軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38話「反撃の狼煙」

「リシアンが最後にいたのは、医官部の研究室で間違いありません。また間違いなく王城から出た形跡はありません。荷物も全て調べています」

ルミスからの報告を受けて、リシアンはやはり王城内のどこかにいるのだろうと思考を巡らせる。ルイシンもザファルドにもうじき接触するはずだ。

引き続き足取りと城内の探索は続ける。

「今すぐにイグナート兄上にお伝えしたい事があるんです!」

外にいるのに響くこの声はアグニスか。

アグニスもリシアンと親交があるし、もしかしたら何か新しい情報が入るかもしれない。

「アグニスをここに呼んでいい。通してやれ」

侍従にそう伝えて、アグニスを招き入れる。

「第一王子殿下……!」

慌てて臣下の礼をとるアグニスに楽にするよう伝える。

「イグナートに用があるのだろう?ここで話して構わない」

表向き、私は謎の病で寝たきりだということにしてあるがアグニスなら知られても構わないだろう。

「はい!王弟殿下にお伝えしたいことがあるのですが取り次ぎをお願いしたく思います」

「私ではいけないか?」

「いや、その……リシアンが自分絡みで何かあったときは王弟殿下に知らせてほしいと第三騎士団に言っていたようで」

歯切れが悪く話すアグニスだが……リシアンが絡んでいるのなら、待っていた情報だ。

「叔父上にも伝えよう。話してみなさい」

そう言うと……

「リシアンの愛馬が……ゴルディアスが王城内に現れて、第三騎士団が混乱しています」

……思っていたのとだいぶ違った。

「それはリシアンの馬で間違いはないのか?」

「はい!私も確認しましたが、ゴルディアスで間違いないです。第三騎士団にも元辺境の冒険者ギルド所属の者がいるのですが、あれは確かにゴルディアスとのことです!」

アグニスもよくリシアンと第三騎士団の鍛錬に参加していたから、声を掛けられたのだろう。

兄のイグナートが私の護衛騎士であることからも、王族へ取り次ぎやすいと思われたのだろうが……。

「……馬くらいで、なぜ第三騎士団が混乱している?彼らは魔獣特化部隊だろうに」

「ゴルディアスはかなり大きな馬でして……それと精霊様を多く引き連れていて誰も手が出せません。第三騎士団の演習場に現れたので、魔獣かと思い討伐しようとしたらリシアンの愛馬ということが判明し今は抑えるのに手一杯です」

……主人が主人なら馬も特殊なタイプなのか。

「セイたーん、兄貴からオッケーもらえたよー」

「セイラン殿下は取込み中じゃないんですか?」

叔父上とレオナリスか……。

「全員、中へ」

もういい。全員関係者だ。いっそ全員で情報を共有するほうがマシだろう。

「ルミスも探索は一時中断してこちらに来るよう伝えてくれ」

私付きの影にそう言って呼び戻すことにする。

ルミスも戻ってきたところでまずは一つずつ聞いていこう。

「あ、ごっめーん。二代目に何かトラブったら俺の名前を出すといいよって許可してる」

第三騎士団が叔父上に助力を求めたのはそれでか。

「ゴルディアスなら私が何とか出来るかもしれません。あの子は賢いので大丈夫だと思います。きっとリシアンが帰らなかったので心配して来たんでしょうね」

……レオナリスは平然としているが、いくら賢い馬でも王城内に侵入すること自体がまずおかしい。それを何とか出来そうと言うならレオナリスにそちらは任せよう。

「レオナリスとアグニスは第三騎士団のもとへ。その前にレオナリスは何の報告だったんだ?」

「これをトピリア侯爵邸から届けてもらいました。何かの役に立つかもしれないと思いまして」

何の変哲もないロープだが、これは?

