軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03.転生王子、護衛を洗う

ボクに言われた言葉に目を丸くして固まるボクの護衛兼毒見役のベディ。

何でそんなに驚いているのか分からず、首を傾げる。

「こ……ぎたない……?」

「うん、小汚いよ?ねぇメリエル」

「はい。雨の日の野良犬の様です」

「のら……っ!」

かわいくて若いメリエルに言われて、余計にダメージを受けたみたいなので、ボクがフォローに入る。

「ごめんね、ベディ。メリエルはとっても口が悪いんだ。

でもメリエルはベディには親しみを込めて正直な気持ちと言葉で接してくれてるって考えたら大丈夫じゃない?」

かわいい女の子に親しみを持って接されるなんて良い事でしかないよね。

「いや、さっき会ったばっかの初対面ですけど」

そうだねこれから一緒に働く同僚が気が合うみたいでボクも嬉しいよ!

「そ……そんな濡れた野良犬みたいな匂いがします、か……?」

「ああ、そこまでじゃないよ。ちょっと動物っぽい感じはするけど。

メリエルが言ったのは、匂いじゃなくて、何て言うかな、小汚さだよ」

「こぎ……っ!」

最初に戻っちゃった。

うーん、何て言ったら良いんだろう。明らかに身だしなみに気を遣ってない感じが出すぎてるって言うか、人に会う事を前提の生活をしてないんじゃない?って感じ。野性味って言うのかな?

間に合わせの新品の防具の下のシャツやズボンは裾が汚れているし、ほつれている。肌も乾燥して見えるし、髪は言わずもがなボサボサ。目元まで覆っちゃってるけど、ちゃんと見えてるのかな?

あとやっぱりひげ。無精ひげが本当に小汚く見える。

ボクは将来幸せな家庭を築くため、何をしたら良いかこの3日間ずっと考えてたんだ。

容姿的には、王子の中ではダントツ地味なボクだけど、夢の中のイケメンたちを思い出して思ったんだ。

イケメンって、半数くらいは雰囲気だよねって!

あのイケメンばかりの謎の組織でも、一人をじーっと見たら、あれ?そうでもない?て人がチラホラいたりする。

ううん、そういう人を否定してるんじゃないよ?この物語は実在する人物組織とは何の関係も無いよ?

そもそも100人いたら100人が好きな顔なんていないし、どこに魅力を感じるかは人それぞれなわけだしさ。

つまり言いたいのはさ、モテる為に一番大事な事って

『清潔感』

だって事。

だからボクは朝起きてのお顔を洗うのだって、寝癖を直すのだって自分で出来る様になったんだ!まだ顔を洗った後びしょびしょにしちゃうんだけど。

「ベディは護衛とかになりたかったのに、身だしなみを気にしなかったの?」

「そんな暇あったら、素振りの一つでもして強くなった方が良いでしょう。

…………それに、故郷では男前だって言われてたし……」

あ~故郷ではイケメン!ボクと同じだね!でも世界は広いんだよ!

あと文化の違いもありそうだけど、まぁそれは置いておこう。

「ここは王都だし、護衛につくなら上流階級の人の傍にいるんだから、身だしなみをまず整えなきゃ」

大事な国の式典とか、高級なお店とかにも付いて行くんだよ?その恰好で?

ボクはみそっかす王子だから、余計と色々言われちゃう可能性が高いんだからさ。

「まずはベディを洗おうか。

メリエル、湯あみの準備をして。あとハサミとカミソリも」

「はい、リエト様。

外から持ち込んだ動物はまず洗うのが基本でございます」

その理屈だと、まずは母様がベディを洗わなきゃいけなかったね。

「やっぱり野良犬だと思ってません……?」

◇◇◇◇

翌日、何とお父様がこっちの棟で夕食を取るとのお触れが来た。

側室とその王子達との夕食会って訳だ。ボクが死にかけてから生還を一応祝うって事らしい。

母様は朝からご機嫌で、何を着よう髪はどうしよう爪も肌も香水もって大はしゃぎだ。

ボクの生還祝いで来てくれるっていうのも嬉しいみたいだけど、多分そういう名目で側室全体へのご機嫌伺いもあるんだと思うよ。

でもそんな事言って母様のご機嫌に水を差すのは、無粋な男のする事だ。

ボクは未来のお嫁さんにとって、素敵な旦那さんになるんだからね。そんな事は胸にしまっておくんだ。

あとボクの生還祝いに、ボクを殺そうとした最有力容疑者がくるってのいうも面白いよね。

「まったく面白くありません」

「そうかな?シュールコントみたいで面白くない?」

「シュールコントとは何ですか?あと動かないでください」

ああ、シュールコントは夢の世界の言葉だったか。

そして今ボクは、メリエルによって夕食会への身だしなみの最終仕上げをされていた。

と言っても、母様みたいに結う髪も磨く爪も無いから、服を着替えて髪を梳いている位だけど。

準備が出来たので、食堂に向かう。母様は準備が長引いてるみたいなので、先に行っちゃえ。

食堂に入ると、ボクが一番乗りだったみたいなので、大人しく末席に座る。

お父様と側室達のシュールコントはともかく、お父様が来るって事はごはんはいつもより豪華だよね?たのしみ~。

まだ見ぬご飯に思いを寄せていたので、入り口から人が入って来たのに気付かなかった。

「あら、どこの田舎の子がまぎれ込んでいるのかと思ったら、リエト王子でしたか。

お元気そうで何よりですわ」

さっそく嫌味の先制パンチを繰り出したのは、第二側室のアンネ様だった。商家生まれの新人貴族の人ね。覚えてるかな?

