作品タイトル不明
599.いざ虎牢穴へ!
ファーランから奪い返した白虎像を持って、虎牢穴へとたどり着いたメイたち。
鳳国の西端にあるこの場所には、四神の加護を求めてやってきた。
「ドキドキしちゃうねぇ」
「はい、これだけ暗い洞窟は久しぶりです」
松明を持ったレンの背後で、肩を寄せ合いながら進むメイとツバメ。
さらにその後には、鳳国将軍のフェイ・リンとシオンが続く。
「――――何者だ」
暗闇の中を進んでいくと、不意に聞こえてきた重い声。
「白虎の加護を受けるため、虎牢穴へとやってきた! 我が名はフェイ・リン。鳳国の将軍だ」
「ならば我が試練を越えてみよ。さすれば加護を与えよう」
短い言葉と共に、始まる冒険。
「何かしら、あれ」
洞窟らしいその洞窟は、広さもちょうど4,5人のパーティが進むのに適した大きさの道が続いている。
だが他と違っているのは、筋のような金鉱脈が壁や天井にたくさん走っているところだ。
念のためメイが先行して進んでいくと、突然金鉱脈が輝きを放った。
「「「ッ!!」」」
鉱脈がそのまま不規則な形状の刃になって突き出してくる。
その鋭さは、当たれば低くはないダメージを受けることになるだろう。
先行していたメイは、これを問題なく回避。
すると今度は、足元に走る鉱脈が光り出した。
「ここにいたらマズいわ! 先に進みましょう! 先行は……ツバメがお願い!」
「分かりました」
小走りで進む五人。
ツバメが進めば、反応して次々に金鉱脈が突き出してくる。
「こっち!」
進む道に走る筋。
輝きからわずかに遅れて、あがってくる黄金の刃。
「すまない、助かった」
メイが手を引っ張ったことで、シオンはダメージを回避。
すると今度は天上の壁が光り、五本の『筋』からわずかに長い刃が突き出した。
「これは合図よ! このまま五連のギロチンみたいに刃が落ちてくる形だわ!」
「急ぎましょう!」
レンの予想は正解。
わずかに時間を空けて、天井から突き出した金鉱脈ギロチンが地面に突き刺さった。
虎牢穴は待ってくれない。
飛び込んだ新たな空間は、金のマーブル模様。
「この部屋全体が、ミキサーのようになるのでは……」
ツバメがそう口にした瞬間、数センチずつ金の刃が突き出した。
「急ぎましょう!」
駆け出すツバメたち。
その後を追うように、上下左右の刃が迫ってくる。
ノコギリのように尖った金の刃は、迫る速度をどんどん上げてくる。
「「「っ!?」」」
突然目の前に現れた、高い黄金の壁。
どうやらこの『金刃の迫る』空間に、プレイヤーたちを押しとどめようという狙いのようだ。
「先行します! 【加速】【跳躍】!」
壁はやっかいだが、仕掛けとしてはそう難しいものではない。
ここもツバメが先行し、跳躍。
「ッ!!」
しかし虎牢穴も、ただ壁で邪魔するだけという安易な手は使わない。
先行して壁に飛び乗ろうとしたツバメを狙い、撃ち出される金の槍。
「【エアリアル】【跳躍】!」
しかし罠に対して意識を強めていたツバメは、これを見事に二段ジャンプで回避。
「【連続投擲】!」
続けざまの反撃で、続く槍の軌道をそらす。
「今です!」
伸ばした手でシオンを引き上げ、フェイ・リンを上げる。
「【ラビットジャンプ】」
メイは難なく壁を跳び越え、レンは【浮遊】で続く。
見事に壁を突破し、下がる金の壁。
後は5人で続く道を駆けるだけだが、迫るミキサーも止まらない。
「ッ!」
「フェイ・リン殿!」
足元の鉱脈が突き出したことで、フェイ・リンが足を取られて転倒。
ここでミキサーは、その進行速度を上げてくる。
この窮地にどう対処するか、これはこのクエストの『必須問題』だ。
「悪いわね、そのパターンは予想済みよ!」
しかしレンがツバメを先頭にしたのは、この流れを予期しての事だった。
「失礼いたしますっ!」
