作品タイトル不明
781.久々の再会
「さあ次は、今夜最後の任務ね」
「第二王子さんの部屋の錠を、開くのが目標ですね」
そう考えると先のクエストは、少し癖のある第二王子の部屋への移動法を見せておくためのものだったのかもしれない。
「でも、鍵は宰相から奪うっていうのが悩みどころなのよね」
「今どこにいるかまでは、さすがに分かりませんね」
「どーするのかな」
首と尻尾を傾げるメイ。
どうやら金の錠前は特製の鍵か魔法で開けるものらしく、豪商ドレークは魔法を使っていたようだ。
よって鍵は、宰相から得なくてはならない。
「見てたよ、君たちの行動」
「「「「ッ!?」」」」
突然現れた謎の帝国兵に驚き、慌てて柱に隠れるまもり。
現れた兵士はメイたちと同じく帝国軍の制服に身を包んでいるが、それは上級兵のものだ。
「よっと」
しかし【早換え】のスキルで服装を変えると、その少女の正体が明らかになる。
「ああっ、怪盗さんっ!」
「お久しぶりです」
現れたのは、かつて出会った怪盗だった。
「制服を着て動く君たちを偶然見かけてね。それで声をかけさせてもらったんだ。帝国の中で動いているということは、何か目的があるんでしょう?」
「第二王子さんの解放ですっ」
「なるほどね、そういうことならどうかな。あたしは帝国が裏で求めている何かの確認が目的なんだ。帝国にアダ成す者同士、ここはひとつ手を結ばない? ちなみに宰相の居場所なら把握済みだよっ」
『帝国が裏で求めているもの』という言葉に、まもりは思わず息を飲む。
「面白くなりそうね」
「いいと思いますっ」
「怪盗さんとの共闘ですか、ワクワクしますね」
「時に君たちは、どっちが得意かな? 回避と……」
「回避と?」
「スティー」
「回避です」
ツバメ、怪盗の言葉に食い気味で回答。
「そういう事なら、宰相の執務室にある【認証珠】を持ってきて欲しい。今夜は貴族が出払っているから、多少のことでは騒がれることはないはずだよ」
怪盗と組んだ場合、どうやらここは分岐になるらしい。
「ただ部屋には無数に張られた光線トラップがあってね。魔法珠から出る光に触れると、高いダメージを受けることになるみたい」
「スパイ映画に出てくる、あの赤い光線ですね」
「あとはあたしの助手をしてくれる人が欲しいな。宰相は兵士じゃなくてガーゴイルを連れているんだけど、さすがに戦いながら鍵を盗むのはちょっと骨が折れるから。宰相からのスティールと罠の部屋。好きにメンバー分けしてくれていいよ」
「分かりました」
「ツ、ツバメさん……?」
普通に話しているツバメだが、ずっと白目をむいていることに驚くまもり。
「大丈夫よ、いつものことだから」
「い、いつもなんですか……?」
「ではあらためて、宰相からのスティールはお任せいたします」
「りょうかい」
「本来であれば私が鍵の奪取に挑みたかったのですが、怪盗さんがいるならお任せするべきでしょう」
「挑みたかったって言う割には、めちゃくちゃ安心しているように見えるけど……」
「そのようなことはありません」
怪盗がいるなら盗みは正々堂々任せられるという安心に、思わず安堵の笑みを浮かべるツバメ。
「見たところ君たちなら必要要件を満たしているし、このまま任せても良さそうだね」
ここからは二手に分かれるようだ。
「宰相の執務室は、動ける者が一人がいれば十分だよ」
「そういうことなら怪盗の手伝いにメイと私、罠の方にツバメとまもりでどう?」
レンの提案に、三人がうなずく。
こうしてメイたちは、二手に分かれて動くことにした。
「宰相は建国祭の準備と前夜祭の仕事で忙しかったみたいでね。睡眠導入剤ワイン一つで眠りについてくれたんだ。ただ場所が悪くてね。広い貴族用サロンの中、ガーゴイルたちを警備につけたまま眠ってるんだよ」
「派手な攻撃をしない戦いが求められるのね」
「そういうことだね。キミたちがガーゴイルたちを引き付けていてくれれば。その隙にあたしが【スティール】を使って奪い取るよ」
「りょうかいですっ!」
貴族たちはコンサートに出向いているうえに、前夜祭で普段とは違う警備体制。
上級兵の制服を着た怪盗は、怪しまれることもなく進んでいく。
王城中階層にある貴族用サロンは、石造りの部屋に真紅のじゅうたん。
小さなシャンデリアにソファ、ベロアのカーテンといった落ち着いた趣だ。
暖炉の存在が、どこか柔らかさを醸し出している。
そして奥のソファには、一人眠る貴族の男。
「あれが宰相だよ」
「護衛は五体でHPゲージなし……数を減らせないのは、なかなか厳しいわね」
「大変そうだね」
そう言いながら、レンとメイは気合を入れる。
早くもここでステータス上げの果実を三つずつ使用し、どちらも【敏捷】を上げておく。
サロンへ入っていくと、すぐにガーゴイルたちが反応した。
メイが先頭に立ち、歩を進めると明確に戦闘態勢を取り始める。
「くるよ」
そして『ライン』を越えた瞬間、ガーゴイルたちが一斉に動き出した。
