作品タイトル不明
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ボッシ氏の邸宅を辞して、寮の階段でオッタヴィアーノ王子と別れて直ぐに階段の踊り場で俺は床に額を打ち付けた。土下座である。
「王子、済みませんでした。またやってしまいましたー!」
「何を言っている。立て立て。ここではなんだ、部屋に戻るぞ」
あれ、怒ってないの?
部屋に戻ると王子はドアを閉めて窓も閉めた。俺は慌てて魔術のキャンドルを灯す。
王子は声を潜め、歯の隙間から絞り出すように嬌声をあげた。
「(でかしたぞ! よくやった!)」
「(え、大丈夫でした?)」
「(当たり前だろ! 王子と共同商会だぞ!)」
「(だって、アダルベルト様とかウルズラ様のお父様なんかと思惑が違ったりとかしません?)」
「(何を言っている! そんなのどうとでもなるだろ! 父が第一王子派なのならオッタヴィアーノ様に第一王子を推してもらえば良いだろう。もしくは第二王子や第三王子を追い落とす策を講じれば良い!)」
ふむ。なるほど。
「(肝心なのはだ、我々が金品を振り翳さずに王族の懐に潜り込めたことだ!)」
俺は頷く。
「(多くの諸侯は、莫大な金品やあるいは軍事力を王家に貢いで取り入ろうとする。しかし我々はアイデアだけで信頼を勝ち取ったのだ!)」
言ってることは分かるけど、ちょっと大袈裟なのでは?
俺の冷めた態度を見て王子はムッとした顔をした。
「なんだオミ、何か不満か?」
「いえ、王子が喜んでくれるならそれで良いんですけど」
「何だ、言ってみろ」
「だって信頼と言うなら、ボッシさんに僕らを紹介してくれた時点で信頼してくれてましたよね?」
「まあな。だが商会を立ち上げて利益を折半するとなると、これはただの信頼とかその金額の話じゃない。王子の権力の割譲という意味合いが濃くなる」
「そうなんですか?」
「我も王子と呼ばれてはいるが、実態はいち地方の領主の息子でしかない。対して彼は本物の王家なんだよ」
知ってる。俺も最初テンション上がったもん。
「その御方が名を貸してくれて商売がやれる。何しろ出資者からの信用が桁違いだ。誰もが絶対に失敗しないだろうと全財産を投げうって協力してくれる」
「なるほど、でもなんかあちこちから色々口出されそうですね」
「そこだ! だからこそ出資者の出資額に応じて利益を分配するなどと言ったのだろう? 金は出させるが口は出させない。利益は与えるが権利は与えない。そういう仕組みなのだろう?」
そうなのかな? 俺のイメージは会社の株券だけどそういう事なのだろうか。
でも、もの言う株主みたいな言葉もあるし、よく分かんない。
「そう、、、かも知んないです」
「しかもだ。ポリオリを出て自由民となったドワーフとポリオリのドワーフをまた繋げる事にもなる」
「ああ、それはそうなると良いですね」
「そうなれば、我々が全国のドワーフに手を伸ばせる事にもなろう?」
まあ、彼らの信頼は増すかな?
「全てのドワーフに影響力を与えるという事はだな、この国全体のエネルギーと素材に対して影響力を持つという事なのだぞ?」
ああ、なるほど。石炭にしろ鉄にしろ掘り出すのはドワーフたちだもんな。
「それは、、、ヤバいですね」
「そうだろ?」
王子は胸を張ったが俺は肩を落とした。
何故かって?
みんなは分かってくれると思うが、俺は絶大な権力とか莫大な資産とかに恐怖を感じるところがある。
俺の目から見て政治家とか大会社の社長さんとかが幸せそうには見えないからだ。チカラを持ち過ぎた人は必ず人間性を失い自らの帝国を瓦解させてしまうものだ。
盛者必衰の理をあらはす。奢れるものも久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。なのである。
こういう感覚が染み付いてるのって日本人だけなのだろうか? いや、そんな事ないな。日本人でも権力が好きな人はとことん好きだもんな。
対して俺は、跡目争いとか権力闘争とかが苦手だ。そういうドラマとか見てもあまりワクワクしない。
「うーん。じゃあ、偶然の神様に感謝しておきましょう。僕がオッタヴィアーノ様に出会えたのは完全に偶然ですからね。運が良かったのです」
「全く、お主という奴は、、、この際だから言っておくがな、偶然というのは最も強力な好機なのだ。そしてそれを活かせる能力が実力というものなのだ」
王子の言うことがスピって来たな。引き寄せの法則とか言い出したらどうしよう? 自己啓発セミナーとか一緒に開く?
「それよか、やる事が多過ぎて頭がパンクしそうですよ。なんかこの数日忙し過ぎません? なんやかんやが渋滞し過ぎて僕の頭ではもう処理できませんよ」
「ふむ、確かにな。お、食堂の鐘を聞き逃すところだったな」
王子が窓を開けて、俺はキャンドルを消した。
もう飯メシ。俺は疲れたよ。
食堂に向かう途中でリベリオ達が俺らを待っていた。
「お、どうした」
「君たち噂になってるよ? 聞いたかい?」
何だ? ボッシ氏訪問の件か?
「君たちに男色の嫌疑が掛けられてて、アカデミーが退学の審議を始めてるって、、、」
もう、今度は何だよ!
俺は頭を抱えた。