軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

898話 封じられし渇きの魚人

中ボス部屋に突入――しようとした俺たちだったが、すぐに足を止めることになってしまった。門を開こうとしたら、その表面に文字が書かれていることに気付いたのだ。

「えーっと、なになに? 渇きに狂う哀れなる魚人を、ここに封ずる?」

普通に読めるんだけど……。こんな意味深な文字のこと、コクテン情報には入ってなかったよな?

コクテンたちが見逃した? いやいや、さすがにこれだけ分かりやすい場所に書いてあったら、見逃さないだろ。

「だとすると解読スキルのおかげかね?」

モノリスなどと同じように、解読スキルが高くないと読めない仕様なのだろう。

「なになに? ああ、魚人さんとやらが封じられた詳しい経緯がかかれてるわけね」

酷い渇きのせいで狂い、旅の仲間に襲い掛かるようになってしまった魚人の戦士。正気に戻すために水を与えるも、余りにも渇きが進み過ぎ、ただの水ではむしろ体が崩壊するようになってしまった。

暴れ続ける戦士から仲間を守り、彼の者の命も守るため、秘術を用いて魚人をここに封印する。自分たちは大悪魔討滅の為、旅路を急がねばならない。もし戻ることができなければ、魚人は永遠に封じられることになってしまう。

後の世、この文字を読み解くものがいるのならば、魚人を解放して渇きを癒してやってほしい。

そんな感じのことが書かれていた。つまり、封印した勇者風の人物は、戻れなかったってことなのだろう。

「うーん。これって、倒しちゃいけないボスなのか?」

でも、コクテンたちは中ボスを倒して、先に進めてるんだが……。そもそも、渇きを癒すって、どうすればいい? 水じゃダメなんだろ?

「あ、もしかして」

「フム?」

俺やルフレの水魔術ならどうだ? 水系統の回復魔術であるウォーターヒールやアクアヒールを使ったら、いけるんじゃないか?

普通、敵に回復魔術を使おうなんて考えないだろうし。

「みんな、いいか? まずは俺とルフレが回復魔術を使ってみるから、攻撃はしないように! 特にリックとクママ!」

「キキュ!」

「クックマ!」

両手を振り上げて抗議する2人だったが、お前らの普段の行いを思い返せ! 安心できる要素ゼロだろうが!

「ともかく、いくぞ!」

「フム!」

扉を押し開けようと触れると、薄く光って勝手に開いていく。事情を知った後だと、封印が解けたんだと分かるな。

部屋に踏み込むと、そこは学校の教室くらいのサイズの石造りの部屋だった。ボスと戦うには狭いだろう。

部屋の中央には全身に薄汚れた鎧を身に着けたミイラが立っている。コクテン情報によると、このミイラを倒すと壁に穴が開き、先へと進めるようになるそうだ。

「ウアアァァァァ……!」

「くるぞ! ルフレ! やつを癒すんだ!」

「フムー!」

俺たちが水系統の回復魔術を使用すると、中ボス『渇きに狂う魚人のミイラ』の体が青く輝いた。当然その体は微かに水に濡れるが、ダメージは入らなかった。まあ、回復魔術だしな。

「ウアァ……?」

ミイラの動きが止まる。これで渇きを癒したことになるのか?

しかし、様子を見ていても何も起こらない。むしろ、ミイラの発する呻き声が大きくなっていき――。

「ウアアアアアアアア!」

「げぇ!」

ミイラが再び襲い掛かってきたではないか! あれじゃダメだったって事? いや、長年の渇きを潤すにはあれじゃ足りなかったのかもしれない。こうなったら連発してやる!

だが、俺が再度詠唱を始める前に、サクラとオレアが動いていた。なんと、水瓶の水をミイラに向かってぶっかけたのだ。戦闘開始だと勘違いしちゃったの? 大発見かと思った癒しルートはもう無理か?

そう思ったんだけど、違っていた。ミイラは再び動きを止めたのだ。それに、心なしかその表情が和らいだ気がする。

まあ、干乾びた魚人ミイラの表情なんで、全然違っているかもしれんけど。これはもう、水瓶にかけるしかないだろう。

「サクラ! オレア! もっとだ! どんどんやれ!」

「――♪」

「トリリ!」

2人が笑顔で水瓶から柄杓で水を掬い、ミイラへとバシバシ水を浴びせていく。皆でその光景を見守ること十数秒。

ミイラの頭上に出ていた赤マーカーが消え、イベント関連の存在を示す白マーカーに変化していた。

マーカーの色だけではなく、その姿もかなり変わったな。もうミイラには見えない。

枯れ枝のようであった肌は潤い、魚人であることを示す鱗も艶を取り戻している。全身がややふっくらとして、細マッチョ体型が分かるほどだ。水を吸って膨らむ乾物形式ってこと?

さらに顔が全く違う。ついさっきまで、口を開いたまま乾いてしまったイワシの干物の頭部にしか見えなかったのに、今は水を得た魚状態だ。魚と人間を混ぜた、いわゆる魚人だと分かる顔だった。

「助かったぞ、冒険者よ」

「あー、ずっと封印されていたみたいですけど、体は大丈夫ですか?」

「うむ。今はスッキリしている。狂おしいほどの渇きがすっきりと癒え、むしろ清々しい程だ。ありがとう」

そこからは魚人さんが色々と語ってくれた。彼は勇者パーティーの一行だったらしい。扉の文字を描いたのが、まじで勇者だったとは!

オアシスに滞在中、強力なモンスターから町を守るために渇きを癒さないまま無理に戦い続け、最後は自分が狂ってしまったのだという。

その後は仲間の手によって封じられ、水瓶が開発された頃には時が経ちすぎていて、魚人のことは忘れ去られてしまっていたらしい。

そんな話の最中、ゴギュギューという地鳴りのような音が鳴り響いた。同時に、魚人さんが自分の腹を押さえている。

「助けてもらったのに厚かましいのは重々承知なのだが、何か食べ物はないだろうか?」

そりゃあ、長い間封印されてたんじゃ、腹も空くのか?

「何か好物とかありますか? もしくは食べれないものとか?」

「食べられないものはない! 好物は砂漠で採れる黄金の卵だ。オアシスを気に入ったのも、あれが食べられるからだしな!」

あれかー。自分たちで使いたかったけど、久々の食事なんだし美味しい物を食べさせてあげたいね。なら、使っちゃおうかな? 重要そうなイベントだし。

「じゃ、今から作りますから、少し待ってくれます?」

「うむ!」