軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

884.ナディカ

「……この伝言を聞いているということは、私はもう迷子になっているのでしょう」

ツバメが語る言葉を、ただ静かに聞くメイたち。

「ですがこれはいつものこと。私はまた皆さんを追いかけますので、そこでお会いしましょう! ……以上が、迷子ちゃんさんが残していた言葉になります」

「死んだ後に出てくる映像とか手紙のヤツよね、これ」

ツバメに預けられていた迷子ちゃんのメッセージに、さすがに笑ってしまうレン。

どうやら迷子ちゃんは、いつ迷子になってもいいように、前もって伝言をしておいたようだ。

「再会を願いつつ、先に進みましょう」

「あのスライムもそうだけど、なんだか最近面白いプレイヤーが多いわねぇ」

「あはは、本当だね」

そう言って歩き出す四人。

陽光明るい海底遺跡。

乳白色の石金属によって造られた建物には古代の雰囲気を感じるが、結晶に灯る碧色光の明滅はどこか未来を思わせる。

そんな青と白の世界を泳いでいく魚たちは、黄色や赤、緑などで美しい。

数も多く、人間のいないこの遺跡は魚たちの楽園のようだ。

「おおっ、きれーい!」

レンとツバメの間を抜けていく魚たちに、メイが目を輝かせる。

向かうのは、奥にある神殿。

ギリシャのものを思わせる柱は、やはりよく目立つ。

そして中央階段の天辺には、三叉の槍を持った女神の象。

「武器を持った像は、つい警戒しちゃうわね」

「そうですね。全身鎧などは、何だったら先に攻撃しておきます」

「はひっ、分かりますっ」

そんなRPGあるあるを話しながら進む。

時には視界をウミガメなどが通り過ぎていく光景は、やはり神秘的だ。

メイたちは遺跡の奥にある神殿に到着。

女神像を通り過ぎ、階段を上がる。

「わあ……!」

思わず声を上げる。

神殿の中に見えたのは、たくさんの魚たちと戯れる一人の人魚。

淡い桃色の髪に、深い橙色の目。

そんな美しい光景の中に踏み込んでいくと、人魚はこちらに気づいて警戒の視線を向けた。

「……何用ですか?」

「この遺跡にあるゲートを探しに来ましたっ」

「ゲート? 何のために?」

「世界の崩壊を防ぐためってところかしら」

「そうですか……」

そう言って人魚は、魚たちを解散させる。

「かつて地上の文明が滅んだ時、戦いによる汚染を受けた海も大変だったそうです。そしてここ『ナディカ』からも人間たちがいなくなり、やがて私たちの家になりました……世界のためと言ったあなたの言葉が本当か、そしてそれがなせるだけの力を持つのどうか、試させてもらいます」

