軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談「ライラック」

レオ兄さんへ

兄さん、元気ですか?お二人の結婚式が今から楽しみ!

先日、約束していたミレア姉さんのウエディングヴェールが完成したから一緒に送ります。

白一色だと物足りなかったので、ミレア姉さんの髪色に合わせて紫色の花で飾ったらめっちゃいい感じになりました!

*──*──*──*──*

「スノウモスルァー、せっかく繭分けてくれたのにこれをヴェールにするのマジ難しい!」

ご主人がお困りだ。使える織り機がないとか加工依頼できるところがないって言ってる。

ご主人のお兄さんと、ミレア姉さんが結婚するからウエディングヴェールをプレゼントしたいって言ってたから仲間たちの繭も分けたばかりだよ。

「ご主人のお兄さんとお姉さんなのに結婚するの?」

と風乃に聞いたら

「ミレアはリシアンのお姉さんじゃなくて初恋の人だよー」

だって。ご主人はミレアさんのことをお姉さんみたいに慕っていて「ミレア姉さん」は呼び名で本当のお姉さんではない。

聞いているうちによく分かんなくなったけど、ご主人の大切な人っていうことですね!

「うん、それで合ってるよー。リシアンはお兄さんのこともミレアのことも大切」

「でも相変わらずリシアンは鈍感だよねぇー。ミレアのこと大好きなのに気が付いてないのー」

「失恋決定でリシアンかわいそう」

精霊たちはみんなそれぞれ勝手に喋るから、お話するのが難しい。

そして「リシアンを慰める会」が結成されていた。

「とりあえずしばらくはみんな、リシアンにやさしくするんだよ!」

「お手伝いもするー」

それ、当たり前のことじゃないかな?ご主人はいつもやさしくしてくれるから僕もそうしたいし、何かお手伝いできることがあるなら頑張る。僕も「リシアンを慰める会」に入ることにした。

そうだ、ご主人が織物のことで困っている。

あのご主人が困っていると伝えてきたということはもしかして、僕に何とかしてって命令だったのかもしれない!

ご主人はやさしいからあんまり命令をくれないのがちょっとさみしく思っていたところ。

織物なら……それが得意そうな魔獣を従えればいい。僕は群れの仲間に集まるように伝える。

「ご主人からの命令で織物が得意な魔獣を捕獲する!」

あの魔獣は僕たちの天敵だけど……50を超える大群となった僕の群れにこの森で敵うものはいない。

捕獲作戦とフォーメーションの確認をして、僕たちはあの魔獣を探しに行くことにした。

厳選して選んだ魔獣はふつうよりもずいぶんと大きな個体だ。僕たちと同じくらいの大きさがあるんじゃないかな?

ふつうのはご主人の手くらいしかないけど、見つけたのは僕たちと同じくらい大きい。

こいつならご主人に相応しいかな。

ギチギチと歯を鳴らす――本来は僕たちの天敵である 玄蜘蛛(アトルムアラクネー) 。ふわふわした黒い毛並みはつやつや。

……僕たちのが白くてもふもふってご主人がよくほめてくれるんだからね!

「フォーメーションA!」

僕の掛け声で群れの仲間があちこちに散らばる。

ご主人が「群れの皆も強くなるように」って命令したから、僕たちはとっても強くなったんだよ。

僕たち以外の群れなら、こんなに大きな玄蜘蛛には一方的にやられちゃう。

とっても細かく糸を張り巡らせて、精霊を捕まえては無理やり動かす悪いやつ。

精霊救出班と玄蜘蛛捕獲班とにわかれて、勝負は一瞬で終わった。

ご主人がたまに言う「フルボッコにしてやった」っていうやつです。

捕まっていた精霊は皆逃がせた。すーっごくいっぱい捕まえてたよ。

たぶん糸を動かすのがこの玄蜘蛛はそれだけ上手だったんだと思う。

虚ろな目でガタガタ震える玄蜘蛛はすっかりおとなしくなったから持って帰る。

ご主人が着てるお洋服みたいな布を作らせたいんだよね?今からしっかり練習させます。

玄蜘蛛には早く織れるようになれと交代で指導する。ご主人をお待たせしたくないからね。

僕たちは手の形が織物に向いてないもん。玄蜘蛛なら8本もあるんだよ?

だから……できないわけがないよね?猛特訓で「まぁこのくらいできればご主人に報告できるな」って感じになったよ。

風乃にご主人を呼んできてってお願いしなきゃ!

◇──◇──◇──◇──◇

「風乃からスノウモスルァーが呼んでるって聞いたけど、どしたの?群れになんかあった?」

心配した様子で、翌日にはご主人が来てくれた!