狙い通り、複数体のガーゴイルがメイを狙う。
しかし怪盗を狙う個体も二つ。
そしてレンに一体という形になった。
「どうにか、怪盗さんのガーゴイルを引き受けないとっ」
メイに攻撃を仕掛けるのは、剣と槍のガーゴイル。
槍の二連突きを左右の動きでかわし、交代するように飛び込んできた剣士の払いをしゃがんでかわす。
「【尾撃】!」
ここでメイは一回転して、尾で剣士の頭部を払う。
「【ラビットジャンプ】からの【尾撃】!」
さらに弱めの跳躍で槍の個体を跳び越えつつ、頭部に尾を叩きつける。
これはもちろん、ターゲットを自分に確定させるためのものだ。
「【シャドートリック】」
飛び込んできた二刀流の個体を相手に、怪盗もスキルを発動。
残像に身代わりをさせて二刀流の攻撃を回避し、続く斧のガーゴイルもやり過ごす。
「怪盗もなかなかやるわね! 【低空高速飛行】【魔力剣】!」
レンはハンマーのガーゴイルの懐に、一気に跳び込むことで攻撃をけん制。
魔力の刃を叩き込む。
「メイ、もう一体ずついきましょう」
「りょうかいですっ! 【投石】!」
「【誘導弾】【フリーズボルト】!」
二人は飛び道具をぶつけることで、怪盗を狙っていた二体のガーゴイルをそれぞれ引き寄せる。
メイが速い二刀流を選んで引き付けてくれたことに、レンは自然と笑みをこぼす。
楽しそうしているメイだが、この辺りは考えて行動しているようだ。
「【装備変更】っ!」
メイはここで【狼耳】を付け、二刀流個体の連撃を下がってかわし、続く槍個体の連続突きを軸をずらして回避。
剣の個体の振り払いをしゃがんでかわしたところに来た二刀流の三連撃を、ローリングで左右に転がることで避けた。
「【装備変更】【アクロバット】!」
そして即座に【猫耳】に戻してバク宙。
槍個体の振り払いを跳んで避けると、その肩を踏んでもう一回バク宙。
三体による連続攻撃も、かすめることすらなし。
「振り払いはしゃがみ、返す刃もそのままやり過ごす。振り降ろしは【低空高速飛行】であえて接近!」
レンは斧の攻撃をかわして、続くハンマーの個体の突撃を踏み込むことでかわす。
「今っ【燃焼のルーン】!」
ハンマーと斧という、基本『突き』がなく大掛かりな予備動作のある敵が相手なら、レンの回避も十分役に立つ。
ここでハンマーのガーゴイルに、ルーンを使用。
彫刻刀で削ったような荒い『文字』を、その身体に刻み込む。
「【スティール】!」
この隙にガーゴイル網を抜けた怪盗は進み、スキルを使用。
生まれる輝きのエフェクトの後、その手に『鍵』が握られる。
「メイ、そっちは大丈夫そう?」
「だいじょうぶですっ! レンちゃんは?」
「この二体とのマッチアップにしてくれたおかげで、いけそうだわ」
「レンちゃんっ!」
「ッ!?」
会話の中で生まれたわずかな隙をつき、一体のガーゴイルが防衛ラインを突破。
ハンマーのガーゴイルにはこの、『特攻スキル』の移動使用がある。
状況を鑑み狙いを怪盗に変更したガーゴイルは、一気に距離を詰めていく。
「させないわ」
しかしレンはハンマー使いである金糸雀との戦いの経験で、『その可能性』も認識済み。
振り向くこともなく、ただ冷静に指をパチンと鳴らす。
「――――燃えなさい」
刻まれたルーンが輝く。
するとその直後、ガーゴイルの全身を紅蓮の炎が包み込んだ。
突然の発火に思わず「おおっ!」と歓声を上げるメイ。
王城侵入前に試した魔物のリアクションはほぼ、その場に崩れ落ちるという形だった。
今回も狙い通り、ガーゴイルは身を焼く炎にヒザを突く。
「悪くないわ。任意のタイミングで敵を止めつつダメージって使い方は面白い」
雑魚相手であれば、そのまま焼き尽くして消すという演出になる【燃焼のルーン】に、レンは満足そうにうなずく。
「……って、ちょっとどうしたの? 【スティール】を続けなくていいの?」
「何かあったの?」
残った方のガーゴイルの足止めに向かいつつ、レンは動きを止めている怪盗に言う。
メイも心配そうに視線を向けている。
「鍵なら、もう取れてるよ」
「「……え?」」
メイとレン、驚きに足が止まる。
「もう……終わったの?」
「ええっ!? 【スティール】ってこんなに早く終わるの……っ!?」
いつの間にか当たり前になっていた待ち時間、その短さに驚く。
二時間はガーゴイルを引き付け続けるつもりで気合を入れたメイとレンは、思わず顔を見合わせる。
「なんでかしら、気合を入れた分……少し物足りない感があるのは」
「本当だね……もっと頑張るつもりだったんだけど」
「これが怪盗の【スティール】力……」
「ツバメちゃんの様子でも、見に行こっか」
「そうね」
早く終われば、それはそれで何かそわそわする。
すでに『鍵』は手中。
メイとレンは少しずつ下がって、サロンの外へ。
指定の範囲を抜ければ、ガーゴイルも追ってはこないようだ。
こうして二人は【スティール】を成功させた怪盗と共に、来た道を戻っていくのだった。