軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神々の黄昏と小人さん ~よっつめ~

「だいぶ出来てきたねぇ」

「人が多いし、物も十分にあるしな」

測量して道や区画を決めていたと思ったら、小人さんが寝込んでいる間に、すでに仮設住宅が、出来ていた。

並ぶ二階建ての仮設住宅は、いずれ街が出来たあと、短期滞在用の木賃宿になる予定だという。

「そんなん需要あるの?」

木賃宿といえば、格安の素泊まり&雑魚寝な宿だ。読んで字の如く、 薪(き) の代金を払い竈で自炊する。

部屋泊まりでなく、寝具もない。ただ、雑魚寝で転がるスペースがあるだけ。

そんな前時代的で物騒な宿を、フロンティアが許可するだろうか。

小人さんが何を想像したのか察して、克己は盛大に噴き出した。

「違う、違う。日本のドヤ街にあるようなヤツじゃなく、部屋単位で素泊まりだけなヤツ。こちらでは素泊まりって発想がなくてね。宿屋っていうと宿泊に朝食夕食はセットが常識みたいでさ。だから、簡易宿泊=安いの説明に薪代で泊まれる木賃宿の話をしたんだよ。その呼び名が気に入ったみたいで、みんな、そう呼んでるだけ」

なるほど。

これからもキルファンからの移民が来るかもしれないし、他からも新天地へ移住の可能性はある。

だから仮設住宅を残しておきたいが、設備の維持には金がかかるし、最低限の費用はいただきたい。

その苦肉の策が木賃宿なのだ。

街が動き出して、生産や建築のメドがたてば、また変わるだろう。

すでに民家は八割かた出来ている。

農地や牧場もほぼ完成し、今はフロンティアの土魔法で起こした大地に菜花や野草を植えていた。

植樹なども進み、魔力の恩恵がない荒野は、すっかり様変わりしている。

人の力って偉大だよなぁ。

とにかく緑が欲しい。緑がないと落ち着かないと、キルファンの人々は、せっせと育苗に励んでいるとか。

もっと種や苗をふんだくってくるかな?

