作品タイトル不明
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フルミネに久しぶりハミを噛ますと興奮してジタバタしながら白目をむいていた。砂地の狭い馬場には順番に出してもらえるがきっと暇だったのだろう。王子のブルーも喜んで足踏みをしている。あれからちょくちょく会いには来ていたが乗るのは久しぶりだからな。馬に跨ると通い慣れた寮への小道も少し違って見える。
校門の前の通りには大量の馬車が行列を成していた。それは貴族の生徒のお出迎えのもので、特に女子は街をてくてく歩ったりはしないものらしい。不便そうで気の毒ですらある。
どうせ宿は近いので馬の運動代わりに逆方向の港の方へ向かった。せっかく王都に来たというのに色々とバタついて港を見ていなかったのである。セイレーン号が来てたりすると良いんだけどな。
海への道を下っていくと濃厚な潮の香りがした。港の匂いだ。なんか海岸と港で匂いが違う気がするんだけどそう感じるのは俺だけだろうか。
レンガの倉庫群の向こうにマストも見えてきた。テンションが上がる。しかし門があり、もちろん閉まっており兵隊が見張っている。当然だ。軍港だからな。貴族とはいえ未成年のガキが許可もなしにプラプラ入って良いわけがない。
俺たちは道から外れて草ぼうぼうのけもの道に馬を踏み入らせた。こっちに漁港があるのだそうだ。
「クーゲル卿はこっちも来たことあるんですか?」
「いや、初めてだ。姉君はすぐ近くだと言っていたのだがな」
すぐの感覚はみんなバラバラだからな。
土手というには大きくて、山というには小さな斜面を登り切ると視界が開けた。そこは小さな岬だったらしく眼下に漁港が見えた。
結構長い桟橋が伸びているが、多くの船が浜に引き上げられているのを見るに今のシーズンはあまり漁が活発ではないようだ。小屋の周辺も人の出入りがあまりない。
しかし海に目をやれば沖に数隻の船が見えるので漁はやっているようだ。
「いい眺めだな」
「ですね」
緑の岬、青い海、遠くで海鳥が鳴き交わしている。確かにキレイだし海は久しぶりだ。
「海にあるあの境目は何だ?」
「あれは潮目といって海流がぶつかりあってるところですね、水温や塩分濃度が違ってすぐには混じり合わないらしいんですよね」
暫くずっとその場で海を眺めていた。馬たちも海を珍しそうに少し眺めていたのだが、すぐに飽きて足元の草を食みだした。フレッシュな草は久しぶりだろうからな。
「どうする、漁港まで降りるか?」
「いや、また今度にしましょう。腹が減ってきました」
「ふむ」
せっかく美しい風景を見たのだからこのまま帰るのが良いだろう。
本当は新鮮な魚介類を手に入れて皆に振る舞ったりしたかったのだが、想像以上に小規模だったので若干の落胆がある。魚屋さんもイカ焼きの屋台も見えなかった。ちょっとリサーチしてからだな。ひょっとしたら王都内で朝市とかやってるのかも知れないしな。
振り返れば軍港が見下ろせた。やはりセイレーン号は停泊してなかった。二隻の船が寄港していたがどちらも三本マストの巨大船だった。あのデカい船は何人で扱うのだろう?
「昼は何がいい?」
「こないだのサンドイッチがいいですね、アレは美味かった」
「確かに。だが挽肉器が届いていると良いのだがな」
「ミートボールのトマト煮ですか」
「ああ、アレは美味い。あれをパンで挟んでも美味いのではないか?」
「そりゃあ美味いでしょうね」
俺たちは今度こそ宿へ馬を向けた。軍港を背にアカデミーを通り抜けて職人街を抜け、東門から王都に入る。
宿、もとい領事館の前に馬車が停まっていた。珍しい。誰か来客かしら?
馬房に馬を入れてブラシをかけてやる。フルミネはしっかりと冬毛に覆われてフサフサである。汗もかいてないし手入れがちょっと楽かも知れない。フルミネの首筋に顔を押し当てて遊んでいるとロレンツォに声を掛けられた。
「遅かったですね」
「あ、すみません。ちょっと海を見に行ってまして、、、何かお急ぎでしたか?」
「お迎えの馬車が来てますよ」
「僕らにですか?」
「オミ殿だけです」
「ええっ、誰です?」
「パラディーノ男爵という方ですが、ご存知ありませんか?」
あっ、パラディーノか!
本当に陞爵したんだな!
「知ってます知ってます! マジか、、、」
「着替えは用意してあります。すぐにお着替えください」
「え」
「貴族の方のお宅に招かれたのですから制服とはいえチュニックでは不味いです」
「そんな事を気にする人じゃないと思うんですけど、、、リサ様の船の船医だった人ですから」
「駄目です。お着替えください」
腹も減ったし面倒臭いんだけどな。
「オミ、着替えておけ。お主もポリオリの準男爵なのだ。相手に恥をかかせる事にもなりかねん」
そうかな?
なんなら裸にフンドシでも気にしないと思うんだけど。なんならサナ服でもいい。
「王都での、貴族同士の社交なのだ。言うことを聞いておけ」
俺は渋々着替えることにした。
フルミネは俺に顔を押し付けられるのが嫌だったのか俺の背中で鼻水を拭いた。