軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26話「兄上、これは手合わせです」

男四人の旅ってどうよ?とか思っていたけれど、これが中々に楽しい。

二台に分けた馬車は結局、ゴルディが他の三頭よりかなり大きいので……ゴルディだけで一台の馬車を曳いている。中は飼い葉だし、道中で減っていくからゴルディの体力ならいけるはず。

二頭立ての馬車の中には兄上と、俺たちの荷物。残る一頭はアグニスとルミちゃんが交代で馬車の近くにて周囲の警戒にあたっている。

辺境から少し離れると盗賊とかも出るから警戒が必要なんだよね。辺境付近ではすぐ手練れの冒険者に捕まるだけだから、かえって安全なんだけどな。

とりあえず俺とゴルディはのんびり着いていくだけでいいから気楽。森の中と辺境の街くらいしか道も分かんないし。

王都までのルートはアグニスたちに任せよ。

お昼にとミレア姉さんが作ってくれていたのはサンドイッチだった。葉物野菜になんかやたらうまいドレッシングと鶏のハムとか、卵とチーズのにベリーとクリームチーズの甘いやつとか色々。

「アグニスお前、それ何個目だよ?食いすぎ!」

「すまない!おいしくてつい止まらなくなったんだ」

爽やかな笑顔で言っても許されねぇよ?

「リシアン、アグニスくんは育ち盛りだから」

兄上、のんびり笑ってないでそいつを注意してください。育ち盛りなら俺もアグニスと同い年なんですが?

何か兄上、アグニスに甘くね?面白くねぇなー。

それに対してルミちゃんは大人しく黙々と……一口ちっちゃ!

「ルミちゃんはもっと食えって!今でもこんな細いのに……」

これはか弱い生き物……!たんと食え。

「自分はこれくらいで大丈夫なので」

淡々と答えるルミちゃん。

「具合悪くなんない?とりあえず甘いの食う?」

「もっと少なくとも十分です。そういう訓練も受けていますので」

王家の影、やべぇな。とりあえずゴルディ用の角砂糖を少しルミちゃんに分けた。これなら小さいし、大丈夫かなって。

「リシアンもすっかりお兄ちゃんだねぇ」

そう言って穏やかに微笑む兄上。

うん、その笑顔は眩しくて素晴らしいのですが俺もルミちゃんも成人男性です。そういうのじゃないと思う。

ルミちゃんのほうを見ると……すげぇ微妙な顔をしてる。ねぇ、それどんな感情なわけ?

ゴルディ以外の馬は馬車を曳くのと警戒にあたるのとでローテーションを組ませてるから、休憩を挟みながらの道中。

切っ掛けはなんだったかはよく分からない。とりあえずアグニスにイラッときたんだと思う。

貴族としてどうのとか、王族にお会いするかもしれないからその言葉遣いはだとか?

「教えてあげるよ!」

上から目線で言ってんじゃねぇよ。俺だってやろうと思えばできるし、休憩の度に絡んでくるのがマジうぜぇ。

先に掴みかかってきたのは向こう。煽り耐性ないのか、お前は。そこに足払いをかけたのは俺。

この辺りで兄上に見つかって

「あぁ、手合わせかい?元気だねぇ」

なんて、のほほんと言ってくるから……。

「はい、兄上。ただの手合わせですよ。盗賊も出るかもしれないですから、お互いの力量を把握するのも大事かと思ったんで!」

そういうことにした。そしてルミちゃんも巻き込んだ。「解せぬ」っていう顔をしてた。

そんなわけで休憩の今……俺は剣を持っている。アグニスの予備のやつを借りた。

手合わせしようにもそれぞれの得意分野が違いすぎた。俺は魔法で、アグニスは剣技、ルミちゃんは体術が一番得意だったからとりあえず順番ですることになった。

アグニスが得意な剣は「やったことがないからパス」と言ったら

「貴族の嗜みでもあるんだ!剣は覚えておいたほうが絶対にいい」と力説され……なぜか習うことになった。

……持ち方すらよく分からない。とりあえず構えやすい左手が上にくるようにして持った。

「リシアンは右利きだろう?こうだよ!」

……うるせぇ。何となくアグニスからは習いたくねぇ。振り方がどうのとかアドバイスをくれるけど、基本的に魔法とナイフくらいしか使わないから知らねぇよ。

「それじゃ魔法の攻撃を斬れないから、こうするとよい!」

あたりで早々に俺の我慢は限界に達した。

「いーんだよ、これでも斬ってやるよ!ちょっとこれ投げてみろよ?」

魔法で硬い泥団子を作ってアグニスに渡す。

「力いっぱい投げろよ!加減はなしな?」

そう言って左手を上にして構えをとる。

体は横向き、耳あたりのところに手がくるよう……足の開きは肩幅で。うん、しっくりくるな!

