軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02.転生王子、現状を自覚する

母様と医者のいなくなった部屋で、改めて自分の手を見る。小さい手。グッパをして、手の感覚を確認する。

「リエト様、どこかおかしい所がございました?」

さっき医者と散々問答をしていたのを聞いていたはずなのに、メリエルが聞いてくる。心配してくれているのだろう。

「ううん、大丈夫。ちょっとボクの確認をしていただけ」

「おかしいのは頭でございましたか」

うん、いつものメリエルだ!

ボク付きの唯一の使用人と言って良いメリエルは確かまだ14才くらいだったはず。夢の中の世界なら学生さんだ。いや、こっちの世界でも14才って言ったらアカデミー生か。

まぁそれはともかく、ツインテールの結構かわいい女の子なんだけど、お聞きの通り口がめちゃくちゃ悪い。ボクって主人のはずなのに、めっちゃディスられる。

言い方は丁寧なんだけどね、それが更にグサっとくるよね。

でもたった一人のボクのメイドさんだし、母様と違って本当にボクの事を心配してくれてるから全然大丈夫。

まだ夢の中の世界が今とぐちゃぐちゃになっちゃってる感じがして、ボクはボクの確認を続けた。

大きなベッドから下りて、装飾の入った姿見の前に立つ。みそっかす王子でも、一応王城レベルの最低限の物は揃えられているのだ。

母様より少し色の落ちた灰色の髪は今はちょっと寝癖が付いているけど、全然痛んでなくてサラサラだし、肌は白く滑らかそう。青灰色って言うのかな?目はまつ毛も長いしタレ目気味でクリッとしている。鼻も小さく、全体的にコンパクトだがなかなかの美少年……美幼児?ではないか。

夢の中のボクの事はぼんやりとしか思い出せないけど、彼女いない歴=年齢だったから、容姿的にはいまいちだった気がする。

それに比べ、ボクはなかなかの美幼児で、みそっかすだけど王子様なわけだ。

これはかわいいお嫁さんゲット確定なのでは!?

「ねえメリエル、ボクって結構かわいいよね?」

「もう一度お医者様を呼んだ方がよろしい様ですね」

着替えを済ませて身支度をしてもらったボクは、お腹が空いたのでメリエルと食堂に向かった。

お父様と第一夫人から第三夫人とその王子達は夕食は一緒にとるけど、ボクは基本こっちの別棟の食堂で母様と取る事が多い。主棟には呼ばれない限り基本的に行かない。

まだ病み上がりだから食事を部屋に用意するというメリエルに、ずっと寝てて体が固まっているから動きたいと言って食堂に行く事にした。

長い廊下を歩いていると、向こうから数人の人が歩いてくる。後ろに大人を引き連れた先頭はボクよりも少し大きい子供……第七王子のノエル兄様だった。

同じ側室の子なので道を譲るのもおかしいので、どうしようかなと思ったけど、ノエル兄様の後ろにいた護衛の人が前に出てボクの事を見下した。これはどけって事かな?

困っていたら、ほぼ押しのけるみたいな感じで護衛を始めノエル兄様たちが進んだ。と思ったらノエル兄様がボクとすれ違う時に立ち止まり、こっちを見た。

それはそれは侮蔑という言葉がふさわしい紫色の瞳をボクに合わせ、一言つぶやいた。

「なんだ、死ななかったのか」

ひ、ひぇ~~~~~~~!

