作品タイトル不明
33話「兄上、醤油を作りました」
「二代目!今日は我らが魂の故郷の味、醤油を作ろうではないか!」
薬師たちとの合同演習という名の指導が一段落したところでギンさんがやって来た。
ギンさんと話してると何となく日本のことも思い出してきて「あぁ、そう言えばそんなのもあったな」ってことが増えた。
醤油ってあれだよね、調味料。黒いしょっぱい液体のやつ。
「ギンさん、覚えてんのに何で作んなかったんですか?」
そう聞くと
「大豆を使うことくらいしか分からないからね!」
いい笑顔でそう答えてきたけど、俺もそんくらいしか分かんねぇよ?
とりあえずギンさんが今まで集めた野菜や果物がある畑へと行く。王族の権力と行動力とで、若い頃に色々集めたらしいよ。
カカオとかライチ、バナナなんかもあるんだって。
「マジで王族でよかったと思ったよね」
って言ってるけど……まぁ、よかったね?
「あ、あの主食のやつはないんすね」
広い畑を見てそう言うとギンさんが打ちひしがれた。
「ない……。米が!稲だけがっ……!」
ごめん。俺、パンでけっこう満足してる。わりとふわっとした記憶しか残ってなくてよかった。
何か色々と覚えてると大変なんだなって思った。めっちゃ探したけど、米だけはマジで似たやつすらまだ見つかんないらしいし、まだ諦めないんだって。
気を取り直して大豆の収穫。二人で精霊たちに手伝ってもらうと枯らしたり、逆に成長を早めたりすることだって可能だ。
「たぶん大豆だから茶色いのを収穫であってますよね?」
「うん、このくらいのでいいはず……」
それで中の豆だけ取り出す。……ここから?
「とりあえず炒めて乾燥させてみよう!」
ギンさんより、俺のが調理には慣れてるから大豆を炒めてみる。カラカラと香ばしい感じに仕上がった。
そのまま食べてみると……何か懐かしいかも。
醤油は液体だったから、細かくした方がいいだろうと炒った大豆を粉状にしてみる。
「きな粉じゃん!」
ギンさんがそう叫ぶから、言われてみたらそうか……。これは砂糖を混ぜたらおいしくなるやつ!
早速混ぜてみるといい感じ。塩もほんの少しだけ入れて……って誰が言ってたんだっけ?
「ここに米が……餅があったなら……」
って、まだギンさんは言ってるけど、ドーナツとかにかけたらそれはそれでおいしくなると思う。後で試してみよ。
粉にするのは何か違うなっていうことで、今度は水に入れて柔らかくしてみる。
「あ、確か発酵させるんでしたっけ?」
そんな感じの作り方だったはず。発酵だよ、発酵!とギンさんと魔法を駆使して発酵を進める。
傷まないように魔法で人体に害がある菌は排除してくれた。……やっぱこの人、医官総長なだけあるわ。
発酵が進むと……腐ってはない。魔法を使ってるから、腐ってはないけど臭ぇ。何だ、コレ。
混ぜてみるとめっちゃ糸を引くんですけど。
「納豆キタ━━━━(°∀°)━━━━!!」
……俺ら、醤油を作ってんじゃなかったですっけ?ギンさんはめっちゃテンション上がってんだけど、マジでコレを……食うの?
俺はあんまり前世の食べ物に未練はないんだけど……、そもそもそこまで覚えてもなかったし。
わりと今の食生活にも満足してる。野菜のえぐみも自分の畑では何とかなってきたしな。
それより純粋にこの世界で糸を引く異臭を放つ食べ物なんて出会ってないから、違和感が半端ないんだけど。
ギンさんは躊躇わずに、出来上がった納豆に砂糖を入れてよく混ぜてる。ガチで食うの……?
「うっわ……懐かし。ここでまた納豆が食べられるなんて……」
噛み締めるように食べてるけど。ねぇ?その食べ方で合ってんの?
「あっ、二代目もいる?ごめん、けっこう食べちゃったけど……」
そう差し出されたけど
「……いらない」
無理だった。……納豆って砂糖を混ぜて食うんだっけ?
頑張って思い出しても、卵とネギを入れてた気がする。あとやっぱ……醤油じゃね?てか、醤油作りは?
ギンさんが納豆のお代わりを作り始めたから、俺は大豆のまだ青い実を収穫して茹でた。このくらいならね、何とか思い出した範囲でもできそうだったから。
茹で上がったそれに塩をまぶして、簡単だけどうまいよね。あとは魔法でちょっと冷やしてと……
「枝豆ー!!」
黙々と食べてたらギンさんがやって来た。
「いります?」
そう聞いたら結局、半分くらい取られた。ギンさんの畑のだからいいんだけどさぁ。
「ビールがほしい!」
いや、まだ昼だから。てか、ギンさんは仕事中なんじゃ?