困惑しながらもアグニスが泥団子を投げてきたのを……フルスイングする。

泥団子は砕け散った。俺は右投げ左打ちなんだよ!

「リシアン……なぜその構えから力いっぱい振れるんだ?!見たことがない型だがどこの流派なのだろうか!」

目を輝かせて聞いてくるアグニスに……余計なことはするもんじゃないなと思った。

どこの流派……あれだな、セとパがあったけど俺のところはパの方で何だっけ?

「……パシフィコ流」

のんびりルミちゃんとお茶を飲んでいた兄上が噴き出していた。何かむせたのかな?

「聞いたことのない流派だな!他の構えや型はあるのか?あるなら是非見てみたいのだが」

とアグニスが言うので、とりあえずバントの構えをしてみた。

「……これは何の意味が?」

「来た球を転がせる」

「なるほど、転がしてどうするんだ?」

どうするんだろな。野球ならありなんだけど……。

「特に意味はない」

そうとしか言えなかった。アグニスは「奥が深いんだな……」と勝手に納得していたからよしとする。

あと「すでに習っている流派があるのなら変な癖がつくと悪いから」と、アグニスからの剣の指南は終わった。ラッキー。

さて、今日の野営地点に着いた。馬車を囲うようにそれなりの長さの棒を地面に突きさして、それにロープを結んでいく。

「……リシアン、何をしているんだい?」

「スノウモスルァーの糸を織り込んだロープを結んでます!」

高位の精霊が「簡易魔法結界」になると教えてくれたから。これで少しは安全かと思って。

「お兄ちゃんに、もうちょっと詳しく教えてくれるかな?」

そういえば言ってなかったかもしれない。

「これ、結んでるとこは魔法を無効化してくれるんですよ!見ててくださいね」

比較的、安全そうな弱めの水魔法をぶつけてみる。魔法は何かに阻まれるよう弾かれ、霧散した。

「こんな感じです!」

兄上はいつもの笑顔だったけれど、アグニスとルミちゃんはポカーンとしている。

「……これは、どれくらいの魔法を防げるのかな?」

「スノウモスルァーの糸を使ってるから、他のお蚕さんたちの攻撃を無効化するくらいですね。高位の精霊もある程度なら大丈夫って言ってました」

「「ある程度……」」

仲良いな、アグニスとルミちゃん。ハモってる。

検証したら俺たちの魔法攻撃なら……どれも無効化された。超強いじゃん!

でも物理攻撃はフツーに通ったから、やっぱり夜は交代で見張りをしながら過ごすことになった。

夕食を取り、交代の時間まで一眠りした。風乃に呼ばれて……アグニスと見張りを交代しようと起きる。

まだ眠いなーと思いながら伸びをしながらアグニスのところに向かうとそこには……一心に剣で野球のスイングを真似るアグニスがいた。

「アグニス、お前……何してんの?」

呆れながら声を掛けると

「あぁ、リシアンか!パシフィコ流の型を覚えたくてな……中々うまくいかない」

そう言うアグニスに、その辺から手頃な木の棒を持ってくるか作ってと木属性の精霊に頼む。剣は危ないだろ、フツーに。

「やりにくかったら、こっちでもいいから」

木属性の精霊がバット……に近い形状の棒をくれたので、右打ちの構えで軽く素振りをして見せる。はい、とアグニスに渡すと

「……こうか?」

「そうそう」

ブンッと音を立てて、中々いいスイングをする。たぶん三振かホームランのどっちかしか打てないタイプだな。

見張りを代わるよと言っても、アグニスはしばらく素振りを続けていて楽しそうだった。

俺はそれを「こいつ変わってんな」と思いつつしばし眺めていた。