軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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俺たちの手に負えぬデカい話は置いといて、寮長の怪談の話である。このネタが新作なのかどうか、それだけでも確認しておきたい。

尋ねるのはもちろんオッタヴィアーノ氏である。こないだお茶をいただいた時に今度はクラウディオ王子も連れて遊びに来いと言っていただいたからだ。

辺境の王子として王都の王族と懇意にさせてもらう事は願ってもない僥倖だ。それが第十五位であったとしてもだ。王都の中枢と話をするパイプがあるのとないのでは雲泥の差がある。

そんな王族のお部屋を訪問するのだから気の利いた手土産くらいは用意したい。

「オッタヴィアーノ王子はどんなものを好むだろうか?」

「やっぱ甘いものじゃないですかね?」

「我らはそんなものは持っていないな」

「外出はまだできませんし」

「ロレンツォに文を出すか」

「出せるんですか?」

「出せるとも。ガイダンスで言っていただろ?」

「すいません、聞いてませんでした、、、」

アカデミーにはほぼ毎日、手紙屋が注文を取りに来るのだそうだ。この世界には郵便局なんてものはなく、人をひとり雇って旅費を払って届けてもらうことになる。大抵は俺がやらされたように身近な使用人にその任が回されるのだが、王都のような大都会には専門の業者がいるのだそうだ。

もちろん高額だ。運び屋の旅費と食費、それと別に日当を払わねばならない。しかし今回はアカデミーからほど近い東街までである。たいしてかからないだろう。

俺たちはアカデミーの受付に手紙の依頼を申し込んだ。明日の午後に手紙屋が来てくれるという。

「何を買ってくるかはロレンツォ任せになるが仕方あるまい」

「ですね」

そう同意したものの若干の懸念はある。

だって王都出身の人に王都の銘菓を買ってってもあんま喜ばれない気がするじゃん?

宮城のひとに『萩の月』、三重のひとに『赤福』を持ってく感じだもんな。

ふと目を向けると、受付横の張り紙が目に入った。

『新鮮!朝取れ卵。朝絞り牛乳。各小銅貨一枚』

そうだ。これは知ってる。校内で採れた野菜や卵で余った作物はここで買えるのだ。野菜は数日持つが卵や牛乳は足が速いからな。

「ロレンツォにお願いするのは砂糖だけで良いかも知れません」

「何か思いついたのか?」

「この世界にプリンてあります? 型にはめて冷やして食べる甘味です」

「ああプディングか、あるぞ。甘く煮た米やカボチャで作るアレだろ?」

「卵と牛乳のは?」

「聞いたことはないな。しかし肉の入ったしょっぱいのならあるぞ」

「マジすか」

「プディングが良いのか?」

「こないだオッタヴィアーノ様のところで頂いた甘味を使うので喜ばれるかなと」

「ふむ。ではロレンツォには日持ちのする焼き菓子と砂糖を頼もう。やってみろ。上手く作れたら両方お持ちすれば良い」

俺は頷いた。

部屋に戻って手紙屋に託す手紙を書き上げて便箋に入れて蝋で封をする。

本当はバニラエッセンスがあると良いんだけどそんなものがあるわけないもんな。なのでロレンツォにはグラスを四個頼んでおく。手元には無骨なブリキのマグしかないからな。

数日後、受付に寄ってみると木の箱が届いていた。その場で開けて危険物が入っていないかアカデミー職員に確認してもらう。職員のお姉さんは焼印の入ったクッキーの化粧箱を見ると小さく歓声をあげてその後舌なめずりをしていた。有名店らしい。

俺たちは卵と牛乳を買って部屋に戻った。牛乳は量り売りなのでマグ持参だ。

部屋に戻って早速試作してみる。

空のマグに砂糖を入れて魔術で熱する。暫く熱を掛けていると砂糖が溶けてくる。それをさらに熱し続けると少し煙が上がって色づいてきた。甘い匂いが部屋に充満する。王子は興味津々だ。

良い感じに色づいて来たので色止めと固まるのを防ぐために水を少量垂らす。ジュウジュウとバカでかい音が鳴ってびっくりした。固まらないように素早く掻き混ぜてみたら思ったより粘度が高かったので更に水を追加して混ぜておく。ここで差すのが水でなく生クリームならキャラメルになる筈だ。

新鮮な牛乳があるのだから生クリームも作れる筈だが作り方を知らない。遠心分離機で作れるというのは知識として知ってるがどうやればいいのか想像もつかない。バケツに入れてブンブン回せばいい?

