作品タイトル不明
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翌日、昼過ぎにオッタヴィアーノ氏と連れ立って寮長のボッシ氏の庭の門を叩いた。
プリンは昨晩のうちに作り箱に詰めてキンキンに冷やしてある。
そういえば、保冷バッグが欲しい。発泡スチロール箱でも良い。マルキオッレがらみの嫌なことを考えない為に、他にもデザートが作れないか真剣に知恵を絞ってみれば、同じ材料でアイスやミルクセーキが作れることに思い至ったからである。バニラエッセンスが無いのは痛いが、甘味に乏しいこの世界の人間なら充分美味しいと感じるだろう。反応が良ければ量産も可能だ。なにしろこの世界では氷がさほど貴重ではないからだ。アカデミー出身者ならアイシクルやアイスボールなどの氷を出す魔術が使える。
夏はアイス屋とするなら冬は何を売るのが良いだろうか?
寮長の庭の門を叩くと、程なくして閂を外す音が聞こえて門が開けられた。
「お久しぶりです先生」
「よく来たなオッタヴィアーノ。珍しく後輩連れか?」
「ええ。彼らは妙に太々しくて、私を怖がらないのです。それにポリオリからの生徒なのです」
「おお、君らがそうなのか! 歓迎するよ。入ってくれ」
ボッシ氏はたまに見かける際の無表情な時に受ける印象と違って穏やかで笑顔の多い人物だった。確かに声は甲高いが、長らく教鞭を取ってきたとあって不思議な威厳がある。
「あの、つまらないものですが、、、」
「先生、その菓子は絶品ですぞ。何やらドワーフの発明した菓子だとか」
「ほうほう嬉しいね。今珍しいお茶を出してやるから座っていてくれ」
「お手伝いします。お主らは座ってていいぞ」
居間に通されてびっくりした。そこここに鉢植えの植物が置かれ、天井からは乾燥させられた植物がぶら下がり、目につく範囲が全て植物に埋め尽くされていたのだ。
そう、そこは温室になっていたのだ。
「板ガラスがある!」
そうなのだ。おそらく南側と思われる壁面の一部が歪で濁ってはいるが光を通すガラスだったのだ。この世界に来てから初めて見る板ガラスである。これがあれば冬はもっと快適になるのに!
「気づいたかい。それはポリオリで作ってもらったものだよ」
「え!」
「先生は温暖を好む植物を育てる為だけにわざわざポリオリまで一人で旅をしてドワーフに直談判をして特別に作ってもらったのだ」
「まだ若かったが、ひとりで持てるのはそれくらいが限界でね。それでもなかなか大変だったよ」
ガラスは三十センチ四方程のサイズでそれが六枚ある。確かにガラスは重いもんな。それに板ガラスはグラスや皿よりも割れやすそうだ。
いや、それよりも、、、
「板ガラスが作れるのですね!」
「そりゃ作れるさ。なんと私が考えだしたのだ」
「え! その、、、どうやって作るのですか?」
「ガラスが好きなのかい? まあまあ、まずはひと息つくとしよう」
ボッシ氏はポットに入った真っ黒な液体をマグに注いでくれた。湯気が上がっている。
「これはまた珍妙な、、、」
「とても苦いが癖になるんだ」
「いただきます」
またもやびっくり。これはコーヒーだ。ついうっかりそう声に出しそうになってグッと堪える。今まで見たことがないから相当レアなのだと思うのだ。転生がバレる。
「これは、、、苦いですね。先生」
「何だと思う?」
「見当も付きません」
「タンポポの根だよ」
うおお、コーヒーとか言わなくて良かったー!
流石のオッタヴィアーノ様でも俺が転生者と分かったら然るべき機関に突き出さなければならないだろうからな。
「それで、その菓子とは?」
「ああ失礼しました。こちらです」
「ほうほうこれは?」
「卵と牛乳のプディングです。底に焦がした砂糖が仕込んであります」
「はー、ドワーフも随分変わったんだね、、、お、こりゃ美味い!」
「タンポポ茶とよく合いますな」
それから俺たちは自己紹介をしてからポリオリの現在の話をし、先生の旅の話なんかを聞いた。
「そうか、二十年も経てば国も変わるか。ドワーフが赤ワインにスクティとはね、、、」
二十年前といえば長官が産まれた頃。多くのドワーフがポリオリを離れ、国全体が貧困に喘いでいた頃だ。
「それではボッシ先生は我が父にもお会いになられたのですか?」
「いやいや、ただの旅人として入国してドワーフのガラス工房へ直行だよ。寝泊まりも工房でさせてもらった」
あ、ひょっとして、、、
「その工房はオラヴィ親方のガラス工房ではありませんか?」
「居た! 親方の息子がオラヴィとか呼ばれてた!」
「うおお、今ではそのオラヴィが親方ですよ!」
「そうなのか! ああ、懐かしいな、、、」
ボッシ寮長の目に涙が浮かんだ。
「済まないね。年を食うと涙腺が脆くなる」
「奥さんのシリリャと弟のイェネクトと元気にやってます」
「そうか、、、しかし本当にポリオリは変わったね。当時はドワーフが人族に随分と不満を持っていたようだったから、、、」
「おそらく我が姉が人族とドワーフを再び繋いでくれたのだと思います」
「そうか、そういえばアカデミーに来てたね。残念ながら彼女とは接点が出来なかったな。話を聞ければ良かったんだが」
そうだよな。長官は必要な単位を取って即卒業したって話だからな。薬草だの錬金術だのという有料授業は受けてないだろう。
「ところで、板ガラスの作り方なのですが、、、」
「そうだ、ポリオリで板ガラスは普及してないのかい?」
「ええ、誰も使ってません」
「何故だ」
「温暖だからではありませんか?」
オッタヴィアーノ王子が答えてボッシ氏は手を打った。単純な話だったな。真冬でも窓を開けっぱなしだもんな。少し寒いが毛布を被れば良いことだ。
「板ガラスの製法だったな。簡単な事だ、、、」
ボッシ氏は別室に行って黒板とチョークを持ってきてくれた。