真面目な顔で思案する小人さんの後頭部を、克己がポコっと叩いた。

「アンタ、今、良からぬこと考えてたろ? フロンティアが近いから、食べるには困らないんだ。無理を通すな、歪みが出るぞ」

なぜ、バレた。

小人さんを叩いた克己の右手を、ポチ子さんが前肢でテシテシと叩いている。

憤慨しているようで、珍しくモフーッと鼻息を荒げるポチ子さん。

「いや、虐めた訳じゃないぞ? なあっ?」

魔王には慣れても、蜜蜂には弱いのか、見るからにアワアワと狼狽える克己。

元々、同じ地球人だ。打ち解けてしまえば、気安くなるのも早い。

「ポチ子さぁーん、克己が虐めるーっ!」

嘘泣きで小人さんが地面に蹲ると、ポチ子さんは鋭く羽音を鳴らして克己に飛びかかった。

わーっと逃げ惑う克己を庇い、マーヤが仲裁に入るが、ポチ子さんの剣幕に圧されて、絡まりながら地面に落ちた。

それでも必死にポチ子さんを止めるマーヤ。

オラぁっとポチ子さんが振り上げた脚に弾かれて、吹っ飛ぶマーヤの背中に、ああああっと文字が書かれて見えたのは錯覚だろう。

あまりの可愛らしい攻防に思わず噴き出し、すぐに小人さんはネタばらし。

「うっそぴょーん♪ ポチ子さん、ありがとねー♪」

ほけっと小人さんを見る二匹の蜜蜂を手招きして、小人さんは魔力を掌にためた。

「ごめんね、ちこっとイタズラしたかったの」

先ほどまでの険悪さは、どこ吹く風。

二匹は、押し合いへし合い、わきゃわきゃと小人さんの魔力をすすって御満悦である。

「アンタなぁ..... マジで怖かったぞ、ポチ子さんっ」

「なーんかイタズラしたくなっちゃったのよね。悪い悪い」

本気の冷や汗をぬぐう克己の後ろから、大きな羽音が聞こえてきた。

小人さんの魔力を感じ取ったのだろう。街の作業を手伝っていた蜜蜂達が、大挙して押し寄せてくる。ざっとその数、百はいる。

それを慌てて避けて、群がってきた蜜蜂達に小人さんは新たな魔力を迸らせた。

光の帯に、こぞって群がる蜜蜂達。

楽しそうな蜜蜂らを眺めていた小人さんだが、ふと視界に、克己が蜜蜂の群れへ入っていくのが見えた。

彼は脇目も振らずに一匹の蜜蜂を捕まえて、群れの中から出てくる。

克己の腕の中で、ジタバタと暴れる蜜蜂。

「おまえは先に貰ってただろう? 他に譲ってやれよ、マーヤっ」

克己は小人さんの近くに来ると、その肩に張り付くポチ子さんを指さして、きりっと言い放つ。

「ほらっ、ポチ子さんを見ろっ、貰った分だけで満足してるじゃないかっ」

言われて気まずいのか、マーヤは克己から見えない腰の後ろにへばりついた。

「ったく」

仕方無さげに顔を緩める克己。

その光景を見て、小人さんは眼を見開いた。

なんとも自然体な二人。しかも克己には他の蜜蜂とマーヤの見分けがつくらしい。

こういうもんだよなぁ。

思わず破顔し、擽ったげにニマニマする小人さん。

テイマーとか、チートとか、そんなものは関係ない。

人だって動物だって魔物ですら、絆は生まれるんだ。これは理屈じゃない。

巨大蜜蜂と戯れる二人。

キルファンの移住者達は、その一部始終を、まんじりと見つめていた。

一見、殺伐としたホラーなのだが、何故か和む日常風景。

フロンティアの当たり前に、少しずつ慣れてきたキルファンの人々である。

荒野で、そんな長閑な一幕があった頃。

フロンティア西北の領地にシリル達がいた。

「お久し振りです。アンスバッハ辺境伯」

「これはこれは.... 懐かしい顔ぶれですな。で、今回はどのような?」

シリル達が訪ねた邸は、ヘブライヘル・アンスバッハ辺境伯の邸。過去にシリルらを匿い、王宮へと送り込んだ人物である。

ハビルーシュ妃の父親で、曾祖父がカストラート王家に連なる者だった。

貴族同士の国際結婚の形を取り、フロンティア王家との繋がりが強い辺境伯家に潜り込んだ密偵だ。

その使命はフロンティア王家から魔法の知識を盗み、カストラートへ報せる事。

前回の神の御神託時に、彼は我が子が光彩を所持している事を利用して、婚姻に乗じ、カストラートの手の者を送り込んだ。

元々、生まれた時から薬漬けで父親の意のままだったハビルーシュは、なんの疑問もなく嫁ぎ、王家の子供を産んだ。

自身に光彩を持つ娘が生まれて、さらには神からの御神託。

これはもう、天の配剤としか思えない。きっと事は成就する。金色の王たる子供を手に入れられる。

ハビルーシュ妃が金髪の双子を産み、その片方を確保したとの報せに、ヘブライヘルは期待で胸を踊らせた。

まさに曾祖父からなる、百年以上待ち望んだ悲願の達成目前。

なのに......