そう言って人魚は、神殿中央にある円形のプールに飛び込んだ。

続いてメイたちもプールに入り、潜水で地下へ降りる。

不思議なことに水は、『枠』になる容れ物もないのに流れることはなく、綺麗な円柱の形に固定されている。

これがナディカの文明なのだろう。

水柱から出て地下のフロアに足をつけると、そこは真っすぐに続く乳白色の空間。

人魚は泳いで先行。

大きな両開きの扉を潜って、第一のフロアへ。

そこには大量の水ブロックが空中に静止しており、チェッカーフラッグのようになっていた。

「貴方たちに、この壁が破れますか?」

人魚が手を掲げると、水ブロックが一斉に集合して分厚い透明の壁になる。

「これが最初の試練ってことね! 【フレアバースト】!」

レンは即座に爆炎を放ち、水壁に穴を穿つ。

「戻っていきます……!」

しかし水は、粘性を持つ重たいもの。

爆炎が生み出したへこみは、すぐに埋まってしまった。

「それなら剣はどうでしょう【八連剣舞】!」

それを見たツバメが放つ、八連続の剣撃。

深く刻まれた傷はしかし、その範囲の細さもあって、一瞬で埋まってしまう。さらに。

「【チャリオット】!」

盾で突撃していくまもり。

「ひゃあっ!?」

やはり盾の面積が大きいせいか、しっかり跳ね返されてゴロゴロと転がった。

「この壁は、剣や槍などの攻撃に非常に強いのです。力任せの突破は諦めた方がいいでしょう」

人魚はそう言って、静かな目でこちらを見つめる。

「ここは私の出番になりそうね」

そう言って、【魔眼解放】しながら前に出たのはレン。

魔法の使用順を決め、水の壁に向け杖を構える。

「一気に行くわ! 【フレアバースト】!」

初撃はいきなり上級魔法。

爆炎で水壁を大きくへこませる。

「【フレアストライク】!」

すぐさま修復を始める水壁に、レンは続く炎砲弾で掘り進む。

「【増幅のルーン】発動! 【連続魔法】【ファイアボルト】! 」

上級魔法の連発の後、わずかに生まれた隙。

最速キャストが可能な初級魔法を六連発で放つことでつないで、次の魔法へ。

「【連続魔法】【フレアアロー】!」

中級の炎系魔法で水壁をさらに掘り進みつつ、クールタイムが終わるのを待つ。

「続けてもう一回! 【フレアバースト】!」

間に三つの魔法を挟んだことで、再び放つ爆炎。

水壁に穿った穴は、惜しくもギリギリで貫通とまではいかなかった。

「【フリーズストライク】!」

すぐさま放つ追撃。

氷砲弾は水壁に突き刺さるも、粘質な水に絡められ制止。

そのまま溶けるようにして消えていった。

「残念ですが、この壁を破れないようでは力不足です」

それを見た人魚はため息をつき、立ち去ろうとする。

どうやら、時間はあまりもらえないようだ。

「さすがに魔導士一人では厳しいわね。せめて『眼帯』と『包帯』の同時使用が必要かも……」

しかし、今から『溜め』に入っていたのでは間に合わない。

レンはため息と共に、降参を宣言。

魔導士二人以上で上位魔法を交互に連発するか、代役で弓術師や従魔と連携してぶつかるのが正解なのだろう。

「せめてもう少し力をつけてから、出直してきてください」

そしてついに人魚は、その背中をこちらに向けた。

「……でも、私たちがこの壁を破れないとは言っていないわよ」

だがレンは笑う。

それからメイに、「お願い」と両手を合わせた。

「おまかせくださいっ!」

壁の前に立ったメイは『効きにくい』剣を構え、厚い水壁に向かい合う。

「それではいきますっ! 【ソードバッシュ】!」

放つ一撃。

生まれた衝撃波が、水壁にぶつかり風を生む。

「【ソードバッシュ】! 【ソードバッシュ】!」

レンたちの髪が大きく揺れ、パレオがバサバサと跳ねる。

「【ソードバッシュ】! 【ソードバッシュ】!」

物理攻撃への耐性が圧倒的な水壁に、一撃ごとに穿たれていく穴。

その勢いは恐ろしく、高い物理耐性と修復能力ですら、怒涛の衝撃剣の前に押されていく。

「メイの火力と、基礎スキルゆえの連射性なら、想定されてないだろう物理でも……いける!」

「メイさん、もう少しです!」

「が、がんばって!」

「おまかせくださいっ!」

弾け飛ぶ軟体の水飛沫。

三人の言葉に応えるように、メイは力いっぱい剣を振り下ろす。

「【ソードバッシュ】からの……! 【ソードバッシュ】だああああ――――ッ!!」

吹き抜ける暴風。

放つ全力の振り降ろしに、ジェルのような飛沫が爆発。

辺り一面に張り付いた雫が、ゆっくりと落ちていく。

「……あらためて、メイってすごいわよね」

メイはそのまま『圧倒的不利』な仕掛けを、あえて物理で押し通った。

「ま、まさか、この壁を剣で崩してしまうとは……」

そんな無謀を成功させた場合にだけ、こぼれるセリフ。

人魚は驚きの表情と共に、次のフロアへ。

「ありがとうメイ! こういう『絶対無理だから』を押し通るの、最高に気持ち良いわ!」

「お見事でした!」

「す、すごかったです……っ!」

「いえいえーっ」

弾け散ったジェル水を大量に浴びて、『溶けかけ』みたいになった四人。

最初の試練を見事突破。

もちゃっとしたハイタッチをかわして、人魚の後に続くのだった。