作品タイトル不明
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飯を食って部屋に戻ると俺はこの部屋の小さな書卓に藁半紙を置いた。俺は紙を前にしないと頭の整理が付けられないのだ。
この数日に噴出した対処すべき出来事リストを書き出して行く。この辺を整理しないともう勉強にも手がつかない。優先順位は無視して出てきた順に書き出してみる。
第一に、寮長魔女説の問題
これはオッタヴィアーノ王子からの依頼だったが、噂を流した犯人の特定はオッタヴィアーノ様が直接調べる事となった。犯人を特定した後のことはちょっとまだ分からない。かなりセンシティブな問題だからな。
第二に、硝石の問題
ゴング農家が火薬の製造に関わっていないか、そしてゴング農家を統べる管轄が何処なのか調べること。これはロレンツォ辺りに丸投げしても良さそうだ。むしろアダルベルト様や宰相に対処してもらうべき内容かも知れない。
第三に、ハーン家問題
これはただの疑念だが、四階の開かずの間の隣に居しているニュールベルンのエミーロの家、つまりハーン家が硝石の製造を行なっているのではないかという事。
乾燥しているという農業に適さぬ地。そして今の時代に珍しい騎士爵という身分で封土を得ているということ。偶然にしては出来過ぎている。
憶測でものを言うなと毒好きの少女に嗜められてしまうかも知れないが、こうまでピースが揃うと疑いたくもなる。
第四に、差し入れ問題
断食をしていてフラフラのアンドレ王子とそのお付きのグレトリに飲料の差し入れをしなければならない。もちろん死ぬほどの断食をしている訳ではないのだろうが、王子の婚約者の兄ともなれば放置するのも憚られる。病気にでもなって死んでしまったら王子とキアラ王女が結婚した後に責められるかも知れないじゃないか。本物の修道士は断食をしながらもエールやセルヴォワーズを飲んで栄養は補給しているという話だから、何か栄養のあるものを飲ませなければならない。
第五に、板ガラス問題
まだ具体的な話にはなっていないが、四人の連名で商会を立ち上げ板ガラスの開発、製造、販売を行なわなければならない。商会についての知識は全くないので実家が卸売をやっていたアウグストに相談したい。法律に関わるところもあるだろうからギルド職員だったトレスにも関わってもらうと良いかも知れない。ギルドって要するにお役所だからな。
ふむ、こう書き出してみると五個しかないのか。何か忘れてないだろうか?
これがRPGゲームだったらいつでもクエスト確認ができるんだけど、なにせ現実世界は不便だよな。なんならファストトラベル機能も欲しい。高くても買う。領事館がホームだとしてポリオリと長官のいるカイエン、なんならセイレーン号にも繋ぎたい。余裕があったらゲオルグたちのところにも欲しい。怪我も治って体力も全回復するのが理想だな。
あ、イカン。アホな事を考えていたら最新のトラブルを忘れてた。
第六、俺たちの男色の噂問題
きっと俺たちが寮長魔女説を調べていることに気づいた犯人が捜査の混乱を狙っているのだろう。別にそんな噂は放っておけば良いのだが、なんか捻くれた悪意を感じるよな。ゲイ叩きをする活動家が実はゲイでした、なんて話は海外でよく聞くが、やはり潜在的にある差別意識に権力がお墨付きを与えているのが良くないよな。
イリス教の場合は解釈の余地があるようだからまだ救いがあるが、アカデミーが軍隊の下部組織である以上、おそらく同性愛は歓迎されないのだろう。だって戦地に恋愛のもつれを持ち込まれたら困るもんな。
さあ、これで頭の中のごちゃごちゃに整理が付いた。テスト勉強をしよう。
あ、トラブルではないが墨の開発もすっかり忘れていたな。テストが終わったらパン窯の煤をもらっておこう。つーかこれはさあ、折角完成してもアカデミーでは使っちゃ駄目とか言われてしまったから微妙にやる気を削がれてしまったんだよな。
「おい、テスト勉強してるのかと思えば何をしておるのだ」
「頭の整理ですよ。紙に書かないと出来ないんです」
「そういえば旅の前にもそうしていたな」
王子はメモした藁半紙を取り上げて目を通した。
「ふむ、こうして見ると喫緊で我々がやれることはそれほどないな」
「ですね。ちょっと安心しましたよ」
「しかし抜けがあるぞ」
「え、なんです?」
「忘れてはおらんのだろうが、馬たちを領事館に預けることだ」
ヤバい完全に忘れてた。あいつ誰だっけ? レヘトネン?
「明日、昼を食べたらまた厩舎に行きましょうか」
「そうだな。馬場の中だけでも乗れると良いのだがな」
王子が遠い目をした。
さあ、今度こそテスト勉強だ。