作品タイトル不明
340話 ヨガ
白虎を召喚したせいで、サッキュンの消耗が激しいらしい。俺たちは、ここで5分だけ休憩をすることにした。
見張りをどうしようか悩んだが、ルインが大型の魔除けのゴザを敷いてくれた。モンス達も一緒に乗れるサイズである。
「ほれ、オルト」
「ムー!」
「ドリモはこれな」
「モグ」
「ファウは――」
モンス達はこれでいいとして、俺は何を飲もうかな? ジュースよりは、お茶の気分だ。
「そうだ。あれをやってみようかな」
俺が思いついたのは、フレッシュハーブティーである。すでにトーラウスに作り方は教わっているのだ。
とはいえ、作り方は至極簡単であるが。
「お湯を沸かして、トーラウスに分けてもらったレモンバームを入れて――」
1分待つ。ただそれだけだった。
作り方ではなく、植物学のスキルが重要だったのである。このスキルさえ所持していれば、誰でも簡単に作れるだろう。
従来の雑草水が必要な場合、より長く煮込めば雑草水を作ることもできた。
「あと、これも食ってみてくれ」
「へえ! これってもしかしてオニギリ?」
「ああ、ちょっと変わり種なんだけど、感想を聞かせてくれよ」
俺がサッキュンとルインに渡したのは、それぞれ少し攻めた具材のおにぎりである。
サッキュンに渡したのは、野菜を果物酢で浅漬けにしたものが入った、酢漬けおにぎりだ。梅干しや、キュウリの漬物の代りにならないかと思ったんだけど、想像とはちょっと違う味になってしまった。
不味くはないが、市販はされないだろうという、微妙なレベルである。ただ、MPが少しだけ回復するので、今のサッキュンには悪くないだろう。
ルインに渡したのは、チーズとトマト、オリーブオイルを入れて焼いた、イタリアン風焼きおにぎりである。
味付けに塩などを使わなかったことで、思ったよりも食材同士が喧嘩する結果となってしまった。トマトソースを使うべきだったろう。
こっちはHPの継続回復があるので、前衛のルインに進呈しておいた。
「お代はいかほど?」
「いや、いらないいらない」
お代を取れるほどの味ではないし、感想を聞けるのは本当に有り難いのだ。
「だめだめ。それはダメだって。こんな貴重なもの食わせてもらって、タダはないって」
「今は貴重でも、すぐに出回るようになると思うぞ?」
「それでも、今は貴重なの! じゃあ、こいつと交換!」
「えーっと……いやいや、さすがにこれは俺がもらい過ぎになる!」
「俺には使い道がないからさー」
おにぎりの対価としてサッキュンから差し出されたのは、なんと第8エリアで入手できるモンスター肉であった。
ビッグピッグの肉という、現状確認されている肉では一番うまいと言われている肉だ。
「だとしても、この量は……」
「代金としてはトントンくらいじゃね?」
その高級肉が、10個も譲渡申請されている。試作したおにぎり1つで、高級な肉が10個? ありえんだろう。
「いや、最近は乱獲気味でむしろ市場価格は下がって来てるから、むしろ足らないかも?」
「ちょ、まった。もう増やさなくていい!」
「えー」
なんてやり取りをしていたら、ルインがとりなしてくれた。
「それで交換しておけ。握り飯は未だに値段が付けられるもんじゃないだろうし、どっちも自分が得したと思ってるんだからな」
まあ、ここで押し問答していても仕方ないし、ここは受け取っておくか。ルインはヒムカ用にといくつかのインゴットを渡してきた。これも先のエリアのアイテムだが、仕方ない。
思わぬところでわらしべ長者をしてしまったぜ。
「時間もないし、とっとと食っちまおう」
「そうだな。じゃあ、これをどうぞ」
「お、ユートのハーブティーか」
「ああ、新作なんだ。これはさすがにお代はいらないからな。感想を聞かせてくれればいい」
そうやってフレッシュハーブティーを準備していると、サッキュンが何やら不思議なことをしていた。
「サッキュン、その座禅みたいな座り方は?」
俺とルインがゴザの上で胡坐をかいているのに対して、サッキュンはカラフルな布のような物を取り出すと、その上で座禅のような座り方をしている。
休憩中なんだからもっと簡単に座ればいいのに。そう思ったら、単なる座禅の真似事ではなかった。
「これは、簡易瞑想ってアーツなんよ」
なんでも、座禅を組んで座っているだけで、MPの自然回復速度が微妙に増すというスキルであるらしい。代わりに、HPの自然回復速度が少し落ちるようだ。
魔法職の覚えるアーツにメディテーションというものがあるが、あれは完全に身動きができなくなってしまう。
こちらは簡易というだけあってそれほど大仰ではなく、上半身で他の作業をしていても問題ないようだ。それは意外と便利そうだよな。当然、回復率は瞑想に大きく劣るらしいが。
格闘系スキル、ヨガを育てると覚えるアーツであるらしい。地面に敷いた布は、ヨガ系スキルの効果を高めてくれる効果があるそうだ。
「ヨガって格闘技なの?」
「らしいねぇ」
「そのうち腕でも伸びるようになるのか? それとも火を吹いたり?」
いや、下手したら空を飛んだり、瞬間移動できるようになるかもしれん。だが、実際はそこまでトンデモな内容ではないそうだ。
「今のところ、柔軟性が上昇してアクロバット系の動きに補正が入ったり、状態異常耐性を上昇させるアーツを覚えたりって感じで、補助的な意味合いが強いかなー。それ以外はサブミッション系のアーツを覚えるけど」
「ああ、そういう系統のスキルか」
しかし、ここはファンタジー世界。いつかヨガが化ける可能性もあるんじゃないか?
「手足が伸びるようなアーツを覚えたら、ぜひ連絡してくれ」
「ラジャー」
チャラ敬礼で返してくれるサッキュン。俺たちは取りあえずフレンドコードを交換しておくことにした。
「あ、そうだ。白銀さん。一発写メっていい?」
「写メ?」
「そうそう。俺、フレ登録するとき、2ショットの写メで登録してんの。いい?」
「いや、いいけど」
「やった! それじゃあ、失礼して……。はい、チョリーッス」
「ちょ、ちょりーっす?」
「いえー、いい写メ撮れたね! 噂のモンス達も入ってるし」
見せてもらうと、俺の後ろでモンス達が見切れている。皆、カメラ目線だった。あのドリモまで、画面端に写っているし。お前ら、写りたかったのか?