作品タイトル不明
641話 のんびりイベント
謎の施設のんびり庵でのんびりしていたら、壁にかけてあるディスプレイに気付いた。何かと思って触れてみると、メニュー表が立ち上がる。
「ここにも甘味を届けてもらえるのか?」
表のお店のメニューかと思ったんだが、よく見ると違っている。というか、ラインナップが凄いぞ?
炬燵や簡易足湯、ハンモック付きの植木など、様々な素敵アイテムが載っている。
「って、スキルスクロールとかあるじゃん!」
歌唱や瞑想などの、既に知っているスキルだけじゃない。『おもてなし』や『湯加減』といった、未見のスキルも多かった。
ただ、戦闘に向きそうだったり、生産に有用そうって感じではないな。そこで理解した。どれもこれも、のんびりって感じのスキルばかりだったのだ。
さすがのんびり庵である。というか、マジで何なんだここ?
スキル買おうかと思ったら、全部は買えないみたいだし。お金以外に、購入するための条件があるようだった。
謎の、NPという項目がある。俺はいつの間にかNPが6まで増えており、NP5までの商品を購入可能だった。
スキルスクロールは最低でもNP20は必要であり、この謎のポイントを貯めないといけないようだった。
「ビリーさん。このNPってなんですか?」
「のんびりポイントの略じゃよ。のんびりイベントに参加したり、この都市ののんびりスポットでのんびりしとると上昇するんじゃ」
「要は、何もしなければいいと?」
「うむ。戦闘、生産、移動。それ以外のことをするのじゃ」
全く動くなってわけじゃないんだろう。ブックカフェなんてものがあるくらいだし。
因みに、俺の持つNP6は、のんびり庵の奥を発見したことで5、その後のんびりしたことで1上昇した結果であるらしい。
NPを溜めるのは一朝一夕ではいかないようだし、興味あるものを片っ端から買っていたらすぐにポイント不足に陥るだろう。
目標を先に決めておいた方がいいかね?
「のんびりイベントって言うのに参加すると、よりNPが上昇するってことですか?」
「そうじゃね」
イベントと言っても、ピクニックや昼寝といった、のんびりするだけのものらしいが。
短時間でNPを溜めたい人は困るだろうが、戦闘などをせずとも参加するだけで勝手にNPが溜まるのは楽でいい。
チラシを見ていたら、隣の椅子に誰かが寝そべる気配があった。モンスか?
横目で見ると、違った。NPCであるようだ。
「やあ。こんばんは」
「こ、こんばんは」
俺の視線に気づいたNPCに挨拶されたんだけど……。その肩の上には黒い小鳥が乗っており、テイマーであるようだ。
「イベントに興味があるのかい?」
「えーっと、まあそうだな」
「旅人さんに興味を持ってもらえるのは嬉しいなぁ。よければ僕のお勧めイベントに案内しようか?」
この申し出自体が、イベントか? それに有り難くもある。イベントならNPがより溜まるだろうし、のんびりスポットやらに案内してもらえるだろうし。
俺は男性の申し出を受けることにした。まあ、その前に自己紹介が先だが。
「俺はテイマーのユートだ」
「おっと、まだ名乗っていなかったね。僕もテイマーのノモルだ。こちらはメルティア。よろしく」
「チュン!」
「よ、よろしく」
黒い小鳥さんが、翼をスッと差し出してくる。握手のつもりかなと思って軽く握ると、嬉しそうに翼を上下させる。正解だったらしい。
「それじゃあ、行こうか?」
「え? 今から?」
「ああ、この後から始まるんだよ。時間ないのかい?」
「いや、大丈夫だが……」
まあ、どうせのんびりしようと思ってたし、いいけどさ。夜からイベント開催だとは思わなかったので驚いてしまったのだ。
「みんなー、集まれー」
「ニュニュー」
俺はモンスたちを呼び戻すと、ノモルの案内でのんびり庵を出た。
「どこに向かうんだ?」
「この先にある、原っぱだよ。あ、旅人さんは寝転がるためのマットとか持ってるかい?」
「ゴザでいいならあるけど」
「だったら、このまま向かえば大丈夫だ。楽しみにしていてよ」
ノモルは詳しいことを教えてくれない。ただ、彼が連れているメルティアがご機嫌に飛び回っていることから、モンスでも楽しめるイベントなのだろう。
夜の町を、買い食いを楽しみつつ散歩すること10分。うちの子たちとメルティアがすっかりと仲良くなった頃、ノモルが足を止めていた。
「ここが目的地さ」
「ここ? なんか、原っぱだけど……」
「そうだね。原っぱだね。キャンプしたりもできるよ」
そんな原っぱには、すでに数人のNPCたちが集まっていた。何が始まるのかと思って待っていると、NPCたちはマットや布を原っぱに敷いて、そこに寝転がり始める。
「さあ。旅人さんも一緒に」
「お、おう。分かったよ」
言われるがまま、俺がゴザを取り出して原っぱに敷いてみた。そして、モンスたちと一緒に、その上に寝転がる。
「おー、星が綺麗だな!」
天には星が輝き、正に星の海という感じだ。
「ニュー」
「デビー」
「ヒヒン!」
モンスたちも同感なようだが、特に喜んでいるのはメルムとリリス、キャロかな? 星が好きだったようだ。闇属性や夜属性だからか?
だが、イベントというのは、これで全てではなかった。というか、まだ始まっていなかったのだ。
「旅人さん。始まるよ」
「始まるって、何が――」
直後、周辺の光が消えた。街灯や施設の光が一斉に落とされたのだ。同時に、空の星々がより鮮明に見える。先ほどまでも十分に綺麗だったが、今は感動で声が出ないほど美しかった。
「おぉ……」
「ニュー」
「デビ」
「ヒン」
手を伸ばしたら星が掴めそうなほどに、一面の輝きだ。周囲が、星に包まれているかのように錯覚する。
俺はモンスたちとくっつきながら、いつまでも空を眺めていた。