その後ろにいるのは、アンネ様の息子で第五王子のディートハルト兄様だ。年はボクより5才上だから、10才かな。

いかにも賢そうな美少年で、アンネ様譲りの緑の髪はすこしくせっ毛だけど、それも何だか上流階級っぽい感じ。

ディートハルト兄様は、ボクをチラリと見た後はすぐに興味を無さそうに視線を外した。

ディートハルト兄様は生まれた時から王子様だけど、何せ家系は商人上がりなもので、他の者にバカにされちゃダメだってスパルタ教育を受けてるっぽい。すっごくお勉強が出来るらしいけど、基本死んだ目をしてるよ!大変だね。

「アンネ様、ディートハルト兄様、お久しぶりです。

ボクは元気いっぱいです」

イスから下りて挨拶をしたタイミングで、続いて第一側室のナターリア様と第七王子のノエル兄様がやって来た。

天使フェイスのノエル兄様のお母様だけあって、ナターリア様もとっても美人さんだ。隣国の公爵家のお嬢様だから、母様やアンネ様と違って生まれながらの上流階級感も出てる。

「ナターリア様、ノエル兄様こんばんは」

「ああ、生命力だけはあったのね」

「気安く兄様とか呼ぶな。お前とは生まれが違うんだよ」

挨拶に嫌味が返ってきたよ!

ナターリア様は隣国の王族の血も入ってる由緒正しきお家柄の方だからね、ノエル兄様はその思想をしっかり引き継いで、王族の血か怪しいボクの事が嫌みたい。

挨拶はしたので席に戻ると、ちょうど母様がやって来た。

「あら、田舎者は準備も遅いのね」

アンネ様の言葉に、ボクの脳内でゴングが鳴った。ファイッ!

「陛下のおいでになられるお時間には参りましたから、問題ございませんでしょう?」

「立場が分かっていないのかしら。位の低い者から待つのが当然でしょう?」

「それでしたら、アンネ様が最初に来られたんですよね?何せ、爵位を賜ったのはつい最近ですもの」

アンネ様の攻撃!『押しかけ側室がわきまえろ!』

母様の攻撃!『新参貴族がでかい顔すんな!』

両者共にそこそこダメージを負ってるぞ!

「陛下がいらっしゃる夕食会にそんなに飾り立てて、商人はやはり下品ですわね」

「あら、これは最新のドレスですのよ?そんなのも知らないなんて、田舎に情報が届くのはやはり遅いのね」

それを下の生き物を見る目で見ているナターリア様!さすがの貫録!側室内ではひとつ抜きん出てるね!

そんな側室バトルは、お父様の側近が入って来た事により、ピタリと止まった。

全員が席を立ち、お父様が入ってくるのを待つ。

ヴァルテ王国第三十七代目国王であるお父様の登場だ。

金茶の髪を後ろに流した精悍な顔立ち。確か今45歳だったかな。威厳と上品さを備えたイケオジって感じだ。

お父様が席に着いて、ボクらもイスに座った。夕食会の始まりだ。

給仕達が食事の用意をし始める中、お父様が一番遠い席のボクを見て声をかけてくれた。

「リエト。何とも無い様で良かったな」

「はい。ありがとうございます」

三日三晩こん睡状態だったのを、何とも無いって言うのかな?まぁ元気ですけど!

お父様がボクに一番に声をかけてくれたから、母様はにっこにこだ。

そこからお父様は、ノエル兄様、ディートハルト兄様に声をかけ、そこから側室方と話し出した。

給仕の食事の用意は、まずは離れた所に用意された毒見係の元へと並べられる。それを毒見係が一口ずつ食べ、その皿がボクらに来る。同じ部屋じゃないとすり替えられたりとか意味が無いからね。

「そういえば、今回の事でようやく毒見係を雇ったんですってね?」

正確には用意してもらえてなかったんだけど、まるで母様の不手際で雇ってなかったみたいにナターリア様が言ってきた。言外には「大事な王子殿下に毒見も付けないなんて」という非難がありありと分かる。

でもそれって王城の決定、つまりはお父様の決定だから、お父様が息子の安全を確保してなかったって非難にはならないのかな?ならないのか。

「ああ、聞きましたわ。

とても優秀で、護衛も兼任しているのですって?良ければ紹介してくださらないかしら?」

それに乗っかるアンネ様。

これはベディを公衆の面前に出して、こんなのを雇ってるなんてって言って恥をかかせたいんだな。となると、ベディの件はナターリア様の差し金かな?

現に母様は、すでに真っ赤な顔をして唇を噛みしめている。

母様が動かないのなら、ボクが動かないといけないよね。

「いいですよ。ベディ!こっちに来て皆様にごあいさつをして!」

ボクが立ち上がって毒見係のテーブルに呼び掛けると、母様は叫びそうな顔でボクの腕を掴もうとして…………止まった。

離れたテーブルから颯爽と歩いて来た背が高い青年は、シンプルだが仕立ての良い服と真新しい防具を身に付け、姿勢良くボクらの前に立った。

「リエト殿下の護衛兼毒見係を賜りました、ベネディクテュスと申します」

少し瞼が重そうだがキリリとした清潔そうな青年……髪を短く切り、無精ひげも全て剃ったベディがそう言って礼をした。

食卓には、ぽかんと口を開けたナターリア様とノエル兄様、アンネ様と母様。

えへへ、いいでしょ!

キレイに洗ったボクの護衛だよ!