「え?繭からこんな布作ったの?すげぇな!」

ご主人はいつも褒めてくれるから大好き。

「どうやったの?スノウモスルァーたちがこれ作ったの?」

……本当は僕たちがしたかったけど、無理だったし。そっと玄蜘蛛の方を示す。

「うわっ、黒いから気付かなかったけど何このバカでかい蜘蛛……」

よかった、ご主人はあれをかわいいと言わないみたい。何年か前に裁定でお城に呼ばれたときにも、小さい玄蜘蛛がいたからついビームを撃っちゃったけどそのときも何も言わなかったもんね!

『スノウモスルァーたちがリシアンのために捕まえてきたよ。その蜘蛛、とっても織物が上手なんだって!』

間違ってもご主人に手を出さないように、玄蜘蛛は僕たちが見張っている。

「マジ?スノウモスルァーたちが捕まえてきたんだ。ありがと!」

よしよしと撫でてくれるご主人に仲間たちも集まって撫でられる順番待ちをしている。

「ウエディングヴェールだから……これよりもっと薄くて透けてる布で、柄はミレア姉さんが好きなエルダーフラワーにしたいんだよね!ミレア姉さん香りがいい小さい花が好きだし」

ご主人、とっても楽しそう!風乃に頼んで、ご主人にウエディングヴェールの完成図は描いてきてもらっている。

エルダーフラワーが細かく描かれていて、ここは刺繍で立体感をとかメモが書いてある。

玄蜘蛛は白目をむいているけれど、ご主人の描いた貴重な絵だよ?ちゃんと見て!

「それにしてもこの蜘蛛さぁ、何この座布団サイズ?益虫だからいいけど」

辺境ってやっぱ色々デカくなるんだな、とご主人が言っている。

これは特別に大きな個体なんだけどね?

「まぁ、頼むな。座布団」

ぽんぽんと玄蜘蛛を撫でたご主人。こいつとも従魔の契約を結ぶんだなとちょっとムッとした。

僕の仲間がわざと震えているのとは違って、座布団こと玄蜘蛛は本当にプルプルと震えながら頷いていた。

そして厚かましくもご主人と一緒にここを出ようとしている。

「じゃ、また近いうちに来るから!お前たち仲良くやるんだぞー」

ご主人は自然な様子で座布団のことは置き去りにした。座布団は群れの仲間に捕まった。

ご主人の描いたウエディングヴェールを完成させるまで逃げられないだろう。

座布団はどうにかしてここを出たいんだろう、必死になってレース編みやら刺繍を覚えている。

座布団は元々が僕たちの天敵だし、仲間たちからは相変わらず厳しく当たられていた。

けれど風乃からの

「座布団は人間が椅子に座るときに敷くことがある物で……まぁ、敷物だよ」

との一言で「敷物なのか、じゃあたぶん下僕にするぞ」っていう意味だったんだろうなと今では不憫がられている。

座布団はそれを聞いて泣いていた。

そして僕たちもびっくりする早さでウエディングヴェールを完成させた。

「もう出来たってマジ?」

ご主人の周りに群れの仲間も集まる。でも真っ先に抱えられるのは僕!

純白のウエディングヴェールには繊細なエルダーフラワーの刺繍がたっぷりと。裾には細やかなレース編みで縁取られている。

「すっげぇ、綺麗じゃん!」

座布団もご主人に褒められて満更でもなさそう。

「あー……せっかくこれ染めて持って来たんだけど、どうしようかな」

ご主人が持って来たのは僕たちの繭から作った糸を染めたものだった。

淡い紫色や桃色など色とりどり。 幻蚕(ファントムモリス) の繭は染めるのが難しくて、淡くしか色付かなかったんだって。

「そうだ、裾のレース編みのとこにはこれで刺繍の花を足してよ!こんだけすごいのできるなら、それも出来るよな?」

ご主人、すごくうれしそう。

「ミレア姉さんの髪色に合わせてライラックとかいいかも」

近くに咲いていた淡い紫色のライラックを摘んで、座布団に渡している。座布団、白目をむいてないでちゃんとご主人のお話を聞くように。

座布団は本物のライラックの花そっくりの刺繍を恐ろしいスピードで縫っている。

「こっちの淡い桃色はルナリアへのリボンにしようかなぁ」

楽しそうなご主人の話を僕たちはうんうんと聞いている。座布団だけが泣きながら刺繍職人と化していた。

「あとさぁ、スノウモスルァー。最近精霊たちがやたらやさしくて俺のこと甘やかしてきて……気持ち悪ぃんだけど、何なんだろうなー」

……失恋したリシアンを慰める会って言ってたよ?そんな僕の声はご主人には届かない。

それからご主人は布物を作るときは真っ先に座布団に相談に来るようになった。

伸縮する包帯がほしいとか、それよりもっと強く固定はできつつある程度の伸縮性がほしいとか色々。

その度に座布団は泣きながらも、張り切ってご主人の要望に応えている。

僕たちはそんなご主人のために、今日も糸を吐く。