軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神々の黄昏と小人さん ~いつつめ~

「どうして、こうなった」

ただいま小人さんは御城に召喚され中。

何でも激論の末、決着がつかず、発案ノートの作者である幼女に話を聞こうとなったらしい。

反目する二つの陣営は、長いテーブルを挟んで、バシバシと火花を散らしている。

そんな両陣営を疲れた眼差しで見据え、国王は小人さんをお膝にのせて、議会を開始した。

横に立つロメールを、胡乱気に見つめる小人さん。

そんな彼女に謝るかのように、ロメールは片手の指を揃えて顔の前に立てた。

まあ、お疲れみたいだし、仕方無いか。この借りは高くつくからね、ロメール。

にんまりと上がる小人さんの口角に気付き、ロメールは少し遠い眼をして天井を仰いだ。

そんな中、粛々と進んでいた議会が、しだいにヒートアップしていく。

「このノートにある通りなんですよっ、諸外国に出来ている事が、我が国には出来ていないっ! 由々しき事態ですっ!!」

声高に発言を始めたのは三十そこそこで長身な偉丈夫、グレイシオス伯爵。

精悍な雰囲気に頑健そうな体躯。蜂蜜色の髪を綺麗に撫で付け、薄茶色い瞳に宿った赫々たる獰猛な光が印象的な人物だ。

一見、どこからどう見ても武官なのだが、これでいて文官だという。

ロメールに聞いた所によると、農林を司る家系で、いくら伐採してもなくならない森の豊かさに、微かな危機感を持っていたらしい。

これが魔力による恩恵なのは明らかだからだ。それに疑問を抱いた、数少ない人物である。

しかも周辺国は魔力を失い、農林どころが農業すらも危うい状態。

このまま何もせず手を拱いていて、万一魔力の無くなる事態になったら、フロンティアには、未曾有の惨事が起こるのではなかろうか。

そんな漠然とした彼の不安は的中する。

小人さんの提出したノートには、彼が感じてはいても掴み切れなかった魔力の不安定さと、その弊害が書かれており、さらには、それにより起こりうる被害と、それに対する対策が、事細かく記されていた。

これだっ!

刮目した伯爵は、あらゆる手を使い周辺国の実情を調べあげ、この議会に挑んだ。

「フロンティアでは何もせずとも豊かな実りがあり、植物や生き物の成長も早い。こんなのは他の国では有り得ないのだ。フロンティアが異常なのですよっ!」

周辺国の魔力が尽きてから数百年。多くの物が失われ、その国々を助けるために、フロンティアは農耕地を拡げ、食糧支援に勤しんできた。

食べることにも困窮する他国と違い、余裕のあるフロンティアは、その間に国として発展し、類い稀な法治国家へと進化したのだ。

結果、何処の国もがフロンティアに一目おいている。

小人さんが伯爵の熱弁を黙って聞いていると、向かいの席から仰々しい溜め息が聞こえた。

「だから何だ? 我が国は神々に愛された豊かな国だというだけだろう? 何故、魔力の消失などを考えて怯えなくてはならないのか。主の森が健在で、人々も健やかだ。これが答えだろう? 世迷い言も大概にしたまえ」

