけど、材料費を考えると手が出ない」

タニアが残念そうな顔で告げた。

「タニアさんには、研究を手伝ってもらったので、通常の魔術盾なら一つ進呈します」

「本当……それは嬉しい」

「しかし、防御用の魔術というのは奥が深いですね。ただ一番有効なのが、黒い煌竜石や【空】の魔術というのは、厄介です」

リカルドは手持ちの黒い煌竜石を使い切ってしまった。

王都に存在する黒い煌竜石は、リカルドがほとんど買い占めてしまったので、産出地であるキレス領に行かねば手に入れられないだろう。キレス領はリカルドの出身地であるファビウス領と魔境クレブレスに挟まれた地域で、第六魔境門が存在する領地だ。

行ってみたい場所だが、土地開発もあるので、行くにしても少し後になるだろう。

魔術盾の研究が一段落して、リカルドはぽやぽやした時間を過ごし始めた頃、サムエレ将軍は王太子の護衛兵の訓練をしていた。

元々精鋭を集めた部隊なので、基本的なものは十分である。そこで魔術攻撃に対応する訓練を中心に特訓させていた。

「砲杖兵、護衛兵を狙え……撃て!」

狙われた護衛兵は、魔術盾を掲げ攻撃魔術に向け魔力障壁を発生させた。魔砲杖から発射された【炎翔弾】を魔力障壁が弾く。

「盾はしっかり持て、魔術の衝撃は強い。弾き飛ばされるぞ」

将軍は指示を飛ばしながら、思った以上に魔術盾が軍事的に重要だと感じていた。他国との戦争や貴族同士での戦いにおいて、魔術は戦力の一部である。

王家はもちろん、貴族も有能な魔術士を召し抱え戦力としている。ただ優秀な魔術士は数は少ない。貴族が抱えている魔術士の大半は、中級魔術までしか使えない者だった。

そして、それらの魔術士が放つ魔術を、魔術盾なら防げる。魔術盾が安価なら、戦争も変わっただろう。

護衛兵が訓練している場所は、王都防衛軍の兵士が封鎖していた。

そこに王城の役人らしい男が近付く。

「何の用だ。ここから先は立入禁止だ」

「私は財務府のベルトランドだ。マウロ財務大臣の命令で、護衛部隊がどんな訓練をしているか視察に来た」

「ダメだ。王太子殿下の命令で極秘訓練となっている」

ベルトランドが怒りを顔に表す。

「何を言っている。護衛部隊の給金を出しているのは、我々なんだぞ」

財務府の役人に多いのだが、兵士や王城で働く者たちを自分たちの使用人か何かのように思っている。兵士の目が険しくなった。役人が下っ端だったら、怒鳴り返していただろう。