ルミスとアグニスは「これか」みたいに頷いているが……。

「あぁ、例のリシアンのロープですね!」

リシアンのロープというだけで嫌な予感しかしない。

「リシアンの従魔の幻蚕の繭から取れた糸が使われています。ある程度の魔法は無効化できるので簡易魔法結界となります。ザファルド殿のところへ行くには必要かと思い準備しました」

このどこからどう見てもただのロープに付与された能力にしては破格すぎないだろうか。

いや、話には聞いてはいたのだがそれなりの見た目の代物とばかりに思っていた。

「……ゴルディアスはどうやってここに?」

黙っていたルミスが口を開く。

「精霊様たちを大勢引き連れてやって来たようで、第三騎士団ですら手出しが出来ないんだ」

早く行かなくてはと立ち上がるアグニスに

「……逆ではないでしょうか?精霊たちがゴルディアスを連れてきたと思います。あの馬、精霊たちと意思の疎通ができるように見えたのですが」

やりかねない。他ならぬリシアンの馬だから、そうであってもおかしくない。

ルミスが言うには 大牙熊(グラズバルト) 討伐の際にも、精霊たちとリシアンの馬は何の指示がなくとも動いていたそうだ。

精霊たちと馬がリシアンの救出に向かおうとしているのだろう。強行突破された場合は目立つ。

これ以上ない程に目立つ。今ならまだ第三騎士団が抑えているなら。

「いっそ第三騎士団も巻き込むか」

ザファルドのところには 玄蜘蛛(アトルムアラクネー) もいるはずだ。

彼らはこの手の魔獣に関しては詳しいだろうし、討伐依頼をするには適任だ。

最少人数で事を進めたかったが上手くはいかないものだ。

❖――❖――❖――❖――❖

小太りのオッサンが上機嫌でやって来た。何なの、情緒不安定なのかな。

「こちらの言葉が分かる精霊がいるとはな……ルイシン殿下がこちらに来たときがお前の終わりだ」

「そんな……」

うん、全く分からん。ただ言ってることからして、とりあえずショックを受けたような顔をして俯く。

「やっと契約精霊簒奪魔法の改良も成功したのだ。これでギンケイ様のもレオナリスの精霊も私のものになる」

「はぁ?!ふざけんなよ、てめぇ!」

兄上の精霊にまで手を出すとは許せない。

「立場が分かっていないようだな」

手枷は邪魔だし、動きにくいけどこんな運動不足のオッサンには……って、魔法は反則じゃね?

致命傷をっていうよりは、甚振るような行為に近かった。暴力に慣れてはいないんだろう。

受け身を取ってなるべくダメージは少ないようにはしていたけど、痛いもんは痛い。

「ルイシン殿下がお見えになりました」

終わったのは、俺に何か盛ったやつが来たときだった。

「お前も、もう終わりだ!大人しく見ておくがいい」

息が上がったオッサンが出て行ってから、すっと立ち上がる。

トントンと爪先を蹴って動きを確認する。うん、痛みはするけれど特に骨も異常なし。

俺が黙ってやられっぱなしになるわけがないじゃん?

『ありがと。じゃ、最後にこれもよろしく』

首の魔道具を指で引っ張る。

『……そこは危ないからやだよー』

ふるふると首を振る水属性の精霊。手枷とかの鎖はこいつに切ってもらった。

いやー、水って鉱物を切れるだけあってやっぱすげぇわ。

『大丈夫だって。こんなのがあるって教えたばっかなのに上手く使ってるじゃん、ウォーターカッター』

お前ならやれると言って聞かせる。意を決した様子で魔法が発動する。

『これ、さっきと違って中々通んない……』

半分くらいだろうか、切れ目が入ったところで首にチリッとした痛みを感じる。

『リシアン……!ごめんなさい』

ちょっと皮膚が切れただけど思うんだけど、深手ではないからまぁ……。

震える精霊はもう魔法を発動させるのを怖がってるから残りは……力尽くで引き千切る。

『ほら、俺は元気だから気にするな』

舐めた真似をしやがって……千切れた魔道具はそのまま燃やす。

『リシアン、見ーつけた!』

いつもの火属性の精霊がどこからともなく現れる。

「来るのが遅ぇよ」

助けに来るならもうちょい早く来い。

『さすがにリシアンが魔法を使うとかしないと分かんないってー。昨日ちょっとだけ使おうとしてすぐ止めちゃうから探すの大変だったんだよ?』

はいはいと火のやつをあしらう。

「さて、反撃だ」

小さな光がどこからともなく現れて、周りを飛び始める。見知ったやつらが次々に集まってきた。

小太りのオッサンが出て行った方向へ向かって歩き出すその後ろで

『魔王……?』

とか小さい声で呟く水属性の精霊が、呆然として俺たちを見ていた。

反撃の狼煙をあげるように、千切った魔道具からはまだ細く煙が出ていた。