ヘブライヘルは目の前にいる十数人の者達を見つめる。

千載一遇のチャンスを潰した愚か者ども。

忌々しげに睨むヘブライヘルを一瞥して、シリルは預かっていた書面をテーブルに出した。それはカストラート王家からの勅命。

「これにある通り、どのような手段を用いても構わないので、金色の王を確保せよとの事です。少し隙間を開けて頂ければ、わたくしどもが忍び込み捕らえてまいります」

自信ありげに紅茶を口にしたシリルを見つめ、ヘブライヘルは深い溜め息をつく。

「無理だ。君らは知らないのだろうが、金色の王は既に覚醒し、森の主と盟約を結んでいる。手を出そうものなら、一瞬で細切れ肉になるのがオチだぞ」

日和見だった外交が活発になり、ヘブライヘルは国外へ情報を送りにくくなっていた。

ゆえにカストラートは知らなかったのだ。金色の王の覚醒と、その盟約が終わっている事を。

ここ一年の出来事である。諸外国には、ほぼ秘匿された案件だ。

常に王族の姫君を妻に迎えていた辺境伯家だからこそ知っていた情報である。通常の貴族らは、まだ知らない。

「金色の王は、遠縁の娘だった。名前はチィヒーロ・ラ・ジョルジェ。今は国王の養女となり、王宮に住んでいる。周囲には、盟約を結んだ主の子供らがいて、手も足も出せん」

「娘..... ファティマ様は、どうなりましたか?」

シリルの絞り出すような声音。その声は震えていた。

ふんっと鼻を鳴らし、ヘブライヘルは然して気にもとめた風でもなく答える。

「言われた場所に子供はいなかった。知らされたのが十日もたった頃だったしな。既に事切れて処分されたか、生きて見つかれば大騒ぎになったはずだ。死んだのだろうな」

シリルらの仲間は、暴動を起こす事には失敗したが、あの手この手で何とか王宮に忍び込もうと努力した。

しかしどれも成功せず、それどころが不穏な行動が王宮に察知され、国外へ逃げ出すしかなくなり、最後の頼みの綱とばかりにヘブライヘルへ、確認を頼んだのだ。

さすがのヘブライヘルも、側仕えや侍従を連れずに王宮を徘徊する訳にはいかない。

そんな目立つなりで裏方の作業場へ脚を踏み入れたら注目の的である。

なんやかんやと理由をつけ、ヘブライヘルが指定された部屋の確認をメイドにさせれたのは、一ヶ月近くたってからの事だった。

王宮の侍女や侍従に怪しい動きを覚らせる訳にはいかないし、下働きのメイドを買収するのにも、かなりの金子が必要で、それを思い出したヘブライヘルは、苦虫を噛み潰したような顔をする。

「側妃様は御健勝で?」

「ああ。世話人のメイドはそのままだからな。未だに夢現な世界に浸っておるよ」

ハビルーシュ妃の側仕えや護衛は全てヘブライヘルの息がかかっていた。

カストラートの者ではないが、金子で動く分かりやすい手駒である。

反面、裏切りにも注意が必要だが、御互いを見張りにする密告&褒賞システムでがんじがらめにしておいた。

「魔物の護衛ですか」

シリルは思わぬ伏兵の存在に頭を捻る。

どのように対処すべきか。金色の王が覚醒済みなら、むしろ好都合だ。

神の御神託によれば、金色の王は森を作り、主を移動出来るという。

すぐに国を魔力で満たして、魔法を復活させられる。

強行は得策ではない。自らの意思でカストラートへ来ていただかないと。

そこまで考えて、シリルは懐から瓶を取り出す。掌サイズの細い瓶には、薄い紫の粉が入っていた。

見慣れたソレに、ヘブライヘルの顔が、やや歪む。

「これを金色の王に使いましょう。希釈した液体と違い、覿面に効果が出るはずです」

この粉はシリルの調合した洗脳薬。以前、ファティマに使われ、いまもハビルーシュ妃に使われているモノだ。

この薬の調合レシピも神の御神託で伝えられたモノ。代々、シリルの家系が守り受け継いできた。

「金色の王は幼い少女だ。甘い御菓子や飲み物に仕込めば、存外簡単かもしれん。しかし、それを振る舞う場を作るのが至難の技だぞ?」

「近いうちに機会はやってきます。この領地には、主の森があるのですから」

ヘブライヘルの眼が驚愕に見開いた。

北の荒野を挟んだ向こうにあるカストラート国。その境界線を守るフロンティアのアンスバッハ辺境伯家は王都西北にあり、領地には西の森と呼ばれる主の森がある。

金色の王なれば、必ず巡礼に訪れるはずだ。そのさいに領主邸へ招くのも難しい話ではない。

しっとりと優美な微笑みを浮かべるシリルを見つめ、ヘブライヘルも、ほくそ笑んだ。

とら 狸(たぬ) の 皮算(かわざん) が秘めやかに行われているとも知らず、小人さんは西の森に想いを馳せる。

「西の森の領地には美味しいモノあるかな? 辺境伯領ってことは、北の隣国カストラートの食べ物あるかもしれない。楽しみだねぇ、ポチ子さん♪」

いつでも、どこでも、絶対に揺らがない小人さん。

日々の悩みはつきないけれど、常に人生を謳歌する小人さんである♪