作品タイトル不明
826.ゴルゴン
「【バンビステップ】!」
「【因幡ステップ】!」
「【クイックステップ】!」
崩落の中、分断された三人の前衛。
メイ、バニー、アーリィの三人は、崩れ落ちてくる岩をかわしながら崩落部屋の出口へ。
「【ラビットジャンプ】!」
「【リトルウィング】!」
二人は速いジャンプで、すでに空中。
しかし最後尾にいたバニーはわずかな遅れのせいで、足場の崩壊につかまりジャンプが遅れた。
「バニーちゃん!」
危ういギリギリの距離感に、メイが受け止め体勢に入る。
「よいしょっ!」
そしてわずかに届かなそうだったバニーを、両手で抱きしめた。
そのまま後ろに倒れることで、安全を確保。
「メイーっ!」
ギューッと抱きしめてくるバニーに、メイは「良かったー!」と笑顔を見せる。
「きゅん」
すると向けられた笑顔に、バニーはもう一度これ見よがしに抱き着いてみせた。
そんな二人のノリに、楽しそうに笑うアーリィ。
パーティの分断を喰らったにもかからず、悲観はなしだ。
そして立ち上がる際にメイに手を引かれて、ちょっとうれしくなるバニー。
「あっちゃー、これは戻っての合流はできそうにないねー」
道を戻ることができない状態になっていることを確認して、むしろワクワクした笑みで振り返る。
動ける三人が一緒であることは、幸運だったと言えるだろう。
「分割の形は悪くないね。迷った形になった私たちに地図があって、メイちゃんもいてくれる。夜琉たちは前に通った時のルートに戻れる位置に出てるだろうから」
そう言って、アーリィは夜琉たちの方は無事だろうと推定。
「ただ……」
「んー、そうだね」
続く下り坂を進んでいくと、たどり着いたのは鍾乳石柱に飾られた広いフロア。
先ほどまでとは一転して静かだが、たくさんの物を引きずるような音が聞こえてくる。
「何か、奥にいるよ」
メイの目が、最奥の気配を捉える。
「おそらくゴルゴンの本体だね」
そう言ってアーリィは、付近の地形を確かめる。
見えるのは、無数の鍾乳柱の真ん中に開いた道。
いかにもこの先に大物がいますと言った造りだ。
「一気に攻めちゃった方がいいかな。崩壊の可能性を考えると、たぶん目前まで飛び込んでの攻撃がいいと思う。遠くから攻撃した場合、髪ヘビたちが一斉に出てきて壁になったりしそうだし。足と近接攻撃での勝負だね。灯りは、私が左手でランプを持つ感じでいいかな」
「りょうかいですっ」
「狙いは速攻での勝利」
「そんじゃー、いっきましょうか!」
三人は武器を手に、うなずき合う。
「よーい……ドン!」
メイの合図で、各自が高速移動スキルで走り出す。
そして中ほどまで来たところで、メイの【遠視】が黄金の翼と青銅の腕を捉える。
「見えた!」
信じられない量の髪が後方へとつながり、付近一帯に伸びている。
深い石の椅子に腰かけ、黄金の目をした人型のそれは、間違いなくゴルゴンだ。
こちらの接近に気づくと立ち上がり、両手を大きく開いた。
ヘビたちが、一斉に動き出す。
「いきますっ! 【バンビステップ】!」
正面から迫る髪ヘビたちの喰らいつきは、当然回避が必要となり走る速度は落ちる。
移動速度が遅くなればさらにヘビが増え、石化光線の数も増える。
そんな流れを作るための攻撃だ。
しかしメイはこれを踊るような足取りで、回避しながら接近。
「援護するね!」
そのあまりに当たり前のように『避けつつ進む』姿に、アーリィはバニーとうなずき合う。
「【リトルウィング】!」
右側から弧を描くように迫る髪ヘビたちを、アーリィが先行して斬り払う。
「こういう数押しは、バニーちゃんだーい好きだよ! 【三枚おろし】ーっ!」
左から迫る髪ヘビを、バニーが怒涛の二刀流で斬り払う。
敵数が減り、一気に距離を詰めるメイ。
本体を守るため、後方から近衛兵のように出てきた髪ヘビたちが放つ石化光線。
その数は多く、さすがにアーリィたちはギョッとする。
しかしメイ、これを回避しない。
「メイちゃん!?」