立ち去る一向の後ろ姿を見送りしながら、ボクは心から震えた。

「リエト様、大丈夫ですか?」

「だ、だいじょうぶ……」

大人たちの威圧と真正面からの侮蔑と殺意にはなかなか肝を冷やしたが、それよりもボクの心を凹ます事があった。

「ねぇメリエル……」

「はい、お部屋に戻られますか?」

「ノエル兄様、美少年すぎない……?」

そう、天使のごとき容姿で父王様もお気に入りというノエル兄様が、近くで見るとはちゃめちゃに美少年だった事だ。

いや、前から知っていたんだけどね、夢の中の俺の常識がめちゃくちゃびっくりしてんの。

金色のサラサラヘアーに、同じく金色のまつ毛が周りを彩る紫の瞳は、宝石みたいにキラキラしていた。

ノエル兄様はボクよりも2才上だから、今は7才のはずだ。

幼児から少年に成り、すらりと伸びた手足。なのに赤ちゃんみたいに張りのすべすべ肌。鼻の形もそれ!ていう整ったもので、唇なんて何ならちょっと妖しい魅力がある位のピンク色で艶々だった。

まさに天使がいるとするなら、こういう容姿だろうという完璧な美少年だった。

ボクもなかなかの美幼児だと思ったんだけど、月とすっぽんとはこの事。すっぽんって何だっけ?あ、夢の中の生き物か。何で月と比べるんだろう。比べる対象おかしくない?

ああ、これはまさしく母様の「学校レベルだったらかわいい子」を完全に引き継いでいた。ボクも田舎に帰ればカワイイと言われるかもしれない。

でもノエル兄様を見た後だと、何て言うか……地味だなって感じ。

ううん、でもボクは末席だけど王子様なんだ!

容姿が地味めでも、実家がど田舎でも、王子様!

将来お城からは出る事になると思うけど、王家の血筋には変わりないから、あるだろう。

そう、政略結婚ってやつだ!

「どう思う?メリエル」

食堂で軽めの食事をしながら聞くボクに、レモン水を注ぎながらメリエルは面倒臭そうに答えてくれた。

「まぁございますでしょうね」

「そうだよねー」

病み上がりだからとあっさり目の味付けの魚のソテーをあぐあぐしながらボクも頷く。

政略結婚なんて言ったら愛のない義務的な家庭を想像しやすいけど、そこはほら!気の持ちようっていうか。

結婚できる事が確定しているなら、お嫁さんと愛を育めば万事解決じゃない!?

愛は育てるものだって、誰かが言ってたもん。

夢の中のボクは結婚出来なさそうだったけど、ボクは立場上結婚は出来る事が決まっているんだから、あとはその結婚相手と幸せな家庭を築くのみ!

それには相手にもボクを好きになってもらわないといけないよね。

王子だけどみそっかすだし実家の旨味も薄味だから、ボク自身が優良物件になるべきだ。

「よぉし、がんばるぞー!」

「リエト様、お行儀が悪いです」

フォークを掲げて決意表明をしたら、メリエルに叱られてしまった。

◇◇◇

「メリエル、女の子ってどんな事されたら嬉しい?」

「そうですね、何も言わずともご自分で身支度が出来る様になられたりですかね」

「それはメリエルがボクにやってもらったら嬉しい事でしょ?そうじゃなくて、いっぱんろんを聞いてるの」

あれから3日、毎朝医者の問診を受け、明日からはもう来ないって言ってたから、ボクは完治した。いや~良かった良かった。

ボクの幸せな家庭計画の為には、まずは自分磨きと女の子の喜ぶ事をマスターしなきゃいけない。幸いにも、夢の中とボクと違って、ボクにはメリエルっていう頼もしいアドバイザーが付いているからさ、こうやって色々相談してるわけ。大体適当に答えられている気がするけど、無いより良いよね。

「それよりもリエト様、奥様がお呼びの時間までもう時間がございませんよ」

「そうだった!急がなきゃ!」

遅刻する男はダメだよね。ルールは守らなきゃ!

母様がボクを呼んだのは他でもない、毒見役兼護衛が雇えたからその紹介だ。

毒見役と護衛と二人用意するって言ってた気がしたけど、一人しか無理だったみたい。これ毒見して毒に当たっちゃったら護衛もいなくなるって事?

