軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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着替えを渡されて驚いた。

いわゆる貴族っぽい服だったからだ。ポリオリでは普段は乗馬服、行軍に参加した時はカソック、パーティの時は軍服だったのだ。

それらどれかのバリエーションだと思ったら刺繍の入ったスタンドカラーのジャケットにお揃いの刺繍のベスト、真っ白いリボンシャツに黒い五分丈短パンにシルクの長いソックスである。

ポリオリのパーティの時に王子が着ていたような服である。

「こんなの着れないですよ!」

「こんな事もあろうかと洗濯に出しておいて良かったです。これはベネディクト王子が着てらした礼服です」

「いや、そんなのヤバいでしょ。僕は王族じゃないんですよ?」

「さあ、早く。ど田舎の礼服なんてこっちでは作業着みたいなもんです」

「やめてください。自分で脱げますから!」

俺はひん剥かれてキラキラの服を着せられた。

こんな服、日本だったら宝塚くらいしか着ないぞ。馬車の中で脱いでやろうかな。

「ぴったりですな。流石はウルズラ王妃のお見立てです」

「え、ウルズラ様の?」

「オミ殿は若い頃のベネディクト王子と体型と髪色が似ているとおっしゃってましたからね。その深い青がよくお似合いです」

ぐぬう、、、ウルズラさんの不興を買ったらまた長々と説教されてしまう。それにベネディクト王子はカッコよかったから許してやるか、、、。

「ええと、クーゲル卿も一緒に行きませんか?」

「招かれてないのにズカズカ行けるか。それにお主がお付きだというのに主人が付き添ってどうする」

「ですよね」

俺は大人しく馬車に乗った。何気にテンションが上がる。屋根の付いた個室の馬車は初めてだ。座席には皮のクッションが張られ、内装の木材は磨き上げられている。もちろんガラス窓はないが、ブラインドっていうの? ルーバーかな? 細い木が太陽光や人の視線を遮るように貼ってある。

乗り心地はやはり良いとは言えない。石畳のゴトゴトがダイレクトに伝わってくる。御者台は板剥き出しだったから御者のおじさんも大変だろう。

ところで何処まで連れて行かれるのだろう。思えばパンくらい持ってくれば良かった。俺の腹はグーグー鳴りっぱなしだ。しかし実はちょっと馬車に酔いつつもある。腹一杯で吐いちゃうよりかはマシかも知れない。背もたれから背中に揺れが伝わるのが不快だ。俺は背もたれから上体を剥がして膝に肘を付いた。王子が馬車が苦手って言ってたのがよく分かる。しかも王都まで何週間もとなると相当キツイよな。

と思ったらすぐに鉄の門が開けられる音がして外に目を向けると馬車は立派な邸宅に到着していた。なんだ近いやん。歩って来れるわ。そこは領事館と同じ東街の官庁街に近いエリアだったのだ。

馬車まわしをぐるりと回って玄関前で馬車は止まった。つい自分でドアを開けたくなるが御者さんが開けてくれるのを待つ。開けてくれたら開けてくれたで、つい頭を下げそうになるのをグッとこらえる。

「オミクロンさま、ようこそおいでくださいました。主人がお待ちです」

「ありがとうございます」

執事さんに迎え入れられた。またもや頭を下げそうになるのを耐えて言葉だけで返事を返した。御者さんはメイドさんにお土産のワインを渡している。

めんどくさい。とても面倒臭い。お貴族様のマナーの全てが面倒臭い。でも我慢だ。ポリオリからの来客はお猿さんみたいだった、とか噂になりかねないからな。

しかしロレンツォのいう事を聞いて礼服を着てきて良かったな。玄関ホールは立派で奥に二分岐の階段が設えてある。こんなの映画でしか見たことがない。いわゆる貴族の邸宅。殺人事件が起きそうな洋館なのだ。チュニックなんかで来たら忍び込んだ物乞いか何かに見えてしまう。乗馬服でも下男に見えた事だろう。

「主人は診察室でお待ちです」

屋敷の奥には通されず、玄関ホールの脇の部屋に案内された。

パラディーノはデスクに向かって何やら書き物をしていたが立ち上がり大股で近づいてきた。

「久しぶりだなオミクロン。なんとまあ見違えたもんだ」

「お久しぶりですパラディーノさん。ご陞爵おめでとうございます」

「君もな。その年で準男爵だそうじゃないか」

「運良くポリオリ領主に認められまして」

「しかも王子の付き添いでアカデミーとはな。大したもんだ」

「お詳しいですね」

「ロッコが会いに来てくれたからな」

おお、ロッコ。懐かしい。

「まあ立ち話もなんだ。診察用のソファで申し訳ないが良かったら掛けてくれ。上着も脱いでもらって構わないよ」

「助かります。こんな服初めてで肩が凝っちゃって」

「済まないな。外で会う事も考えたのだが母がうるさくてね」

「と言いますと?」

「貴族になったのだから貴族にはそれなりの作法で対すべきだなんて言ってな」

ははん、この屋敷はパラディーノが自分で建てたんじゃなくて実家なのか。そりゃそうか。王都で陞爵したからって急に金持ちになる訳ないもんな。

「医者が家業なのですか?」

「そうだ。父も医者で男爵でね。父はもう亡くなって随分経つのだが母はプライドが高くてね。陞爵の機会をくれた恩人に対する礼儀を弁えろと」

「いやいや、恩人だなんてそんな。てか昆布は順調に手に入れられてるんですか?」

「それなんだが、、、」

パラディーノが言いさした所で突然ドアが開けられた。振り向くと貴婦人。あ、これがパラディーノのお母さんか。

慌てて上着を着て貴族の挨拶をする。

「お招きありがとうございます。オミクロンと申します」

「お越しくださって光栄ですわ。息子がお世話になったそうでお礼を申し上げますわ。上にお茶の準備ができてますからどうぞこちらに、、、」

「母さん、オミクロンはつい先日まで平民だったんだ。堅苦しくすると逆に気の毒なんだよ!」

「だからってあなた、診察室で来客をもてなすなんて聞いたことがありませんよ? あなたももう家長なのですからそれなりの振る舞いをしないと世間に顔向けができませんからね。ご覧なさいオミクロン様はこんなにお若いのにキチっとした身なりをなさっているのにあなたと来たら仕事着のままじゃない!」

パラディーノは諦めたように肩を落とした。

俺はお母さんに微笑みかけた。

「お気遣いありがとうございます。ちょうど喉が渇いたところだったのです。是非ご一緒させてください」

お母さんはほらご覧とでも言うようにパラディーノに目をやった。

「オミクロン様は私がお相手しておくからアナタはまともな服に着替えてらっしゃいな」

さっきは実家が太くて羨ましいと思ったのだが、やっぱりそれはそれで大変そうだな。

俺はお母さんについて階段を登った。