「でしたら、王太子殿下の許可をもらってきてください。そうしたら通します」

「な、何だと……」

ベルトランドは兵士の反撃に、何か言い返そうとした。

「何事か?」

サムエレ将軍が現れ口を挟んだ。

「お役人さんが、訓練を視察したいとおっしゃるんです」

将軍は威圧するような眼光で役人を睨む。

「マウロ財務大臣の命令なのです」

ベルトランドは免罪符のように、上司の名前を口にした。

「この訓練で、新しい装備を試している。軍事機密に属するものだ。それでも視察するというのかね?」

「そ、それは……軍事機密なら、仕方ありません」

役人が逃げ帰るように去っていくのを、将軍は見送った。

逃げ帰ったベルトランドは、そのままマウロ財務大臣の下へ向かう。大臣の執務室に入ると、先程の顛末を大臣に報告した。

「軍事機密だと……気に入らんな。それほど重要なことなら、財務大臣である儂には知らせるべきだろう。そう思わんか」

大臣が不機嫌そうに同意を求める。ベルトランドは即座に頷いた。

「もちろんです」

「そうだろ……しかし、気になるな。どんな軍事機密なのだ。装備を購入したのなら、財務府に報告がありそうなものだが……王太子の私財で購入したものか」

王家の財政を掌握していると自負する大臣は、王太子の私財を狙っていた。その資金を自分の管轄に移したいと考えているのだ。

一瞬、王太子が死んだら、その財産も王家の資金として管理できるようになるのだが、と考えてから身震いする。その考えは反逆罪だと気付いたからだ。

「ベルトランド君、その軍事機密、探り出せないかね」

「……」

部下の顔色が青褪めるのを見て、こいつには無理だと分かった。

マウロ財務大臣はベルトランドを部屋から追い出した後、王城を出てオクタビアス公爵の屋敷に向かった。

オクタビアス公爵は武術や魔術の技量は平凡だが、尋常でない政治能力と広範囲の経済知識を併せ持つ人物だった。軍事面での才能はメルビス公爵より劣る。されど、経済面は一枚上だと自負しているらしい。

「財務大臣殿。お呼びつけして申し訳ない」

大臣を出迎えた公爵は、薄い笑いを浮かべて声を掛けた。

「オクタビアス公爵、儂に知らせたいことがあると聞きましたが」

爵位を比べれば、公爵の方が圧倒的に上だ。しかし、マウロは王国の大臣という地位にある。同等な関係であるとマウロは思っていた。

「まあまあ、お座りください」

公爵はソファーに座るように促した。

大臣が座ると、公爵は一束の書類を手渡す。

「これは?」

大臣は思い当たるものがなかったので確認した。

「まず、読んでみたまえ」

読み始めた大臣が顔色を変える。

「ど、どういうことです。これは……」

渡された書類に書かれていたのは、大臣が行った不正の数々だった。御用商人からの賄賂、工事費の一部着服、それに王家の美術品を密かに売却した事実が書かれていた。

マウロ財務大臣のカエルに似た顔から、脂汗が滲み出る。大臣は踏み潰されたカエルのように土下座した。

「公爵様、これはほんの出来心なのです。どうか……どうか表沙汰にすることだけはご勘弁を」

その姿を見下ろした公爵は、鼻で笑い告げる。

「よろしいでしょう。陛下や王太子殿下には内緒にしてあげましょう」

「あ、ありがとうございます」

「その代り、あなたにやって欲しいことがあります」

弱々しい 愛想(あいそ) 笑いを浮かべた大臣は、何でもすると約束した。

「王太子殿下が保有している槍に、興味を持っている」

「えっ……槍など公爵様なら腐るほど所有されているはず」

公爵が鋭い目で大臣を睨む。

「普通の槍を欲しがると思いますか。特別な槍、魔術道具の槍です。王太子殿下の部下は『黒震槍』と呼んでいるようです」

公爵の狙いは、黒震槍だった。魔境で活動している魔獣ハンターの間で、魔境門衛隊の兵士たちが使っている槍が噂になっているのを知り、手に入れたいと考えたのだ。

マウロ財務大臣は、ベルトランドから聞いた軍事機密が黒震槍だと勘違いした。

「ほう、公爵様が欲しがっていらっしゃるのは、我が国の軍事機密でしたか」

「軍事機密……何か知っておるのか?」

「いえ、護衛兵が訓練場の一部を立ち入り禁止にして訓練しているのです。部下に探らせようとしましたが、軍事機密だと追い返されました」

公爵は考え込むような顔をしてから、大臣を睨む。

「黒震槍のほとんどは魔境門衛隊が保有しておる。だが、数本だけバイゼル城の装備品倉庫に保管されているはずだ」

公爵は魔境門衛隊が保有している黒震槍には手が出せなかった。魔境門衛隊が厳重に管理していたからだ。一方、装備品倉庫に仕舞われている黒震槍は、大臣の協力があれば持ち出せると算段を付けていた。

元々王太子自身が収納碧晶の中に保管していたものだ。しかし、訓練や魔力補充など部下が必要とする度に、収納碧晶から出し入れするのが面倒になった王太子は、自分用の一本を除きサムエレ将軍に預けたのだ。

