作品タイトル不明
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ゲオルグたちは走りながらクマに攻撃する魔術を撃ち出しているが当たらないようだ。
結構距離がある。
俺も加勢せねば。
ファイヤーボール?
いや、届かないし無理に火力を上げたのを飛ばしては少年が危ない。
あれだ、鳥を獲る衝撃波だ。
上手く耳に当たればそれなりに効くかも知れない。
少なくとも少年を取り落としてくれれば良いのだが。
俺は立ち止まり弓矢を撃つポーズをとった。
イメージだけでは難しい。
左手をしっかりと伸ばし、右手を引き絞って人差し指を口の脇につける。
偏差は?
分からない。
しかしクマはまもなく森に到達してしまう。
森に入られたら追跡も討伐も難しそうだ。
クマの移動はかなり速い。
俺はクマの一メートルほど先に狙いを決めて衝撃波を放った。
ピッと飛ばしてバン! だ。
放たれた魔術は緩やかな放物線を描きクマへと肉薄する。
しかしこのままでは逸れてしまいそうだ。
少し先を狙い過ぎたか。
すると俺の飛ばした魔術の矢は僅かだが軌道を修正しクマの耳に飛び込んだ。
バン!
衝撃音は聞こえなかったが手応えを感じた。
クマは走る勢いのまま倒れ込み、口が少年を離した。
「でかした!」
ふたりのゲオルグが走りながらファイヤーボールを放ち少年を咥えなおそうとするクマの顔面を捉えた。
クマは戸惑ったような悲鳴を上げ、森へ駆け込んだ。
俺も全力で駆け出した。
ヤバいヤバいヤバい。
少年は地面に落とされたままぐんにゃりとしている。
もう息がないかも知れない。
先に到着したゲオルグが脚の傷を押さえて血を止めようとしているが指の間から血が吹き出してくる。
マズい。
動脈がやられている。
俺はゲオルグのローブの腰紐を無断で引き抜き、少年の太腿に巻き付けて強く引き絞り、縛り上げた。
少年はまだ息をしていたが顔色は真っ青で失血のショック状態であることは間違いなかった。
「意識を失わないように引っ叩いて声を掛け続けてください!」
俺は腰のナイフでズボンを切り裂いて患部を露出させる。
酷い。
ふくらはぎの辺りを前後から噛みつかれ、ぶら下げて走られたのだ。
咬み傷が引き裂かれてズタズタになっている。
引きずられて頭も強く打ってるかも知れない。
どこから手を付ければ、、、
いやいや、先ずは動脈からだ。
血を水で洗い深く牙が刺さったであろう膝裏から治療を開始する。
「ゲオルグさん、傷から菌が入ってるので解毒と治癒をお願いします!」
俺は最初の鹿にやったようにふんだんに魔力を使い手術していく。
血管を繋ぎ神経を繋ぎ筋繊維を繋いでいく。
血流は完全には止まっていなかったが動脈はなんとか繋ぐ事ができた。
少しでも入り込む菌を少なくする為に再度傷を洗って皮膚を縫合していく。
これで失血は大丈夫だろう。
止血帯を少し緩めて様子を見る。
脛側の傷から血は滲み出て来るが、これくらいなら大丈夫だ。
そちら側も治療してしまおう。
「ああ、いかん! ヨハン!」
脚に血を戻してしまったせいで血圧が低くなってしまったか?
もう一度脚を縛るか迷ったが、血流がないと脚が壊死してしまう。
しかし見ると脛側の傷からも勢いよく血が吹き出して来ている。
こちら側もやられていたか!
慌てて脚を縛りあげる。
「ヨハン! ヨハン!」
「いかん、脈が止まった!」
マジか!
「お主、さっき言っとったアレをやれ!」
「そうじゃ。胴体も酷い状態じゃ。心臓マッサージはできん!」
言われて状態を見ると胴体にもクマの爪の大きな傷が付いていた。
肋骨が折れている可能性がある。
心臓マッサージは無理だ。
しかし脈が戻れば脚から更に出血してしまう。
「こっちが先です!」
俺は脛側の治療を始めた。
血流が止まっているので血管が繋ぎやすい。
本当なら心臓マッサージと人工呼吸をやっててもらうのが良いと思うのだけど肋が折れていたら変に胸を押すとヤバそうだ。
患部を洗って皮膚を縫合する。
「離れてください!」
胸に小さなライトニングを落とす。
確かAEDの講習では右胸上部と左胸下部にパッドを貼って電流を流したように思うのでそのように精霊に頼んだ。
ビクンと上体が跳ね上がる。
すかさず気道を確保して人工呼吸をする。
「何をしておるんじゃ!」
「息が止まってたらこうした方が良かった筈です! 脈はどうですか?」
「まだじゃ!」
「じゃあ離れてください!」
電気ショックをもう一度行う。
しかしこれも心臓が痙攣を起こして止まった時にしか効かないと聞いた気がする。
やはり心臓マッサージを行う必要があるのか。
だが胸の傷を見ると、ここを押す気にはならない。
確か心臓マッサージをしたせいで肋骨が折れて訴えられた件もあった筈だ。
何より怖い。
既に折れてる肋骨が肺にでも刺さったらもう俺の手には負えない。
考えろ。思い出せ。
半分白髪の無免許医はどうしていたっけ、、、?
はっ!
奴は直接心臓マッサージをしていた!
精霊に頼めば同じような事を開腹せずに出来るのではないか。
やれる事は他にないのだ。
少年の胸に手を当て、精霊にマッサージを頼む。
テンポは一秒に二回だ。
三十回マッサージを行い人工呼吸を二回。
心臓をマッサージ。
また人工呼吸に戻る。
心臓をマッサージ。
「ウッ、ゲフ!」
少年が息を吹き返した。
「ヨハン!」
見知らぬ女性が少年に縋りついた。
母親なのだろう。
「ヨハンは胸も怪我しとる! 抱きつくのは止めてやれ!」
「ベッドに運ぼう! 誰か戸板を外して持ってきてくれ!」
気付けば周囲に里のエルフたちが集まっていた。
数名が近くの家に走った。
少年が呻き声をあげて俺は押しのけられるように尻餅をついた。
少年が息を吹き返したのは良かったが、俺の緊張は解けない。
鼓動は早まったままだ。
何だっけ?
さっき不安なことがちょっと頭を過ったのだけど思い出せない。
少年を襲ったクマはデカくて茶色だった。
初めて見たけどアレはヒグマだよな。
ヒグマといえば、、、
思い出した。
ヒグマは獲物を奪われた恨みを決して忘れないんだ。
誰か周囲を警戒しているだろうか?
誰も見ていない。
視線は少年に集中している。
ヤバい。
四つん這いのまま人混みを這い出たのと森から咆哮が聞こえて来たのが同時だった。