作品タイトル不明
834.テラ・レックス
始まった戦闘は、アーリィたちにとってはリベンジ戦となる。
部族たちを相手に、その猛烈な力を振るう巨大な恐竜テラ・レックス。
メイたちが前に歩み出ると、発達した二本脚でこちらに向かって駆けてくる。
その勢いは暴走トラックのように激しく、巨体ゆえに回避も難しい。
「【バンビステップ】!」
これに対してメイは、まず後衛が下がる時間を稼ぎに入る。
砂煙を上げて迫るテラ・レックスの前に立ち、狙いが確定したのを確認して回避行動へ。
「【ラビットジャンプ】!」
高い跳躍で、これをギリギリかわす。
サイのように頭を下げる形の突撃でも、その身体の大きさはやはり武器になる。
「【加速】【リブースト】!」
「【因幡ステップ】!」
通り過ぎたテラ・レックスを追うのはツバメとバニー。
しかしその振り返り際のモーションの大きさに気づき、バニーが声を上げる。
「ツバメ、しゃがみでっ!」
「はいっ!!」
すぐに言葉の意味を理解し、その場に伏せる。
テラ・レックスは振り返りと同時に、岩で作った両刃斧のような尾を振り回してきた。
付近の木々をなぎ倒す一撃は、喰らえば単純に大ダメージとなるだろう。
テラ・レックスはそのまま尾を振り上げ、黄色い結晶部分を輝かせると、そのまま叩きつけにきた。
「「っ!!」」
すぐさま立ち上がり、落下してくる尾から逃げるツバメとバニー。
その一撃は、地面から岩塊が大きく突き上げる。
さらにそこから、横への退避を続けるツバメとバニーに尾を三連打。
生まれた四つの岩塔を、尾の回転撃で消し飛ばす。
「くっ!」
「痛ったあ!」
散弾のようにして飛ぶ岩片が、ツバメとバニーのHPを1割ほど削っていった。
「【フリーズストライク】!」
「【十字光弾】!」
この間に距離を取ったレンと灰猫が、放つ魔法。
氷砲弾と光の十字光はテラ・レックスに直撃して爆発するが、岩のような外皮による単純な【防御】が大きくダメージを軽減した。
「このタイプの魔物で、防御体勢を取るのはめずらしいわね」
部族の投擲があまり効かなかったのは、この防御のせいだろう。
テラ・レックスは再び走り出し、メイ目がけて攻撃を再開。
「うわわわわっ!! 【アクロバット】【アクロバット】からの【アクロバット】!!」
右左右と、その長く鋭い角による三連続の振り回しを、連続の側方宙返りで回避したメイ。
すると今度は単純な体当たりを仕掛けてきた。
「【ラビットジャンプ】!」
大きな前方への跳躍。
これが運よく正解となり、続く【角振り上げ】という高ダメージ攻撃も同時に回避成功。
直後、マーブル模様の黄色い結晶が爆発を起こして中空にエフェクトを描き出した。
「ふわーっ、すごい迫力ーっ!」
思わず目を見開きながら、空中で安堵の息をつくメイ。
あの大きさの敵があれだけの速度で突撃してくる以上、ぶつかったら大ダメージは必至。
そのうえ『暴れ』るタイプのモンスターは動きが読みにくい。
「【フリーズストライク】!」
「【十字光弾】!」
メイの回避を見て、即座に援護に入るレンと灰猫。
するとその魔法に反応したテラ・レックスは、後衛狙いで走り出した。
放った魔法はわずかにHPを削ったものの、【体当たり】は『スーパーアーマー』仕様。
「本当にやっかいね!」
容赦なく突撃を仕掛けてくる。
その長い角を向けた突撃は、角の結晶を輝かせながら。
後衛が狙われたら回避はかなり難しく、防御しても生き残りが厳しいレベルだ。
「【クイックガード】【地壁の盾】、【天雲の盾】っ!」
そこに割り込んできたのは、あらかじめ後衛組の防御に回っていたまもり。
輝く結晶を見て二段階攻撃の可能性に気づき、あらかじめ【クイックガード】を使用。
激突直後の爆発を見て、即座に防御属性を切り替えた。
「まもりっ!」
「ひゃああああああっ!!」
灰猫たちを守る見事な判断になったが、【不動】が間に合わなかったことで、なんと30メートルほど転がった。