母様に指定された部屋に入ると、母様の機嫌はとっても悪かった。

顔色は青く、眉間にしわが寄ったまま口角がピクピクしてる。

原因は二人の予定が一人しか用意できなかったからだけじゃないみたい。同じ部屋に立っている男を見て理解した。

何て言うのかな、背は高くて筋肉もしっかり付いている兵士らしき人なんだけど…………王城にいる様な人じゃないんだよ。

ぼさぼさの赤毛に無精ひげ。体格は良いのにちょっと猫背でだるそうな雰囲気があふれ出ている。明らかに新品の防具が何とも似合っていない間に合わせ感がすごい。

「リエト……彼が今日からあなたの護衛と毒見係をします……」

なんて言うけど、誰よりも母様がそれに納得がいっていないのがありありと分かった。

そうは言っても、護衛がいないのは危ないので、いないよりいる方が良いボクは、ボサボサ頭の男の人に向き合った。

「はい。よろしくお願いします」

話す時は身分の高い人からじゃないといけないから、そこでボサボサ男はようやく口を開く。

「あー……ベネディクテュス、といいます。よろしくお願いします」

あ、名字無いんだ。まぁこの様子で貴族ですって言われた方がびっくりか。

「ありえない……ありえないわ……。

リエトは王子殿下なのよ……。王子殿下の護衛が蛮族なんて…………」

母様がブツブツ言っているのが聞こえて、何となく事情を察した。

母様はボクの毒殺未遂で、仮にも王子が毒見役も護衛もいないからこうなったのだと田舎のお爺様に泣き付き、陛下にも直談判したらしい。さすがに実際死に掛けたのだから、お爺様の激怒もあって渋々付けられたのが彼で、母様的にあり得ない人選だったのだろう。

「奥様、お体に触りますので中庭でお茶でも飲みましょう」

母様付きのメイドさんに連れられ、母様退室。

残されたのは、3分前に出会ったばかりのボクと護衛とメリエルだ。

「メリエル、蛮族って何?」

さっき母様がブツブツ言っていた中にボクも夢の中のボクも分からない言葉があったので、メリエルにこっそり聞く。何となく、悪口みたいな気がしたのでこっそりと。

「蛮族ってーのは、東のクバラ地方の狩猟民族の事を指すんだろ。

俺はそこの出身なんです」

でも耳の良い護衛に聞かれて、本人に答えられてしまった。

クバラ地方って言ったら、うちよりも田舎でほぼ深い森で形成されていて、まだ未開の地もあった所だった気がする。

「おう。その未開の地に住む先住民族が俺の一族って訳でさぁ」

話に聞くと、ベネ……ごめん、もう一回名前良い?ベネディ……テゥ?テュ?ねぇ、ベディって呼んで良い?良いよね?ベディはクバラ地方出身で、腕に自信があったので王都に出て兵士になったらしい。

そんでもって、ベディの一族は森で生活していたせいで毒に耐性が強くて、今回白羽の矢が立ったとか。

これどっかの夫人の陣営からの嫌がらせ込められてるよね、多分。

田舎者には田舎者がお似合い的な?

実際ベディの礼儀はいまいちって言うか、一応敬語使ってるけど、ボクを王族として敬ってる感じはない。まぁそれは慣れてるから良いんだけど。

でも権力争い的には負け確定のボクの護衛なんて、よく引き受けたな。他の陣営から睨まれる上に、出世の可能性は限りなくゼロに近い。てゆーかゼロだね。おまけに危険な仕事。

ベディをあてがわれる以前に、他から全部断られた可能性も微レ存物件だよ?

「坊ちゃんの護衛と毒見でなかなかの給料でしたからね。

俺ぁ腕には自信はあるが、どうにも王都ってのはクバラを差別しやがる。俺より弱い奴らはどんどん出世するが、俺は身分の高い人には付けられねぇと言われてきたんでね、末王子でもマシでさぁ」

え?

「ベディが護衛に付けないのは、クバラのせいじゃなくてベディが小汚いからだよ、多分」

「え」

ベディのボサボサの赤毛の隙間から見えた茶色い目が丸くなった。