作品タイトル不明
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ボッシ氏はチョークを滑らせ黒板に図を描いた。何かのボンベのような形だ。
「彼らはガラスを吹いて膨らませて、それを成形するだろ? だからこう長く成形してから上下を切り離して中央から切って開けばいいのだ」
カットする位置を点線で描いて貰えば、なるほど言われてみれば簡単な話だ。
「問題は開いて置いておく素材が見つからなかった事だ。平に磨き上げた大理石の上に置いてみたら張り付いてしまった」
そうか。砂が溶けるくらいの高温だもんな。分かんないけど千度くらい?
「色々試した結果、張り付かない石が見つかったので砕いてなるべく平らに敷き詰めて使ったのだがご覧の通りデコボコになってしまった」
やっぱ思ったより難しいんだな。
「普段のガラス細工の時は何を使って成形したり切ったりするんですか? それはくっ付いてしまわないのですか?」
「鉄製の道具だな。素早く表面を滑らすように触れさせれば融着することはないのだ。カットも鉄製の鋏だな」
ああ、なるほど。鉄は融点は低いけど熱伝導が早いから熱が逃げて手早くすればくっ付かないのか。
どっこい重力に任せて平らに伸ばすとなるとガラスが冷めるまでの時間耐えられる平滑な素材が必要なのか。
「結局ドワーフたちも、新製品として認められる程の完成度まで至らなかったということなのだろう」
熱に強いとなると炭素が多い何かかしら?
ジェットエンジンに使う素材といえばタングステンとかモリブデン? あれって自然にあるもの? それとも合金?
うーん、もっと科学だか化学の授業をちゃんと聞いていれば良かったな。
「せめて壁一面と天井の一部をガラスにできれば良いのだが。充分な光と温度が確保できれば、かつてドームで作られていた植物を復活させられると言うのに」
なるほど、そういうのがあるのか。そりゃそうか。あらゆる種が保存されていたんだろうな。
「今でもそうした植物はドームで育てられているのでしょうか」
「そうなのだろうな。我々には皆目見当も付かぬがな」
オッタヴィアーノ王子が肩を落とした。
「我が当主になることがあれば先生を研究者として迎え入れることが出来るのですが、、、」
ボッシ氏は朗らかに笑った。
「気持ちはありがたいがその頃には私にはもうお迎えが来てるだろうさ」
笑えない冗談を言うなよ。年寄りは何かというとすぐ自分の寿命をネタにするよな。対応しづらいことこの上ない。
「オミも板ガラスを作る方法は何も思いつかんか?」
「そうですね。ポリオリに来たばかりの頃ルカさんに板ガラスについて聞いたら無理だと言われたんですっかり諦めてました」
「では板ガラス自体は思いついていたのか?」
「ええ。だってお城も窓から風がビュービュー入って来たじゃないですか」
「そういえば窓を氷で塞ぐ変な魔術を使っておったな。懐かしい」
「氷では温室は作れませんからねえ」
「そりゃそうだ」
皆で笑い合った。
「そういえばステンドグラスではダメなのですか?」
「もちろん良いさ。私がどこかの国の領主ならな」
再び笑い。要するにめっちゃお金が掛かるってことか。そうだよな。ジグソーパズルをやりながら溶かした金属で繋いでいくんだもんな。手間も時間も膨大だ。確かにお城かイリスの教会でしか見たことがない。
ううむ、ガラスもパスタみたいにローラーで挟んでぐるぐるっとできればなあ、、、
俺のシナプスがピクリと反応する。
ローラーねえ、、、
実現は不可能かも知れないが理論的には成立する方法を思い出した。思い出したのはガラス工場じゃなくて製鉄所の映像だけど、理屈的には同じはずだ。高温の素材を融着させずに冷ますのだから同じ原理だ。
話す前に王子と相談か?
いや、これくらいなら大丈夫か。ステンドグラスと一緒でコスト的に無理だ。素人の戯言で終わるだろう。
「ちょっと黒板をお借りしても?」
「何か思いついたのか?」
「はい。理論上は可能だけども、まあ無理な方法を思い付きました」
「ふむ」
さっきのボンベを雑巾で消してローラーを並べて描く。
「こういうことです。平らな床に金属の丸い棒を幾つも並べまして、熱々でまだ柔らかい板ガラスを置いて棒をゴロゴロ転がして送っていけばくっ付かずに割りかし平らなガラスが作れます」
オッタヴィアーノ王子が軽く笑った。
「どれだけ転がすというのだ」
「いやもう冷めるまでですから川のように長くですよ」
「ダッハッハ! なるほど不可能だ! だが面白い。理屈は通っている!」
ボッシ氏が黒板を受け取り、じっと見つめたのち、何かを描き足して見せた。
「こうすれば全ての棒が同じ速度で回せる」
描き足されたのは歯車だった。
「ガラスが他のものにくっ付かなくなるほど冷めるのにどれくらい時間を要しますかね?」
王子が真顔でボッシ氏に尋ねた。
ボッシ氏も神妙な顔で答える。
「成形や細工をするときは何度も再加熱しながらやるのだ。真っ赤に溶けた状態から再加熱するまではものの30秒くらいだろうか」
「ではこの仕組みで送りながら再加熱する必要がありますね」
「もしくは転がしながら切断をするとか、、、」
え、真剣に検討してる?
「これはポリオリに持ち帰りましてドワーフたちと相談してもよろしいですか?」
「構わぬが、王都にもドワーフのガラス職人は居る。資金は王都の方が集めやすいぞ」
「なるほど。それもそうですね」
「おい、オミクロン君。この棒はどれくらいの太さを考えているのだ?」
いやいや、考えてないけど?
「ええと、細い方がガラスは平らになると思いますが、太い方が熱に強いと思うんですよね」
「ふむ」
「だから、これくらいですかね?」
俺は手で丸を作った。バームクーヘンくらい?
「となると棒一本で長剣四〜五本ぶんの鉄が要るな」
「ですから無理ですって。ねえオッタヴィアーノ様?」
オッタヴィアーノ氏なら笑ってくれるかと思ったのだが、氏もまた真剣な顔になっていた。