やはりレンや灰猫がこれを受けていたら、即死だっただろう。
テラ・レックスは止まらない。
まもりが離れたことで、後衛組は無防備状態。
その場に大きく跳び上がり、両の翼を広げた。
「圧し掛かり……ッ!」
付近に大きく影がかかるほどの巨体は、翼を広げることでさらに範囲を拡大。
レンはここで【低空高速飛行】に賭けることも考えたが、あえて灰猫の隣へ。
この選択も正解となる。
「【裸足の女神】!」
跳び込んできたメイは、二人を同時に抱えて猛ダッシュ。
そのまま全力疾走で、ギリギリ圧し掛かりの範囲を駆け抜けた。
「うっひゃああああーっ!」
ゴロゴロと転がり出た三人は、「あぶなーい!」と互いを見合う。
もしも自力での回避を狙っていたら、間に合っていなかった。
「助かったわ! 火力は間違いなく大クエストのボス級ね……っ!」
「ありがとうにゃん」
危機一髪の回避を成功させたメイたち。
そして跳躍からの圧し掛かりは、さすがに隙が大きく生まれる。
メイが二人を助けたことで、テラ・レックスは体勢を大きく崩すことになった。
「先日の借りは、返させてもらうぞ!」
このタイミングを待っていたのは、夜琉。
走り出し、その距離をしっかり詰めてから右足に強く力を込める。
「【爆歩】【月穿ち】!」
「一歩、遅いかも……!」
レンが思わずつぶやく。
テラ・レックスに向けて、速く長い跳躍で迫る夜琉。
しかし跳躍のタイミングはやや遅く、テラ・レックスは【防御】をギリギリで間に合わせてしまう。しかし。
「この間合いなら、防御など関係ないっ!」
そのまま空中で一回転して放つ大太刀の一撃は豪快なエフェクトを描き、テラ・レックスの防御を打ち破った。
叩き込まれた、2割に届こうかという高ダメージ。
「【十字光弾】」
「【フレアストライク】!」
それを見た灰猫が即座に続き、さらにレンも続く。
この連携にテラ・レックスは弾かれ、大きく飛び下がって体勢を立て直す。
「夜琉のスキルは大振りなんだけど、どれも威力が高くて防御を崩す効果があるの!」
「あの速度で飛んできて放つ範囲攻撃みたいな一撃が、防御を崩してダメージまで取るって、なかなかすさまじいわね!」
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】」
この流れの中、距離を詰めていたのはツバメ。
体勢を立て直したテラ・レックスは、高速で迫るツバメを見て尾の叩きつけを狙うが――。
「隙、作ります! 【リブースト】【紫電】」
体勢の立て直しから放たれる攻撃は、ツバメを捉えるには始動が遅かった。
尾が届く前に放たれた電撃は、テラ・レックスを硬直させる。
「……ここは任せて」
「ッ!!」
静かな言葉にレンが振り返ると、そこには引いた右手に剣を持ったアーリィ。
左手をテラ・レックスに向け、大きく腰を落とす。
身にまとった魔力光がバチバチと音を鳴らして輝き出し、地面を蹴るのと同時に爆発。
「――――【雷霆】」
そのまま、弾丸のように飛び出した。
その移動距離は『矢』に迫るほど長く、それでいて速度は異常なまでの高速。
直線の稲光を残して突き進む超加速の一撃は、一瞬でテラ・レックスの脚部に迫り、そのまま斬り抜ける。
生み出されたまばゆい剣の軌跡を前に、倒れるテラ・レックス。
余波の雷光が霧散し、遅れて風が巻き起こる。
これでさらに、3割近いダメージを計上した。
もはや地上を水平に駆ける雷のようにしか見えない一撃に、メイも「おおーっ」と感嘆する。
「ツバメちゃんありがとう。一矢報いることができたよ」
長い髪を揺らしながら振り返ったアーリィの笑顔に、ツバメは思わず小さく拍手。
「す、すごい攻撃でした」
「これで約半分。ここからは後半戦ね」
恐竜とは思えぬ、大きなバク宙で起き上がるテラ・レックス。
その角と尾の結晶は、煌々と輝いていた。