さておき、お次は卵と牛乳。キレイに洗った洗面器に卵を割り入れ、卵の半量の牛乳を加えて掻き混ぜる。砂糖の量は味見をしながらだ。

グラスにカラメルを流し入れて卵液も加えて次は加熱だ。食堂のオーブンや大きい鍋を借りられれば手っ取り早いのだが今は晩飯の用意で忙しい筈だ。仕方ないので水を入れたマグと一緒に箱に詰め、魔術でマグだけ沸騰させる。

プリンなぞ要は茶碗蒸しと一緒なのだ。これで大丈夫だと思う。大丈夫であってくれ。

沸騰はあまりボゴボコには沸騰させず弱火でじっくり火入れしていく。火が強すぎたり時間が長かったりすると鬆が入ってしまうだろう。箱から漏れる湯気を見ながら王子に三十分測ってもらい、いきなり冷やさずそのまま冷めるのを待つことにした。鬆が入るのも嫌だけど中央が生なのもなんかテンション下がるもんな。

そのタイミングでちょうど食堂のベルが鳴ったので飯にする。急いで掻き込んで部屋に戻ると慎重に箱を開けて様子を見る。

一応固まってはいる。表面の縁に固まった泡が付いていて見栄えが悪い。

味見用にマグに作ったのを取り出して魔術で冷やす。スプーンを入れてみると硬さは良さそう。持ち上げてみると断面にムラがある。卵の白身がしっかり切れていなかったようで白い筋があるのだ。布で漉さなきゃいけなかったかも知れない。口に入れてみれば、まあプリンにはなってる。ちょっと固めではあるが固いプリン原理主義の人も居るくらいだから及第点だろう。

「どうなのだ?」

「あ、どうぞ。悪くはないと思います」

「うむ、どれ。お、これは、、、」

王子は少し震えた。

やっぱちょっと舌触りが良くなかったかしら?

「めちゃくちゃ美味いではないか!」

「それは良かったです。底のカラメルはどうです? 焦がし過ぎてません?」

王子はスプーンを深く突き刺しカラメルを掬い出して口に入れる。

「おお、、、」

「どうです?」

「お主も食ってみろ」

「あ、はい」

やっぱ苦かったかしら。スプーンでカスタード部分とカラメルを一緒に掬う。カラメルはねっとりとしてカスタードに絡みついてくる。もう少しカラメルは緩くしたほうが良いかもな。味は悪くない。むしろもう少し焦がしたほうがプリンらしい香ばしさが出るかも。

「悪くないですね。少々改良の余地が、、、」

「いやいやいや、充分美味いだろう。卵と牛乳のコッテリとした旨味に、舌がとろけるほどの甘さ。そして柔らかく滑らかな舌触り。これだけでも充分美味いが、いささか単調に感じそうになったところにそのカラメルとかいう微かに苦味のある大人びた甘味が加わり舌を飽きさせない!」

「そんなまた大袈裟な、、、」

いや待てよ。確かにこの世界では甘味自体がかなりレアだ。果物とドライフルーツ、後は割と素っ気ない焼き菓子くらいだもんな。例外はカイエンのリロ氏の奥さんが作ってくれたケーキくらいか。でもあれも長官が出資してケーキ屋にするとか言ってたくらいだもんな。そして今になってみればカイエンは非常に豊かな国だと分かる。街が綺麗で臭くなかったもんな。スラムどころか下町すらなくて国全体が清潔だった。それを言うとポリオリもかなりなものだが、思い出してみると王都に来るまでの他の国々はもっと乱雑で貧しかったよな。

ふと見ると王子が苦悶の表情をしている。

あ、俺がプリンを返さないから怒ってるかな。

「これをオッタヴィアーノ様に献上するのは危険か? いや、しかしこの機会を逃すわけには、、、」

「ひょっとして挽肉と一緒に王都で売り出したいとか思ってます?」

「それだ! ポリオリの株を一段、いや二段上げることができるぞ!」

売り込み方によってはお貴族さまたちの話題を掻っ攫えるか。

「じゃあ、それも含めてオッタヴィアーノ様に相談してみましょうよ」

「何だと?」

「開発中なんでご助言いただけませんか、とか言って」

「おい、こんな事は言いたくないがオッタヴィアーノ氏にレシピを盗まれて先を越されたらどうするのだ?」

「そんな感じの人じゃなかったですけどね」

どっちかっていうと生き馬の目を抜かれるタイプの人っぽかった。面倒見が良くて正義感の強いオタク気質のアニキって感じだ。

「ううむ。お主の言葉を信じるしかないか、、、」

「じゃあ、今から行きますか」

「え、それはいくら何でも非常識だろ」

「でも食後の甘いデザートって美味しいじゃないですか。王子も丸々ひとつ食べたくないですか?」

王子はマグを置いて腕を組んだ。

「それは、お主がもっと食べたいだけではなかろうな?」

まさかそんな。

だって冷蔵庫もないんだし、ねえ?