作品タイトル不明
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授業が終わると受付に向かい、卵と牛乳を手に入れた。無い場合もあり得たのでひとまず胸を撫で下ろす。そして即座に厩舎へ向かう。走り出したい気持ちは山々だが、敢えていつも通りに振る舞う。だって北部連合の連中がこっそり見ててほくそ笑んでたら悔しいじゃないか。
厩舎に着くとブルーとフルミネは元気そうだった。別に馬房が汚い訳でもないし、毛並みの手入れもちゃんとされていた。いつの間にか冬毛が生えてフカフカみが増している。馬たちは俺らの来訪を喜んでくれて、ブルーは珍しく興奮して足踏みをしながら王子に頬を寄せた。フルミネは顔と首を一直線に伸ばして筒状に丸めた舌を出すという新しい変顔を見せてくれた。桶にちゃんと飼い葉は入っているし、樽には水が張ってあった。またもや胸を撫で下ろす。
「よしよし元気そうだな。もし何か変なイタズラをされそうになったら軽く蹴ってやって良いからな。あ、それだと本当に預かってくれなくなっちゃうか。じゃあ、鼻水を吹きかけてやるのが良いかもな」
フルミネは牛乳の入ったマグに興味を持ったようで匂いを嗅ぎたがった。
「ゴメンな。これはお前のじゃないんだ。次に来る時は何か美味しい野菜をお土産に持って来るよ」
果物は良くないって叱られたからな。
フルミネは分かったようで前脚だけ小さく跳ねてみせた。
一応、飼い葉桶は底までさらって石や腐った野菜なんかが入ってないか確認する。敷き藁の方も大丈夫そうだ。
ひと安心したところで厩舎に隣接する馬子さんたちの詰め所にも顔をだす。
「休憩中すみません、、、」
「どうかしたか?」
「いえ、僕らの馬が皆さんに迷惑をかけてるから引き上げろ、みたいなことを同級生に言われましてね」
「え、どの馬だ?」
五人居た馬子さんたちが一斉に立ち上がった。みんなで厩舎に移る。
「この子らです。黒いのがブルーで茶ブチがフルミネって言うんですけど」
「何だコイツらか。何の問題もないぞ」
「強いて言えば茶ブチの方は、馬場に出してる時に他の馬に軽くちょっかいを出したりするが、それくらいだ」
「ブルーはお前さんが居ないのが寂しいのか朝は畑の方をずっと見てるよ。あと、よく猫を背中に乗せてるな」
猫が居るのか。いいな。
「では引き上げる必要は無いということですね?」
「当たり前だ。多少問題のある馬でもしっかり対処してるからな」
「まあ、お宅ら、揶揄われたんだろうさ」
「ですね。安心しました。お邪魔しました」
「おう、たまに馬に会いに来てやれよ?」
「はい、そうします」
ここの馬子さんたちは仕事に誇りを持って胸を張ってて頼りになるな。朝仕事で生徒たちに指導してるしポリオリみたいに差別されてもないんだろう。食肉業者が別に居るのかも知れないな。都会だし。
「やはりデマカセのようだな」
「ですね。それでもやはり心配ですか?」
王子はブルーの安否を確認しても顔色が優れない。
「どうなっても知らないぞ、とか言っておったろう?」
「レヘトネンですか? 言ってましたね。でもアイツら何もできやしませんよ」
「そうだろうか?」
「逆に聞きますけど、何かできますかね?」
王子は心配そうに厩舎を振り返ってから続けた。
「例えばの話だが、馬に不慣れな新入生とかを馬の後ろから突き飛ばして尻にぶつからせたりとか」
あ、馬を虐めるんじゃなくて人に手を出すのか。そんなことされたらフルミネなんかは驚いてつい蹴ってしまうだろう。そしたら蹴られたそいつは病院行きだ。下手すりゃ死ぬ。
ここはアカデミーだからそんな事でフルミネを殺処分にしたりはしないだろうが、ここぞとばかりにマルキオッレ一味がネチネチと言い掛かりを付けて来るだろう。あることないこと尾鰭を付けて話を大きくするだろう。もちろん蹴られた奴の賠償とか慰謝料みたいな話にもなるだろうしな。
そう思い、俺は「考えすぎですよ」と言いかけたその言葉を飲み込んだ。
その被害者がマルキオッレ一味の領地の民だったりしたらもう正義面して大上段から糾弾して来るだろう。王族か貴族なら戦争の理由になりかねない。支払い不能な法外な慰謝料を請求して断らせればいいだけだ。
各国に蠢くカイエンのイリス教会の権威を面白く思わない面々が暗躍すれば、この機に乗じてそれくらいの事態になりかねない。
それに被害者の少年は貴族である必要すらないのだ。どこかの貴族が、その少年はアカデミーを卒業した暁に養子に迎え入れる予定だった、とか適当な嘘を吐けばいいのだ。
いや、ちょっと待て。考えすぎは俺かも知れない。少し落ち着こう。しかし避けられるトラブルは避けておいた方が良いかも知れない。幸い俺たちの拠点であるポリオリ領事館はすぐ近くにある。どうせ授業で馬を使うのは冬季休暇明けなのだ。
「やっぱロレンツォに預かってもらいましょうか」
「うむ、大袈裟かも知れんが、脅しが効いていると思えば奴らも溜飲を下げるかもしれんしな」
まあ、それはないだろうな。ああいう連中は攻撃が効いてると思えば気持ちよくなって、より嫌がらせを苛烈にしてくるだけだ。
俺たちは寮へ急いだ。早く気持ちを切り替えねば。
こんな気持ちのままプリンを作ったら不味くなりそうだ。