作品タイトル不明
782.逃げられません
ツバメとまもりは、指定された宰相の執務室にたどり着いた。
やはり制服を着ていることで、進行はスムーズだった。
たどり着いたのは、縦に長い一つの部屋。
しかしそこは、不思議な造りになっていた。
「魔法珠が、各所に埋め込まれています」
部屋の天井や壁、床などから顔をのぞかせている無数の魔法珠。
「こ、この光景は見たことあります」
部屋の最奥、デスクのさらに後ろに置かれている金庫。
この中にある【認証珠】を持って行くのが目的だ。
ツバメたちの侵入に合わせて、魔法珠から赤いレーザーのような光線が発射し始める。
あっという間に、無数のレーザーが張られた『怪盗ものでよく見る仕掛け』の完成だ。
「こ、これを回避してデスクにあるレバーを下ろして、あの箱を開けということですか」
「このレーザーを避けて進むのは大変ですね……」
ぶつかればダメージを受ける上に、侵入者の存在を知らせるシステム付き。
長いレーザーの部屋、ツバメは攻略を開始する。
まずは斜めの光線を、身体を左右に傾けながら避けつつ進む。
すると横断歩道のような、連続の平行光線が足元に。
これを腿上げステップでかわして進み、最後の『アスタリスク』状の光線集合体を【跳躍】で跳び越える。
危なげなく、半分近くまで到達。
するとここで、異変が起きた。
「光線が動くのですか……っ!?」
ただ避けていくだけでも難しい光線が、動き出した。
恐ろしい事態に、まもりは思わず盾を抱きしめる。
「っ!」
こうなってしまっては、もう自分のペースで進むことはできない。
ツバメは足を払うような低さの並行な光線束を、飛び込み前転で回避。
そのまま伏せて、続く少し高い平行光線をやり過ごして顔を上げる。
「次は、右っ!」
即座にやってきた垂直の光線を、右へ転がることでかわしてしゃがみの体勢へ。
そのまま足を動かし、低姿勢で前進。
迫る足払い型の光線の上部に、時間差で迫る『×』型の光線を二つ発見。
足払い光線は嫌らしいことに、六本の光線がバラバラの速度で迫る形だ。
ツバメは『上』を使う事を決める。
「【跳躍】……【エアリアル】」
二段目のジャンプを遅く出すことで、タイミングを見計らって二連『×』の回避に成功。
「……ごくり」
まさにスパイアクションの緊張感。
まもりは息を飲まずにはいられない。
続くのは、高さの違う平行線が10本同時。
直後に垂直線が10本同時。
隙間をジャンプで抜けるのは難しく、伏せてすぐに縦の光線を回避しろということのようだ。
「【スライディング】!」
ツバメは早めのすべり込みで平行線を抜け、即座に立ち上がって半身の姿勢を取る。
目前を通り過ぎていく光線。
顔を前に向けると、上下左右の宝珠が一斉に光るのが見えた。
この位置づけから発生が予想されるのは、アスタリスク型光線の移動だろう。
その回避が難しいのは、間違いない。
しかしその発生前に、わずかな隙間が生まれた。
これだけあれば、ツバメには十分だ。
「【加速】【リブースト】!」
最後は最速の一直線。
「これで、終わりです!」
そのままデスクのレバーをオフ。
魔法珠から放たれる光線を、切ってみせた。
「うまくいきました」
「す、すごかったです……私だったら光線が動き出す前に盾をぶつけてしまいそうです」
「これは間違いなく、装備が軽いプレイヤーの方が良い仕掛けですね」
納得するツバメ。
レンがいないため「いや、装備は外して挑みなさいよ」という言葉はない。
「それでは【認証珠】を回収してしましょう。今回は本職である怪盗さんにお譲りしましたが、次回のスティール機会には必ず私の幸運をお見せいたします……開きませんね」
ツバメは金庫を開こうとするが、4桁の暗証番号を当てなくては開くことができないシステムのようだ。
もちろんその番号を聞いた覚えなどない。
「も、もしかして、箱の中身を盗むのでしょうか」
「結局【スティール】はあるのですか!?」
思い出してみれば怪盗は、『必要要件を満たしている』と言っていた。
それは『盗む』ためのスキルや装備品を所持しているという意味だったのだろう。
ツバメは恐る恐る、スキルを発動する。
「……ス、【スティール】」
生まれる、輝きのエフェクト。
「ッ!?」
なんと一発で成功。
「や、やりました! やはり最近始めた一日一善がここに来て私に幸運を――」
ツバメは歓喜しながら、手にしたものを確認する。
「【認証珠】ではありませんね」
手にしたのはフィギュアサイズの【女神像】
そう、箱の中身が一つだけとは限らない。
「盗めるかどうかに加えて、中身が求めているものかどうかの戦いもあるのですか……!? ともすれば、単純な【スティール】より地獄ではないですか……っ!」
「ツ、ツバメさん、大丈夫ですか?」
「もちろんです」
そう言って笑うツバメの目、純白。
どうやら成功しても、中身が欲しいものとは限らないという仕掛けのようだ。
「……【スティール】」
今度は失敗。
「【スティール】【スティール】【スティール】」
またも失敗。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】」
やっぱり地獄。
「あ、いたいたっ」
「こっちは終わったわよ」
そこにやって来たのは、仕事を終えたメイたち。
早くも【スティール】地獄になっているツバメを見て、うなずく。
「そうそう、やっぱりスティールはこうじゃないと」
「そういえば、まもりちゃんはどんな食べ物を持ち歩いてるの?」
「え、あ、ええと――」
メイに聞かれたまもりは、手持ちのお菓子などを取り出してみせる。
「わたしもクッキーを持って来てるんだ!」
そう言って取り出すと、しっかり目を奪われるまもり。
「これで応援準備も大丈夫だね! ツバメちゃんも一息つきに来てね! 手伝いが必要なら、何でもするよっ!」
「了解しました……! 【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】――――【スティール】っ!!」
「怪盗はこの光景……どういう感情で見てるのかしらね」
始まる応援会。
そして任せると言った以上、こっちのクエストへの参加はなしなのだろう。
真面目な表情で地獄の【スティール】連発を続けるツバメを見守る怪盗に、レンは何とも言えない視線を向けるのだった。