作品タイトル不明
607.二人の弟子
「【爆震脚】【青帝拳・昇根】」
「くっ!!」
地を揺るがす踏み込みと同時に、突き上げる掌底。
すると足元から高く伸び上がった何本もの大きな『気』の根が、シオンを突き上げる。
背中から落ちたシオンは体勢を立て直すと、すでにファーランは次撃のモーションに入っていた。
「【青帝拳・枝斬り】!」
「くっ!」
広がる枝のような軌道で駆ける無数の気刃。
「【舞鳥】!」
正面からの回避は不可能と判断したシオンは、これを跳躍スキルで回避。
気炎で生まれる上昇気流で空中へ。
「ハッ!」
放つ跳躍蹴りを、ファーランは右腕で防御。
走る衝撃。
反撃は突き出す掌底。
「【気功破衝】!」
「【化勁】!」
これをどうにか、気による払いで無効化。
「【鳳火八卦掌】」
放つ真紅の気を回避したファーランは、すぐさま蒼の気を乗せた拳を放つ。
「【青帝拳】!」
「うあああーっ!」
炸裂する気が、シオンを大きく弾き飛ばした。
戦いは『狂化』を得たファーランが、優勢を取る。
「い、いいのか? 助けなくて」
その光景に、あらためてレンに問う参戦プレイヤー。
目の前の苦境に悩むレン。
覚悟を決めるように、大きくうなずいた。
「……間違えたらごめんなさい。でも、ここは手を貸したらいけないところだと思うのよ」
これまで遊んできたゲームの経験から、「一対一」を望んだ仲間に手を出す流れは良くないと判断。
悩みながらも『手を出さない』ことを決意。
「了解! 俺たちは紛れ込んで来た敵兵が展開を変えてしまわないよう、防衛に徹しよう!」
「雑魚は任せとけ! 【スティンガー】!」
「【ウィンドバスター】! 兵士たちは近づかせません!」
ちょっと中二病系の女子が多い、レン追従プレイヤーたち。
迫る狂化兵たちの打倒に集中する。
「一応、修行は完璧にこなしてきたはず……! シオン、がんばって!」
ここからレンの考える通りの展開が起きるとしたら、ここは『我慢』のはずだ。
万が一プレイヤーがファーランを倒してしまったら、その流れにはならない気がする。
「【爆震脚】! 【青帝拳・猛花】!」
「うああああっ!!」
見守ることを選んだ、シオンとファーランの戦いは続く。
乱れ咲く花のように、炸裂する高速の拳打。
【爆震脚】の『次撃威力向上』効果もあり、シオンは吹き飛ばされ転がる。
「終わりにするぞォォォ! シオォォォン!」
距離を詰め、ファーランは勝負をつけにいく。
「【青帝拳】!」
「【鶏行歩】ッ!!」
迫る蒼の気をシオンが速い足の運びでかわすと、ファーランは大きく拳を引いた。
「終わりだァァァァ! 【青樹崩拳】――ッ!!」
衝撃が駆け抜けるほどの大きく強い踏み込みから、放つ拳。
気は舞い散る無数の青葉のようになって迫り来る。
しかし即座に振り向いたシオンも、真っ向から大技を叩き込みにいく。
「ここだ! 【灼鳳炮拳】!」
拳から噴き出した深紅の『気炎』が、燃え上がる。
青い竜のエフェクトと赤い鳳凰のエフェクトがぶつかり合い、爆発を巻き起こした。
そのすさまじい威力を前に、両者共にヒザを突く。
「力量に差はなしね。でも同時撃ちとなれば『火』は『木』に勝る……!」
体力を残したのはシオン。
ファーランはふらつく足で、どうにか立ち上がろうとあがく。
「……持って帰んだよ。金を、食いもんを、長い戦いで色んなものをなくしたヤツらに……この力で……っ!!」
「姉弟子! 今この国は変わろうとしています。王と天子は隣国に和平を結びに向かったのです!」
シオンの渾身の叫びが、ファーランの動きを止める。
「戦乱に奪われる者が苦しむ時代が、終わろうとしているんです!」
「……な、に?」
「だがジュンシーはまたも、鳳を戦乱の時代に戻そうとしている……」
シオンはそう言って、手を伸ばす。
「始まる新しい時代のために、一緒に戦ってもらえませんか……姉弟子っ!」
ファーランが大きく息をつくと、目の赤い輝きが収まっていく。そして。
「…………わかった」
シオンが伸ばした手をつかみ、立ち上がる。
「久しぶりだな……シオンと一緒に戦うのは」
「よかった……っ! やっぱり姉弟子は一緒に隠れて夕飯を食べた時から何も変わってない……っ! あの頃のままだっ!」
そう言ってシオンは、ファーランに抱き着く。
「お、おお……」
「「「おおおおおおお――――っ!?」」」
その場にいたプレイヤーたちが、驚きに思わず声を上げた。
「シオンとファーラン……ここで手を組むのかよ!?」
「もし戦いに手出しをしたら、この展開になっていなかったんじゃないかしら」
レンの予想は正解だ。
シオンとファーランの戦いを手助けしてしまっていたら単純な勝利となり、ファーランが味方にはなることはない。
レンがここに残ったのは、この展開を引き出すためだった。
「四神の加護を受けた二人が手を組むとか……最高じゃねえか!」
うれしそうに姉弟子に抱きつくシオンの姿に、歓喜の声を上げる参戦プレイヤー。しかし。
「ウァァァァ……ハァァァァァッ!」
聞こえてきたのは、荒々しく獰猛な息遣い。
見えたのは、黒の鎧をまとった重戦士の姿。
その目を煌々と赤く輝かせ、長槍を手にした男が重い足音を鳴らしながらやってきた。
「戦えェェェ……オレと、戦えェェェェェェェェ――――ッ!!」
鳳国将軍、玄武のガオウは下草が千切り飛ぶほどに強烈な咆哮をあげた。
「いきましょう、姉弟子」
「ああ、いくぞシオン!」
「援護、お願いします!」
振り返るシオンとファーランに、レンは杖を上げて応える。
狂化ガオウの迫力は、段違い。
参戦プレイヤーたちも、続く展開に気合を入れ直す。
こうして前衛にシオンとファーランを置いた変則型の将軍戦が、始まった。