背後に控えていたメイは、倒れたフェイ・リンの両腕をつかむ。
「いきますっ! 【ゴリラアーム】!」
そしてそのままその場で二回転。
「ツバメちゃん!」
「はい!」
「いくよー! それーっ!」
フェイリンを、ツバメに向けて放り投げた。
「っ!」
これをツバメがしっかりキャッチ。
「【バンビステップ】!」
メイはすぐさま、速い足の運びで後を追う。
こうしてミキサー区画も、3人の見事な連携で駆け抜けることに成功したのだった。
「レンさんはこれを予想して、私を先頭にしたのですね」
「ある意味『護衛』クエストだから、こういう事もあるかと思って。ツバメが罠を回避してメイがフォローの形が最良かなと思ったのよ。そもそもツバメも、十二分に先頭を行ける前衛だしね」
「……ありがとうございます」
笑うレンに、少し照れながら応えるツバメ。
ようやく生まれた余裕。
進んだ先にあったのは、底の見えない崖だった。
向こう岸には遠く、跳び越えるには厳しい距離だ。
「これは『打工金』だな。強く叩くか、何度も叩くことで一定以上の衝撃を与えれば、それに合わせて形状を変えるという『奇』金属だ」
フェイ・リンは、崖の端に敷かれた大きな延べ棒を見てそう告げた。
「形状記憶合金のトンデモ版って感じかしら」
「叩けばおそらく吊り橋になるのだろうな」
この仕掛けは受付時間内に与えた衝撃の大きさで、つり橋の形状や耐久時間が変わるという少し変わったものになっている。
基本的には【腕力】の高いものに叩かせ、橋が金属塊に戻ってしまう前に必死に駆け抜けるという仕掛けだ。
「さて、誰が――」
「メイ、お願い」
「りょうかいですっ!」
たずねるフェイ・リンを前に、メイが前に出る。
見ればそこには、これ見よがしなハンマーが置かれていた。
「それではいきますっ!」
高くハンマーを掲げたメイは、思いっきり両手を振り下ろす。
「せーの! 【フルスイング】っ!」
足元に置かれた金の板に、メイは全力でハンマーを叩きつけた。
足元が揺れるほどの一撃に、弾ける火花。
すると足元の延べ棒が液体のように手前に伸び、そのまま大きく形状を変えた。
「こ、これは……」
「面白い仕掛けね」
「すごーい!」
できあがった橋は、この暗い洞窟にまるで合わない豪華なゴールデンブリッジ。
「どのような威力で叩けばこんなものが……いや、行こう! この橋は時間がたてばまた元の金の塊に戻ってしまうはずだ!」
【腕力】が多少ある程度では、できた頼りないつり橋を全力疾走することになるこの仕掛け。
海峡を越えるサイズの大橋を架けたメイたちは、余裕の足取りで橋を通過。
「こういうシンプルなところは、メイの基礎ステータスの高さをあらためて思い知らされるわねぇ」
「本当です」
渡った崖の先には、幾筋のもの太い金鉱脈が無数の『×』を描く岩壁があった。
「ここに白虎像を置くのですね」
岩壁の前に作られた、金の台座。
フェイ・リンは、城から持ってきた白虎像をそこに乗せた。
すると入り組むように何重もの『十字』を描いていた黄金の鉱脈たちが、自然と開いていく。
現れたのは、より深い暗闇へと続く道。
下っていくと、広い岩間に出た。
松明の灯が、その内部を照らす。
壁の全面には、おびただしい量の金鉱脈が走っている。
そして最奥には、雪のように美しい白地に黒の毛並みを持つ一頭のトラが鎮座していた。
「ここまでたどり着くとは、どうやら最低限の素養は持ち合わせているようだ。加護を受けるのは、誰だ?」
「――――私だ」
そう言って前に出るフェイ・リン。
白虎はわずかに緊張を見せるその姿をにらみ、静かにうなずく。
「ならば最後の試練だ。この白虎の猛攻から生き延びて見せよ!」
無数に走った黄金の鉱脈が、松明の輝きに照らされ輝く地下の岩牢。
起き上がった白虎が、試練を開始する。