作品タイトル不明
786.北極に眠るもの
「よく見ると、ちょくちょくセイウチのような魔物もいますね」
「飛び掛かりと叩きつけ以外の攻撃方法はあるのかしら……?」
巨大シロクマを打倒したメイたちは、広い氷山の世界を進む。
ボス級の魔物が立ちはだかったということで、レンはこの方向に何かあると予想していた。
「それにしても……」
「メ、メイさんが可愛いです」
「本当ね」
白い子供アザラシたちが、先頭を行くメイの後に列を作ってついてくる状況に、三人はもう目が離せない。
この光景が見られただけで「来てよかった」と、満足げなツバメとまもり。
「……ん?」
そんな中、先頭を行くメイが異変を捉える。
「雪が降り始めてる?」
言われてみれば、進むほどに風が吹き雪が舞ってくる。
「何かありそうね」
アザラシが足を止め、その方向に進むほど雪も風も強くなる。
四人はうなずき合い、歩を進めていく。
するとたちまち吹雪となり、視界も悪くなり始めた。
「……ダ、ダメージになってます」
いよいよ吹雪がダメージを与えるほどになって、驚きの声を上げるまもり。
盾を構えてはいるものの、さすがに全身を守るのは不可能のようだ。
「この氷嵐……風で進みにくい上に、視界が悪くて方向もいまいち分からない。さらに無理して進めば氷片でダメージ。結構な仕掛けね。でも……」
メイは【王者のマント】を羽織ればダメージなし。
その上【帰巣本能】で、方向を間違えることもない。
今ではすでに全方位から風が吹きすさんでいるが、最初に進むほど風が強くなっていった『方角』をしっかりと把握している。
もはや帝国軍の者たちも、船も見えないほどの状況。
そんな中を四人、手をつないで進む。
「どこまで続くんだろう」
ただただ吹雪の吹きすさぶ音だけが続き、HPが減っていく。
これは『これ以上進んでも何もない、ただ世界の果ての演出のようなもの』なのではと、レンが少し心配になってきた頃。
突然、吹き荒れていた氷嵐が止んだ。
やはりメイの方向感覚は正しく、陽光が現れ、氷雪の世界をまばゆく照らし出す。
そして全員、思わず足を止め立ち尽くす。
「なに、これ……?」
「わあ……」
「驚きました」
「す、すごいです」
さすがにメイですら、驚きを隠せない。
そこには見たこともない化物が、凍結した状態で氷山に閉じ込められていた。
大きさで言えば、単体で王都を崩すほどの身体を持った『獣の王』に迫るほどだ。
獅子のような顔に、長く赤いたて髪。
緑の翼を持ち、身体は馬のようにも見える。
そんな巨大な化物が、氷塊に包まれ北極圏に眠っているのだ。しかも。
「槍が刺さっていますね」
化物の大きさに合った大槍がその身体を貫き、柄の一部が氷山の端からわずかに顔を出している。
「どんどん、この世界に隠されていることに触れていってる感じね」
「本当ですね……」
選択を間違えれば、国を崩壊させてしまうクエストを抱える『星屑』
これまでもいくつか、選択の間違いで危険な状況になったこともあった。
そのためか、今この状況が『しない方がいいこと』の可能性がチラついてドキドキする。
見知らぬ大きな展開のワクワクと、危険のドキドキが混ざり合い、思わず互いの手を取り不思議な笑みを浮かべてしまう。
「ちょっと、あぶってみる?」
ドキドキしながらも、止まることはない。
「【コンセントレイト】」
三人はレンの後ろで抱き合うようにして、成り行きを見守る。
「【フレアバースト】!」
放つ爆炎が巨大な氷塊にぶつかり、炎を上げるもやはり変化はなし。
「全然効果なしね。こういう形で溶かすことができるものではないみたい」
メイも氷の表面を触って、剣を思いっきり振り下ろしてみるが、何も起こらない。
やはり力技でどうにかするタイプのものではないようだ。
「ですが、兵器とも違っていませんか?」
ツバメの言葉に、あらためて化物を見る。
フローリスにあった兵器とは、見た目や方向性がまるで違う。
「……動けば兵器として使うことも可能みたいなことなのかしら」
しかしそこに、兵器のような遺跡の面影は感じない。
思わず四人、その異様な光景に立ち尽くしてしまう。
「どうやら、見つけたみたいだね」
そこにやって来たのは怪盗。
「やっぱり君たちの能力は本物だね。一緒に来られて良かった。なるほど……これが帝国の探していたものか」
氷塊に閉じ込められた化物を見て、興味深そうにする怪盗。
「これは『兵器』なの?」
「彼らの言うところの『兵器』はこっちの槍の方になるんじゃないかな。でもこれだと持って帰るっていうのは無理そうだね。黒い仮面の者たちを呼んで反応を見ても良さそうだ」
そう言って怪盗は、狼煙を上げた。
「それじゃあ、この化物は何なの?」
「そこまではまだ分からないかな。どうもかなり厳重に秘匿されているみたいだし」
そんなことを話していると、黒仮面たちがこの場にやって来た。
自然とメイたちの間に、緊張が走る。
しかし黒仮面たちは四人に気づくことなく、一様に化物を見上げる。
「これが――――『名のない獣』か」
そして静かにそうつぶやくと、観察を開始。
数人の上級兵も手伝い、様々な角度から『名のない獣』や『槍』を観察する。
「研究の成果は確かにあった。あの写本が本物だと分かっただけで十分だ。魔法珠による発信装置を設置した後帰還する」
やがて黒仮面の一人がそう告げると、別の黒仮面が上級兵姿の怪盗に指示を出す。
「貴様は下級兵を回収し、帰還の準備をしろ。探す必要はない。発見が遅くなる者は捨てて行け」
「はい、すぐに」
怪盗は静かに応え、しっかり兵士全員を回収して船へ。
こうしてメイたちは北極圏の調査を終え、帰路に着くこととなった。