作品タイトル不明
304
部屋に戻ると王子がドアを閉めて蝋燭に火を灯し、窓も閉めた。
重大な内緒話になると警戒しての事だろう。
確かにそれくらいするインパクトはある。
「さて、何があったのだ?」
「ええと、、、結論から申しますと、火薬の製造に欠かせない硝石という物質の作り方を思い出しました」
「え、は? オッタヴィアーノ王子の話は何処にいったのだ」
「順を追って話しますね」
「うむ」
俺はオッタヴィアーノ王子の部屋の様子と会話を思い出せる範囲で全て説明した。
「そうか、、、となるとその硝石の作り方は王子から教わったのだな?」
「そうです。僕が思い出したのは原料の方の作り方です」
「ほう、それは大発見なのでは?」
「いえ、一部では既に知られているようです」
「どういう事だ?」
「以前、ゴング農家が何故か羽ぶりがいいという話がありましたね」
「うむ」
「硝石の原料というのは動物の屎尿なのです。ウンコやオシッコが年月をかけて変化したものが火薬の材料なのです」
王子は腕を組み首を傾げて拳を顎に当てた。よく見る王子の深く考え込むポーズである。
俺は黙って返事を待つ。
「うーむ、、、なら何故、わざわざ人間の糞尿を使うのだ? あ、いや分かった。家畜のは肥料に使うからか」
「ご名答」
「あー、なら農家の家の下というのは何故だ? 肥溜めの下の方が多く採れそうなものだろ」
俺もそう思った。
「硝石は水に溶ける性質があるそうなので雨が当たると流されてしまうのです」
「なるほど。それで家の下か」
王子はまた考え込む。そして視線をこちらに戻した。
「ということは、しっかり屎尿を集めてきっちり採れば相当取れるということなのではないか?」
「そうなのだと思います」
「それは、、、ええと、軍がその量全てを買い取っておるのだよな?」
「ゴング農家が国の管理下であるならそうなのでしょう」
「ううむ、、、」
王子はこめかみに拳を当てて顔を顰めた。
「ゴングについて以前教わったのだが、所管については思い出せんな、、、」
記憶力の高い王子にしては珍しい。まあ汲み取り業者なんかに普通の若者は興味持たないよな。
「ええと、海沿いの国のゴングは海に投棄していたからそれを辞めさせようと統廃合があったとか、なにかそんな話は聞いたのだが、、、駄目だな、ちゃんと確認しよう」
「お願いします」
海路が開かれたことに関連して海を綺麗にしようという話なら最近のことである可能性が高いな。長官も噛んでいる政策なのだろうか?
アーメリアは東側が海で西側が内陸であることから、現在ゴング農家は西側に多いことが推察できる。もし、軍ではなく何処かの国が火薬を溜め込んでいるとなると国家転覆の準備である可能性すら浮上してくる。
この国の対立は南北の宗教対立の他に、東西でも生まれつつあるのかもな。発展するのは沿岸地域だもんな。でかい港を持てるかどうかで経済に格差が生まれる。
「お主のその記憶についてだが、当分オッタヴィアーノ王子には言わないでおいてくれ」
「もちろんです。杞憂であるといいんですが、ちょっとヤバい気配がします」
「気づいたか」
「ええ」
「こうなると、色々な動きがこれと関連しておるのではと勘繰りたくもなる。シュトレニアとバーゼルを繋ぐ西の回廊。北方とバルベリーニの接近。我の婚姻すら何かの布石なのかも知れぬな」
そうか、俺らは陸路でバルベリーニの冬城と夏城を通過したので内陸の国のイメージだったけど長い海岸線を持った国なのだ。長官も船でバルベリーニに入ったのだしな。
「そういえば、ポリオリから一番近い港って何処です?」
ジロ河口はカイエンの向こうだし、ポリオリがあるのはかなり高地だし、近くの川も細くて船は通れない。
「一番近いのはバルベリーニのラクイラ港だな」
「やっぱそっか。痛いですね」
「そうだな。攻められにくい地形のお陰でやってこれたが、物流となるとバルベリーニに頼らざるを得ない」
「なんとかバルベリーニに攻め込んで征服できないですかね? せめて南部とその港くらいまで」
王子は笑った。
「突然物騒なことを言うな。あの広い国土を見たろう。千人に満たぬ我が軍では手も足も出ぬわ」
「ですよねー」
そうか、それでシュトレニアと手を組んでなんとか内陸側の経済を盛り立てようとしてるのかもな。
「王子、ひょっとしてポリオリも国家転覆側で戦争の準備をしてる可能性は?」
「だったらドワーフたちが大砲やら砲弾やらを作って大忙しだろうよ。挽肉器なぞで色めき立つものか」
なぞとは何だよ、なぞとは。でもその通りだよな。どうあれ、ポリオリには戦争にあまり深く関わってもらいたくはない。
北がどう出るか。西がどう出るか。俺たちの持っている情報では推察することすらできない。
これはアダルベルト様や宰相氏にお知らせして判断を仰ぐべきだよな。
次の外出許可が出るのは試験後の冬休みか。ホリデーシーズンだからってウキウキワクワクな休みにはならさそうだな。
ドームの庭、見てみたかったんだけどな。