軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25話「兄上、王都へ向かいましょう」

さて、着々と出立の準備も進んでいる。この前より大きな大牙熊が狩れたのもよかった。

ちなみに毛皮を薬店に飾るのは兄上に反対されたから、師匠の資料室に寄贈した。この間、兄上が作りたいっていう医療器具のために金属をちょっと拝借して……まだ返せてないから代わりにとりあえず置いてきた。

ミレア姉さんに叱られて断念したけど、前の薬店にも置こうとしていたしな。俺と師匠が。

立派な毛皮の敷物だから、師匠も喜んでくれると思う。

あとは王都までおよそ二週間かかるから、食品などの物資を買って兄上もいるから馬車の手配。

目立たないように、なるべく野営をメインにして帰りたいんだって。

馬はアグニスとルミスが連れてきたのもいるから、四頭。……飼い葉がなぁ、わりと荷物になるから困る。

結局、二頭立ての馬車を二台借りることにした。そのうち一台が飼い葉で埋まるけどな!

ちなみに俺が王都に兄上を送ってくると言ったら、ミレア姉さんが日持ちのする焼き菓子や保存食を作ってくれることになった。正直、めっちゃ助かる。

味気ないんだよな、野営の食事って。とりあえず肉は現地調達しようと思う。ルミちゃんもその時は誘おう。……久しぶりの旅で、けっこう楽しみだったりもする。

そんなわけで夜に備えて俺は寝ます。

今晩は……「かつて冒険者仲間だったやつらが依頼を受けた辺境特有の薬草」これも実際にあるのとないのとではもしも誰かに見られたときに説得力が変わるし、念の為に採取に行く。

夜露に濡れると白い花びらが透明になる、ディフレイア。

これ、けっこう使い勝手がいいんだよな。多種多様な毒消しになるし、実には安眠効果がある。ただ、夜露に濡れて透明な花を採取しないと意味がないけど。今回は丸ごと採取する。ついでに裏庭にも一株植えて増やしたい。

夜になってそっと出掛けようとしたら、窓辺に佇むルミちゃんにビクッとする。

「ルミちゃん……何してんの?眠れないとか?」

「自分も一緒に行きます」

えぇー……何で?

「レオナリス様が心配していました。夜中にリシアン一人は危ないのではないかと」

あー……確かに夜の採取は久しぶりだけど風乃もいるし、スノウモスルァーにも一緒に来てって頼んだからそれで行けるかなって。

あ、ゴルディはすやすや寝てる。

「兄上がそう言うなら……ルミちゃんも頼むな。悪いな、別に辺境特有の薬草を採取と輸送依頼なんてないのに」

「いえ、構いません。その方が周りからの目を欺きやすいので」

ドアを開けると、そこにはスノウモスルァーがすでに待機していた。

「ちょ、スノウモスルァー?!何でここまで迎えに来てんの?」

ルミちゃんも目を丸くして驚いてんだけど。あんま表情動かないのに、めずらしいな。

「夜なんだから危ないって!仕方ないなー……」

とりあえずスノウモスルァーは抱える。相変わらずいいもふもふ具合。

「それじゃ、行くか。ルミちゃん、俺は手ぇふさがってるから何か出たらよろしく」

そう頼んだけれど

「……幻蚕を抱えているなら何も心配はいらないと思いますが?」

何かすごい微妙な顔してんな、ルミちゃん。

道中は魔獣や夜行性の獣に遭遇することもなく快適。夜のが危険な魔獣との遭遇率も上がって大変なんだけど不思議。

火の精霊たちが道案内とばかりに、ポツポツと照らしてくれて真っ暗でもないしマジ快適。

「何かフツーに夜の散歩って感じじゃね?」

「……そうですね」

ルミちゃんはもう少しスノウモスルァーに慣れてくれてもよさそうだけど、何か距離がある。「触る?」って聞いたけど全力で遠慮された。こんなにかわいいのに……まぁ、人それぞれ好みもあるしな。たぶんルミちゃんは虫が苦手なんだろう。

