軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神々の黄昏と小人さん ~みっつめ~

「うーん。どうしよっかなぁ」

回復した小人さんは、建設中のキルファンを訪れた。

王宮は上を下への大騒ぎなので、西の森に行く予定は、まだ立てられない。

頼むから、一段落つくまで大人しくしていてくれと、ロメールに《泣き脅し》され、小人さんはタジタジと引き下がった。

あれは脅しよな。泣き笑いで真っ黒な笑顔って、どんなんよ。初めて見たわ。

それをさせたのが自分であるという自覚は、全くない小人さんである。

さらには男爵家の三人。

彼等は王宮に突撃をかけて、陳情を叩きつけた。

「巡礼で遠征した次には他国の折衝として遠出し、さらには海の森を救い、その元凶へ報復に出るですか。それを三歳の幼子にさせますか」

「その上、政治的判断や配慮は王弟殿下が替わってくれたとはいえ、数千人にもなる移住者の受け入れや案内、それに関わる生活基盤の準備。何故に我が家の御嬢様がやらねばならないのですか?」

「極めつけは、我が国の内情を案じて、あらゆる未来を想定し、それらに対抗する術を御嬢様が纏めて発案なされたとか。それって、子供にやらせることではないですよね? 疲労や精神的負担で熱を出すほど子供を酷使する大人って、どうなんですかっ?!」