「メイ!?」
この区画一帯のボスであるゴルゴン。
その戦闘における最悪の事態に、思わず悲鳴を上げるアーリィたち。
「大丈夫! 問題ありませんっ!」
「ええーっ!? なんでーっ!?」
「うそ……っ」
しかしゴルゴンの目から放たれる石化光線を全身に浴びても、【原始肉】の効果が残っているメイに効果なし。
これにはアーリィ、バニーもさすがに驚愕する。
しかし動画でケツァール騎乗戦を見ていた二人は、メイが『ありえないこと』を起こすタイプだと知っている。
「【白鳥乱舞】!」
「【千切り】!」
最後の奥義とばかりに出てきた髪ヘビを、二人がまとめて斬り裂きけん制。
そうなれば、残るはゴルゴンのみ。
「いきますっ!」
もはやメイは目前。
ここでゴルゴンは目を金色に輝かせ、奥義と言える石化の範囲光を放った。
しかしどれだけ光線を放とうが、今のメイには効果なし。
そのまま真正面から、本体の目前へ踏み込んだ。
続く青銅の腕による早く強烈な振り下ろしは、あまりに単調。
メイはこれを当然のようにかわして、剣を振り上げる。
「【フルスイング】だ――――っ!!」
強烈な一撃がゴルゴンに叩き込まれ、HPゲージを吹き飛ばす。
するとその身体が粒子に変わり、伸びた髪ヘビも続く形で粒子になって消えていく。
「「やったー!」」
メイとアーリィは抱き合った後、二人でぴょんぴょんしながらハイタッチ。
「洞窟最大の恐怖と言われたゴルゴンもー、これにて成敗っ!」
「せいばいーっ!」
そのままバニーのポーズにも、横に並ぶ形で参加。
そして二人にチラッと見られたアーリィも、ちょっと恥ずかしそうに決めポーズ。
「せ、成敗」
前回攻略組をひどく悩ませたうえに、打倒を諦めたゴルゴンを打ち破っての攻略となった。
◆
「ゴルゴン戦楽しかったよーっ」
「エリアボスと戦ってたの?」
ボス戦を終え、進んだ先はいくつかの道が合わさるポイント。
レンたちは合流の可能性を予想して、その場でメイたちを待っていた。
「それでヘビが止まったのね。正直助かったわ……」
「前回散々苦しめられた石化へビの親玉を倒すの、最っ高に気持ち良かったよねー!」
パーティ分割後もヘビに苦しんでいたレンは、息をつく。
一方笑顔でそう言って、不意に首を傾げるバニー。
「これってー……最初から」
「バニー、それ以上はダメだよ」
「メイたちと一緒に来ればよかったなー」
「こら! そういうこと言わないの」
「よく知らぬトップ勢と共に延々暗闇のダンジョンを進むのは、大変だったからな」
攻略当時を思い出して、夜琉は息をつく。
「地図がなくてもぜーったい早かったよ! そもそも時間がかかったって、強い可愛い超野生のメイがいれば、全然空気が違うもんね!」
「野生が『超』にパワーアップしてる……!」
「これ、ダンジョンを抜けるのに丸3日はかからないにゃん……」
「あはは。いくら地図があったとはいえ、約ひと月が3日は……ねぇ?」
「しかも前回22人の攻略組が打倒を諦めたゴルゴンを、倒して合流するとはな」
地の利を生かした難敵をたった三人で打破してきたことに、あらためて感嘆する夜琉。
最低でも攻略に一週間はかかると踏んでいたアーリィたちは、互いを見合わせる。
「さすがメイ。グランダリアに銅像が立っているだけのことはあるにゃん」
「え……ええっ!? 銅像って本当に立ってるのー!?」
「ああ。ハウジングの得意な錬金術師の特注らしい。マントに石斧を持った、勇壮な感じだったぞ」
「絶対に、野生児姿だ……っ!」
そんなものがダンジョン横に立っているのを想像して、震えるメイ。
「……レンちゃん」
「どうしたの?」
「ツタで隠せば、バレないかな?」
「ついにメイさんが隠蔽を……っ」
グランダリアで出会ったプレイヤーや、攻略の思い出はうれしい。
ただ野生全開姿なのは恥ずかしいメイ、ツタによる遮蔽を目論む。
その想像は二宮金次郎サイズの銅像だが、実際は日本各地に立っている実物大ガンダム級であることを、メイはまだ知らない。