森の中の湖畔にディフレイアの群生地がある。

早咲きのいくつかしかまだ咲いていないけれど、夜露で濡れた花弁が透明に輝く。

土属性と木属性の精霊とに頼んで、根が少しも切れることのないようそっと採取する。これ、少しでも根が切れるとダメになるんだよな。

通常は花の部分と、実がなる季節にはそこだけ採取する感じ。

育てるのも中々環境が合わないと大変で……豊富な魔力を含む辺境の土地でないと難しいんだよね。

まぁ、見た目も綺麗だし毒消しとしてはかなり優秀だし第一王子のお土産にもなるしちょうどいいかな。

王都に着いたら渡せないか聞いてみよ。

とりあえず、森でスノウモスルァーとは解散しようと思ったのに……中々それを許してくれないことのほうが大変だった。

結局、ルミちゃんに森の闇属性の精霊がいくつか寄ってきたのを見て渋々森の中へ帰って行った。

そして王都出立の日の朝を迎えたけど、超眠い。結局一週間じゃなくて、五日で準備を終わらせたせいだと思う。マジ頑張った。

よく一緒にいる精霊たちは連れて行かないようにと兄上から言われたので、やつらには留守番を頼む。

「俺がいない間、裏の畑の管理を頼むな!」

精霊たちも

『うん、一緒に行かないから大丈夫だよー』

『リシアン、気を付けていってらっしゃーい』

何か、ゴネられるかと思ったらフツーに見送ってくれた。あと薬店の見張りもしてくれるみたいで、めっちゃ助かる。『リシアンじゃない人が来たら悪いことしないように見張っててあげる!』だって。

他の薬師が店に立つときに、新薬のレシピとか俺の研究室とか私室の管理なんかをしてくれるらしい。

冒険者ギルドへ挨拶に行ったし、あとはミレア姉さんから焼き菓子と保存食を受け取りに行く。

アグニスは……ミレア姉さんが見たらローダウェル侯爵家の者だと気が付くだろうし、兄上と二人で行くことにした。

まだ朝も早いから、辺境の街も人通りが少ない。薬店も開店前だし、そっと声を掛ける。

「ミレア姉さん、おはよ」

そしてドアを開けた俺は……そのまま無言で閉めた。

何かいたな。熊みたいのが。見間違えか?

二メートルを超える筋骨隆々のジジイが見えた気がするのは寝ぼけているせいかな。

「何で閉めたんだ、この馬鹿が!」

勢いよく開いたドアであわや顔面をぶつけるところだった。ギリ避けようとして……兄上が横にいるから頑張って止めた。

「声がでけぇんだよ、ジジイ!時間を考えろよ」

「バルドレム先生、ご無沙汰しております」

手が!ドアを受け止めた手が痛ぇ……あと、兄上が安定して動じないの半端ねぇ。

「先生もリシアンもまだ早朝だからご近所の迷惑になるわよ?やめなさい」

「「はい」」

穏やかなミレア姉さんの静かな怒りを感じて、大人しくする師匠と俺。

「てか、何で師匠ここにいるわけ?旅は?!」

「あぁ……所用で少し予定を早めてな……リシアンとレオナリスは王都に向かうのだろう?」

何か歯切れが悪いし、何かあったのかな。師匠も一応侯爵だし、何か色々と大変なんだろう。

「レオナリス、王都に行くならトピリア侯爵家に寄ってくれ。弟が代官として邸にいるはずだ。……話はつけてある」

師匠が兄上にいくつか言付けている間に、ミレア姉さんから保存食とかを受け取る。瓶詰めのそれはめっちゃおいしそう。あと燻製やら調味料もいくつかに今日の昼ご飯まで!

うん、野営になって現地で肉は狩るにしてもこれがあれば何とかなりそう。

お菓子は「独り占めしちゃだめよ?」だって。しないよ?!兄上も甘いもの好きだからちゃんと分けるし!