呆れたかのような口調で宣うのは老齢な男性。こちらはバンフェル侯爵。

彼は真っ白な髪をふわりと緩く後ろに流し、浅葱色の瞳を仄暗く煌めかせた。

ロメールの話では保守派の筆頭で、頭から魔力のない文明を劣等と蔑み、まったくグレイシオス伯爵の話を理解しないらしい。

「神々の恩恵を何と心得る。わざわざ金色の王が残して繋いでくだされた恩恵ぞ? それを繋げ守ることこそが、神々の恩寵に報いる術であろうが」

「それが永遠だという保証が、どこにあるのですか? フロンティアのみが特別だなどと、誰に分かるのです?!」

「我が国には金色の王が降臨なさる。これが答えだろう。他の国にはない恩寵だ。神々に確約を求めると? とんだ傲慢だ、不信心にも程があろう」

「神々は神々ですっ、その恩恵に感謝しつつも、努力は怠るべきではないと申し上げているっ!」

「そのような浅ましい真似をすること自体が不敬なのだ。それは裏を返せば、神々を信じておらぬこととなる。そんな簡単なことも分からぬかっ!」

捲し立てられる水かけ論。

あ~、こりゃ駄目だわ。

生温い笑みを浮かべ、小人さんは小首を傾げた。

「それって必要な議論なのかな?」

良く響く幼女の甲高い声。

それは広間に響き渡り、テーブルに居並ぶ人々が水をうったかのように静まり返る。

そしておもむろにノートを取り上げ、小人さんはノートの表面を軽く指先で叩いた。

「ここに記したのは、ほんの一例なんだけど? もし、これが為されないなら、もっと大きな被害が予測出来るんだけど、聞きたい?」

にっこりと無邪気な微笑みを浮かべ、小人さんはテーブルに座る大勢の人々を見渡す。

「是非にっ!」

身を乗り出したグレイシオス伯爵と対照的に、バンフェル侯爵はガタンっと大きな音を立てて席を立つ。

「下らぬっ! 賢しい子供の世迷い言など聞くに耐えぬわ。王女などと名ばかりの末席がっ!!」

侯爵は王宮晩餐会に招待されておらず、千尋の事も、王の養女としか知らない。

これらは秘匿案件で、直接関わりのある王家や騎士団、それらの部下のみが知っており、箝口令がしかれていた。

通常の貴族らは、城を騒がす魔物が金色の王の僕で、既に金色の王が降臨していることくらいしか認識していない。

そこで小人さんは被っていたフードを落とす。ふわりと靡く金の髪。

それを見て、広間の人々は一様に驚愕の眼を向けた。

「賢しい子供で悪かったわね。仕方無いでしょう? その魔力をどうとでも出来るのが、アタシなんだから」

王の膝に座る幼女が、このノートの作者だというのにも驚いたが、まさか金色の王その人だったとは。

思いもよらぬ状況に狼狽えた面々は、慌てて席から立つと床に膝をついた。

「あ~、そういうの、いいから。座って? 話をつめましょう」

王の養女となるような人物だ。金色の瞳をしていても、おかしくはない。

だから、この場にいる小人さんの瞳が金色な事に疑問を持つ者はいなかった。

しかし、髪も金色となれば話は別。

片方だけなら珍しくはあっても、まま有ることと言えるが、両方を所持する者は一人しかいない。

伝説を目の前にして、戦き、固唾を呑む人々。その中で、ただ一人、バンフェル侯爵のみが悠然と立っていた。

「だから何だと仰るか。神々のもたらした奇跡に手をかけようとでも?」

「そうだよ。神々は世界に魔力を与えた事を後悔してるんじゃないかなぁ? 近々、フロンティアの大地からも魔力は消えると思うんだよね。だから、すぐにでも人力で土壌改良しなきゃならないの」

真っ向から侯爵を見据え、小人さんはハッキリと断言する。

「わかる? やる、やらないの議論をしている場合じゃないの。やるの一択、さらには早急にがつく非常事態。......老害は黙っててよっ!!」

小人さんの瞳が眼窟奥から燃え上がる。烈火のごとき眼光に、老害と呼ばれた侯爵はたじろいだ。

「これだから阿呆が上にいると困るのよ。ロメール、ちゃっちゃと予定をたてて堆肥や緑地の開拓をして。主の森を枯らしたら、新たに森を作らないとだし、やる事は山積みだよん♪」

呆れつつも頷くロメール。国王陛下は状況についてゆけず放心状態。

議論は、やる、やらないの水掛け論から、いかにして開拓するかの作業立案に移り変わっていた。

グレイシオス伯爵は、水を得た魚のように張り切っている。

適材適所な人物がいるのは好都合。

片側が盛んに話し合いをする中、もう片側は、唖然と立ち尽くしていた。

侯爵を筆頭とした保守派は反対意見なので、もうこの場に用はない。

「あんた達、役にたたないんだし、下がって良いよ? 他に仕事あるでしょ?」

幼女の冷たい眼差し。言われて保守派の人々は動揺する。

ノートに記載されていた計画は一大プロジェクトだ。ある意味、国家の命運を左右する重大な仕事。

それに関われないとなれば、己の評価も下がるし、家名に著しいキズがつく。

今さらながら、自分らの犯した失態を自覚し、真っ青になる保守派一同。

すがるような眼差しで小人さんを見つめるが、それに一瞥もくれず、幼女は国王の膝から飛び降りた。

「じゃ、あとは任すよ。アタシ、行かなきゃ」

「チィヒーロ? どこへ?」

「キルファン国予定地だよ。万一、こちらが間に合わなかった時、あそこがフロンティアの食糧庫になるからね」

瞠目するロメールに、幼女は人の悪い笑みを浮かべる。

「何なの? アタシが慈善事業で彼等に手を貸したとでも思ってた? 莫大なお金が動くのに、そんな事するわけないじゃない。掛けたお金は、きっちり返して貰うわよ。利子つきでね♪」

神々の思惑の一端に気づいた小人さん。

そこから、この計画を立てていた。

土壌改良、緑化、育成は、日本人の得意とするところだ。大した時間もかけずに、開墾は進むだろう。フロンティアの魔法の手助けがあれば、さらにそれは加速する。

北の荒野が農地になれば、フロンティアに万一が起きても、何とか凌げるだろう。

そういった下心もあり、小人さんはキルファンで移住者を募って、これでもかと準備万端に迎え入れたのだ。

良いことがあるかもと期待しつつも、常に最悪に備えよだよね。昔の人は良いこと言うわ。

常に抜かりない小人さんの先見に、返す言葉もない大人達。

天井にいたポチ子さんに吊るされながら、きゃっきゃと踊り、広間から退場する小人さん。

食べることだけには余念ないよね、君。

うっすらと乾いた笑みをはくロメールだが、それが国のためになるのであれば文句は言うまい。

益体もない思考を投げ捨て、彼等は小人さんのノートとにらめっこをして、国中の土壌改良や、魔法を使わない道具開発の計画を立てる。

他国で既に完成された物もあるし、何より技術国キルファンからの移住者が多数いるのだ。

滅びの絶望は掻き消され、フロンティアは一縷の蜘蛛の糸を掴んだ。

これが吉とでるか、凶とでるか。全ては神のみぞ知る。

そんなことは御構い無しに、空を翔る小人さん。

大人達を手玉に取り、今日も小人さんは元気です♪