作品タイトル不明
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俺たちは階下に降りてオッタヴィアーノ氏の部屋の扉を叩いた。
すぐに扉が開けられる。
「お、オミクロンか。こんな時間にどうした?」
「ポリオリのドワーフの甘味を作りましたのでお届けにあがりました。お時間は取らせません」
「甘味だと? まあ入れ」
部屋に入ってすかさず王子が膝をついた。
「こんな時分に押し掛けて、非礼をお詫びします。ポリオリが第三王子クラウディオと申します。この度は我が配下に特別なご配慮いただきまして恐悦至極にございます」
「よい、よく来た。面を上げよ。ここではそんな堅い挨拶は不要だ。楽にしてくれ」
「ありがとうございます」
「まあなんだ、たまたまオミクロン殿が部屋の前を歩いていたのでな、、、」
説明しながら作業台の道具を寄せてくれたので置かせてもらって風呂敷包みを開く。
オッタヴィアーノ氏の目がプリンに寄せられた。
「何だこれは?」
「先日いただいたカラメルですが、ドワーフが菓子にしていたことを思い出しまして再現させていただきました。卵と牛乳で作ったプディングです」
「プディングか。聞いた事があるぞ。庶民に好まれる甘味だな」
「なんでも、職人や船乗りの間では肉や残飯を入れた食事プディングも食されるのだとか」
「ふむ。しかしこんな時間にわざわざ持って来たということは自信があるのだな?」
「ええまあ。どうぞお選びください」
オッタヴィアーノ氏はチラリと王子を見た。
「ふむ、毒見は不要ということか。ではこれにしよう。お、冷やしてあるのか」
王子と俺もプリンを取る。
「おや失敬、我としたことが茶も出さぬとはな。先に始めていてくれ」
「ではお先に失礼します」
俺と王子は遠慮せずにスプーンを手にした。やっぱ王族として簡単に頂き物を口にはできないよな。彼らは常に毒殺の危険があるのだ。
俺と王子が問題なく食べているのを確認してオッタヴィアーノ氏もスプーンを取り上げた。
スプーンの先でほんの少し掬って口に運ぶ。そして注意深く異変を探るように味を見る。
「ふむ。これは、、、」
もうひと掬い。今度はさっきよりも少し多めだ。そして目を閉じて味わう。
俺らはつい固唾を飲んで見守ってしまう。
オッタヴィアーノ王子は黙ったままもうひと匙掬った。今度は底に溜まったカラメルも一緒だ。そして大きく目を見開いた。
「柔らかい! このように重ねると柔らかくなるのか?」
「砂糖が溶けて焦げてきたら少し水を加えるのです。そうするとこのような感じになります」
「ふーむ。なるほどなあ、、、それもそうか、砂糖は水に溶けるものだものな。一度熱で溶けてもその性質は変わらんか」
次のひと匙はカラメルをたっぷり取るように大きなひと匙となった。ひと安心だな。俺たちもプリンを味わうのを再開する。
王子が満を持して口を開く。
「オッタヴィアーノ様、お味はいかがでしょうか?」
「これは絶品だな! ドワーフはやはり優れた民族なのだな。卵も牛乳もありふれたものだが組み合わせと調理法でこんなものを作ってしまうとは。これはオミが作ったのか?」
やっぱオッタヴィアーノ氏は錬金術的な側面でものを見るのだな。
「はい。ドワーフのお宅は何度か招かれておりまして。ドワーフたちはざっくばらんな付き合いを好みますから一緒に料理なんかさせてもらいまして」
「クラウディオ殿もドワーフとは付き合いがあるのか?」
「はい。私も何度かドワーフの洞窟に足を運んでおります」
オッタヴィアーノ氏は目を剥いた。
「そなた第三王子であろう? 随分と自由にしておるのだな」
「いえ、実は隠密で。しかし後でバレまして王妃から大目玉を喰らいました」
オッタヴィアーノ氏は豪快に笑った。
「我にも覚えがあるぞ! 幼い頃、馬車から飛び降りて下町に潜り込んだことがある!」
それはまた大胆な。
「ドワーフの鍛治工房の前で釘付けになっていたら捕まってしまったがな」
「大丈夫だったのですか?」
「我はな。同乗してた執事は責任を問われて更迭されてしまった。惜しいことをした。我に甘い執事だったのに」
俺たちは笑った。素直に好感が持てる。
「して、これは、、、?」
オッタヴィアーノ氏は残ったプリンを指差した。
「どうぞよろしかったらお召し上がりください」
「我々は先にひとつ味見をして来ましたから」
「そうか? 悪いな」
そう言ったもののオッタヴィアーノ氏は暫し躊躇した。
そっか。残りのひとつに毒が仕込まれてる可能性があるからか。それなら俺たちも避けることができる。
「あっ、焼き菓子もあるのですがこちらはいかがですか? これは王都の人気店のもので既にご存知かも知れませんが、、、」
「クララ修道院のポルボロンか。これも我の好物だ。よく買って来てくれた」
やっぱ有名なのか。
「これを口に入れてそのまま壊さずにポルボロンと三回言えれば幸福が訪れると言われているのを知っているか?」
「いえ、そんな逸話が?」
「何だ知らぬのか、やってみろ」
オッタヴィアーノ王子手ずから封を切って箱を開けてくれた。中身は極薄の白い包み紙でキャンディーのように捻って個包されたものがいっぱい入っている。相当な高級品だコレ。
「我はこちらを頂こう。日持ちはせぬのだろう?」
オッタヴィアーノ氏はプリンを手に取った。
「もの凄く脆いから壊さぬように注意して口に放り込むのだ」
毒は良いのかな。
俺たちは言われたよう慎重に紙を開いた。中には小ぶりのひと口大のクッキーらしきものが粉砂糖に包まれて鎮座している。これ絶対超高級品だろ。
恐る恐る摘んで口に入れる。
「言えるか?」
「ポルボ、、、ブフっ!」
俺と王子が同時に口から白い粉を吹いた。
その菓子はクッキーのような焼き菓子であるのだが恐ろしく脆く淡くて柑橘類の良い香りがした。そして甘い。表面の粉砂糖だけじゃなく中の生地もしっかり甘い。王子と俺は顔を見合わせる。
めっちゃ美味いコレ!
オッタヴィアーノ王子は粉を吹き出した俺たちを見てダッハッハと豪快に笑っていた。
「残念だったな。お主らに幸運は訪れないようだ」
いやいや、貴方が俺たちの作ったプリンを掻き込んで食べてくれている事が既に幸運ですけど?