作品タイトル不明
938.まもりノート
「明光ちゃんが無事でよかったね!」
「はひっ。嵐山郷で出会ったアカリさんが、まさかヤマトの帝だったとは……」
「いいところまで進んだし、今夜はここまでかしら」
「すっかり遊び込んでしまいました」
冥界の瘴気で明光を狙った陰陽師を倒し、まもりの部屋に戻ってきたさつきたち。
「ま、また新しい食べ物が見つかったので、後でメモをしないと……っ」
そんなまもりの言葉に、たずねる。
「へえ、メモなんてあるの? 食べ物マップ、面白そうね」
「はひっ。見返しているだけでも、とても楽しいですっ。ど、どうぞ……!」
そう言って机から取り出したノートを渡すと、下階から呼ばれたまもりは部屋を出ていく。
「メモを取っているとは、さすがまもりさんですね」
さっそく渡されたノートを開く可憐。
「ええと」
そこには『いつか誰かとパーティを組んだ時のために』と書かれている。
「……ん?」
『ご迷惑をお掛けしないように』という題名が打たれ、その下には各種攻撃に対する防御方法などが細かく並ぶ。
さらに『特に大事なのは……先に死んでしまわないこと!』と、赤ペンでラインまで。
「これに合わせて、練習クエストを繰り返してたのかしら……」
するとそこには、さつきたちについても書かれていた。
「ツバメさんは圧倒的な速さ。時々肉を切らせて骨を断つような攻撃をする瞬間があるから、そこで私の盾が活きれば良い……だって」
「確かにまもりさんには、幾度となく危機を助けてもらいました」
「メイは最強の万能。素直で真っすぐで可愛いから裏をかくような敵のスキルや、罠のような攻撃に注意して【かばう】に入りたい……だって」
「そうだね! ビックリして直撃、よくありますっ」
「……可愛いの部分、関係ある?」
突然入ってきた単純な感想に、ちょっと笑う。
「レンさんはどうですか?」
「パーティの頭脳。だけど魔導士は回避や防御が難しいから、とにかく全力で守ること……だって。ただし詠唱の時は邪魔にならないようしっかり距離を置くこと……むしろ居て! 遮って!」
本気でノートに一文書き足そうかと悩む可憐に、笑うさつき。
「あとは……私たちの好みなんかも書かれてるわね」
そこには一緒に戦うメイたちの好むものや、好む話題なんかもメモされている。
これは星屑に関するいろいろな情報をまとめたノートなのか。
可憐は食べ物関連のメモが並んでいるであろうページを探す。
すると今度は、会話の仕方メモが見つかった。
「フローチャート……?」
「分かります。でもチャートの通りに行くことは稀な上に、思い出そうとするとドンドン間ができてしまうんです」
つばめ、こくこくとうなずく。
「ここにも、一筆足しておきたいわね」
「どのようにですか?」
「自慢の設定を一方的に語り続けるのは、会話ではないって……」
自分がしてきた得意げ設定自慢と、温かい目で「すごいねぇ」と言っていた人たちのことを思い出して、呼吸が苦しくなる可憐。
「あ、ああああっ!!」
突然上がった悲鳴。
戻ってきたまもりは、可憐たちの姿を見て一瞬で赤面した。
「ももももうしわけありませんっ! 私なんかが、生意気にっ! 『食べ物マップ』のノートと、『防御メモ』のノートを、わ、渡し間違えてしまいましたっ……!」
そう言って、何度も頭を下げるまもり。
「まもりちゃーん! すっごくうれしかったよ!」
「まもりのおかげで、ずいぶん助けられてるものね」
「はい、まもりさんのおかげで生き残れた戦いも多いと思います」
「すっかり、防御のエースね」
「い、いえいえいえいえっ! 私なんかいつ盾ごと叩き割られてもおかしくないです……っ!」
「何お前ごときが生意気なこと言ってんだよ」みたいな展開になるのではないかと慌てたまもりは、大きく安堵の息をつく。
「あ、あの……いつも、お世話になっております……っ!」
「こちらこそだよーっ!」
深々と頭を下げるまもりに、思わず抱き着くさつき。
「その袋は?」
「あ、あの、こちらレンさんのお母さんと妹さんが……」
「え? なんで? ここに来たの?」
可憐が星城母娘に渡されたという紙袋を開けると、そこには手紙と菓子折り。
「……可憐へ。もしもすでに儀式をおこなってしまっているのなら、こちらを菓子折りと一緒に渡してください。謝罪文が入ってます」
「おこなってないわよ!」
「もしもまだ儀式をおこなっていないのなら……耐えてください」
「だからしないっての!」
相変わらず信用されていない可憐に、さすがに笑ってしまうさつきとつばめ。すると。
「あ、あと……こちらも」
まもりは手には、もう一つの紙袋。
同じく菓子折りと共に出てきた手紙は、まもり宛てだ。
内容を確認しつつ、まもりはスマホを取り出した。
「あ、あの……自撮り……というのはどうすればいいのでしょうか?」
普段写真を撮ることは『食べ物』以外にないまもり、インカメラに切り替える方法を知らない。
「写真……おにいちゃんですね……?」
「は、はひっ」
「やはり……」
「あ、あの、つばめさん。自撮りをするのってどうすればいいのでしょうか……」
「――――わかりません」
まもり以上に写真を撮らないつばめ、威風堂々とした『分からない宣言』をぶちかます。
「申し訳ありません。うちの兄がぶしつけなお願いをしてしまって……」
「良い空気だったのに、完全にいつもの感じになったわね」
「本当です……」
悲鳴を上げる可憐と、恥ずかしそうにするつばめ。
「ま、まもりちゃん……ウチからも大きな骨付き肉とか、バナナが届いたりしてない?」
さつき、この流れに恐怖しながらたずねる。
「い、いいえ。さつきさんのお宅からは普通に挨拶をいただいたんですが……」
「ですが……?」
「骨付き肉が来るかもしれないのですか!?」
途端に目を輝かせるまもり。
「ふふ、結局最後はこうなるのね」
肉と聞いて突然元気になったまもりに、笑い出す可憐。
星屑の世界から戻ってきても、四人は賑やかな夜を過ごすのだった。