軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

921.弾幕です!

「あ、ここは皆で入れるお風呂だね!」

メイとツバメは、女将の後に続く。

たどり着いた大浴場には、多くのプレイヤーがやって来ていた。

海底遺跡の冒険によってクローズアップされた温泉を求めて、ヤマトの利用が急増。

そのためプレイヤー利用の大浴場は、NPCも含めて結構な人数がいる。

「あ、メイちゃんだ!」

「なんだあの格好、初めて見るぞ!」

「クエストかな? でもめちゃくちゃ可愛いね」

赤い和服に、たすき掛けのメイ。

いつもと違う元気な姿に、男女問わずさっそく視線が集まる。

すると女将は振り返った。

「アンタにはここの掃除を――」

そう言って、メイに仕事の指示を出そうとしたその瞬間。

「何を言ってやがる! この場所は俺がいつも使ってんだ!」

「知ったことか! 今日はオレが先に来たんだ! 俺のもんだ!」

何やらNPCの男二人がケンカを始めた。

その剣幕に、自然と皆の意識が集まる。

「うるせえ! さっさと退きやがれ!」

もみ合いになる男たち。

先に来ていた男がそう言って、後から来た男を突き飛ばした。

「…………やりやがったな! もう許さねえ!!」

すると後から来た男は、突然その姿を変える。

「オ、オオオオオオ――ッ!!」

「ウソだろ……?」

変化した姿は、巨大な骸骨の妖怪ガシャドクロ。

吹き付ける湿った風に、プレイヤーたちも息を飲む。

「まさか怪異が入り込んでるなんてね。アンタたちが冒険者で良かったよ」

ここで動き出したのは女将。

「ここは修理一つでも大金がかかるんだ。武器を使わず、風呂を壊さず、お仕置きしてやるんだ!」

「りょうかいですっ!」

それはなかなか難しいオーダー。

しかしメイは、臆さず飛び込んでいく。

先行したのはガシャドクロ。

空中をふわふわ浮きながら、鬼火を思わせる30センチほどの【火の玉】を放つ。

「追いかけてくるやつだ!」

そのやや緩やかな飛来速度に、メイはすぐさま『追尾』の攻撃と判断。

迫る八つの火の玉を余裕のステップで回避し、戻ってきたところを喰らわないよう距離を詰めていく。

「【バンビステップ】【ラビットジャンプ】!」

その大きな手による叩きつけも、骨の間をすり抜けるように回避して跳躍。

「【カンガルーキック】」

剣を禁じられたメイは飛び蹴りでダメージを奪いに行くが、ガシャドクロはスーッと横移動。

メイの攻撃から距離を取り、今度は猛烈な喰らいつきに迫る。

「【アクロバット】! からの【キャットパンチ】!」

これをバク転で回避し、今度は踏み込んでからの拳打を狙いに行くが、これも飛行移動で逃げられてしまう。

「……どうしようかなぁ」

『壊すな』という指定があるため、植物による攻撃も少し怖い。

「ゴァァァァァァ――――ッ!!」

メイが悩んでいると、放たれたのは20個にも呼ぶ【誘導火の玉】

この数に誘導がかかっているのは大変だと考えたメイは、早めの回避を敢行する。

見事なステップで火の玉同士をぶつけて数を減らし、最後は大きな跳躍で回避。

「あれっ!?」

しかしその足が、踏んだ石鹸によってツルっと滑って転倒。

「あいたたた……」

まさかの事態。

顔を上げると、付近には多量の火の玉が。

「うわわわわーっ!」

メイは狭い隙間を、満員電車を降りる時のような半身移動で抜けていく。

炙られる袴の裾。

ふわふわ浮かぶガシャドクロを、武器を使わず、かつ辺りを壊さずに懲らしめるのは意外と難しいようだ。

「メイちゃん! 危ない!」

「うわっと! 【アクロバット】!」

聞こえたプレイヤーたちの声に、すぐさま反応する。

後方から迫っていたガシャドクロの【喰らいつき】をバク転で見事にかわし、華麗に着地。

するとガシャドクロは距離を取りながら、再び火の玉乱舞を放つ。

メイはこれ以上転ばないよう、石鹸の位置を確認。

「……あっ!」

それが『オブジェクト』であることを思い出す。

そして一転、浴場内の各所に置かれた木製の風呂桶を手に取った。

「まっすぐ!」

まさかの投擲。

フリスビーのような美しい軌道で飛んでいった木桶は、見事にガシャドクロの頭部にヒット。

わずかにゲージを減らすことに成功。

「そっか! こういうことだねっ!」

