作品タイトル不明
779.貴族たちの前夜祭
「三つ目の任務は、貴族のパーティーに潜入だったわね」
場所は王城メインホールではなく、その上階にあるパーティ会場。
堅牢な造りの城だが、やはり中身は豪華だ。
天井にはシャンデリアに真紅のじゅうたん、金細工の入った天井や壁はとにかく華やか。
会場奥の中央には、階段で上がれるロフトのような空間があり、そこには皇帝の大きな肖像画が張られている。
「おおーっ」
その絢爛な造りに、メイも感嘆の声を上げる。
王城まで来ると、そもそも兵士の数が多く怪しまれることはない。
また立食パーティーのような形式になっているため、壁側の通行なら問題なしだ。
「豪商ドレークさんはどこでしょうか」
多くの貴族が談笑をする室内。
人数だけなら、貴族が100人以上いるだろう。
目的は【昏睡針】による刺突。
これでドレークは数日の前後不覚に陥り、建国祭当日の動きを封じることができる。
ただ暗殺のようになる【昏睡針】の使用を、パーティ中に使うのはなかなか難しそうだ。
「粗相のないようにな。面倒を起こせば大変なことになるぞ」
別の兵士に、さっそくくぎを刺される。
「とにかく食べ物や飲み物の補充をしながら、目星をつけていきましょうか」
「りょうかいですっ」
「は、はひっ」
「……多分食べられないわよ?」
「ええっ!?」
「ふふ、やっぱり期待してたのね」
まもりの素直なショック顔に、笑うレン。
こうして四人は、二手に分かれて情報を求めることにした。
まもりとメイが付近を気にしながら足を進めていると、貴族の集まりを発見。
金銀財宝をこれでもかと身に付けた者たちの声に、さっそく聞き耳を立ててみる。
「そう言えば、旧市街に魔法珠を使ったランプの工場があったんですよ」
「ほう」
「うちで大量生産するから工場を売れと言ったのですが、生意気にもこれを断りましてね」
「どうされたのですか?」
「そこの従業員をまとめて買い上げて潰してやりましたよ」
「ほほう」
「ですが大事なのはここからです。これで以前の工場はなくなった。従業員共はいくら給料を下げても飲み込むしかないわけです。彼らに帝国を出るほどの余力はありませんからな。はっはっは!」
「これはお見事。素晴らしい手腕です」
「貴方は今何を?」
「帝国内の薬師から薬を買い占めての輸出ですな。それによって価格が上がった分、貧民どもには手の届かない高級品になっておりますがね」
「もっと搾り取ってやればいいのですよ。我ら選ばれた貴族に、彼らのような者は奉仕するべきなのです」
「その通りですな。はっはっは!」
「ひ、ひどい言い様です……」
「本当だね!」
あくどいやり口自慢をする貴族たちに、震えるまもり。
メイも頬をふくらませる。
「政変でも起きぬ限り、我々の立場は安泰。これからも下民どもから搾り尽くしてやりましょう」
「もちろんです。我らが帝国はさらなる力を付けるための研究をしているとのこと。戦となればまた、他国からの略奪も可能となる」
「この状況を崩してしまおうなど……第二王子の監禁は正解でしたな。ドレーク殿の提言はさすがとしか言いようがありません」
「下民どもを守るなどと言っておられましたからなぁ、第二王子は」
「最近ドレーク殿はお酒が入って気分が良くなると、よく第二王子のもとに出向いてご説教なされているのだとか」
「そうなのですか、第二王子の目が覚めると良いですな。あっはっは!」
「……そういうことなんですね」
見れば会場には、ドリンクを運んでいる兵士もいる。
どうやらこれが一つの鍵になりそうだ。
さっそく動き出すメイとまもり。
一方レンとツバメは、別の貴族の集まりへ。
「おい貴様ら、どうしてこんなところに入り込んでるんだ?」
「っ!」
突然向けられた貴族の言葉に、息を飲む。
「この場所での仕事は上級兵のものだ。貴様のような下級兵が城内に踏み込んでいい場所ではないぞ。目障りだ」
最悪、正体がバレた可能性もあると踏んだレン。
だが聞こえた意外な言葉を軸に、会話を続けてみる。
「上級兵?」
「城内の警備や貴族の護衛などは、中央通りなどに住む中流の者たち、または貴族の嫡男以外の仕事となっている」
「……下級兵は?」
「そんなことも知らんのか。一山いくらで命を張る旧市街民どもに決まっているだろう。それで、どうして貴様のような下級兵がここにいるんだ?」
貴族の男はそう言って、不審の目を向けてくる。
ここで面倒を起こせば、このクエストの成功は危うくなるだろう。
「突然の欠員が出て、代わりで向かうように言われました」
「……ふん、そういうことか。本来ここは貴様のような薄汚い者が来れる場所ではない、我々の機嫌を損なわぬよう慎めよ」
「はい」
貴族の男は、釘を刺して去っていく。
「あらためて、帝国の酷さを感じられるクエストね」
「本当です」
「この感じだと、貴族ではなく兵士に聞く方が当たり障りがないのかしら」
そう考えたレンは、付近の兵士のもとへ近づいていく。
見れば確かにこの場にいる兵士の制服には、赤いラインが入っている。
これが上級兵なのだろう。
彼らは仕事に忙しく、兵士の差異を確かめたりはしないようだ。
「すみません、ドレーク様はどちらに?」
「ドレーク様なら、あちらにおられる方がそうだ」
そう言って上級兵が指さした先には、いかにも『豪商』といった金装飾のシャツを着た、脂ぎった巨漢。
その横では小ぎれいなジャケットをまとい、茶髪を七三分けにしたスマートな青年が、予定でも確認するかのように手帳に目を通している。
「……さて、どうやって声をかけたものかしら」
「貴族に直接コンタクトを取るのは、少し勇気がいりますね」
先ほど貴族に下級兵の居ていい場所ではないと言われた二人は、悩む。
するとそこに、メイとまもりがやって来た。
「ド、ドレークさんは、お酒が大好きなんだそうです」
「いっぱい飲んで、第二王子さんのところにお説教をしに行く癖があるみたいだよ」
「そういうこと、助かったわ」
「やはり直接声をかけに行く形だと、一波乱起きてしまう感じだったようですね」
レンとツバメの予想は正解だ。
兵士からドレークがどこにいるかを聞くのは簡単だが、そのまま向かってしまっては『下級兵』であることに文句を付けられる。
そしてその際の会話が上手くいかなければ、この場を追い出さる流れになってしまう。
しかし好物の酒を持ち込むことで、それは有耶無耶になる。
こうしてメイたちはドレークを発見し、その接近方法まで得ることに成功した。
「……それでメイは、シャンパンタワーを持ってきたのね」
「そんなに飲んだら、そのまま酔い潰れてしまいそうです」
酒好きの情報を得たメイは相手が酒豪でもいいように、トレーに十二段のタワーを作って合流。
「だ、誰も指摘しないんですね」
この行為をNPCが『異常』と捉えるように設定されていないため、貴族たちは特に反応しない。
制服が下級兵なら目ざとく気づくのに、シャンパンタワーにはお咎めなし。
そんなメイだからこそ起こる光景は、慣れていないまもりにはとにかく新鮮だった。