鬼気迫る面差しの三人に、とりつく島もなく、国王と王弟は平謝りするしかない。

半分は小人さんの暴走ではあるが、たしかに年端もいかぬ子供に任せるべき事案ではなかった。

立て続けに起きた問題がリンクし、なし崩し的な部分もあり、当事者である小人さんにしか判断がつかなかったのだ。

正直、子供に頼るのもどうかとは思うが、ロメールですら、事態の把握が出来ていなかった。

キルファンが海の森を荒らして主の怒りを買った。これは理解出来る。

しかし、報告にあった石の道や、立ち枯れた珊瑚など、説明されても理解が及ばない。

なぜ。あのような道が海に穿たれたのか。どのようにして作り、どのように珊瑚を密漁し、主の子供らを捕らえたのか。

文面としての言葉は理解出来るのだが、その有り様や、やり方が全くわからないのだ。

一目見ただけで看破したという、小人さんのサポートが、どうしても必須だった。

こちらが理解していないと見破られたら、悪辣なキルファンは如何様にも誤魔化し、言い逃れしようとするだろう。

事は国家間の問題だ。

下手な遺恨を残す訳にはいかない。徹底的に叩き潰し、二度とフロンティアに手出しせぬよう釘を刺したかった。

それをするには、絶対的な力を持つ魔物達。それを従える小人さんの存在が必要不可欠。

思った以上の結果に、王宮内が騒然となったのは否定しない。

最先端技術を持つキルファンと、対等に渡り合えるのも小人さんしかいなかった。

なにが必要で、どのような支度をすれば良いのか。全く分からないフロンティアの面々を、的確に采配してくれる幼女に頼り切りだった自覚もある。

赤と白の旗を持って走り回る小人さん。

あの旗も、最初は意味が分からなかったが、白は進め、赤は止まれだと言われ、実際に使っている所を見て、ようやくそれを理解した。

眼から鱗だった。

一人が全体を見て、大量な物資の運搬に流れを作る。特に交差する所では、あの旗が大活躍だった。

通常、片方が運んでる時、交差して分断された方は、それが通りすぎるまで待つものだが、小人さんは旗をつかって、一定数ずつ交互に流していた。

あれなら、完全なタイムロスは防げるし、一気に大量に運ばれて右往左往する事もない。

小人さんのやっている事を見て、覚えた者達が今は代わりにやっている。

「見盗れ、聞き盗れだよ」

にっかり笑う小人さん。

どこにでも目新しいモノは転がっているのだ。気になったらトコトン見て聞いて盗め。

彼女の規格外な知識と教養は、こうして培われたモノなのだろう。

そんな幼子に頼りきっていた。

情けない事この上ないが、こちらに考える暇も与えず突っ走る小人さんにも責任はあると思う。思うが、やり過ぎ感も否めない。

気づいていたのに止めなかった大人達にも、間違いなく責任はある。

「しばらくは王宮も魔力や主の森の問題にかかりきりになるだろう。チィヒーロには、ゆっくり休んでもらいたい」

力なく微笑むロメールの顔にも、疲労が色濃く浮かんでいた。

それを見ては、男爵家の面々も引き下がらずをえない。

彼とて好きで小人さんを酷使した訳ではないだろう。結果がそうなってしまっただけだと言うのは、ドラゴ達にも分かっていた。

だが、理性が納得しても、感情が納得しない。これからを考えても、一度しっかりと言っておきたかったのだ。

誰もが未来に疑いを持っていなかった。

これからも、この暮らしが続くのだと、微塵も不安を抱いてはいなかったのだ。

未来は不確定であると言う事を、後に知らしめられる男爵家の三人である。

「そっかー。なるほどね」

小人さんの横には克己。

建設現場にやってきた小人さんは、克己を見かけて声をかけた。

すでにマーヤと懇意な克己は、小人さんに対する恐怖を克服し、マーヤと縁を結んでくれた幼女を、少しだけ好意的に見るようになっていた。

大魔王の印象は薄れていないが。

そして斯々然々と話を聞き、気の毒そうに小人さんを見る。

「まあ、仕方無いんじゃないか? まずは、国内の平定が優先だろう?」

「だよねー。でも急がなきゃいけない気もするの。なんでだろう」

「切り札かぁ。たしかに、そういう伝え方されたら、穿ち過ぎとは言えないな」

さすがは同じ地球人。言葉少なでも、小人さんが言わんとする事を理解してくれた。

「あの神々は真っ当に見えたよ? 少なくとも、俺は二十年も新しい人生をくれた神々に感謝してるし。キルファンが世界に魔法のない文明を広げるための苗床ってのは当たってると思う」

でなくば説明のつかない事が多すぎるのだ。彼等は克己に近代知識を伝えてくれと望んでいた。

魔力や魔法で何でも有りなアルカディアに、それらが必要となる事案は、克己にだって一つしか思い浮かばない。

神々は、アルカディアから魔力と魔法を消し去りたいのだ。

つまり、神々が正したいと言っていた間違い。それすなわち、魔力をアルカディアに与えた事。

これが当たっていれば、金色の王は無用の長物。むしろ、百害あって一利なし。

あ~。ほんとに、最初から勘違いしてたのよねぇ、アタシ。

答えの片鱗は、そこかしこに転がっていた。

何故に人々が主の恩恵を忘れたか。森を切り開く事に躊躇しなかったか。

何故に主らが、それを傍観したか。

フロンティア以外の国が、どうして正しい魔力の在り方を知らなかったか。

世界は無意識に主の森の意味を消していった。しかし、それに潜在的な罪悪感もないのは、それが正しいからだったのだろう。

心ある人間は何処にでもいる。それが主の森に関してだけは、何処にも存在しない。

判をおしたかのように、揃って近代化への道を進んでいた諸外国。

誰も異を唱える事もなく、誰もが同じように主の森の恩恵を忘れていった。

この不自然さに、最初に気づくべきだったのだ。

その忘れていったモノを、わざわざ掘り返して世に知らしめてしまった小人さん。

きっと、当時の神々は大慌てした事だろう。

乾いた笑いしか出てこないな。勝手に主らに感情移入して、勝手に森の再建に燃えていたけど。

それ、みーんな間違った解釈だったんじゃん?

いまさらながら赤面する思いだ。

勝手な使命感を抱いていた当時の自分を殴り飛ばしてやりたい。

何が配管工だよ、そんなんしたら、神々の努力が水の泡じゃない。

思わず顔を両手で被い、羞恥にのたうつ小人さんの横で。克己が思案気に呟いた。

「俺も気にはなってたんだよな。なんでアンタは転生なんだろうって」

言われた意味がわからない。

首を傾げる小人さんに、克己は改めて説明する。

「転移で送れるなら、零歳スタートの転生なんて必要なくない? 地球の神々の関与は明らかなんだし、転移で良いのに、なんでアンタだけ転生になったんだろうな」

そこまで聞いて、千尋も茫然。確かに、その通りだった。

これだけ転移者がワラワラいるのだ。

千尋だけ転生させたという事は、それに意味があっても、おかしくはない。

転移者と転生者の違い......

そして、ふと千尋が呟いた。

「魔力と魔法か?」

「ん?」

「魔力と魔法だよ。この二つは、フロンティアの人々しか持っていない。つまり、アタシに魔力と魔法を持たせたかったから、アタシは転生になったんじゃないかなと」

大当たり。思わず、そんな神々の声が聞こえた気がする。

まるでパズルのピースがはまるかのように、パチリと音をたてて、その答えは腑に落ちた。

横にいる克己も、あー、とばかりに刮目し頷いている。

「そうか、それだ。神々の思惑が何なのか分からないが、それならアンタだけ転生だった理由になるな」

となれば、千尋が金色の王になるのは神々の思惑の範疇内だったという事だ。

アタシは無用の長物ではない? ある意味、アタシも神々の駒の一つなのかな?

知りもしないのに正解へと近づいていく小人さん。ただそれが、範疇内でありつつも範疇外であったとは、想像もしていない。

人は考える事を止めてはいけない。

以前、ロメールから聞いた台詞が、何故か今、脳裏に浮かぶ。

紆余曲折しながら物語は紡がれ、小人さんは。ようやくスタートラインに立った気がした。

常にロケットスタートで突っ走る小人さん。

少しは止まれ、お前はマグロか。

うんざりとした面持ちのまま、脳内で呟く克己である。

彼もまた、盛大に巻き込まれ、正しく小人さんを理解しつつあった。

南無三♪