軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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明け方。私はいつも起きる時間に城にいた。

城の廊下の魔道ランプはガラスの百合だ。放たれる白い光は、眩しくもなく暗くもない。

暫く進むと、百合のランプが明滅を繰り返している。辿るように進んだ先に、うら若い女性と年かさの侍女がいた。私が、早起きして会いに来た人たちだ。

「照明は、三時間おきに見て回らなくてはなりません」

毎日、広大な城をたった一人で回り、睡眠も足りていないのだろう。やつれた彼女はそう言った。

「我々にその方法を教えてくれませんか?」

彼女は一瞬戸惑った顔をした。……一人でやるのは良くない。せめて助けなくては。

そして彼女が見せて来たのは、古代文字で書かれた古い解説書の写しだった。

「すみません。私では読めません。教えていただけませんか?」

再度お願いすると、彼女はまた驚いた顔をした。そして少し考えてから目を伏せた。

「これ以上、仕事を増やすことはできません。今日は天気が良くありませんから、昼間も見て回らなくてはなりませんので」

やつれて顔色も悪いのに、その目だけが魔道ランプの光で輝いて見える。

彼女の侍女であるマリアナは、私を睨みつけて言った。

「ミィナ様は、あなた方のために毎日身を削っているのです!これ以上、負担をかけるような真似はお止めください」

マリアナは疲れ切ったミィナを連れて、去って行った。

私は、城の設備管理局に戻った。暫くして局長が出勤してきた。

「シャミー、ミィナ嬢はどうだった?」

「その、話がかみ合わないというか……」

「相変わらずか」

設備管理局の局長は、顎を撫でながらため息を吐いた。

「陛下も議会も、ミィナ嬢には恩賞を出し、新たな住居を用意することを決めている。それなのに……上手く行かないものだな」

城には、長年古代魔法のシステムを支えている一族がいる。

彼らは後から住んだ私たちとは元々人種も文化も違った。混血が進み、すっかり人種の差もなくなった現在、古代魔法のシステムは老朽化していた。

城では既に最新の魔道具によるシステムへと移行準備が進んでいて、彼女の従兄は話を受け入れ、喜々として城を去っている。それなのに、まだ二十代であるミィナが頑なに新しいシステムへの移行を拒んでいるのだ。

恩賞は莫大だ。聞いたら、一生遊んでも使い切れないだろう額だった。

太古のシステムの条約があり、システムを管理する者が停止に同意しない限り、撤去は敵対行為とみなされてしまう。だからこそ、ミィナ自身に納得してシステムを譲り渡してもらわねばならないのだが、彼女は応じない。

最初に設備管理局の同僚が通達したのだが、それが良くなかった。

私の同僚は、ミィナの話を聞かないで一方的に話を伝えた。しかも王と議会の決定だと、古いシステムを馬鹿にしたような態度で。

結果、ミィナは頑なになり、城の魔道ランプの管理をやめようとしない。彼女がやめても管理を移譲しなければ、城の夜は暗闇になる。だから移譲させねばならないのだが、彼女はそれを拒んでいる。