兄上と師匠も何らかの話はついたっぽい。そして師匠には俺も少し言っておきたいことがある。

「てか、師匠!何であと三日でいいから早く帰ってこなかったんだよ!こっちがどんだけ急いで準備したと思ってんの?!」

「うるさい!これでも急いできたわ!」

師匠の拳骨が落ちてきそうなところで

「二人とも?」

……はい、朝ですもんね。静かにします。

とりあえず麓の薬店は師匠がいてくれるようになった。マジ他の薬師たちに協力要請した意味なくなった。

また薬師たちの情報も集めなきゃな。今回、無理をいう手前ちょーっと彼らの秘密をチラつかせるのにいくつかのネタは使っちゃったし……。

「あぁ、リシアン。鍛冶工房のガンドルがここを出る前に寄れって言っていたぞ。お前たちの約束の物が出来たそうだ」

「マジ?こんな早くできるって思ってなかった……」

え、もしかして兄上の分のも出来てるのかな。王都お土産、おっちゃんには何かいいの買って帰ろ。

寄り道するとこが出来たし、もう行かないと。師匠がいてくれるなら安心だし、辺境は何とかなるよな。

「じゃ、いってきます」

「いってらっしゃい、リシアン」

「向こうではあんまり無茶苦茶するなよ、リシアン」

……子爵家を出るときはこういうのなかったのに変な感じ。すぐ帰ってこれるように頑張ろ。

とりあえず、兄上の上司?を最終的にぶっ飛ばせばいいんだと思う。あとこっちでも別に無茶苦茶はしてないっての、ジジイ……。

最後におっちゃんの鍛冶工房に顔を出す。まだ朝も早いのに開けていてくれたようだ。

「おっちゃん、いるー?」

「おう、リシアンか」

……目の下のクマがヤバいな?

「おっちゃん、大丈夫?」

「何とかな。お前らがしばらく王都に行くって聞いてな……間に合ったぞ」

兄上には白い革の小ぶりな鞄を、俺には……前回のより凝った木箱。おっちゃん、満足のいく出来上がりになったらこうして包装までバッチリするからこれは期待大。

「……流石ですね。素晴らしい出来です、ありがとうございます」

鋏の動作確認をして深々と頭を下げる兄上。

おっちゃんも恐縮しているよ、兄上……。

俺の方はというと……あのデザイン画よりもさらに美しい細工が施されている。立ち上がる馬と、舞う蚕、それを繋ぐような風模様……真ん中には淡く光る白銀の珠。

「おっちゃん、マジすげぇ!ありがとー」

「リシアン、それは?」

兄上にそう聞かれて

「新しい飾りです!どうしよ、ブレスレットはぶつけそうだからやめて……ピアスかネックレスか」

「ネックレスにしなさい」

即答だった。

「真ん中は魔石だね?どこで手に入れたか聞いてもいいかな?」

「あぁ、スノウモスルァーの繭から出てきました!綺麗だったから、コレがゴルディでこっちがスノウモスルァー、風乃はこの……」

「うん、ネックレスにしようね」

うん?説明の途中だったんだけど、兄上がそう言うなら。

「でもチェーンがなくて……」

そう言っていたら、兄上が自分が付けていた首飾りからトップを外してチェーンをくれた。

兄上がいつも首から下げているそれは……家紋入りの首飾りで父上から譲られたものらしい。

「いや、さすがにそれは……」

「チェーンが変わったくらいでは誰も気が付かないよ、こっちさえあればね。リシアンに使ってもらえたらうれしい」

そう言ってくれたから、ありがたく受け取る。

少し長いそのチェーンだと飾りは服で隠れてしまうけれど……子爵家に引き継がれている家紋入りの首飾り。

その一部分だけが、自分のところへ渡り……兄上との繋がりがまた出来た気がした。

子爵家を出た俺だけど、この繋がりを離したくなくて。本当なら断らなきゃいけなかったんだろうけど、俺はできなかった。

辺境に無事に帰ってこれますように、そう願いながらネックレスを服の上から握りしめた。