軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

578話 淵

「ユート君。ほら、あそこにある岩じゃないかい?」

「うん? おー、言われてみるとそうかも!」

休憩を終えた俺たちは、ついに目的の場所へと辿り着いていた。紋章の使用でちょっと失敗したが、ジークフリードに励まされてすぐ立ち直ることができたのだ。

ジークフリードがいなかったら、ログアウト時間まで呆然としていたかもしれない。

さすができる男。ジークフリードに励まされると、なんかやる気が出てくるから不思議だった。

「いやぁ、間に合ったなぁ。ジークがあそこで俺を復活させてくれたおかげで、なんとか間に合ったよ」

「いや、僕は何もしていないよ」

「またまた。謙遜しちゃって」

「いや、本当に。ユート君の妙なポジティブさが凄いと思うよ?」

「そんなことないって」

「そんなことあるよ。そこまで前向きだと、ちょっと驚くよ」

こんな時に自分の功績を誇らない。謙虚な男である。

「本当に何もしてないんだけどな……」

さて、いつまでもジークフリードと頭の下げあいをしているわけにはいかない。もう強制ログアウトまで1時間を切っているのだ。

「情報通り、小川が少しだけ曲がってる場所に、大きな縦長の岩。で、その根元がちょっと深くなっていると」

「ここに妖怪が出るんだね」

「ああ、ちょっと待ってくれ」

俺は、妖怪察知スキルと妖怪探索スキルを発動してみた。

すると、どちらのスキルにも強い反応が現れる。やはりここで間違いないようだ。

「近づいてみりゃ、少し特別感がある場所だってのは分かるが……」

浜風は、よくこんな辺鄙な場所を発見したな。虱潰しにしたと聞いたが、かなり骨が折れるだろう。

この南の大雨林には、細い川が無数にあるのだ。浜風の執念を感じるね。

「それじゃあ、いくぞ。準備はいいか?」

「ああ、いつでも構わないよ」

「取り出したるは、こちらの掛け軸だ」

俺がインベントリから取り出したのは、床の間に飾るための掛け軸だ。日本画タッチで、非常に迫力がある――悪く言えば不気味な河童が描かれている。

オークションで落札した、マヨイガの攻略報酬だった。

掛け軸を鑑定してみると説明には、「この絵をある場所に持って行くと……?」とだけ書かれている。

この、ある場所というのが、ここという訳だ。ついに真の目的のために使用される時がきたのである。

『河童の掛け軸を使用しますか?』

川べりに近づくと、この場所で掛け軸を使用するかどうかの問いかけが聞こえた。ウィンドウが起動し、Yes/Noが表示される。

「勿論、Yesだ!」

俺がYesをポチッと押した直後、川の深い部分。大岩の根元あたりから青白い光が立ち上るのが分かった。

そして、その光が一気に広がり、俺たちを飲み込む。これ、事前に何も聞いてなかったらパニックになっていただろうな。

光が収まると、俺たちは半透明のドームの中にいたのだ。

直径は50メートル程度で、足元は岩が転がっている。ただ、足場が悪いというほどではなく、注意していれば問題ないだろう。

ドームの周囲は綺麗な水に覆われており、泳ぐ魚や、水の流れに揺れる水草が見えていた。川の底っていう設定らしい。

「ここなら、ハイヨーも走れそうだ」

「攻撃しないでくれよ」

「分かっているよ。囮は任せてくれ」

俺たちがササッと打ち合わせをしていると、ドームを突き抜けて新たな人影が飛び込んできた。

バシャンという大きな水音と共に、ドームの中心に降り立つ。

「グッゲッゲッゲ」

「うわー、マジ河童。メッチャキモイじゃん」

「リアルな河童って。中々怖いんだねぇ」

出現したのは、河童である。掛け軸に描かれていた河童にそっくりだった。

薄汚れた頭の皿に、ザンバラ髪。目は鋭く、嘴の先からはダラダラと涎がこぼれている。ヒレが付いた手足から伸びる鉤爪は、恐ろしいほど鋭利だ。藁を束ねて作られた腰蓑は、少し動いたらチラリズムしてしまいそうでちょっとドキドキする。

肌の色は緑なんだが、単色ではない。薄い緑の肌に、濃い緑色で虎のような縞模様が入っているのだ。

マスコットのコガッパとは全く違う、妖怪としての河童であった。

「グエゲゲゲェ!」

アオサギの声をもっとしゃがれさせたような耳障りな鳴き声を上げて、河童が身構える。

戦闘開始の合図だ。

「みんな、くるぞ! キャロ、頼んだからな!」

「ヒヒン!」

俺たちは突っ込んできた河童に対し、反撃をすることなく散開した。皆が逃げながら、河童の動きを観察している。

「さあ! くるがいい!」

「ブヒヒン!」

「ゲッゲェ!」

河童のヘイトを受け持つのは、ジークフリードとハイヨーだ。ジークフリードはヘイトを稼ぐタイプのスキルを使い、上手く囮となってくれている。

キャロなら逃げ切れるかもしれんが、ジークフリードの方が騎乗スキルが高いからね。

絶対に俺よりも上手にやってくれるだろう。

実はこの河童、倒してしまうわけにはいかなかった。撃破すると普通にドロップがもらえて、このドームからは脱出できる。

だが、俺の目的はそれではないのだ。

河童と戦いながら一定時間経過するとイベントが発生し、河童と友誼を結ぶことができるらしい。

俺はそのイベント狙いだった。

「ゲエゲゲ!」

「ジークフリードもハイヨーも、頑張れー!」

「はははは! こちらだよ! 追ってくるといい!」

「ブヒヒン!」

疾駆を得たハイヨーは、絶妙な距離を保ったまま、河童を引き連れて走り続けている。キャロだと、ちょっと厳しかったかもしれん。

ジークフリードたちが付いてきてくれて、本当に助かったな。