軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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寮長のボッシ氏は寮のすぐ脇の別棟で寝起きしている。寮の東側に隣接したその一角は塀で囲まれ、生徒は立ち入れぬようになっている。

そこはいわばボッシ氏の聖域らしく、塀によじ登って覗き込んだり石を投げ込んだりしようものならボッシ氏に烈火のごとく怒られることで知られている。

俺たちも朝の仕事を教わる時に、あそこには近づくなと教えられた。その時は、そりゃあプライバシーってもんがあるから別に普通の感覚だろうと思っていた。

しかし噂話によると、そこでは夜な夜な悪魔を呼び寄せる秘術が行われているというのだ。

曰く、誰だかが夜中に寮の窓からボッシ氏の庭を見下ろすと、悪魔のシンボルである逆さ五芒星の形に篝火が焚かれていたのだそうだ。

「夜は寮の見回りをしてるんだろう?」

「秘術を行うために、俺たちが全員寝静まっているかを確認しているんだってさ」

「誰がその秘術を見たんだ?」

「知らないけど貴族の誰かだって話だよ。三階や四階の端からは塀の中が覗けるんだって」

まあ、東側の端の角部屋なら東を望む窓があってもおかしくはないか。いいな、角部屋。

「四階の一番奥って誰の部屋なんだ? そいつが見たんだろ」

「そう思って僕ら部屋を見に行ったんだよ、、、そしたら、、、鍵が取り付けてあって開かずの間になっていたんだ!」

おお、良くできた怪談だ。怪異をふたつも盛り込み、結論は曖昧にミステリーを残す。これはもっとブラッシュアップすれば後世に残る名作怪談になるかも知れない。

話してる本人らは顔を青くして完全に怯えている。

そこに王子が疑問を挟んだ。

「三階は誰なのだ?」

「知らないよ。上級生のフロアなんだろ?」

「ふむ。マルキオッレ殿に訊いてみることもできるが、、、」

「ちょっと気まずいですね」

「だな」

「こないだ立木打ちの時にお会いしたあの人は?」

「ああ、カヴール殿か。あの人なら教えてくれるだろうが、わざわざ聞きに行くのもな」

「それもそうですね」

上級生たちはあまり座学がないので校舎内ですれ違うことは少ない。

「まあ、機会があればだな」

「ですね」

「そう言うなよ。怖くて夜も寝れないよ。他に誰か居ないか?」

「いや、別に生徒に何か被害があった訳ではないのだろ?」

「知らされてないだけで誰かが被害に遭ってるかも知れないじゃないか」

「例えば?」

「体調不良になって退学させられたりとか、、、」

「そんなことをして誰が得をするのだ」

「軍に入れたくない家柄の子とか居るかも知れないだろ」

「それなら被害者は貴族だ。お主らは大丈夫だから安心しろ」

「、、、、、」

噂話を持ってきたクスカの連中は不満げだ。王子や俺を何だと思っているのだろうか? 別に俺たちは便利屋でも心霊探偵でもないんだぞ。

てかクスカって俺たちは翼竜の騒ぎで通らなかったから知らないんだけど何か特別に流布されてる怖い魔女伝説でもあるのだろうか。

たしかクスカは、ドームの廃墟は冒険者街になっていてドームから離れた場所に新しく街を作った国の筈だ。

まあ、なんかあるんだろうな。子供を冒険者街の方へ近づけないための方便としての怪談とかそういうのが。そういえば毒キノコっぽいキノコを街道沿いの露店で売ってたのはクスカの近くだったかも。

そもそもコイツらもまだ中一の歳だし、親元を離れてなんか色々と不安なのかもな。仕方ねえな。

「じゃあ、俺が今ちょっと見てきますよ」

「おお!」

「良いのか? 気難しいのに絡まれるかも知れんぞ?」

「そしたら本当のことを言いますよ。噂になってるんですって」

「ふむ」

そんな訳で俺は階段を降りて三階に向かう。寮は横に広いので階段が二箇所あり、東側は俺たちの部屋から離れた位置にある。

長い廊下を草鞋のままテクテクと歩いているとひとりで歩いている上級生とすれ違ったので立ち止まり会釈をする。見たことのない人だ。

「おい、一年か? ここは二年目以降のフロアだぞ」

「はい、東の奥の部屋を見てくるよう頼まれまして。噂になってるんですよ。寮長が魔女で怪しげな儀式をやってるんだとか」

「ああ、我も聞いたな。馬鹿らしい。ちなみに奥の部屋は何年も前から使ってないぞ」

「そうなのですか?」

「おそらくどっかの阿呆が寮長の住まいにウォーターボールでも打ち込んで閉鎖されたのだろう」

ありそう。ティーンエイジャーは馬鹿だからな。

「平民がこのフロアに居ると厄介だ。すぐに帰れ」

「そうします。ありがとうございました!」

俺は頭を下げて踵を返した。上級生と並んで歩くのはきまずいので後ろを追うように歩いていく。黄色と青のストライプなので四年生ということになるか。背が高いだけでなくがっしりしている。背中がデカい。こんな強そうなのに卒業できてないのか。いや、でも選択授業をとってる可能性もあるか。

上級生は振り向かずに声をかけてきた。

「お前、出身は?」

「あ、はい。ポリオリです」

「ほう。それは珍しいな」

上級生は立ち止まって振り返った。

「ポリオリの平民がどうしてアカデミーに?」

「こう見えて準男爵の爵位を賜っております。第三王子の付き人をさせていただいてます」

「爵位持ちとは、それは失礼した」

「いえいえ」

俺の実年齢はみんなより一個下だから同学年の貴族と比べると身体も小さいし、何しろ今は草鞋履きだからな。平民にしか見えないだろう。

「ここが我の部屋だ。何か困った事があったら訪ねて来てくれ。いや、困った事がなくても来てくれないか。良かったらポリオリの話を聞かせてくれ」

「三一六号室ですね。お安いご用です。あの、お名前を伺っても?」

「ああ、済まないな。マシュトマ十五位王子のオッタヴィアーノだ」

「ああ! それは失礼しました! 王族の方とは存じ上げませんで、、、」

俺は深く深く頭を下げた。この世界では謝る時に頭を下げるのはあまり一般的ではないが、ちゃんと謝意は通じるのでついやってしまう。

「気にするな。我を知らぬのも仕方のない事だ。それよりそちらの名前も聞かせてもらおうか」

「わたくしはオミクロンと申します。家名はありません、よろしければ気軽にオミとお呼びください」

俺の名を聞いてオッタヴィアーノ氏はダッハッハと豪快に笑った。なんか面白かったかしら。

「其方と我は同じ名ではないか、奇遇だな!」

「?」

「其方の名は『十五番目』だろ? 我もだ!」

オッタヴィアーノのオッタはオクタなのかしら? でもオクタは八のことだよな。

「分からぬか? オーはアルファベットの十五番目だ」

「ああ、なるほど」

そういえば王子も三男だからCで始まるクラウディオだもんな。法則性があって分かりやすい。

「これも何かの縁だ。上がっていけ。茶と甘味を振る舞ってやる」

「ありがとうございます。光栄です」

あ、誘われたからってズカズカ上がり込んじゃいけないんだっけ? いやあ、でも断るのはやっぱ失礼だよな。

悩みながらも俺はやっぱり上がり込んでしまった。だって本物の王族だぜ?