いつものようにギンさんは護衛騎士に回収された。
「まだ!醤油ができてないからー」
と叫んでいる声が次第に小さくなっていくのはシュールだった。
ちなみに完成したのはきな粉と納豆だけ……あとの何とも言えない失敗作はどうしようか。
肥料にはなるかなと思って畑に返した。ごめん、だって他のは食えたもんじゃなかった。
侯爵邸に帰ってから兄上に報告してみた。ギンさんと新しい調味料を作っているけど、うまくいかないことを。
兄上はここに来てからずっと邸内の研究室にて新薬の研究なんかをしている。
ザファルドの野郎がいるせいで、まだ王城には戻れないからな。
「どんな調味料が作りたいんだい?」
兄上は今やってる研究に行き詰まっているみたいで、息抜きがてら力を貸してくれるって。さすが兄上。
「大豆を使って、しょっぱい黒い液体の調味料を作りたいんですけど……。たぶん発酵させるんだろうなってとこまでは分かったんですけど中々うまくいかなくて……」
そんな相談をして数日後。兄上が瓶に入った白い粉をくれた。
「はい。これを混ぜて作るといいよ。手順も一緒にね。ただ配合までは分からないから王弟殿下と相談して頑張るんだよ」
「……兄上、これは?」
「麹菌というカビの一種だね。これのおかげで僕の研究も一気に進んだよ!」
そう言って頭をポンポンと撫でてくれた。うん。何かよく分かんないけど兄上の研究が進んだならそれでいっか?
そしてギンさんと兄上がくれたメモを見ながら、再度醤油作りに挑戦する。
「あ、小麦もいったんですね」
「麹菌とか俺たちだけじゃ無理なやつ。え?レオナリスくんすごすぎない?何者?」
「兄上は昔から何でも出来るんで!兄上に聞いたら解決するんです」
兄上を褒められて上機嫌な俺。
熟成とか時間経過がいるようなところは、ギンさんが王族の豊富な魔力でゴリ押しして突破した。忘れがちだけど、たまに王族っぽいことするんだよな。
塩が少なすぎて薄茶色い微妙な何かができたり、最後の火入れで失敗して謎の固形物質ができたりしながらも何とか完成に近いものができた。
指につけてそっと舐めてみると
「醤油じゃん!」
「何これ、甘くない?!」
え?何か反応が分かれた。やった!ついに完成したと思ったんだけど……。
「こういうもんでしょ?完成じゃないの?」
「いやいや、二代目。この甘みはおかしいって!」
納豆のときから思ってたけど、何かギンさんと味覚がいまいち一致しない。
「てか、ギンさん納豆には砂糖ぶち込んでたじゃん?醤油はこんなもんで、別に甘くはないじゃん」
「いやいや、納豆は砂糖をいれてもいいやつだから!醤油はもっとしょっぱいものだよ?!」
しばしお互い譲らなかったけれど
「……地域差か?」
ギンさんが、日本にはそれぞれの地域で好まれる味があるらしい。「ぬるぽ」「ガッ」が通じたあたり、時代が違うわけではないから地域による差があるのかもしれないと。
「二代目、どのへんの出身とか覚えてる?俺は北の方出身なんだけど」
「え、覚えてないけど野球ならパの方!」
俺はどこら辺の出身なんだろ。言われてみたらちょっと気になってきた。
「パの方か……」
「うん!どの辺か絞り込めた?」
ワクワクしてそう尋ねると
「むしろ北から南の方まで候補は広まった……」
何でだよ。
とりあえず出来た甘い醤油はギンさんが俺にくれた。自分で使う分と……ミレア姉さんへのお土産にしようかな。珍しい調味料だし、ミレア姉さんなら新しい料理を作ってくれそうで楽しみだ。
ギンさんはまだ醤油チャレンジを続けるらしいよ。俺はとりあえず満足がいくものができたし、もういいかな。ギンさん頑張れ。
そう思いながら、また夜になっても研究をしている兄上のところに差し入れを持って行く。
今日は何にしよっかな。こないだは甘いきな粉ドーナツだったから、今日は醤油で味付けをした軽食にしてみようか。
そう思いながら、侯爵邸の厨房を借りに行く。
「懐かしい気持ちになる味わいだね」
って、こないだ兄上も言ってくれたし……俺も炒った大豆を食べたときにそう感じたから、何となく懐かしさを思わせることのある食べ物なんだろう。素朴な味わいだしな。
子爵家にいた時は今とは逆で、兄上がよく俺に差し入れにって色々持ってきてくれたことを思い出す。
「リシアン様、また来たんですか?」
すっかり顔馴染みになった厨房の面々に挨拶をする。
「今日は何かいいことでもありました?」
「新しい調味料ができてさー、とりあえずまた一緒に試作をお願い!」
その一言で厨房は俄に活気に溢れる。
さて、今日は何を作ろうかな。厨房の人たちの助けがあれば、兄上の口に合うものもきっと出来るだろう。