私は夫のロンディスと食事をしながら、ミィナの話を相談した。

本来機密事情なのだが、ロンディスは城の者をみる医師の一人だ。精神的な病である可能性を鑑みて、局長の許可も得ている。

疲弊しているのにやめない彼女は心の病なのではないかと思ったのだ。

ロンディスは、黙って話を聞いた後で言った。

「彼女は、他にやりたいことがないんじゃないか?」

「やりたいこと?」

「そう。彼女にとって、城の魔道ランプの調整は辛い仕事だが……他にやりたいこともないんだ。疲れているせいで、それを考える暇もない」

「それでは、彼女が続けられなくなるまで放置するしかないわ」

「……まぁ、それが彼女の望みだろう。けれどそんなことをすれば、君や管理局、陛下も議会も、新しいシステムに切り替えられるのに、放置したと言われるだろう」

「そうよね」

「代々騎士だと、怪我をしてしまって騎士を廃業しなくてはならないという場合に、似たようなことがあるんだ」

怪我で突然仕事を失うと思えば、胃の辺りがきゅっとしてしまう。

「それが……飲んだくれの犯罪者になる者もいる。怪我を受け入れて新しい道が開けるまでは、恩賞があっても騎士団の準職員として雇ってもらっている」

「ミィナ嬢にも、そういう場所があればいいのかしら?」

「そこは……提案してみないと分からないね」

ロンディスはため息交じりに続ける。

「城の仕事を奪われたと思った者は、代替に納得しないことが多いんだ」

ロンディスの苦労を思い、私は手を伸ばして頭を撫でた。

ロンディスの言い分はよく分かる。城の外の仕事は左遷だと皆思う。犯罪者であれば簡単に処罰とセットで城に放り出せるが、功労者にそれはできない。

恩を仇にして返してはならない。しかしこのままではミィナが倒れてしまう。

ミィナのこだわりが、どこにあるのか分からない。まずはそれを知りたい。

「ミィナ嬢は体調を崩しそうなのだろう?……診に行こうか?」

ロンディスは男性だ。ミィナは普段人気のない城で侍女と仕事をしている。男性との接触がほとんどない。

「できれば違う人にお願いしたいわ。……その、相手は未婚の令嬢だから」

ロンディスは、はっとしてから苦笑した。

「分かったよ」

ロンディスは見た目がいい。未だに私の夫であることが不思議なくらいだ。

勝手に懸想されるたびに、私もロンディスも面倒に巻き込まれてきた。だからいらない火種は抱えないことにしているのだ。

翌日、私は局長の許可を取り、城の仕事を辞めたミィナの従兄に会いに行った。

「あいつ、まだやっているのか?」

ミィナの従兄であるエルドは、唖然としていた。

「はい。それで、ミィナ嬢について少しでも教えていただけるならと思いまして」

大きくため息を吐いたエルドは言った。

「心当たりはある。ただ、文官様に話すにはちょっと現実離れした話なんだが。……おとぎ話だよ」

「どんなことでもいいんです。少しでもミィナ嬢のことを知れるのであれば」

エルドは苦い顔をした後で言った。

「魂の片割れだよ」

エルド曰く、古代からこの土地に住む者は、生まれ変わっても出会えるようにと魂同士をつなぐ魔法を使っていたと言う。

「あいつは、幼い頃からこの魔法に夢中でさ、片割れがいると信じてるんだ」

「あの、それで本当に見つかるのですか?」

「さあね。古い記録で、使われたのは事実だが、本当に出会えていたのかは分からないんだ」

エルドはお茶を口に含むと続けた。

「うちの一族は、古代文字や古代魔法体系なんかの勉強を三歳から始める。酷い仕事だから長生きもできない。子どもに急いで知識を詰め込むんだ」

「それは……ちょっと問題ですね」

「ああ。ミィナはさ、普通の女の子だったよ。……魂の片割れの魔法の話は、俺たちの爺さんが、ミィナが逃げ出さないように縛るものだったんじゃないかって思っている」

きっと、まだ見ぬ伴侶に夢を馳せたのだろう。そして、他に縋れるものが無かったのだろう。そう思うと、ミィナたちの祖父が酷い人のように思えてくる。

顔に出ていたのだろう。エルドが笑う。

「ミィナに同情しているのか?あいつの年齢考えれば、信じている方がおかしいと思うけど」

エルドは笑いを収めると、静かに言った。

「俺自身、古代魔法の一部を知っているだけで、他は何も知らない。魂の片割れは別にしても……ミィナが不安になるのは分かるつもりだ。あいつには帰る家もないしな」

「ご実家はエーダ伯爵家ではないのですか?」

「乗っ取られた。今当主になっている弟は、エーダの血筋じゃない」

前夫人の不義の子ということだろうか。

「分かるのですか?」

「ミィナが城に行くことになったのは、弟が古代魔法を使えなかったからだ。古代魔法は血で使う。同じ親から生まれて使えないなら、当然そういう理由になる」

唖然とする私に、エルドは肩をすくめる。

「あの魔法はもう限界だ。血筋や爵位がどうだなんて……壊れてしまえば終わりだ」

この人もミィナも、子ども時代を犠牲にしてまで覚えたものが壊れていくのを、ただ眺めているのだ。そう思うと、切なくなる。

「いつ、限界が来ますか?」

「三年は持たないと思う。そこまで待てるなら、ミィナをそのままにしておく方がいいかもな」

エルドの家を出て歩きながら考える。

仕事そのものが無くなるまで待つのが、ミィナにとっての最善なのかも知れない。

しかしその終わりは、明日かも知れないし、一年後かも知れないのだ。ある日突然仕事を失い、城しか知らないのに、城から出される。……エルドは老朽化を意識して覚悟をしていたようだが、ミィナはそんな風に感じているのだろうか。