軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

780.豪商ドレーク

「どうぞっ!」

メイは持ってきたシャンパンタワーを、金の装飾まばゆい巨漢の前に置く。

「ほう……」

すると狙い通り豪商は、相手が下級兵士であることを気にも留めずグラスに手を伸ばす。

「ちゃんとタワーの上から取ろうとするのね……」

律儀に最上段からそーっとグラスを取る姿に、レンがちょっと笑う。

すると茶髪を七三分けにした、付き人らしきジャケット姿の青年も一緒に酒をあおり出した。そして。

「「…………」」

二人同時に大きく息を吐き、気持ちよさそうに顔を赤くする。

「二人とも1杯で酔ってしまうのですね」

思ったより酒に弱い姿に、今度はツバメが笑みをこぼす。

するとドレークはそのまま、パーティ会場の出口に向かって歩き出した。

「きた……!」

旧市街の者たちを救うために動こうとした第二王子に、貴族優遇の素晴らしさを気持ち良くお説教。

狙い通り、その悪癖が始まったようだ。

ドレークは付き人を伴い、パーティルームを後にする。

「追いましょう」

四人も後に続く。

日本の城で言えば本丸にあたる主城。

階段を降り一階へ、城の背部へと続く道を行く。

長く大きな廊下は壁に彫り物が施され、ところどころに旗と金属で作られた紋章が飾られている。

「お城の背部には、公会堂みたいな建物があるのね」

深い紅色のじゅうたんの上を進み、公会堂前の小さなホールの端に刻まれた魔法陣に足を乗せる。

そしてその真ん中に置かれた魔法珠を、同じ足で四度踏む。

「消えちゃった」

「追いましょう」

四人は念のため、少しだけ時間を置いて二人の後に続く。

たどり着いた先は、豪華なドアの付いた部屋の前。

数メートルしかない廊下の左右には、豪華な石像が並んでいる。

「なるほど、ここはシンプルに鍵で閉じ込めてるのね」

ドアには小さな魔法石が埋め込まれた、金の錠前。

中から、話し声が聞こえてくる。

「ルティア王子、そろそろ考えを改めていただけましたかな?」

「私の考えは変わらない。民を苦しめるような施政を続けても、いつかは尽きる時が来る」

「そうでしょうなぁ……でもそれなら、搾り取る者の数を増やせばいい。他国にはまだまだ我らの養分となる人間が、いくらだっているのですから」

「むやみに戦いなどをしかければ、それこそ滅びへ向かう一方ではないか。他国が手を結べば、勝ち続けることなど――」

「できるのですよ、それが」

「なに……?」

「我らは新たな『力』を得るため、着々と歩みを進めております。実は……明日にもまた兵を、北に調査へ向かわせます」

「あんなもの……人が手を出して良いものではない!」

「ならば証明いたしましょう。貴方の前で、帝国の永遠の栄光をもって。くっくっく、一日も早く目を覚ますことを期待していますよ……王子」

「……なんか、とんでもない話をしているわね」

興味深そうにうなずくまもり。

第二王子との話が終わると、再び扉が開いた。

四人が二手に分かれて柱の背後に隠れていると、ドレークたちは魔法陣のあるホールへと戻っていく。

「ここからが、勝負所みたいね」

メイたちが後に続くと、都合よく二人は道を分かっていた。

忙しそうに、早歩きでパーティールームへと戻っていくジャケットの青年。

一方、ゆっくりとホールの扉から出ていこうとする豪商。

「【忍び足】」

ツバメを先頭に、そっと距離を詰めていく。

そして【昏睡針】を手にしたところで――。

「ドレーク様は、相変わらず忙しそうだ」

「「「「ッ!?」」」」

巨漢から聞こえた、まさかの言葉。

どうやら豪商ドレークは、青年の方だったようだ。

「兵士の方が話を聞きやすいと思ったけど、こういう罠が張られていたのね……!」

レンの予想は正解。

ドレークが誰なのかを尋ねる際、下級兵を見下す貴族からは聞くのが難しい。

対して兵士からは割と簡単に聞けるが、『あの人だ』と指さした先には二人の人物。

そしていかにも豪商然とした『ドレークっぽい』人物が、実は『付き人』だったという罠が仕込まれている。

「ここまでに距離があったのは、『プレイヤーがこの状態から追いかけてドレークを捉える』ためのストロークなわけ……!」

「追い駆けましょうっ」

メイの言葉に、四人は大慌てで走り出すが――。

「コンサートですって」

「皇帝陛下のご計らいだそうですわよ」

パーティールームにいたたくさんの貴族たちが、公会堂への移動を開始。

ドレークとの間に入り込んでしまう。

そしてドレークはすでに、貴族大移動の範囲を抜け出ている。

追跡はかなり難しそうだ。

「ここは任せてください」

ただ邪魔なだけではなく、強引な通り方をすれば貴族につかまり罵られるというペナルティ付きのポイント。

「【加速】」

しかし室内が得意なツバメに、人の有無など関係ない。

「【壁走り】!」

【加速】の勢いのままに城内の壁を蹴り上がり、そのまま斜めに駆け上がっていく。

「すごい……」

思わずもれるまもりのつぶやき。

そのまま【天井走り】に移行すれば、天井の高さゆえに貴族たちは気づかない。

先を行くドレークは先に進み、階段へつながる角を曲がった。

ツバメはそのまま天井でスキルを切って落下。

着地と共に再び駆けだし、後を追う形で角を曲がるが――。

「ッ!!」

ここで再び罠。

いかにもプライドの高そうな令嬢が、いきなり飛び出してきた。

ぶつかれば倒れ、その後の怒り方と『逃げれば魔法を使ってでも止めにくる姿勢』が、とにかくやっかいなことになるこの令嬢。

「【スライディング】【リブースト】!」

「ッ!?」

しかしツバメはなんと、その令嬢のスカートの中をくぐり、結局一度も足を止めることなく駆け抜けた。

「射程距離……いきます」

一気に勝負を掛けに行くツバメ。

「……ん?」

「ッ!!」

突然足を止めたドレークは、感じた気配に振り返る。

「……気のせいか」

しかしツバメは直前で【隠密】を使用。

気づかれる前に、その姿を消していた。

そしてそのまま階段を上がり、パーティルームに戻ろうとしたドレークに背後から接近。

「失礼します」

「――――うっ」

【昏睡針】を腕に刺す。

攻撃したことでツバメの姿はあらわになるが、ドレークは突然の立ち眩みに気づかない。

ツバメはこの隙に踵を返し、静かに立ち去る。

「……ドレーク様? いかがされましたか?」

やがて異変に気付いた兵士が駆け寄ってくるが、すでに任務は遂行された後だ。

これで豪商ドレークは、数日ほど動けなくなるだろう。

「ツバメちゃんカッコいいーっ」

貴族の波を【バンビステップ】で越えてきたメイは、そのままツバメに飛びついた。

「助かったわ、ありがとうツバメ。要人の暗殺を決めるなんて映画みたいね」

「す……すごかったです……」

質実剛健なガルデラ帝国とはいえ、王城内はやはり豪華絢爛。

夜の陰をかけたツバメの姿に、まもりは感嘆の息をもらすのだった。