黒震槍を預けられた将軍は、厳重に警備されている装備品倉庫に保管することにした。その装備品倉庫に保管してある装備品の数や状態をチェックする権限を財務府は持っている。

「しかし、装備品倉庫から槍を盗むような真似をすれば、財務府が疑われてしまう」

「分かっておる。盗もうとは思っていない。魔導技術に詳しい者を手配する。その者を装備品倉庫に入れるだけで良い」

大臣は承知した。翌日、大臣は二人の部下と公爵から紹介された魔導技術者を連れて装備品倉庫に向かった。倉庫の前に王都防衛軍の兵士が三人、警備兵として立っていた。

「装備品のチェックだ。入れてくれ」

大臣が声を掛けると、兵士は緊張した顔で返事をする。

「えっ、備品検査の時期ではありませんが?」

「抜き打ち検査だ」

「分かりました」

兵士は大臣たちを通した。倉庫に入った大臣たちは、二つに分かれた。部下二人は装備品のチェックを始め、大臣と技術者は、王太子所有の装備が置かれている場所へ向かう。

奥の区画に三本の槍のようなものが置かれていた。

「黒震槍……これだな」

魔導技術者が黒震槍を手に取り調べ始めた。

「どうだ。何か分かったか?」

財務大臣が尋ねた。

「これは、魔功銃と同じ構造のようです。但し、魔功蔦が黒く染められています」

「黒く……染料を使って染めただけなら、機能は同じであろう」

「だったら、武器の形状も同じになるはず。黒く染めた何かが、機能に変化をもたらしていると思われます」

「変化……どんな?」

「試してみるしかありません」

魔導技術者は槍の引き金を引いた。黒震槍の先端から黒い空震刃が出現する。それを見ても魔導技術者は驚かない。魔獣ハンターから情報をもらったのだろう。

「何だ。その黒いのは?」

魔導技術者は大臣を無視して、短い金属棒をポケットから取り出し、空震刃に押し当てた。さほど力を入れていないようなのに、金属棒が切断され、先端部分がポトリと床に落ちた。

「ウッ!」

二人は驚いた。

「お、恐ろしい武器だ。持ち帰って調査したい」

「だったら、一本だけ」

「大臣、こんな時に冗談はよして下さい。そんなことをすれば、疑われるのは大臣なのですよ」

マウロ財務大臣の頭脳が回り始めた。短時間だが、驚きで頭のネジが緩んだようだ。

「分かっとる。冗談だ。それにしても、この槍を開発したのは誰なんだ?」

「噂では、王太子お抱えの『曙光技師団』だと言われています。この技術を教えてもらえるなら、金貨一万枚を渡しても惜しくないですね」

黒震槍の製造技術が金になると聞いて、大臣がニンマリと笑う。他人の秘密を探り出すという分野は、大臣の得意とするものだったからだ。

備品チェックが終わるギリギリまで調査し、大臣と魔導技術者は倉庫から出た。その後、一人で部屋に戻りベルトランドを呼んだ。

「お呼びですか、大臣」

「ああ、王太子の曙光技師団を知っているか」

「はい、存じています」

「なら、話が早い。曙光技師団の職人を一人買収し、黒震槍の製造ノウハウを聞き出せ。金貨五〇〇枚までなら費用として認める」

「承知しました」

ベルトランドが曙光技師団を探り始めると、その情報が王太子の下に知らされた。

大臣の行動を密かに探らせていたガイウス王太子は、そろそろマウロ財務大臣を仕留める時期がきたと決断した。調査の結果、オクタビアス公爵と同じように、大臣が行った不正の証拠を入手していたのだ。

「もう少し泳がせても良かったが、曙光技師団を探り始めたとあっては、容赦できん」

不機嫌な顔をした王太子は、吐き捨てるように言った。