作品タイトル不明
831.たどり着いた先
太刀を引っ掛けて、危うく窒息リスポーンしそうだった夜琉。
しかしその際に見つけた通路はガレキの下に隠れており、なかなか見つけづらい場所にあった。
「夜琉、太刀に気をつけてね」
「よーるー、引っかかんないでねー」
「夜琉、気をつけるにゃん」
「わ、分かっている!」
再び水中にもぐり、いざ通路に入ったところで――。
「ぐふっ!」
言った直後に太刀をガレキに引っ掛けて急停止させられた夜琉に、笑うメイたち。
この辺りは大きな石造りの建物がつながるような形で倒壊しており、その間を抜けていくようなマップになっている。
その先にあったのは、神殿のホールのような空間。
そして今度は、広い下り階段へとつながっている。
そのまま階段の方へ泳いで進んでいくメイたち。
夜琉のこともあり、アーリィは念のため後方を確認する。
「ッ!!」
そこに見えたのは、またも巨大魚。
水中での接近は音もなく、完全に虚を突かれる形になった。
魔法珠灯なら水中でも使用可能。
アーリィはこれをオンオフすることで異常を伝える。
しかし7人が振り返った際、すでに巨大魚はかなりの距離まで接近していた。
先手を打つ形になった巨大魚はその大きな口を開き、やや離れた位置にいたツバメとバニーのもとへ向かう。
良くてダメージ、最悪『喰いついて泳ぎ回り呼吸ゲージ切れ』という攻撃を狙う恐ろしい巨大魚。
そしてツバメとバニーには、反撃の手段がない。
「【紫電】」
「ッ!?」
ツバメはここで、電撃スキルを使用。
案の定その効果範囲が水によって広がり、バニーとツバメ自体も感電硬直。
巨大魚と共に、その場に無防備を晒す。
だがその一撃は、信頼のもと。
「ツバメちゃん! バニーちゃん!」
【ドルフィンスイム】のメイが二人の手を取りこの場を離脱すると、即座に灰猫が杖を向けた。
「【十字光弓】」
生まれる光の弓を引けば、黄金に輝く四本の魔力矢が放たれる。
直撃して大きく身体をのけ反らせる巨大魚。
この隙にメイたちは下り階段から続く通路へと進む。
「思ったより長い……!」
廊下は50メートルほど。
レンは体勢を立て直した巨大魚が追ってくれば、面倒なことになると確信。
長い廊下の床を次々にタッチしながら進み、後方を何度も確かめる。
そして今度は天井に触れつつ、距離を稼ぐ。
予想通り、巨大魚は猛スピードで後を追ってきた。
「【十字光弓】」
再び放つ光の矢。
誘導のかかった四つの光矢を、今度は上手にかわす巨大魚。
しかし、回避にかかった時間は見事にレンの助けとなる。
「凍りなさい!」
レンが【凍結のルーン】を発動する。
刻んだ無数のルーンから生まれる、氷剣山。
氷刃の道を前に諦めて、戻って行けばよし。
このまま特攻してくるなら大ダメージは必至、それもまた良しだ。
凄まじい勢いで突き進んでくる巨大魚は、特攻を選択。
生まれる氷剣山の廊下を、強引に突き進んでくる。
砕ける氷刃。
切り裂かれる巨大魚。
どんどん減っていく距離と、ガリガリと削れていく敵HP残量。
「耐久力は結構高いのね……!」
残り距離はわずか。
氷剣を砕いて進むその勢いを前に、誰もが息を飲む。
「ここまで、たどり着いた……っ!」
薄くHPを残して氷刃の廊下を抜けてきた巨大魚に、わずかに驚くレン。
豪快な喰らい付きが迫る。しかし。
「【魔力剣】」
魔力そのものを剣に変えての突きは、水中でも効果が変わらない。
見事なトドメで、ついに巨大魚を粒子に変えた。
「ありがとう」
さらに目配せで迎撃の準備をしてもらっていた、灰猫の肩を叩いて笑う。
どうやら仮にレンの【魔力剣】を乗り越えたとて、さらにもう一つ準備ができていたようだ。
呼吸ゲージは減ってきているが、巨大魚に早めの対応をしたことで問題はなし。
再びメイを先頭にして、一気に道を進む。
するとその先にあったのは、空気の溜まっている石造りの部屋。
足元の紋様が陣のようになっており、その中心には魔法珠が埋め込まれている。
メイがブルブルと身体を振って水気を飛ばすと、バニーも真似してブルブルする。
そのまま自然なハイタッチをして笑い合う姿に、ツバメとまもりがちょっと悶える。
「……逃していませんよね?」
そんな独り言はもちろん、どこかで見ているだろう運営への確認だ。
「水中を進むことなった時は少し不安だったけど、いい形で新ルートを見つけられたね」
「レンのあれはルーンか? なかなかの迫力だったな。水中戦は手札が少ないものだが、見事だった」
「メイの泳ぎにも驚いたにゃん」
「さメ」
「鮫……? あっ!」
アーリィは手をポンと叩いて、バニーの言葉の意味に気づく。
「『さ』いしょから『メ』イちゃんたちと一緒だったら良かったの略だねそれ!」
相変わらずの掛け合いを始めるアーリィたち。
ここは遺跡の深部、陣は間違いなく転移システムだろう。
一応『水濡れ状態』が解除されるのを待って、全員で紋様の上に乗る。
そして真ん中に埋め込まれた魔法珠を踏むと、生まれた魔法の輝きが紋様を駆け、光を上げる。
「さて、どこに向かうのかしら」
反撃が難しい水中で、巨大魚が守る転移方陣による移動。
たどり着いた先は、遺跡の一角。
どうやら部族の守る遺跡の、中核部分に飛ぶための転移装置のようだ。
「……なんだか不思議ね」
「不思議?」
メイが首と尻尾を傾げる。
「水中遺跡、思ったより小さかったのよね。ラプラタはもっと広かったでしょう?」
「そうですね。ラプラタが街一つと考えると、水中遺跡は学校二つ分くらいでした」
「そして部族が守る遺跡もまた同じくらいの大きさ。何かが起きるにしては規模が小さいのよね……」
「言われてみればそうだね。こんなに苦労してたどり着いた遺跡なのに」
「それとも小規模な区画が、離れていくつもある感じの遺跡なのかしら」
「島内にめぼしいものはなかったはずだがな……」
「とにかく見て回ってみよーよ。前回は部族を出し抜いて遺跡内部までーなんてできなかったから、気になるよ」
「それがいいわね。まずこの遺跡を見てみましょう」
「りょうかいですっ!」
常に厚い警戒によって守られている、エルラト禁域の遺跡。
外から近づけば猛烈な攻撃を受けるこの場所も、転移装置で内部に入ってしまえば監視の目は薄いようだ。
侵入に成功したこの場所を、メイたちは見て回ることにした。