作品タイトル不明
640話 のんびり庵
夜、気づいたら横に座っていたお爺さん。ホラー味しか感じないんだが!
「ど、ど、どちら様、ですか?」
「儂はビリー。のんびり庵の店主をしとる」
「のんびり庵?」
「のんびり屋さんの集まる、のんびり屋さんのための店じゃ」
うん。分からん! とりあえずホラー系イベントでないことは分かった! よかった!
「きてみれば分かると思うぞい? どうかのう?」
「すぐに行ける場所なんですか?」
「すぐそこじゃよ」
まあ、ここでカップルの邪魔になりながら話し込んでいても仕方ないしな。
とりあえず付いていってみることにした。ビリーさんの案内で公園から出ると、大通りではなく、狭い裏道をズンズンと進んでいく。まだ全然探索していなかったけど、こんなに入り組んでたんだな。
今後、色々な発見があるかもしれない。隠れ家的なお店や施設もきっとあるだろう。ビリーさんの言っていたのんびり庵も、そんな未発見の施設の1つなのだと思われた。
数分ほど歩いて辿り着いた先は、小さなお店である。
一見すると石造りの民家に見えるが、入り口は木製の引き戸になっており、のんびり庵という小さな木の看板が脇に掲げられていた。
ただ、何のお店なのかは分からない。
「さ、入った入った」
「お、おじゃましまーす」
「モグモ」
「ヒヒン!」
キャロもオッケーらしい。普通に中に入ることができた。入り口を通れるのであれば、問題ないのだろう。
のんびり庵の中は、やや和風の店舗になっていた。お蕎麦屋さんや、甘味屋さんっぽく見える。いや、実際に甘味を食べることが可能であるらしい。
メニューのラインナップは、あん蜜やお団子など、和風の名前が並んでいる。こんな純洋風の都市で、甘味屋さんに遭遇するとは思っていなかったぜ。
ただ、ビリーさんは立ち止まらず、奥へと進んでいってしまう。
「おやつはその内きておくれ。今日案内したいのは、こちらじゃ」
「は、はい。ほら、行くぞみんな」
「ムー」
「ビリーさんが言う通り、その内連れてきてやるから」
「ム!」
間口がさほど広くはないため、店舗は縦長だ。しかも、さらに奥へと長く続いている。どうやら、鰻の寝床のように、細く長い造りをしているようだった。
二階へと上る階段や、洗い場などによって狭くなる廊下を一列になって抜けると、急に広い場所に出る。多分、入り口の店舗5つ分くらいはあるんじゃなかろうか?
「おー、これは凄いなぁ!」
「トリリー!」
「キキュ!」
半分ほどが庭になっていて、半分ほどには屋根が付いている。ただ、壁や扉で区切られているわけではなく、庭と建物が繋がっている造りだった。
「ようこそ、のんびり庵へ」
「お店じゃなくて、ここがのんびり庵なんですか?」
「店ものんびり庵。ここも、のんびり庵じゃよ。のんびり者たちが集い、憩う場所じゃ。お主も、好きに使ってよいからのう」
ビリーさんの言葉を聞いた瞬間、モンスたちが庭へと散っていった。公園であれだけ遊んだのに、まだまだ元気だねぇ。
のんびり庵の庭には、公園とはまた違う魅力的なものがたくさんあった。
木の間に吊るされたハンモックや、木の枝から吊るされた手作り感のあるブランコ。木製のテーブルや丸太の椅子に、自然をそのまま残した雰囲気の池。
のんびり庵の名前の通り、一日でものんびりしていられそうだった。
屋根の下にはログハウス風の床が広がり、木目が綺麗な渋いテーブルにラタンの椅子などが並んでいる。お茶は自由に飲んでいいのかな?
テーブルの下にはなぜか水が流れているんだが……? いや、湯気が出てる。これは足湯か!
装備を外して足を突っ込んでみると、ジンワリと温かい。これはいいね! 長椅子の角度を調整すると、寝っ転がったまま足湯を楽しむことも可能だった。
いたれりつくせりだが、のんびりしてもいいスペースってこと?
「使用料とか、大丈夫なんでしょうか?」
「いらんいらん。ここは、儂が認めたのんびり屋さんなら、誰もが利用可能なスペースじゃ。ほれ、そこの壁を見てみんしゃい」
「地図ですか? あとは、チラシ?」
「うむ。このビステスののんびりスポットと、そこで開催されるイベントの告知じゃ」
丸い円が都市を囲む壁で、太い線が大通りを示しているんだろう。その中に点が打ってあり、そこに名前が書き込んである。
「のんびり庵もあるな」
他には、公園、ブックカフェ、温泉、サウナ、森、草原、プラネタリウム等、色々な施設が書かれている。意外とのんびりスポットがあるんだな。
チラシには、それぞれの施設の説明が書いてあった。プラネタリウムとか、普通に地球の空を映すようだ。北半球、南半球など、今後の上映予定が記されている。
ブックカフェも、リアルの小説のデータが読めるらしく、知ったタイトルが載っているな。まとめ読みフェアとかを開催するようだ。
他には、森で行うピクニックとか、温泉でのビールフェアなんかも面白そうだった。
「まあ、とりあえずは、ここでのんびりしようかな」
先ほどから足湯が気持ち良過ぎて、立ち上がりたくないのである。寄ってきたメルムを枕にして、ラタン椅子に寝そべる。
空には星空が広がり、耳にはモンスたちの楽しそうな声が聞こえるのだ。
「あー、天国ぅぅぅ」
「ニュニュ?」
「苦しくないか?」
「ニュー!」
メルムは触手を伸ばすと、俺の頭の位置を微妙に調整してくれる。むしろ喜んでくれているっぽいな。
「もう、今日はログアウトまでこのままでいっかー」