そういうことではない。

ガシャドクロは火の球を避けられると、【喰らいつき】を放つことが多い。

それをかわして攻撃すれば、素手でもある程度のダメージが入るという仕様だ。

「いきますっ!」

しかしようやくダメージを与える方法を見つけたメイは、これと決めて動き出す。

迫る火の玉は一度に20個。

メイは両手に取った風呂桶を、火の玉の隙間をぬうような形で投擲。

「メイちゃんが暴投……?」

明後日の角度に飛んだ風呂桶に、思わず声を出す観客。しかし。

風呂桶は空中をドリフトするように弧を描き、火の玉をかわす形でガシャドクロの頭部に直撃。

「なんだあれ! すげーっ!」

なんとメイ、木桶で変化球を投じる。

あがる歓声。

さらにメイは、左手に持った木桶も投擲。

今度は斜め上方から降りてくるような軌道で火の玉の間を抜け、これも頭部にヒット。

「すごーい!」

「「メイちゃんがんばれーっ!」」

「はいっ! ありがとーっ!」

そこに飛んできた女子パーティの声援に、両手を振って笑顔で答える。

「お、おい! あぶないぞっ!」

しかしそこに飛んできた火の玉が、容赦なく炸裂。

「「メイちゃん!」」

あがる悲鳴、どよめく大浴場。

「大丈夫ですっ!」

しかしメイは、新たに手に取った木桶で火の玉を受け止めていた。

どうやら木桶は、『盾』代わりにすることも可能なようだ。

「それーっ!」

こうなってしまえばもう、戦いはメイのもの。

ガシャドクロの放つ火の玉は30個に増加。

しかしメイはこれを踊るようなステップでかわし、木桶の底で叩いて弾き、その合間に投擲。

今度は下から伸び上がるような軌跡で飛んできた木桶が、ガシャドクロのあごを打つ。

「おおっ!? なんだこの炎弾の数は!?」

だが次は火の玉40個。

それは回避を許さない、怒涛の火の玉乱舞。

上から見たら弾幕シューティングにしか見えない攻撃の隙間を、メイは右に左にステップ。

「右右左、くるっと回ってそれそれそれっ!」

時に回って、時にしゃがんで完全回避。

同時に木桶をひろって投擲。

右から回り込み、左から回り込み、意表をついて正面から狙う木桶。

全てがしっかり火の玉乱舞の隙間を抜けてヒット。

メイの高い【腕力】がしっかり木桶を飛ばし、【技量】が変化球の精度を高める。

早くも敵残りHPは、1割程となる。

「ガシャドクロが燃え上がり始めた! 奥義がくるぞ!」

紫の炎を燃え上がらせながら、ガシャドクロは高速で飛び掛かってくる。

右腕の払いを、しゃがんでかわす。

左腕の払いをバク転でかわす。

「グオオオオオオオオ――――ッ!!」

そして放たれた最後の【豪炎喰らいつき】

「【裸足の女神】っ!」

最初から裸足の大浴場。

メイは【喰らいつき】が迫る前に、その下を高速で駆け抜け急ブレーキ。

ツルツルの床に、そこそこ滑ってから振り返る。

そしてそこにあった木桶に手を伸ばし、ガシャドクロと向かい合う。

「っ!」

繰り出す火の玉は、なんと50個。

一つが30センチに至る炎弾の一斉攻撃に、目を見張る観客たち。

メイは迫る火の玉の軌道を見計らい、全力で振りかぶる。

「いきますっ! それええええええええ――――っ!」

最後はおおきく振りかぶって、アンダースローで放つ全力の真っ直ぐ。

伸び上がるような超高速の一撃はなんと、視界を埋める炎弾の隙間を抜けガシャドクロの眉間に直撃。

放たれた火の玉はメイの目前で解けるように消えさり、倒れ込んだガシャドクロは術が解け、人間の姿に戻った。

「「「「オオオオオオオオ――――ッ!!」」」」

この戦いを見ていた観客たちは拍手喝采。

敵の弾幕をかわしながら、木桶を次々に変化球の軌道でぶつけていくメイに、目を奪われっぱなしになっていた。

「やっぱメイちゃんはすごいなぁ」

「木桶投げは普通に楽しそうだな! イベントとかでも遊べそう」

「メイちゃんナイスファイトー!」

「ありがとうございますっ!」

意外な形での、クエスト攻略。

聞こえる歓声にメイは、元気に手を振り返す。

「……【投石】でもいけそうだね」

「あっ」

実は【投石】でも、【技量】値があればしっかり戦えるこのクエスト。

それならむしろ、【投石】の方が早い。

「えへへ、忘れてました」

ちょっと恥ずかしそうにするメイ。

その姿に、また歓声があがるのだった。