軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外 normal ending

「ふふ~ん♪ ふふふ~ん♪」

歩きながら、思わず鼻歌が出てしまった。なんせ、明日はLJOの再開日だ!

サーバーの増強とか新マップの実装とか、超大型のアップデートを実施するため、1週間もゲームにインできなかったのである。

本当は2日間だけって話だったんだけど、バグが発見されたとかで、その修正などで結局1週間もかかってしまっていた。

LJOのサービス開始から5年。もう、このゲームがない生活なんて考えられないからね。1週間は長かった。

まあ、普段だって、そこまで長時間遊べてるわけじゃないけどさ。少しだけ偉くなって、仕事も色々増えた。新人の教育とか、長期の出張とか。

インできる日は毎日入っているけど、モンスたちとワチャワチャ遊んで終わりってことも多いかな。

有給と夏休みをぶち込んで、廃人プレイした最初の頃が懐かしいぜ。

それでも、1週間全くプレイしなかったことはないし、自分がどれだけモンスたちとの触れ合いで癒されていたのかも自覚できた。そのせいってわけじゃないんだが、明日から有休を5日ほど纏めてとっている。

冬休み以来の長期の休みだ。モンスたちとイチャイチャしまくってやるぜ!

そんなことを考えながら信号待ちをしていると、通りの向こうから赤いオープンカーが猛スピードで突っ込んでくるのが見えた。

「あの車、スピード出し過ぎじゃ……」

すでに車用信号は黄色に変わっているが、止まらず突っ切ろうというのか? いや、よく見ると、運転手がこちらを見ていない。

スマホを見ている? 止まる止まらないの問題ではなく、信号の存在にさえ気づいていないようだった。

信号渡るのは、あの車が通過してからにしようかな。そんな風に思って足を止めたら、最悪の光景が目に飛び込んでくる。

「あの子供、車に気づいてない……?」

水色のランドセルを背負った女の子が、信号を渡ろうとしていた。オープンカーの運転手は、スマホに夢中で気づいていない。

これは、マズイんじゃないか?

そう思った瞬間、勝手に体が動いていた。

子供に向かって飛び出す。

子供を突き飛ばしたら、問題になるか? そもそも、車が気づいて止まったら、俺って間抜けすぎ? いやいや、何も起こらなかったら、俺が笑いものになるだけだ。それよりも、万が一の場合を考えるんだ!

短い間に脳内を様々な想像が駆け巡り、結局俺は止まることはなかった。

「ごめんな!」

「えっ?」

突き飛ばすことになる子供に謝りつつ、オープンカーの方を見る。運転席の男は相変わらず馬鹿笑いを上げながら、こちらを見てはいなかった。

「うぉりゃぁぁぁ!」

子供を突き飛ばしながら、俺も力の限り前方へダイブだ。勢いよく、地面へと倒れ込む。

肘打った! メッチャ痛い! だが、車との接触はなんとか回避できたぞ。あ! 子供は?

「あ、あの、ありがとうございます」

「無事? 怪我はない?」

「は、はい。ランドセルがクッションになって」

「そうか」

よかった! 車とぶつかりはしなかったけど、突き飛ばされて大怪我ってなったら意味ないからな。奇跡的に、掠り傷ひとつないようだ。

「いやー、あの車酷いな」

「行っちゃいましたね……」

車には逃げられてしまった。向こうには逃げたという認識すらないかもしれんが。ナンバーを撮影する余裕もなかったしな。

「肘、大丈夫ですか? 血が……」

「え? ああ、平気平気。掠り傷だから」

掠り傷というには少し痛いが、せっかく助けた少女を不安がらせることもないだろう。だが、少女の涙腺崩壊を止めることはできず、遂には泣き始めてしまった。

「ご、ごべんなざい」

「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」

むしろ、君が泣いていると大丈夫じゃなくなるかもしれないから!

「私、ゲ、ゲームのこと考えて、少しボーッとしてて……!」

「ゲーム? なんかやってるんだ?」

「LJO……」

涙声で応えてくれる少女。驚いたが、これはチャンス!

「LJOやってるんだ?」

「おじさんも、やってるんですか?」

「お、おじさん……」

おじさん、だと……? だが、俺ももう30歳。そう呼ばれてもおかしくはない。痛い。肘なんかよりも心が痛い!

「お、おじ、おじさんは、テイマーでプレイしててさ。毎日モンスに癒されてるよ」

「えー! うらやましいです! 私は裁縫士で始めたんですけど、テイマーにも興味があって」

「そうかい?」

俺は「もしよかったらホームに遊びにくる?」って誘おうとして、止まった。

これ、ヤバイ? 小学生の少女を遊びに誘う大人とか、事案か? で、でも、畑に入る許可を出しておくくらいなら、事案にはならないよね? お、俺は一緒に遊ぶわけじゃないし?

いや、マズいかも? マズいよな? きっとマズいかもしれない!

「おじさん? やっぱ痛いんですか?」

「ああ。いや、全然痛くないぞー」

まあ、とりあえず――。

「頑張れば、きっと可愛いモンスも手に入るから、試してみるといいよ。お、おじさんのお勧めは、リスかウサギかな?」

「そうなんですか? リスとウサギ……。私、頑張ります!」

よかった、完全に泣き止んでくれた! 子供は笑顔が一番だよね。少女は俺に何度も手を振りながら、去っていった。

さて、俺はドラッグストアに行こうかな。消毒液と絆創膏を買おう。

「あー、早くLJOがやりたいなぁ!」

出遅れテイマー Continues